ども、みやこしです。

サントラのイラストを書きおろしたり、アニメ版オリジナルキャラのフラニー
とメアリの落書き…もとい、ラフスケッチを公式サイトに載せたり、DVDのオー
ディオ・コメンタリーやWebラジオに出演したり、イギリス村へのイベントツア
ーにも参加したりと、「そんなにアニメに入り込んで本業は大丈夫なのか?」
と要らぬ心配をしてしまうような活動をしている原作者様・森薫氏ですが、そ
のWebラジオによると、DVDの店頭購入特典として、森薫氏の落書き集…もとい、
ラフスケッチ集が付くそうです。「エマ ヴィクトリアンガイド」にも様々なラ
フスケッチが収録されていますが、それと似たようなものになるのでしょうか。
あまり重複してなければ嬉しいのですが…。

「英國戀物語エマ」第十二章「スズラン」

■アバンタイトル
 霧の中にガス灯の灯が浮かぶ、まだ暗いロンドンの早朝。静まりかえった人
気の無い街路を、野菜を積んだ荷馬車が行く。一見、かつて見た光景に見えて
も、手綱を操る父親の横に陣取る姉の姿は無く、家の玄関を掃除しているメイ
ドもいない。そのメイド−エマは、自室の窓から、明るくなってきた空を飛ぶ
鳥の群れを見つめている…。

 と、いうような感じで始まりました最終話。最終回の「お約束」として、オ
ープニングがありません。第一章と同じように始まりましたが、変化は確実に
訪れている、という感じです。八百屋の姉弟の、姉の方がいないのは、ボード
・スクールに通うようになって店の手伝いをしていない、という事でしょうか。

 初めは、前回のラストの翌朝かと思ったのですが、訪ねてきたアルがエマか
らの手紙を持っている事や、前回の事を「あの日」と言っている事からして、
前回から何日か経過しているようです。
この間、坊っちゃまはエマに全く会いに来ていないようで、果たして「怖じ気
づいた」のか、それとも「相手を思いやるあまりに踏み出せない」のか。エマ
は、後者だと信じているようですが…。

 ちなみに、この場面はオリジナルです。

■過去・その2
 先生のお墓に花を添えるエマ。思い出すのは、先生との出会いの事です。
 家庭教師を引退しようと考えていた先生は、知り合いの家で庭仕事をしてい
たエマに出会います。エマは、ずっと道で暮らしていたのを、頼み込んで簡単
な仕事をさせてもらっているとの事。
「賢そうな顔してるわ」
 エマを見た先生は、彼女をメイドに雇うと言い出します。知り合いが、メイ
ドの仕事など無理だ、と止めるのを、
「上等だわ。あたしね、前から思ってたのよ。教育ってのがどれ程のものなの
 か」
「イチから教え込んであげる。うちに来る?」
 そう尋ねる先生に、エマは答えます。
「はい、奥様」と。

 こうして、エマは、先生の家のメイドになりました。
初めて与えられた自分の部屋を見回して、嬉しそうにしているエマ。
やはり初めて着たメイド服の布の手触りを確かめてみるエマ。
先生に読み書きやメイドとしての仕事を教わるエマ。
先生に与えられた眼鏡をかけてみるエマ。
成長し、立派に給仕も務められるようになったエマ。
数々の先生との思い出をかみしめながら、エマは、先生にお別れを告げるので
した。

 という訳で、前回出て来なかったエマの過去の続きです。過去の内容自体は
原作通りですが、先生のお墓参りという状況だけは、原作単行本第4巻の第二
十七話から借用されてます。
この場面の見所は、やはり何と言っても第一章以来(確か…)の小エマのメイ
ド服姿でしょう(^_^; 実に初々しくて良い感じです。
あと、先生の「教育ってのが…」という台詞。まさに、生涯を教育に捧げてき
た先生ならでは。ただ、原作ではもっと不敵な感じのする表情で言っているの
が良かったのですが、それがちょっと感じられなかったのが残念でした。

■ジョーンズ家の事情
 で、坊っちゃまはどうしているかと言えば…何かぼーっとしてます(^_^;
グレイス達も、それぞれがそれなりに坊っちゃまの事を心配している様子です。
一番心配してそうなのは、やはり末弟のコリン。そのコリンを優しく慰めるグ
レイスは、何かお母さんみたい。
ヴィヴィーも、彼女なりに気にかけてはいるようですが、グレイスに名前を呼
ばれただけで「わたしのせいじゃないわよ」といきなり言い訳するのは、よほ
ど後ろめたく思っているのでしょうか(^_^;
それを受けてか、アーサーが「遅かれ早かれ同じ結果になってたさ」と言うの
は、一応ヴィヴィーを慰めているのか、単に冷静に分析しているだけなのか(^_^;

