# 相撲に詳しくはないがこの程度のことは調べられる。

Sun, 03 Jul 2005 22:31:40 +0900,
in the message, <ym7-0307052231400001@news3.dion.ne.jp>,
ym7@r3.dion.ne.jp (Yoshihisa MORI) wrote
>> それは年寄株についてですが,年寄株というのは
>> 遺産として継承される性格のものなのでしょうか。

なのでしょう。

年寄名跡の取得・襲名・継承に関する規定10条により、条件付で3年間に限り
遺族が手元に保有できるそうです。
3年をすぎた場合は、年寄に預けるということのようですが、「預ける」とい
うだけで「譲渡するわけではない」ようなので、後で年寄名跡を取得する者を
見つけて譲渡することはできるのでしょう
(最後の部分は単なる推測です。)。

>> 年寄株というのは,日本相撲協会が発行する一種の資格証
>> というか証書ですよね。

厳密に言うと違います。
結論には影響しませんが一応述べておきます。

「年寄株」(正式には年寄名跡)というのは、「資格証」ではなく「資格その
もの」です。
つまり、日本相撲協会において年寄という役職に付くことができる資格が年寄
名跡であると。
証明書の方は厳密には「年寄名跡証書」と言います。
これは、ただの紙切れ。
失くしても再発行できる。
喩えて言えば「権利証」のようなもので「権利」そのものではない。

報道ではこの辺を区別せずにまとめて年寄株と言っているようですが。

>> 私の理解では,日本相撲協会という法人の構成員証みたいなもので
>> いってみれば会社の役員証みたいなものなわけです。

余談だけど、日本相撲協会は法人だけど「財団」だから法律上は「法人の構成
員」(社員)はいません。
また、会社という社団法人の構成員は「社員(従業員のことではない)」で
あって「役員(取締役)」ではないので「いってみれば」以下は実は法律的に
見るとまるで喩えになっていません
(尤も、年寄が単なる役職であるということと比較すれば同じく会社の役職の
 一つにすぎない執行役員と同等とは言えますが。)。

法律的な喩えでないなら……、「法人の構成員」なんて表現を使う意味がない
わな
(しかもfj.soc.lawにおいて。)。
「団体の運営に携る者」とか言った方が余程解り易いし正確。


……ところで、会社に「役員証」なんてあるの?
あっても悪いわけではないですが必要があるとは思えませんが。

>> つまり,年寄株というのは本来協会のもので
>> 名義人がいろいろかわるだろうけれども私物にできるものではない

ではないのだと思います。
制限があるとは言っても譲渡が可能であり譲渡の相手を誰にするかは名義人の
自由であることから、少なくとも処分権は名義人にあるのでしょう。
協会を離れては価値が無いし協会が譲渡の相手の資格を制限しているとは言
え、それだけのことであくまでも処分権は名義人にあると。

株式会社の株式に関して共益権が会社在っての物種でしかも譲渡制限を定款で
定めることができるとしてもそれだけで株式は会社のものということにはなら
ないのと似ていないと言えないこともない。


なお、年寄名跡の譲渡について金銭の授受を日本相撲協会は禁止しているよう
ですが、法律論としては、私法上の譲渡契約として対価を支払うことを約する
のは有効であるというのが判例(東京地判平成15年2月24日)。
即ち年寄名跡の有償譲渡は法律上有効であるわけですが、有償譲渡が可能とい
うことは無償譲渡も当然可能なはず。
つまり法律上「譲渡」可能。
譲渡が可能ということは一般論として一身専属性が無いということ。
ならば相続もできるはず。

# ちなみに法律上相続の対象となるかどうかの問題を財産的価値の有無の問題
 と同視している考え方もあるようだが、別に財産的価値だけが相続適格を決
 めると考える理由が無いので、「市場で取引できないから財産的価値を一般
 的に算出できない」としてもそれだけで相続財産とならないとすることはで
 きないと言うべきだろう。
 なお、前記判例では他の事例から金銭評価を行ったけどね。
 もっと格の低い名跡の譲渡の対価が1億7500万だかだったから少なくともそ
 れを下回ることは無いという理由で同額と算定した。
 尤も、控訴審(東京高判平成16年1月28日)で金銭授受の合意を否定された
 ので結局、「幾らが妥当か」は判例上は明らかでないのだけど。
 なお、上告は棄却。

余談だけど、多分、年寄株を相撲と何の縁も所縁も無い人に譲渡する契約は、
「私法契約としては有効」としていいと思うよ。
譲渡禁止債権の譲渡契約が直ちに無効というわけではないのと同様に。
一般論として、当該契約を有効とすることが社会的相当性を欠くような場合
(早い話が公序良俗違反。)以外は契約としては有効とした上で事実上履行不
能な点は債務不履行として処理をする方が簡便だから、原則有効と考える方が
いい。
また、物理的に履行不能でない限り、原始的不能として契約を無効とする必要
は在るまい。

ただ、無意味かつ無駄だから誰もやらないけど。

-- 
SUZUKI Wataru
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