Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その2)<clfs1u$sq4$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その3)<cmkpa7$n9v$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その4)<cnpq23$uoi$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その5)<couhh3$6bl$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その6)
●桃栗町町境近く
若い女性が大男一人を投げ飛ばした上に、更に三人の男を前にして啖呵を
切っているという状況は普通ならひどく人目を引く状況のはずでした。
しかしながらそれは大騒ぎになる事はありませんでした。エリスのみならず
慣れない力を精一杯展開したアンのお陰で、騒ぎが届きそうな範囲に居る
者は皆が周囲の出来事に無関心になっています。その状況を作り出している
思惑はエリスとアンでは全く正反対でしたが、男達がその事を知る術は無く、
また仮に知ったとしても好都合としか受け止めなかった事でしょう。
『なんなら三人一緒に相手してやろうか』
『おもしろいな』
『そういう事なら』
ずいっと前に踏み出そうとした二人を両手で制し、同時にその手を上げて
シドは気の抜けた笑みを浮かべました。
『降参。止そうよ、目立っちゃマズいし』
『気にすんな。今なら何やらかしても平気だ』
『それに』
言いかけたシドの言葉をエリスの背後から大声が遮ります。
『止めるな!このままでは済まさん』
『大人しく寝てろよ、そうすりゃ恥の上塗りしなくて済むぜ』
『油断しただけだ。次はそうはいかん』
『へぇ〜そうかい。じゃ来てみな』
人差し指をくいっくいっと曲げて見せて挑発するエリス。この間、ずっと最初の
男に対しては背中を 向けたままなのでした。男の顔色が見る見る赤くなり、
そしてその巨体からは想像出来ない動きでエリスの背後に近づくやいなや拳を
繰り出していました。
エリスはそれを軽く首を傾げてかわし、続く反対側の拳は膝を曲げて姿勢を
低くする事で避け、更に横に薙いだ蹴りを仰向けになってやり過ごすと両手を相手
の足元について一旦身体を丸め直後に男の顎の下と首に踵を突き入れていました。
ズシンとその身体に見合った音を立てて彼が倒れると、再びいきり立った
二人を今度は彼等の方に身体を向けたシドが改めて押しとどめます。
『駄目だ』
『しかし!』
シドは白い歯を見せてニッコリ笑い、それからこう宣言します。
『男はどんな時でも女の子に手を上げちゃ駄目だ』
それを聞き逃さなかったエリスが即座に混ぜ返します。
『もう逃げ口上かよ』
『エリス!』
それまで黙っていたアンが顔を曇らせてエリスを睨みます。その潤んだ瞳を
見返して、エリスは困惑の表情を浮かべました。
『何してるの?私達、ここへ何のために来たの?いい加減にしてよ』
『……泣く事ないだろ』
『泣いてないわよっ!情けないだけ!』
『判ったよ』
エリスは明後日の方を向いて先ほどのシドの様に降参の仕草をして見せます。
シドが明るい笑みを浮かべて振り向きます。
『話はまとまったね。喧嘩は無しにしよう』
『私はいいけど、そいつら納得して無いんじゃないの』
そいつら扱いの二人は憮然とした表情で小さく頷きます。横目でその様をちらりと
見てからシドはう〜んとわざとらしく唸ってからこんな事を言い出しました。
『じゃぁ勝負しようか』
『ちょっ』
抗議しかけたアンに向けて軽く手を上げて制し、続きを話すシド。