 この場面で、グレイスがコリンに読みを教えているようですが、正直言って
グレイスの発音は聞き取れませんでした(^_^;(コリンがリピートしてくれてい
るので何とか判りましたが)
これが、「正しい発音」というものなのでしょうか。

 一方、相変わらずな坊っちゃまの様子に、相変わらず怒っている様子の父リ
チャード。執事スティーブンスに「支度はできたのか」と言っているのは、後
で出てくるように、エレノア嬢との遠乗りの事のようですね。この場面で、部
屋を出て行く時の父の歩き方が、いかにも苛立っている様な感じに見えて面白
いです。

 そして、部屋にもいない坊っちゃまはと言えば、例によって玄関の庇の上で
寛いでいるハキムの所に「逃げ出して」きていました。
この期に及んで、まだぐちぐちと弱音を吐く坊っちゃまを、遠慮なく扱き下ろ
すハキム。そのハキムに、エマが故郷に帰るという事を聞いて、坊っちゃまは
慌てて飛び出していきます。
「本当は言いたくなかったんだがな…」
 そう呟くハキムに寄り添い、上っていく紫煙を一緒に見つめているハキム・
ガールズ。顔は相変わらずの無表情ですが、ハキムを気遣う様に身を寄せる態
度が非常に印象的で良い感じの場面です。

 それにしても、坊っちゃまは、この時までエマが故郷に帰る事を知らなかっ
たとは。アルってば、肝心な事を伝え忘れていたようですね(^_^;

 厩にやって来て、コーチマン(Coachman=御者)を呼ぶように言いつける坊
っちゃまですが、馬の影から現れたのは、エレノア嬢です。どうやら、遠乗り
の事が坊っちゃまには伝わっていなかった様子(スティーブンス辺りに伝えら
れたのを、坊っちゃまがちゃんと聞いていなかった、という可能性の方が高い
気がしますが)。
 坊っちゃまが、エマの事を切り出そうとしたのを遮り、
「待っていますから」
 と言うエレノア嬢。結局何も言えないまま、坊っちゃまはその場を後にしま
す。

 という訳で、エレノア嬢との関係は宙ぶらりんなままとなりました。まあ、
構成上はこれが精一杯、という気もしますが、やっぱりエレノア嬢が不憫です。
あるいは、あくまでもオトコに決定的な事を言わせないという、エレノア嬢の
強かさ(無意識のものにせよ)みたいなものがほの見えて面白い…かも。
それにしても、何でエレノア嬢はあんな所にいたんでしょう?(ちょっと無理
矢理っぽい)

 この、ジョーンズ家での一連の場面はオリジナルです。

 その頃、エマは旅支度を終えて、家を後にしていました。坊っちゃまにプレ
ゼントされた、レースのハンカチを仕舞う辺りは原作通り。
ですが、トランクの中に、メイド服や手紙の束等と一緒に、あの坊っちゃまの
写真とおぼしき物も入っているのはオリジナルです。第九章でどうしたか謎で
したが、やはり持っていく事にしたのでしょうか。ただ、写真立ての色や縁の
感じが、第一章や第九章のとはちょっと違うような気もしますが…(でも、他
にはあり得ないだろうし…)。
トランクを閉める所は、原作だと「バン」と大きな擬音付きで、エマが思いを
断ち切るような、ややきつい感じに描かれていますが、アニメではちょっと抑
え目かな、という気がします。もっとも、アニメ版は全体的に芝居が抑え目で
したので、これはこれで違和感は無いかも。

■すれ違い・パート2
 乗合馬車に乗り込んで、駅へと向かうエマ。先生の家に向かって馬車を走ら
せる坊っちゃま。二人は、同じ通りをお互いに気付く事無くすれ違ってしまい
ます。

 この辺りから、原作を読んでいてもハラハラさせられる場面が色々と。まず
はこの場面ですが、これ見よがしにオレンジでお手玉をしている子供がいるな、
と思っていたら、案の定。オレンジを落とした子供の声にエマが気を取られた
ため、お互いに気付かないという、すれ違いのお手本みたいな場面です(^_^;
この場面もオリジナル。

