佐々木将人@函館 です。

説明の都合上、引用が順不動となっています。

ちなみに今まで私考えたことのなかった問題なので
あわてて文献読み直しています。

1 指定分割の優先順位について

これは直接は907条の
「908条の規定によって被相続人が遺言で禁じた場合」
解釈の問題で
通説判例(とあえて言いきりますが)が
「相続開始時から最長5年以内分割禁止」
の他に
「遺言によって定めた分割の方法以外の分割の禁止」
「遺言によって第3者の指定によることを定めた分割の方法
 以外の分割の禁止」
をも含む
(ゆえに優先順位は指定→協議→審判となる)
と解するのに対し
内田説は
「相続開始時から最長5年以内分割禁止」
のみと解する対立
(ゆえに優先順位は協議→審判となる)
だと思います。

ですから内田説に対する理解としては

>From:Yasuyuki Nagashima <yasu-n@horae.dti.ne.jp>
>Date:2005/02/10 23:29:55 JST
>Message-ID:<cufqqd$bge$1@newsl.dti.ne.jp>
>
>内田説は指定分割を協議分割や審判分割と同レベルに来る分類と見ず、
>あくまでも分割方法を体現するのは協議分割、審判分割であって
>遺言による指定はその中で生かされるに過ぎない…
>という理解でいいでしょうか?

というので
あながち間違いではないと思います。
私が見る限り
「遺言による指定はその中で生かされるに過ぎない」
以上のことを言っているようにも思えるのですが……。

ちなみに内田説が限定解釈している背景には
「遺言によって定めた分割の方法以外の分割の禁止」
「遺言によって第3者の指定によることを定めた分割の方法
 以外の分割の禁止」
について、908条は禁止という語を使用していないというのが
あると思うのですが
さりとて内田説が遺言による指定より協議を優先させることについては
「もしそう解するならば908条の遺言の指定は
 最長5年以内の分割の禁止以外拘束力を持たないことになる。
 それは908条のほとんどの意味を失わせる解釈である。」
という批判が妥当すると思います。

2 平成3年4月19日最高裁判決の位置づけについて

この判決と「遺言と協議の優先関係」とは直接は関係ないと思います。
平成3年4月19日最高裁判決は
「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」」という記載は
「当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、
 単独で相続させようとする趣旨」
すなわち「分割方法の指定」であって
「遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段
 の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。」
ことがメインの判断事項と思われます。
(模範六法が908条のところでこの記述にとどまっているのは
 私と同じ見解だと思います。)

確かに判決ではこの判示の直後に
「他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、
 さらには審判もなし得ない」
とは書かれているけど
事案と照合してみるにこの点を判示したとは言えないし
むしろ最高裁はこの点については
「当然でしょ」と言い放っているんだと思います。
で、本当に当然なのかどうかについては
平成3年4月19日最高裁判決は
それほど重視しなくてもいいんじゃないかと思います。
(最高裁が「当然である」と思っていることについては
 これ以上ない重要な判決ではあるんだけどね。)

そして内田先生は1次的には「遺贈ではないか」という指摘なんで
遺贈なら「遺言の拘束力、分割の優先順位」という問題は発生しない訳で
遺贈とは解さない場合の議論とはわけなければならないと思います。
で、遺贈ではないにせよ
「やはり協議は必要」と書いていることについては
「全部指定されていた場合の協議」の必要性がはなはだ疑問という批判が
可能だと思います。

3 分割協議終了後の遺言の発見

>「ある人が亡くなって、
> その家族は既に遺産分割協議も終え、分割の実施も終わった。
> しかし、そのあとで遺言書が発見され、その中には協議で決めた分割とは
> 全然違う方法が指定されていた。
> さて、先に行った遺産分割協議の効力たるやいかに?」
>
>私は、民法908条や上記平成3年最高裁判例からしても、
>遺言による指定が優先される結果、当然先に行った協議は無効、
>(…というか、「正しい遺産分割ができていなかった」状態)
>遺言に従った分割をやり直し、その分割は909条により、
>第三者権利を侵害しない範囲で遡及効あり、と思ったのですが…

これは必ずしも必然って訳ではないと思いますよ。
というのは通説判例の立場でも
例えば910条のように相続開始後の認知で相続人が増えたとしても
価額による請求しかできないとしているものです。
そして親族法相続法講義案(司法協会)は
共同相続人の特定の者を除外した分割協議の効力について
「価額請求説」「相続回復請求説」「再分割説」
があって定説はないとしている以上、
長島さんの上記記述のとおり再分割説をとってもいいけど
「価額請求」「相続回復請求」
(おそらく分割協議自体は有効とする)
という線もあると思いますよ。

>もし内田先生の書いているように相続人の意思が遺言に優先、ということなら
>もはや行われた遺産分割協議が有効で、遺言の遺産分割指定は意味なし、
>ってことになるんでしょうか。

内田先生も一方で「遺言の拘束力」自体は否定していないんで
重要な前提を異にするんで無効という主張も
不可能でないと思いますよ。

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