Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その20)
●桃栗町の外れ・何処か
短い沈黙の時を、場の空気が気まずくなる前に打ち破ったのはまろんと稚空を
黙らせた張本人でした。
「それで、名古屋君の新しい彼女ってどんな人なのかしら」
「ちがうっ!」
「綺麗な人なんでしょうね」
「稚空、前から手が早い方だと思ってたけど、こんな時に…」
「お前なぁ…」
「このくらいで許してあげましょう。ね、日下部さん」
「このくらいも何も」
「勘弁してくれ。それとお前からもハッキリと言ってくれ」
稚空がエリスの方を見ると、彼女はお腹を押さえてうずくまっていました。
「おい、大丈夫か」
「やっぱり稚空、変!何で敵の心配してるの!」
「いやそれはだな、本能というか」
「バカ!」
「何だと、お前だって」
「何よ」
「俺には判る。逆の立場だったら、まろんはコイツの事を心配したはずだ」
「何で」
「コイツに最初に遇った時、お前何したか忘れたのか」
別の次元に棚上げされていた幾つかの事柄が、まろんの記憶から発掘されます。
「しっかりとした張りがありながらも揉み応えがあり…」
「何の事?」
ツグミの問いに稚空が応じます。
「まろんはだな、彼女の胸を後ろから」
「わざとじゃないもん!そういうルールだったの」
「嘘つけ」
「稚空、私の事が信じられないんだ!」
「お前だって俺の事、信じてないだろ」
「現に目の前に」
「…お二人とも」
ぼそぼそと絞り出す様なエリスの声は聞こえづらく、それ故、逆に二人の注意を
引きました。
「漫才はその辺で終いにしてください」
「何だよ、腹でも痛いのかと思って心配して損した」
「痛いのは事実ですが、可笑しすぎて傷に響いただけですよ」
「あのな…」
エリスは折り曲げていた身体を伸ばし、姿勢をただします。
「敵の私が言うのもなんですが、彼は立派な人物ですよまろん様」
「そうかなぁ」
「何でそこを疑うんだ」
「恥ずかしながら内輪もめで少々意識を失っていた私を心配してくださったの
ですから大したものです」
「じゃぁ聞くけど稚空、メイドさんじゃなくて全然可愛くない悪魔とかだったら
どうした?放っておいたんじゃない?」
「当然放置だ」
「ほら~」
「俺ももう一度言わせてもらうが、まろんだってコイツなら放っておかないはずだ」
「それは…判んないけど」
「その点については、無駄な争いはしないという戦士のたしなみと理解すれば
よろしいのでは」
「稚空をかばうのが怪しい」
エリスはクスリと笑って肩をすくめます。
「そういう誤解を受けたのは初めての様に思います。新鮮ですね」
「嘘。魔界の人って恋愛しないの?」
「そういう訳ではありませんが、私個人には縁が無いという意味ですよ」
「でもこれを機会に稚空に興味が出たとか」
「いえ、全然」
「そうハッキリ言われると少し面白くない」
「稚空は黙ってて」
「…」
「私は殿方に、そういう方面での興味がありませんので」
「判った、じゃ女の子同士でじっくり話し合いましょう」
「それも遠慮します」
「何で~」
「浮気者」
ツグミの一言に稚空が猛烈な勢いで頷いて同意します。まろんは慌てて論点を
すり替えにかかりました。
「私が言いたいのは、何でメイドさんが戦おうとしてないかって事で」
「こんな格好では戦えませんから」
「そりゃ、そうか」
「ですので、私はこれにて失礼させて頂きます」
「あ、そう」
「追いかけてこないで下さいね。その時はそれなりの対応をする事になります」
「追わないよ。私だって、自分達が別に有利な立場って訳じゃ無い事くらい
判ってるから」
エリスは別れの挨拶として軽くお辞儀をし、それから胸元に手を差し入れて
一枚の紙片を取り出しました。何処にそんなもんを隠していたんだ、と稚空が
疑問を差し挟むいとまも無く、それをはらりと地面に落とすエリス。自然に、
まろん達の視線もそれを追います。落ちていく途中で紙片の輪郭がぼやけ、
それに呼応する様に周囲を薄くたなびいていた火災の煙と、背後の森の間を
流れていた霧が集まり二人の視野を一瞬奪います。ですが二人が慌てて身構え
た途端に、それは嘘の様に晴れていました。そして今ではその場にはツグミを
含めて三人しか残ってはいませんでした。
「あ、メイドさんが居ない」
「素早いな」
「あっちよ」
「え?」
まろんが振り向くと、ツグミがまろんと二人で歩いてきた方をすっと指差して
居ました。その指し示された先を見ても、まろんにも稚空にも何も見えません
でしたが。誰も居ない方向を見つめて、若干惚けた様子のまろんが呟きます。
「そういえば、メイドさんは服が乱れると退却しちゃうね」
「恥ずかしいんじゃないのか」
「そうかなぁ」
「大体、あんな格好で暴れたら色々とマズいだろ、見えちゃイカンものとか」
「やっぱり見たんだ」
「見て無い。仮定の話だよ」
「見たくせに」