 エマが乗った乗合馬車は、「オムニバス」という「大人数を乗せて決まった
ルートを走る」というものだそうで、現代でいう路線バスみたいな感じでしょ
うか。二階建てになっている所が、現代のロンドンの二階建てバスに通じるも
のがあります。
 エマが向かっているのはキングス・クロス駅。「グレイト・ノーザン鉄道の
ターミナル駅」で、「英国の北東、多くの田園文学の舞台になっている、緑豊
かなヨークシャー地方へと向かう路線」だそうです。

 駅に着いて、三等車を取ろうとしたら満席で、というのは原作通り。ただし、
原作では代わりに一等車の切符を買う所が、アニメでは二等車になってます。
「5,6シリングくらいしか変わらない」という駅員の台詞は同じなので、実
際の価格差から二等車に変更したのか、あるいは一等車だと「奥様」と乗り合
わせる事になってしまいそうだから変更したのかは謎です。

 切符を買ったエマが、列車に向かうまでの辺りも原作通り。ドロテア奥様と
ターシャの登場です。正直言って、原作を知らない方からすれば「誰これ?」
みたいな感じに見えるような気もしますが…名前も呼ばれませんし(^_^;
彼女達は、原作単行本第3巻以降の物語で、非常に重要な役どころを担う存在
なのですが、果たして彼女達がTVで活躍する日は来るのでしょうか…。

 その頃、坊っちゃまは、駅へと馬車を走らせながら、エマが先生の家の玄関
に挟んでおいた手紙を読んでいました。この場面もオリジナル。手紙には、エ
マの想いが切々と綴られていますが、内容そのものは完全に別れの手紙です。
どこに行くのかが書かれていない所がミソ。
 で、ここが「原作を読んでいてもハラハラさせられる場面」その2。エマが
列車に乗り込まないうちに、坊っちゃまが駅に着いてしまいました。何か、間
に合っちゃいそうですよ?

 ちなみに、エマの故郷について「海辺の小さな村」としか聞いていない筈の
坊っちゃまが、何故正しくキングス・クロス駅に来れたのかは、原作でも謎で
す(^_^; 先生の家があるメリルボーンからキングス・クロス駅までの間には、
ユーストン駅、セント・パンクラス駅といった別路線のターミナル駅がありま
すし、別方向には、パディントン駅やメリルボーン駅が近くにありますので、
エマの行き先を具体的に知らないと、正しい駅に行くのは多分無理っぽい。
 これはもう、「愛の力」としか言いようが無いかも(^_^;

■スズラン
 エマが、ホームで花売りの少女からスズランの花を買うのは原作通り。
一方、ホームに駆け込んできた坊っちゃまは、ついにエマを見つけます。ここ
からはオリジナル。

「原作を読んでいてもハラハラさせられる場面」その3。おいおい、本当に会
えてしまいましたよ?どうする気だ?と気が気じゃありませんでした。エマが
振り向く直前までは、実は人違いでした、というオチで、やっぱりすれ違った
ままにするんじゃないか、と思っていたのですが…。

 ホームで向かい合う二人。坊っちゃまが何か言おうとするのを遮り、
「ありがとう…ありがとうございました」
 それだけを言って、エマは列車に乗り込んでしまいました。呆然と立ち尽く
す坊っちゃま。ドアが閉まり、汽笛が鳴って、汽車が動き始めて、ようやく我
に返った坊っちゃまは、汽車を追って走り出しますが、時既に遅く。エマを呼
ぶ坊っちゃまの声を残して出て行く汽車の中で、エマの頬を涙が一筋伝うので
した。

 うーむ、やはり駅での別れとなると、こういう場面が王道なのでしょうか。
せっかく出会えたのに、結局別れる事しかできない二人。ある意味、すれ違っ
たまま別れてしまった原作よりも、悲劇的な感じがあります。
 原作の、ホームに駆け込んだ時には既に遅く、列車のいない空っぽのホーム
に立ち尽くす坊っちゃま、という絵を見てみたかったとは思いますが、物語に
区切りを着けるためには、やはりここで一度きっちり別れを描いておく方が良
いと思います。
 しかし、エレノア嬢に続いて、エマにも何も言えないままだった坊っちゃま
は、何とも情けないというか、哀れというか…。

