In article <20080522225459.63e65c1c.mistletoe@s9.dion.ne.jp> mistletoe@s9.dion.ne.jp writes:
>> 進化論に対抗する話としては、Intelligent Design 論とかね。
>  Intelligent Design 論は知っていますが、正直、妄想かと...
これって要するに「創造主」論に科学っぽい殻を被せたものなんですが、
こういう考え方が出てくる背景には、
世の中の生物が「巧くできすぎている」という感覚があるんだと思います。
「偶然と淘汰」で、こんなに都合良く進むハズは無いと。

実際には、「偶然と淘汰」だけで都合良く進んでしまうわけで、
そのことは、ある程度のところまで数学的にも証明されています。
要は「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」を
極端にした状況が現実の進化の過程なわけです。
「極端にする」ってことは、想像もつかないほどの膨大な数の試行があって、
そのほとんど全てが失敗に終わるということです。
その結果が「巧くできすぎている」という感覚をもたらし、
「知性」の存在を感じさせてしまうというのは、
実は「数のマジック」なんですね。

ついでに言うと、「膨大な数」ということ自体にも「数のマジック」があります。
実際のところ、変異の発生率自体はかなり低いんですよね。
でも、それに「個体数×単位時間あたりの世代数×経過時間」を乗ずると
逆に膨大な数になってしまうということです。

いずれにしても重要なことは、とにかく結果として
「膨大な数の多様な変異」が発生しているという事実です。
つまり、下手な鉄砲を「数打つ」ことさえ保証されていれば、
自然淘汰による進化は都合良く進むのです。

そういう意味で、DNAがどうだとか、突然変異がどうだとかいうのは、
進化論の本質を考えると、実は枝葉末節だとも言えます。
実際、ダーウィンはDNAのことなんか全く知らなかったわけで、
突然変異という現象も認識していなかった。
ダーウィンが考えていたとされる「変異が進む具体的なメカニズム」は、
現在では全く否定されています。
しかし、メカニズムなんて、進化論の本質としては、実はどうでも良いのです。

もちろん、「変異が進む具体的なメカニズム」を知ることは、
それはそれで(進化論の本質とは別の問題として)重要なことです。
特に最近は、「DNAの誤転写に基づく突然変異」が
「具体的なメカニズム」として唯一のものである
という仮説がほぼ確実視されています。
そして、それを「過去に起こった進化の具体的な経緯を復元する手がかり」として
用いる手法が広く使われるようになり、注目を集めているわけです。

                                戸田 孝@滋賀県立琵琶湖博物館
                                 toda@lbm.go.jp