『喧嘩じゃない、ちゃんとした勝負をさ。このままじゃ引っ込みがつかない。
だろ?』
二人の男とエリスが頷くのを確認してから更に続けるシド。
『ただし格闘じゃ無い。別な事にしよう。女の子相手に腕ずくは下品だから』
また何か言いかけたエリスでしたが、アンに睨まれてぐっと言葉を飲み込み
ました。残った二人の男は多少の不満を鼻を鳴らして表明はしたものの、
それ以上の異義は唱えませんでした。
『さて、何がいいかな。君が決めていいよ。どうする?』
『そうだな…』
『待って』
何時の間にか、アンがシドとエリスの間に立っていました。
『勝負の内容は誰か別なひとに決めてもらいましょう。そうで無いとどちらが
勝ってもやっぱり後をひくと思うの』
『誰かって』
『誰か心当たりでも?』
『ううん。だから一旦帰ってそれから…』
そこまで聞いたエリスがにんまりと笑顔を見せ、アンは自分の意図を彼女が
察してくれたのかと思い安堵しかけます。しかしすぐに意図を理解したなら
エリスが笑うはずが無いと気付きました。アンの不安は的中し、エリスは
アンの背後を指差しています。
『適任者が来たよ』
振り向いたアンは複雑な顔をし、そしてシドを含む男達は一様に困惑の表情を
見せていました。そして当の適任者はきょとんとした顔でそれらの視線を受け
とめています。
「ちょっといいですか〜」
エリスはそれら各人の思惑には気付かず、或はそれを敢えて無視して適任者を
呼び寄せます。そして適任者は女の子に呼ばれれば取り合えず素直にやって来る
性格でした。適任者、すなわちまろんと都が近づいてくる間にアンは目を
閉じて何かにじっと集中していました。ですがその集中はエリスが肩をぽん
と叩いた事で途切れます。はっとなって顔を向けたアンにエリスがウィンクを
して見せます。
「残念でした。努力は認めるけど、私の向こうを張っても駄目だよ」
まろんは無理でも都を追い払えば何とかなる、という思惑を試した途端に
くじかれてアンはムッとした顔をしていました。ですがそんな表情もまろんの
声に振り向いた時にはすっかり消えています。
「何なに、呼んだ?」
内心は渋々と言ったところでしたが、もちろんそんな事は顔には出さずに
アンは説明を始めました。エリスに話させるとまた面倒な話の展開になって
しまうかも知れないと危惧した結果、逆にまろん達に対しては実際にありそうな
説得力のある説明をしなければならなくなったアン。話している途中でそれに
気づくと、自分の浅はかさを呪います。
「ちょっとお願いが」
「うん」
「実はあの人達に」
あの人達が誰なのかは周囲に他には誰も居ない点からして明白でしたが、
アンは一応竜族の男達の方へ知人を紹介する様な仕草で手を伸ばしました。
「お茶に誘われたのですが」
「ふむふむ。人数が合わないので私達も混ざれと」
「そうじゃないんです」
アンは少し苦笑しながら続けます。
「姉がそういうのあんまり好きじゃなくって。でもどうしてもって言われて
じゃぁ勝負して勝ったら付き合ってやるって言っちゃったんです」
「あれま」
「でも男の人とどんな勝負したらいいか思いつかなくって、それで」
「何かアイデアを出せばいいんだ」
「はい。それと出来れば公平を期するために見届けてもらえれば…駄目ですよね」
アンが一番頼みたかった最後の部分はあっさり拒否されました。それまで無言で
話を聞いていた都によって。
「いいんじゃ無い、少しくらい付き合ってあげても」
その答えを聞いてアン以上に驚いたのはまろんでした。
「えっ?いいの?」
「何よ、放っとけって言うの?別に全然知らない相手って訳でもないんだし、
困っているみたいだから乗ってやろうって言ってんのよ、文句あんの」
「文句なんて無いよぅ」
