佐々木将人@函館 です。

>From:"tk" <inn_com@hotmail.com>
>Date:2003/06/07 16:56:15 JST
>Message-ID:<bbs5r8$fcb$1@pin3.tky.plala.or.jp>
>
>それが、破産法の本来の目的ではないですか。

違います。
破産法自体は債務者のための制度でも目的でもありません。
その理由は後説しますが「自己破産」という言葉自体
「自己」申立という破産法上は特異な形態の「破産」手続から来ています。

さて破産法の目的です。
破産事件の圧倒的多数がいわゆる消費者自己破産と呼ばれる
「特に商売をやっていた訳ではない普通の人が
 特に財産もなく借金を重ねた結果
 破産法上の免責決定を得るためにその前提として自ら破産を申し立てる」
パターンであることから
破産というものを(免責と区別せずに)それに即して理解している人が
多いと思いますが
これは破産法やその諸制度を考えるためには
忘れてもらってもいいくらい例外的な制度です。

破産というのは
むしろ債権者、特に比較的力の弱い債権者のために設けられた制度で
その目標というのは
「債務者の全財産を裁判所のコントロール下で現金に変えて
 それを全債権者に対し法律上の優先順位で配分すること」
にあります。
競売などが債務者の個別の財産について個別に強制執行することから
「個別執行」と呼ばれるのに対し
破産は全財産を一括して強制執行する訳ですから
「全体執行」と呼ばれる所以のものです。
なぜ全体執行の制度があるかと言えば
個別執行の早い者勝ちになるのを防いだり
法律の制度によらない実力行使による回収を防ぎ
よって法律上の優先順位で配分することを実現するためです。

ですからそもそもは
「返せないのが明らかになった時にどう収拾するか」
という状態下での話であり
まして「全額返すのが筋」というのがもはや無理になった時の話ですから
「全額返させるのが破産法の目的」な訳が絶対にありません。

>From:"tk" <inn_com@hotmail.com>
>Date:2003/06/07 19:39:27 JST
>Message-ID:<bbsfd7$qkf$1@pin3.tky.plala.or.jp>
>
>債務者が、あらかじめ破産法第366条12の但し書きを知っており、かつ
>、債権者が法知識にうといことを承知の上で債権者名簿に故意に記載しなか
>った債権者に対して、その債務自体をまぬがれるために、自己破産の事実を
>伝えた場合にはどうなるのですか?

免責手続は破産の「必ず」後に行われるのですから
破産手続に参加すればよいだけのことです。
366条の12がああいう定めになっていることの意味は
「破産宣告を知っているのであれば破産手続に参加すればいい。
 破産手続に参加していれば債権の存否について調査もできるし
 配当すべき財産があれば配当することもできる。
 そうすれば個人の破産であれば当然免責手続にだって招かれるだろうし
 その際に免責不許可事由があったり
 自己の債権が非免責債権であることを述べればよい。
 そういうことを一切しない債権者の債権は
 あるかどうかがそもそも疑わしいし
 非免責債権とする必要は全くない。」
ということです。

現実的には数の一番多い消費者自己破産のパターンでは
破産については同時廃止と言って
破産宣告とともに破産手続自体終了させてしまうことになると思います。
この場合破産手続は概念上は存在しますが
宣告とともに終了する訳ですから
債権を届け出て破産手続に参加することはあり得ないのですが
なぜ同時廃止が認められるかと言えば
明らかに債務超過で弁済の見込みも分配の見込みもないからです。
……この場合「ある債権だけを故意に隠す」というのは……

  債務者にとっては全く何のメリットのない行為です。
  書けば免責の対象になるのに書かないのはなぜでしょう?

ちなみに現実にある「故意に債権者に含めない」のは
1つはその債権者にだけ返済を行おうとしている場合であり
もう1つは
破産犯罪や免責不許可事由の存在を知っている債権者を排除するためで
後者についてはたいてい債権者も事情を知っているでしょう。
(どうも前者ではなさそうですし。)

以上のとおり

>悪意に基づいて破産法を使っているとしか思えません。

気のせいです。

>From:"tk" <inn_com@hotmail.com>
>Date:2003/06/07 20:12:11 JST
>Message-ID:<bbshao$t0c$1@pin3.tky.plala.or.jp>
>
>もし弁護士が、「借用書を取り交わしていないなら、債務自体が法的には存在しない
>から、
>自己破産の事実を相手に伝えれば、破産法上、債務を支払わなくても良い。もし、借
>用書の
>作成を要求されたら無視すればよい」などとアドバイスし、そのとおりに債務者が行
>動しても
>法律上問題になることではないということでしょうか?

そもそも法律上誤った知識ですし
しかも債務者にとってなんのメリットもない行為です。
もし典型的な消費者自己破産のパターンなら
代理人として弁護士がついている可能性はかなり低いですし
仮についていたとしてもこんなアドバイスする訳がありません。

「とにかく冷静に思い出してありそうなものは全部書きなさい。
 そうすれば免責が認められるから。」
と必ずや言うでしょう。

正直に全部書けば安全に免責が認められるのに
危ない橋を渡って危ない結果を招くようなことをする人がいると考えるのは
非合理的です。
それは債務者であっても弁護人であっても変わりません。

>結局、金銭の貸借をする場合に、法に則った借用書の作成をしなかったのだから、後
>から
>何を騒いでも無駄だということでしょうか?
>債権者は借用書の作成すらわからないほど法的に疎く、先方が私の内容証明郵便に何
>も
>応答してこないことから推測するに、先方の女性であることを武器にしたお涙頂戴の
>話に、ま
>んまと騙された可能性が高いのですが・・・・・・。

そういう問題ではありません。
証拠となる書面があったって免責になっていたと思います。

>その債務がなければ、債権者は、早期に病院にて精密検査を受けられる金銭を出すこ
>とが
>でき、余命3ヶ月の末期がんになることはなかった可能性が高いのです。

そうは思えません。

>全額でなくとも、月数万円でも返済していてくれれば、
>それはそれで病院代が出たはず。

それが本当なら
その債権者はその月数万円をけちって自分の命を落としたことになります。

私にはその債権者がそんながめつい人間であったとは到底思えません。

----------------------------------------------------------------------
Talk lisp at Tea room Lisp.gc .
cal@nn.iij4u.or.jp  佐々木将人
(This address is for NetNews.)
----------------------------------------------------------------------
ルフィミア「私のアンソロ本を書くって本当?」
まさと  「それ、微妙に間違っている……。」