 汽車が去った後のホームで、坊っちゃまが、エマと同様に花売りの少女から
スズランの花を買うのは原作通り。
「あなたに神様のお恵みがありますように」
 という少女の言葉が胸に痛い(;_;)

 そして。
「綺麗…スズランですね」
 車中でそうエマに話しかけてきたのは、駅でエマが間違えられたターシャで
す。人懐っこく、明るく話しかけてきた彼女は、スズランの花言葉をエマに教
えます。
「幸せが戻ってくる、って花言葉なんですよ」
 その言葉をかみしめ、スズランの花を見つめるエマを乗せて、汽車は海を目
指して進んで行くのでした。

■次回予告
 今回で“アニメ エマ”は終了しました。7月4日からは新番組「ダカーポ」
をお送りします。お楽しみに…(by サンテレビ)。

 という訳で、密かに「『英國戀物語エマ2−恋人たち−』今秋放映開始!お
楽しみに」なんていう次回予告が流れたらイイナ、とか思っていたのですが、
そううまくはいきませんでした(^_^;
#「Z」ネタは今のうちにやっとかないと(^_^;

■全体をみて
 今回は、原作単行本第2巻の第十三話の、エマの過去話の続きから、同第十
四話までをベースにして、原作単行本第3巻以降の話からちょっとだけ先取り
した場面(先生のお墓の所や、汽車の中でのターシャとの会話の所)と、オリ
ジナルの場面とを加えて構成されています。

 観終わった時の第一印象は、「び、びみょー…(^_^;」でした。
 一応、大筋においては原作通りの展開で、話の区切りもそれなりにつけては
いると思います。サブキャラ達に対するフォローも一通りされましたし、1ク
ールで纏めるとしたらこれ以上は望めないかもしれない、と思うぐらい、構成
やアレンジはお見事だったと思います。原作を読んでいても、最後までどう転
ぶかとハラハラさせられる所は、単に原作をそのまんまアニメ化しただけでは
味わえないところで、にも関わらず原作通りの展開に落ち着かせるには、相当
構成を練り込んだのではなかろうかと思います。

 ただ、やはり一つの作品としてみるには、あまりにも不十分すぎる点が残り
ます。物語自体、せいぜい「第一部完」ぐらいで完結していませんし(実際原
作ではまだまだ続きがある訳ですが)、エマと坊っちゃま、そしてエレノア嬢
との関係も、何も決着が着いていません。肖像画の女性や、キャンベル子爵、
ドロテア奥様とターシャ等、「顔見せ」だけで終わってしまったキャラも浮か
ばれません。そういった事を考えると、やはり1クールの作品として作る事自
体に無理があったのではないか、という気がします。
#「ゴーダンナー」等のように、第一期終了時に既に第二期の放映まで決まっ
#ている、とかであればこれもアリでしょうが…。

 それでも、この作品がアニメ化された事には、率直な賛辞を贈りたいと思い
ます。19世紀末・ヴィクトリア朝のイギリスという描くのが大変そうな舞台
(しかも資料が膨大にあるのであんまりいい加減な描き方もできない)、メイ
ドものとは言え、ロボットでもアンドロイドでも、ましてやネコミミメイド星
人などでもない(おい(^_^;)、風俗まがいの露出の多い衣装を着ている訳でも
ない、「ただの」メイドしか出て来ず、しかも物語といえば古風な恋愛もの。
こういう素材を持ってきて、原作の味を崩さず、「そこが大事なんです!」と
いうポイントを押さえながら、難しい日常芝居をやり通した(後半はやや疲れ
が見えましたが)のは、本当にお見事です。また、梁邦彦氏の音楽や、拘りを
見せた音響効果など、音の面においても素晴しい仕事を見せてくれました。

 願わくは、この続きが何とかアニメ化されてほしい所。このままでは、色々
と消化不良な感じがする、というだけではなく、この続き(原作単行本第3巻
以降)がどんどん面白くなっていくからでもあります。
 ただ、エレノア嬢は、アニメのイメージと、原作のイメージとにギャップが
生まれてしまっているように感じますので、この辺りのすり合わせが難しいか
もしれませんが。

 という訳で、「英國戀物語エマ」、幕と相成りました。拙い記事にフォロー
を下さった皆様、誠にありがとうございました。

では。

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宮越 和史@大阪在住(アドレスから_NOSPAMは抜いてください)
BGM : ループ by 坂本真綾