Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その2)<clfs1u$sq4$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その3)<cmkpa7$n9v$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その4)
●桃栗町内
静かに移動する気配を小一時間ほど追いかけていたシン。やがて彼の行く手に
現れたのは袋小路でした。三方を塞いでいる建物の壁には窓が無く、まるで
その谷間の様な場所に背を向けている様でした。ややカビ臭い空気が溜まった
そこは如何にもはぐれた悪魔が寄り付きそうな場所に思えます。どうやら
落ち着いて話をする機会がやって来た様だとシンが安堵したのも束の間。
それまで少し前方にあったはずの気配が足元の更に下を一瞬ですり抜けます。
慌てて振り返った彼はそこで意外なものを見て驚き、そして狼狽しました。
見知らぬ人間の少女が袋小路の入り口に立っていて、彼の事を真っ直ぐに
見つめていました。彼女の目もまた状況の変化に慌てた色を宿しており、
シンが突然振り向いた事に驚いているのは明白でした。そこでシンは
なるべく穏やかな口調を心がけつつ笑顔で語りかけるのです。
「やあ。何か用かな?」
少女は返事をする代わりにゆっくりと後退り始めます。シンは何が相手を
怯えさせてしまったのかと悩んでしまい、やや声がうわずってしまいます。
「ちょっっと待ちたまぇ」
二人の距離は更に広がり、少女は今にも踵を返して走り出しそうな気配を
見せています。シンは迷いました。そのまま行かせてしまった方が良いのか、
或は自分をどう見たのかたずねるべきなのか…正体に気づいたのだとしたら。
シンが一歩踏み出した途端、少女は背を向けてザッと地面を蹴っていました。
咄嗟に追いかける行動に出たシン。人間離れしたその動きの素早さは、一瞬で
少女を手の届く距離に捉えていました。そして本当に肩に手を掛けようとした
瞬間、少女はシンの視界からスッと滑る様に外れて行ったのでした。下へと
向かって。
「え?」「あ…」
少女の声を目で追いかけた先には何時の間に広がったのかマンホールの蓋程の
水溜りがありました。シンの目の前で少女の髪の毛がゆらゆらと水溜りの中へ
と沈んで行きました。そして今度は水面が彼の眼前にまで迫っています。
仰け反ってそれを避けようとしたシンは足元が全く踏ん張れない状況である
事に遅ればせながら気付きます。そして理解しました。水面が近づいたのは
自分もまた水溜りに飲まれつつある所為なのだと。
クスクスクス
押し殺した笑い声が辺り一面から、或は何処でも無いところから聞こえて
きていました。
●桃栗町町境近く
全くの二人きりで遊びに出かける。そんな事を最後にしたのは何時だったろうか。
アンはそんな風に思っただけで自分でも頬が緩んでいるのが判ります。そして、
もう一人の自分も同じ気持ちのはずとその表情を見て少しだけ不満に思うのです。
アンにはエリスが同じ気持ちなだけではない事が判ってしまうから。
「ねえ」
アンに脇腹をつんと押されてエリスは後ろを振り向きます。
「ん、なに?」
「そんなに気にしなくていいのよ」
「気になんてしてないよ、何にも」
「だって、力、使ってるじゃない」
「周りに誰も居ない方がいいじゃんか」
「本当にそれだけ?余計な警戒とかしてない?」
ふぅ、とわざとらしく小さな溜息をついてからエリスは答えます。
「私が何を警戒するって言うんだよ。そんな必要があるほどの相手、居るなら
連れてきて欲しいね」
ニヤっと笑うエリス。アンも同じ様な笑みを浮かべて見せます。
「じゃぁ昨日の女の子を連れてこようかしら」
「だからあれば」
エリスは口を尖らせて、しかし少々小さめの声で抗議します。