「じゃ決まり」
そっと背後を覗き見たアンの視線の先で、エリスがうんうんとでも言う様に
頷いていました。
「それで、どんな勝負でもいいの?」
「どうぞ、何でも」
そう答えたのはエリス。まろんはそこでふと、先ほど感じた疑問を思い出して
いました。もしかしたらその疑問の答が得られるかもしれないと。
「じゃ、水泳」
「まろん、体力ネタはまずいんじゃないの?」
「あぁ、平気です。気にしなくて。どうせもともとブン」
殴る代わりなので、と言いかけたエリスの口を慌てて塞ぐとアンはシドの様子を
うかがいます。彼は既に困惑の表情を消し去り、初対面の女性二人に向けて
満面の笑みを見せていました。
「いいね。オッケーだよ」
それから彼は未だに硬い表情のままの仲間に告げました。
『最初は水中移動の速さ比べって事になった。もちろん人の姿のままでだけど、
誰がやる?俺は一応こっちの泳ぎも出来るんだけど』
『その前に確認しておきたいんだが、あれは例の神の御子なのではないのか』
『そうだね、資料にあった写真と同じ娘みたいだ』
『それはヤバいんじゃ。勝手な接触は禁じられてるだろ』
『だが偶然に出会った場合は自然に振舞えとも言われているよね』
『確かにそうだが…』
『まぁ気にしない方がいいと思うよ。で、どうする?』
『俺がやる。早く泳げば良いんだろ、人の流儀で』
何時の間にか起き上がり話に加わっていた男、エリスに投げ飛ばされた彼が
低く抑えた声で宣言します。
『よし、決まり。それと言葉は出ちゃうのは仕方ないけど、なるべく魔界特有の
発音は出すなよ。それから神の御子の前では笑顔で。これは女性に対する礼儀、
男として最低限のね』
男として、という部分に敏感に反応した彼等はぎこちなく笑顔を作ります。
そんな様子を離れて見ていたまろんと都。顔を見合わせて互いに同じ疑問を
口にします。
「やっぱり外人さん?」
「日本語が判るのは真中の色男だけみたいね」
「でも他の人達も結構イイ男じゃない?」
「まろんはああいう筋骨隆々が趣味だったの。知らなかったわ」
「やだなぁ、一般論だって」
じゃぁ一般論では無い男の趣味はどんなタイプなのよ、とは流石に突っ込む気
にはならない都でした。
*
まろん達がつい今しがたまで泳いでいた50メートルプールに戻ってみると、
一時賑わっていたはずのそこはすっかり誰も居なくなっていました。もともと
全体としては客が多い訳では無かった所為もあり、まろんも都も特にその事を
不思議とは思わず単に人の集まる場所に波があるのだろうと思っただけでした。
目的の相手は呼び寄せ、それ以外の者は追い払うというエリスの器用さに
今更ながら感心すると同時に如何にしてこの状況を穏便に収拾すれば良いのか
と考えていたアン。当のエリスは既にプール端のスタート位置に立っていて、
間に1コースを空けて対戦相手が飛び込み台に上がろうとしているところです。
考え事をしながらそんな二人を眺めていたアンは、隣に何時の間にか立った
シドに声を掛けられて少し驚いた顔で脇を見上げました。
「心配?」
「何が?」
「もちろん勝負の行方だよ。それとも他に気にかかる事でもある?」
「別に…無いけど」
シドは明るい笑みを見せました。
「そういうところは前のままだね」
「え?」
「不安が隠せないところ」
アンは返事をする代わりに少しだけ頬を膨らませて彼を睨みます。
「大丈夫さ、何にも問題無いって」
「あなたのそういうところ、羨ましいわ」
「光栄だね」
「褒めてないわよ」
「ハハハ」
楽しそうな笑い声に二人を振り向くエリス。まろんと都もつられる様に二人の
方を見ていたのですが、まろんだけは何気なくエリスの方を向き、そして彼女の
視線が何となく鋭くなっている事に気付きます。三角関係?姉妹ってどんな感じ?
