長島です。
ちょっとまだ整理し切れていないのですが、興味深い問題だったので…

内田先生の「民法IV」の遺産分割の説明で、
「相続人の意思は被相続人の意思(遺言)や民法の規定に優先される」
という記述を発見して、「え゛〜〜」状態になりまして…。

それで、なんとか複数の文献に接する機会があったので見てみたのですが、
このあたりの学説はどうも(少なくとも)真っ二つに割れているようですね。

私は、民法908条の存在からしても、遺産分割については当然
遺言によるいわゆる指定分割が優先、
指定が無いときに初めて協議なり審判による分割、
…という優先順位だと思っていました。

で、私の理解だと、おそらく我妻先生も同じ見解だと思います。
(勁草書房「民法3」=いわゆるダットサンの復刊版らしい=p.309)
見た範囲では、有斐閣アルマ「民法7」、有斐閣双書「民法(9)」も同様。
…なもんで、私の考えが頓珍漢というわけでもなさそうだったので
ちょっと一安心。

で、この根拠ともなっていそうなのが
平成3年4月19日最高裁判決(民集45巻4号477頁)なんですが、
どうやら内田先生はこの判例に批判的。
ただ、内田先生だけというわけでもなさそうで、
有斐閣Sシリーズ「民法V」も同じように判例を批判していました。

内田説は指定分割を協議分割や審判分割と同レベルに来る分類と見ず、
あくまでも分割方法を体現するのは協議分割、審判分割であって
遺言による指定はその中で生かされるに過ぎない…
という理解でいいでしょうか?

なんでこんな疑問をもったかというと、
ちょっとしたパズル的な問題を考えていたことによります。
「ある人が亡くなって、
 その家族は既に遺産分割協議も終え、分割の実施も終わった。
 しかし、そのあとで遺言書が発見され、その中には協議で決めた分割とは
 全然違う方法が指定されていた。
 さて、先に行った遺産分割協議の効力たるやいかに?」

私は、民法908条や上記平成3年最高裁判例からしても、
遺言による指定が優先される結果、当然先に行った協議は無効、
(…というか、「正しい遺産分割ができていなかった」状態)
遺言に従った分割をやり直し、その分割は909条により、
第三者権利を侵害しない範囲で遡及効あり、と思ったのですが…

もし内田先生の書いているように相続人の意思が遺言に優先、ということなら
もはや行われた遺産分割協議が有効で、遺言の遺産分割指定は意味なし、
ってことになるんでしょうか。
…うーん、それって908条との整合性はどうなるんだろ?

「内田先生に逆らうなんざ1万年早い」とお叱りを受けそうですが、
やっぱりこの説には賛成しきれないです…

…しかし内田説も、スムーズな説明もし得るんだろうとは思います。
特に908条との整合性がどう説明されるんでしょう?

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Yasuyuki Nagashima 
yasu-n@horae.dti.ne.jp
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