「大体、私達が」
そこで一瞬しまったという顔をしてから、再び口を開くエリス。
「私達ってのは私とアンの事だからね」
「判ってる。で、私達は?」
「あんな術は何とも無いんだよ、火とか水とか空気とか」
「人間達の言うところの四大元素」
「そうだよ、判ってるじゃん。別に痛くも痒くも無いんだから」
「でも吹っ飛ばされちゃったりはするのよね」
「がぉ〜っ」
エリスが牙を剥いた獣の様な顔をして襲い掛かると、アンは肩越しに笑顔を向け
ながら逃げ出します。もちろんエリスは本気で追いかけている訳では無く、
二人は付かず離れずの距離をたもったままで広い施設を自由に駆け回ります。
そして目隠しの為の植え込みの一つを周ったところで、アンは何か固くもあり
柔らかくもあるゴムの様なものにぶつかってしまいます。弾かれ倒れそうに
なったアンを背後から即座に追いついたエリスが支えました。
「大丈夫?」
「ええ」
声に誘われアンが顔を上げると、そこに立派な体格をした若者が立っていました。
身体の何処を見ても筋肉の盛り上がりが見える肉体は、しかしボディビルダーの
様な作り上げた印象ではなく自然に身についた均整を同時に備えています。
その筋肉の付き方は見る者が見ればどうやって鍛えたのか判らない部分にまで
及んでいるのですが、一般の目にはスポーツに勤しんだ結果としか見えない
でしょう。真夏の砂浜などであれば実に見栄えのする身体でしたが、アンに
とっては別に珍しくも不思議でも無い体格でした。そしてアンには自分が顔を
上げるより前からエリスが相手を見つめて、或は睨んでいたであろう事も
確かめるまでもなく明らかな事でした。
「やぁ、元気だった?」
「ええ。ご免なさいね、前を注意していなくて」
「いいさ。こっちに来てから話すのは初めてだけど、噂通り印象が変わったね」
「噂?」
「最近、まるで別人みたいになったって」
「どう思う?」
「そうだな、何ていうか元気になった」
「喜んでおくわ」
「そうしてくれると嬉しい。で、そちらは?」
そちら、即ちエリスは視線を逸らさずに真っ直ぐ相手を凝視したままでした。
アンが少し困った様な中途半端な笑顔を見せながらエリスに語りかけます。
「あのね、こちらはアウストラリスで時々遊びに誘ってくれていた」
「知ってる。生き残り組だろ」
「あれ?君、ノイン様の所のメイドさんでしょ?竜族だよね?何処かで会った
事あったかな?」
「メイドじゃないし竜族でも無いし会った事も無い。こっちの言葉を
話しているから生き残り組だって判っただけだ」
「ああ、そういう事か。何かツンツンしてるなぁ、俺、何か悪いこと
言っちゃった?」
エリスはアンの手を引いて数歩退り、それから囁きます。
「何だこいつ」
「彼はシド。エリスの言う通り生き残り組だけど士族が違うから私達の」
アンはそこでちらりとエリスを上目遣いで見、表情がそれ以上険しくならない
事を確かめてから言葉を続けます。
「家の事は風の噂ぐらいにしか知らないし、私達と同じ世代だからつまらない
話に興味は持ってないわ。多分、あなたの事もさっき言ってた以上には知らない」
「だから?」
「嫌なら話さなくてもいい。だからそんな敵を見る様な目をしないで」
「敵の方がマシ」
「…もう」
エリスを後ろに隠す様にしてアンは再び彼に近づき、自然な笑顔を向けます。
「今日はどうしたの?」
「ん?ああ、昨日の作戦に出た連中がさ、何か招待券貰ってきてて。
宿営で暇そうにしてた連中に配ったんだよ。もっとも実際に来たのは
半分も居ないんじゃないかな。ほら、言葉とか判らない奴多いし」
連中というのがミカサが引き連れて来た増援に参加していた竜族達の事なのは
明白でした。静かに頷いてみせるアンに更に話し続けるシド。
「でもさ、勿体無いよね折角人間界に来たのに作戦以外で出歩かないなんて。
それで若い連中同士、俺ら多少話せる者が引っ張って来たんだよ」
「他のみんなは?」
