Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 皆様あけましておめでとうございます。
# 本年もよろしくお願いいたします。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その9)
●桃栗町の外れ・ノインの館近く
オットー達を見送り、ミカサに要らぬ心配を掛けさせた後。ノインは例によって
何食わぬ顔で口を開きます。その場の、残りの面々に向けて。
「それでは、よろしくお願いしますよ」
「はいはい」
「はい」
エリスとアンは二つ返事で屋敷の方へと向かいます。そして残された者の中で、
ユキが自分の役割を把握していないかの様にノインとミカサの間で視線を行き来
させていました。
「あの…」
「やはり最初の思い付き通り、ユキには出迎え役をやってもらいたいですね」
「何故でしょうか。ミカサ隊長の方が適任と思うのですが」
「彼は真面目なので、こういう場合は、ね」
讃められた気が全くしない上にユキが相対的に不真面目であると言われた様な
気がしないでも無いミカサ。ですがその上であっても、ノインの言わんとする
事が彼には何となく判ってしまうのでした。
「ユキ」
「はい」
「つまりノイン様の仰有りたいのはこういう事さ。派手な方が良いと」
「…はぁ」
「私だと戦い方が地味だからね」
「いえ、決してそんな事は」
「気にしなくて良いよ。別に欠点だとは思っていない。ただ今回は敵に与える
印象が強い方が良い。それには君の様に魔術を自由自在に使える戦法の方が
効果的なんだ。良いかな」
「自由自在だなんて事は、私、全然」
「ユキ?」
「は、はい」
「よろしく、頼んだよ」
言葉と共に、そっとユキの頬に手を添えるミカサ。傍目にもユキの白い肌が
ぽっと染まるのが判ります。
「が、頑張りますっ」
両手を身体の前で重ね、途中で身体の側面に添わせ直してから一礼するユキ。
それからそそくさと、というよりはカクカクとぎこちなく回れ右をすると見る
からに慌てた様子でエリスとアンの後を追っていきました。それをまたしても
ニコニコと笑顔で見送るノインに、ミカサの怜悧な視線が刺さります。
「これで、ご満足ですか」
「はい。完璧ですね」
「実のところはどうなのですか」
「何がでしょうか」
「ユキを前面に立たせようとなさる理由です」
「判っているのでしょ?」
「まさかとは思っているのですが」
「はい」
「その方が面白そうだから、などと言う事はありませんよね」
「まさか。私がそんな不真面目な態度で作戦に臨んだ事が一度でもありますか」
「本当に面白そうだから、では無いのですね?」
「もちろん。適材適所、熟考の末の決断ですよ」
「そうですか」
一応、言葉の剣を鞘に収めるミカサ。ですが勿論、目が笑っているノインの
言葉を鵜呑みにする様なミカサではありません。ただこれ以上、追及しても
無駄だとも判っているというだけの事なのです。
*
ユキが少し遅れてついて来ている事を確認する為に階段の途中で足を止めていた
エリスを、声をひそめながらも急いだ様子のアンの呼びかけが振り向かせます。
「エリス、お客様が」
慌てて階段を一気に駆け上がるエリス。それでも、足音は普通に歩いた時と何ら
変わりはありません。そしてアンが開いたままにした扉から、客人を休ませた
部屋へと身を滑り込ませます。そして再び口を開きかけたアンの前で、唇に指を
当てて黙る様に伝えながら彼女を廊下へ連れ出しました。それからエリスはアン
の耳元に顔を近付け、聞こえる限りのぎりぎり小さな声で囁きます。
「アンは彼女の前で喋っちゃ駄目。前に外で会ってるだろ」
アンが声にならない声で“あっ”と息を飲みます。エリスはそのままアンを部屋
から遠ざける様に、そっと押しやります。それから彼女はアンの背後に遅れて来て
いたユキを手招きします。事情を察したユキと入れ替わり、エリスはアンと二人で
黙って階下へと降りて行きました。一方で一人部屋に残ったユキは二人の客人が
横たわるベッドの傍へと近づきます。アンがエリスを呼び寄せた理由、客人の一人
がかすかな呻きと共に身をよじっている様をしばし観察し、やがてその傍に腰を
下ろしました。
「ん………」
目覚めた客人、ツグミは普段の習慣通りに手探りでベッドの縁を探し当て、縁を
掴みながら半身を起こしました。ですが体調が思わしく無いらしく、途中で力が
抜ける様に再びベッドへと倒れ込んでしまいます。その身体をユキがさっと差し
出した手で支えました。ツグミの片方の手が反射的に差し延べられ、その手が
ユキの胸元に触れました。その手を取り、そっと握るユキの手。途端、ツグミの
身体にぎゅっと力がこもります。
「誰?」
「よく聞いてください」
まだ明晰では無いツグミの思考に、ずっと遠くから響く様に声が届きます。
見下ろすユキの瞳が淡く光っている事に気付く事が出来たなら、ツグミは警戒
したかもしれません。ですが彼女は素直に、その声に耳を傾けていました。
「貴女は未だ目覚める時ではありません。貴女は御友人の、日下部まろんの
声で初めて目覚めるのです。それまでは休んでいなさい」
「日下部さんの声で」
「そうです。そしてここからが大事な事です。貴女と日下部まろんにとって
とても大切な話をします。これから私が教える事を忘れない様に」
「ええ…」
段々と遠くなっていく声に耳を傾けながら、声では無く別な方法で目覚めさせて
くれたら良いのにと夢想するツグミ。やがて彼女は夢想から本当の夢の中へと
再び落ちていくのでした。
そっと扉を閉めてツグミとまろんが眠っている部屋を出るユキ。廊下を進み階段