などといった妄想が膨らみかけたまろん。まるで見透かした様なタイミングで
エリスが目を合わせた為、まろんはかなりうろたえてしまいます。
それをどう受け取ったのか、エリスはニンまり笑って宣言しました。
「何時でもどうぞ」
「へっ?」
「スタートの合図じゃ、ボケ」
まろんの肩を軽く叩いてから前に出る都。
「私がやってあげる。ポンって手を叩くから、それが合図ね」
「了解」
それからエリスは顔をプール側に真っ直ぐ向けたままで少し離れた場所に
立っている相手に教えてやります。
『彼女が手を叩いて始まりを告げてくれる。遅れんなよ』
『承知』
言っている事は判りませんでしたが、相手の男が頷いた事もあり会話の趣旨は
何となく都にも判りました。一呼吸おいて、都は大きめの声で言いました。
「用意!」
やはり同様に意味は判らずとも、都の声の意味するところを察した竜族の
男達。エリスの競争相手の身体に力が入った様子は誰の目にも明らかでした。
ただし、まろんと都の目にはそれが水泳の飛び込み前のポーズには見えず、
どちらかと言うと短距離走のスタートの格好に見えたのですが。そして
一方のエリスが全く何の用意も無く、すっと直立したままなのも気になり
ました。ですが既に何時でも良いと彼女が宣言しているのです。都は余計な
詮索はせずに手を叩きます。直後、まろん達の見知らぬ巨体が軽やかに
踊り出て、そして巨体に見合う派手な水しぶきを上げて水中に消えました。
コース中ほどで水面に浮かんだ彼は豪快に腕を繰って進んでいきます。
水泳自体に深い理解がある訳ではなかったまろんや都の目にも、それが
何処そこの水泳選手と言われれば疑う余地の無い速さである事は判ります。
思わず“おぉ〜”と感嘆の声を漏らす二人。そして同時にアンは溜息を
漏らしていたのですが、それは二人には聞こえませんでした。代わりに
二人は別な事に気付いて慌てます。
「ちょ、ちょっと!スタートだってば」
「知ってる。心配しなさんな」
飛び込み台の上からエリスがしれっと答えた時、一際強く水を打つ音が響き
相手が折り返した事を告げました。エリスに話しかける為にコース脇にまで
進み出ていたまろんと都がプールの反対側を見た直後、二人の視野の端を
鮮やかな黄色が一瞬横切ります。ハッとして顔を向けた時には、既に黄色の
主は殆ど音も無く水も弾かずに水中に消えていました。それは大変奇妙な
光景で、ゼリーかプリンに箸を挿した様な印象を二人に残しました。対戦
相手の豪快な泳ぎが立てるさざなみの所為で見通しは良くはありませんでしたが、
水中に潜ったエリスの身体は魚の様に細く見え褐色の肌と鮮やかな色の水着が
無ければ目で追う事は不可能だったでしょう。そしてその身体は途中一度も
浮かび上がらずにコースの端に達し、そこでわざわざ手すりを掴んで上半身を
水から出してまろん達に手を振ってから再び水中に没します。その間、ほんの
数秒の出来事。素人目にも十二分に泳ぎの速い男が折り返しの半分を終えた時、
まろんと都の目の前の水面から今度は先ほどよりも乱暴にエリスの身体が飛び
出し、そして飛び込み台の上にストンと着地していました。
「あ…」
二人がぽかんと口を開けて見つめる前でエリスが呟いた言葉に、まろんは
最初にこのプールで見た光景が勘違いでは無いと確信しました。
「遅い」
すたすたとプールから離れたエリスを出迎えるアンとシド。相変わらず笑みを
絶やさないシドと違い、アンは勝者を祝福する顔はしていませんでした。
「どうしてあんな事するの」
「あんな事って?」
「わざわざ挑発する様な事」
「してないって。可愛そうだからハンデやったんだよ」
「それを挑発って言うのよ」
「まぁまぁ」
「あなたは黙ってて」
シドは少し悲しそうな笑顔になり、しかし如何にも演技っぽい仕草を加えて
何とか話に食いついて来ます。
「どっちにしろ勝負はついた。俺たちの負け」
「まだひとつめだ。油断すんなよ」
「それはあなたの事でしょ」
アンがエリスの頬をつねる様にして引っ張っていく後をシドもついて行きました。
水から上がった男はエリス達の方を一瞥しましたが、特に何も言いません。
シドは彼等に軽く頷いてから、まだぽかんとしているまろんと都に笑いかけます。
「いやぁ〜、凄かったねぇ」
「うんうん、凄い凄い!」
「ちょっと待ちなさいよ、あれは凄いとか言うレベルじゃ…」
「じゃ、物凄い?」
「大したこと、無いですよ」
「…ま、そうね。ちょっと速いくらいか」
「都ぉ〜、何でアンさんには素直に同意するのよぅ」
「うるさいわね。ほっとけ」
「ブーブー」
「やかましい」
「まぁまぁ」
シドが面白がっている口調で、一応の仲裁に入ります。しかしまろんと都の
意識を本当の意味で彼に向けたのは続くこんな言葉でした。
「で、次は何かな」
「はへぇ?」
何のことか理解出来ずにいる二人の前で、シドの屈託の無い笑顔が輝いていました。
(第173話・つづく)
# ネタが先週の『スクラン』と思いっきり被っちゃった orz
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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