「何か、こっちよりも隣の方が面白そうだって言って」
シドが指差した方角はでたらめでしたが、意味は充分通じます。初めての自由な
時間に、単なる湯の入った池よりも見ておきたい物が他にあるのは当然でしょう。
「シドはいいの?」
「別に欲しい物があるってわけでもないし。それに俺、今年の雨季にあんまり
泳いでなくて」
「水が好きだものね」
「否定しないけど、何か子供扱いされてない?」
「そう聞こえた?」
「聞こえた」
談笑する二人の背後でますますムッとしているエリス。もちろんアンがその変化に
気付かないはずもなく、そろそろ世間話を止めようとした時でした。彼の方へ
向けて話し掛けながら近づいてくる者が三人。
『何処まで行ってるんだよ、探しちまった』
『書いてある案内が全然読めん。便所何処だ』
『女の子に話し掛けたら逃げられた。俺の顔って怖い?』
アンもエリスも当然の様に彼らがシドの言うところの連れ出された連中の一部
なのだと判ります。何しろ魔界の公用語丸出しで話していたのですから。
『あ〜悪かった。ちょっと知り合いに会ったもんだから』
『知り合い?あ、竜族の子なの?』
『どっちが噂のアンちゃん?』
『何かさ、外の世界で見る同胞の女性って新鮮だね』
三人は遠慮の無い視線をアンとエリスの全身に彷徨わせます。少し照れたのか
頬を染めたアンの前にすっとエリスが進み出ていました。
「じゃぁな。そっちはそっちで遊んでな」
『え?何だって?』
『ごめん、判らないんだけど』
『シド、彼女なんて言ったんだ』
『ん、まぁ、さよならって事かな』
『え〜、寂しいなぁ。折角会ったんだし、一緒に遊ぼうぜ』
『そうだよ。魔界じゃこんなとこへ初対面同士で遊びに来るなんて事無いし』
『ジジィどもが煩いからなぁ、チャラチャラと女に色目使うなとかさ』
『きっと楽しいぜ。どうよ』
『うるせぇ』
「ちょっとエリスっ」
一瞬、ぽかんとした顔になる竜族の若者達。構わずエリスはアンの手を引いて
彼らに背中を向けます。後から来た三人の内の一人がすっと前に出てアンの
もう片方の手首を掴みます。
『痛っ』
『君は嫌じゃないだろ?』
『離してください』
『いいじゃないか少しぐ…』
アンの手首を掴んでいる手首を横からエリスが掴みました。掴んだといっても
エリスの手に比べて彼の手首は太く、指が手首を一周していません。その為に
爪が手首に食い込むような具合となりました。それもかなり深く。彼はゆっくりと
アンの手を離し、それを確認してからエリスは相手を押し退けつつ握った力を
ゆるめていきました。エリスは彼に背を向けるとアンの肩にそっと手を添えて
歩きはじめます。途端、何を思ったのか彼はエリスの方へと手を伸ばしました。
肩でも掴もうとしたのかもしれませんが、それよりも早くエリスは半身になり
相手の肘を取っていました。そしてアンの肩から離したもう片方の手で再び
彼の手首を掴みます。
『止さないか』
シドが間に入ろうとするよりも早く、そしてアンが止める間も無く彼は“おぅっ”
という叫びとも呻きともつかぬ声を残して宙を舞い、そして随分と先にあった
グループ向けジャグジーの一つに落下していきました。水しぶきと一緒にゴツン
と鈍い音が響き、アンはぎゅっと目を閉じてそれから困った様な顔をしました。
シドを含む残りの男達はぽかんと口を開けて仲間の飛んでいった放物線を眺め、
それからエリスをまじまじと見つめます。
『次は誰だ』
彼等の視線を正面から受け止め、エリスは不敵な笑みを浮かべていました。
(第173話・つづく)
# 平和な話にしようかとちょっとだけ思っていたのですが、
# やっぱり揉め事の気配。^^;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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