へと向かうと、玄関ホールへ向けて緩く弧を描く階段の途中の踊り場でエリスと
アンが待っていました。エリスが先にユキの姿を認め、寄り掛かっていた手すり
から身体を離します。
「如何でした?」
「大丈夫、だと思うわ」
「予想通り、ツグミ様の方が先に目覚めましたね」
「元々、図らずも口にしてしまった薬だから量も多くは無かったのね。でも
ノイン様は流石だわ。そこまで読んで私の意見に同意してくださったのね」
「…」「…」
「え?何なに、私何か変な事を言ったかしら」
エリスとアンは顔を見合わせます。アンはやや苦笑気味の微笑みを浮かべては
いたものの、何も言わずにいました。代わりにエリスが二人分の感想を述べます。
「ユキ様は本当に良い人ですね」
エリスはそれだけ言うと、アンに目配せをします。アンは黙って頷き、階段の残り
半分を下って玄関から屋敷の外へと出ていきました。ユキも残ったエリスの傍へと
降りていき、居心地の悪そうな表情で見つめます。
「ねぇ、私って変なの?何か笑ってるでしょ?」
「いいえ、何も笑ってなどいませんよ」
「嘘よ。絶対笑ってる」
「笑ってなんか居ませんってば。魔王様に誓って」
あのスケベ親父に誓う価値があるとは思わないけど、という本音が顔に出ない様に
とエリスは注意しながら応えます。ですがエリスの苦心も実らず、ユキはぶつぶつ
言いながら階段に座って自分の膝に顔を埋めてしまいました。
「どうせ私なんか…」
「(鬱入っちゃったか。そもそも悪魔族に鬱があるのか知らないけど)」
ちょっと肩をすくめながら、エリスはユキの隣に腰を下ろしました。
「ユキ様」
「…なによ」
「前から思っていたんですけど、何でそんなに自信が無いんですか。今までの
作戦でもキチンとお役目を果たしておいでなのに」
「自信なんて持てる訳が無いでしょ。おネンネなのに」
「は?」
「知ってるくせに。私は半人前の正統悪魔族よ。普通の者なら独り立ちする前に
外れているはずの枷が未だ着いてる。人間に喩えるなら良い歳しておむつしてる
様なもの!」
きょとんとした顔を一瞬見せるエリス。ですがすぐに納得の表情に変わります。
「ああ、あれですか。単なる安全弁でしょ、気にする様なものじゃ」
「気にするわよっ!私だけよ、物心ついてこんなに経っているのに外れて無い
お子様は!」
「そんなに嫌なら誰かに外してもらうとか」
「出来るわけ無いでしょ、私は正統悪魔族のはみ出し者なの。同族の誰も、
私の話なんて聞いてもくれない。だから姉さんしか頼む相手が居ないのに…」
「姉上、ミスト様ですか」
「そう。だから今回の遠征では何が何でも姉さんに会いたかったのに、また
私は置き去り」
「ユキ様が来るなんてご存じ無かったのでしょうから、それは」
「そんなはず無いわ。姉さんは勘が良かったもの、むしろ私に会いたく無くて
急いで旅立ったのかも」
「それは考え過ぎですよ。立場上、ミスト様には色々とお世話になりましたが
その様な回りくどい意地悪をされる方ではありません」
判りやすい意地悪は大盛なんだけどね、とは勿論エリスは胸の中だけに留めます。
「エリスに姉さんの何が判るって言うのっ!」
顔を上げたユキはエリスの両肩を掴んでいました。そしてその顔に浮かんでいた
怒りに近い表情が、すぅ〜っと困惑の色を帯びていきます。
「姉さんを知ってる…の?」
「そりゃまぁ、ミスト様は肩書だけで実質は空席と同じでしたが一時期は私たち
侍女の魔術指南役というお立場にあって」
「そう…それじゃ姉さんと魔術について話した事もあるのよね」
「多少は」
「私はほとんど無いの…」
肩を掴んでいた手から力が抜け、ずるずるとエリスの身体にそって滑って行き
ました。途中でその手を両手で受け止めたエリス。重なった手の上にぽたぽたと
温かい雫が落ちてきました。
「(あちゃ〜、地雷踏んだって事かこれ。マズいなぁ作戦行動の最中なのに。
何とかしてユキ様を現実に引き戻さないと。やっぱりあれか、あれしか無いか。
でもミスト様にバレたらタダじゃ済まないよなぁ、約束しちゃってるしなぁ。
あ、バレなきゃ良いのか。それに良く考えたらミスト様、居ないじゃん。どうせ
あの方の事だから少なくとも数百年か、下手すると永遠に戻ってこないよな。
なら良いか、今は目先のユキ様の事の方が重要だし。そもそもそれも約束の内。
片方の約束を守る為に、もう片方が邪魔だったって事で相殺だな)」
目まぐるしい自己完結討論を一瞬で済ませたエリス。片手をユキの手から離して
彼女の肩へ回して抱き寄せます。
「それでは、私が知っているミスト様の話をしましょう。ユキ様にも関係がある
話です」
「…姉さんの話」
ユキが顔を上げた事がエリスに伝わります。もっとも、抱き寄せてしまっている
所為でユキの頭がもにゅっとエリスの胸の下に触れただけ。その表情までは見え
てはいなかったのですが。
(第175話・つづく)
# 休みが長い事が、必ずしも物書きが進む条件では無い…のでした。
## 2〜3回分書き溜めようと思っていたのですが。^^;;;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■ 可愛いんだから
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか
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Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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