「本当に見て無いんだ、残念ながら」
「で、本当の所はどうなの。私の見立てでは脱ぐと凄いんです系かなと」
「いや、そんなでも無いぞ。胸はまろんの方がある気がするな。尻はアイツの
方がデカイかもしれん。あと体重はまろんより重いな」
「え?そうなの?あんなに身が軽いのに」
「重いのは筋肉の分なんじゃないか。そんなにガッシリはして無いのが不思議
と言えば不思議だが」
「そうそう。もっと筋肉質かなと思ったのに柔らかいんだよね」
「楽しそうね」
ツグミの言葉に、何故かピクっと姿勢を正す二人。
「次は私の事もちゃんと紹介してね」
「うん」
「というか友達じゃ無いだろ」
「あぁ、確かに」
「でも私も見てみたいわね」
「駄目っ」
「何故?」
「いや、それは」
ツグミが“見て”いる所を想像して、顔を見合わせるまろんと稚空。そして互いに
微妙に顔が赤い事に気付いて顔を背け合います。
「皆さん、無事ですか」
明後日の方向へ向かいつつあった三人を現実に引き戻したのはトキの声でした。
トキとアクセスは勝手に片付いた敵の反撃が最早無い事を慎重に確かめた後で、
稚空とまろんを直接追おうとして果たせず、結局倒壊した屋敷の棟に沿って二人
を捜しながら来たのでした。
「すまない、こっちからも行くべきだった」
「良いのです。無事で何より」
「それより、サッサとズラかろうぜ」
「うん、そうしよう」
「だが、帰り道はどっちだ」
「この屋敷の正面側から、我々は来たのですからその逆へ向かえば…」
トキと稚空が顔を見合わせます。
「敵に真っ直ぐ進ませてもらえなかったな」
「突破する事に夢中になりすぎました。来た道を正確に辿る術がありません」
「え~、何よ稚空だめじゃん」
何故非難の矛先は何時も自分だけなのだろうと、稚空は不本意に思うものの
やはりこの場合も黙っていた方が賢明と判断しました。
「俺らが上に上がって、街の方角を探そうか」
「アクセス、それは難しいでしょう」
何故、と問うまでも無くその理由は明らかでした。直ぐ隣に立っている仲間の
姿すら見えにくくなる程に、周囲を流れる霧が濃くなっています。
「クソっ、またか」
稚空は屋敷前の戦闘で不要になった暗視ゴーグルを無意識に放り投げてしまった
事を悔やみました。訪れる沈黙。その時、まろんの手がそっと握られます。よく
知ったその感触。きっとツグミは不安に思っているに違いないと強く握り返す
まろん。その手が、グイと引かれます。
「こっちよ」
「え?」
「ついて来て。名古屋君達も離れないでね」
「ちょっと、ツグミさん?」
「待て、勝手に行くな」
稚空が慌ててまろんのもう片方の手を取り後に続きます。トキとアクセスも稚空
の直ぐ後を追いました。前を行く者の背中しか見えない中で、まろんと稚空は
何か感じる事が出来ないかと全神経を耳に集中させます。トキとアクセスもまた
同じく敵の気配を感じる事に集中しながら前進。しかし、彼らを覆う霧は何らの
気配も音も感じ取らせる事がありませんでした。そんな中を、ツグミだけが一切
迷いも惑いも見せずに、黙々と森の中を進んでいました。何時しか、まろん達は
彼女に何故を問う事も忘れています。やがてどれくらい進んだのか、ツグミは
唐突に足を止めました。
「何かが…」
ツグミがそう声を発した時には、まろんも異変に気付いていました。正面の霧の
向こうから、何かがぼんやりと光って見えています。そしてそれは明るさを増し
ていました。トキとアクセスが即座に前に出、まろんは両手を引いてツグミと
稚空を自分の傍に寄せました。閃光。三人が瞬時に展開した障壁が衝撃を防ぎ
ます。同時に障壁は、ぶつかった何かが異質なモノでは無いと告げています。
巨大な閃光が通過した後、まるで霧の中にトンネルを掘りぬいた様な円筒の空洞
が出来ていました。その先から叫び声が近づいて来ました。
「ご、ごめんなさいですです!」
「何でいきなり撃ってくるんだよ」
「霧で前が見えないから…」
「ぉぃぉぃ」
「遅いですよセルシア」
「だって結界がいっぱい…」
「というか俺達に向かって撃つんじゃねぇよ」
「ごめんなさい…」
「いや、この場合は良しとしましょう。お陰で少なくとも正面は見通せます」
「急げ、また霧に前を塞がれるぞ」
最後尾の稚空の声が皆を引っ張り、六人が霧の中の細い一筋の道を一気に駆け
抜けて行きました。
●桃栗町の外れ・ノインの館
玄関の前でそわそわと待っていたアンが殆ど聞こえない程の静かな足音に気付い
て顔を向けると、本来の通り道である木立の間の小道では無く、何も無い木々の
間からひょっこり出てきたエリスの姿が見えました。
「どうしたの、その格好は」
「吹き飛んだ」
「まったくもう…」
「仕方無いだろ、弱っちいんだよ人間界の服地は」
「とにかく、入ってちゃんとした服を着ましょう」
「判ってる。ところでユキ様は戻ってるかな」
「ええ。少し前にミカサ様が連れて戻られたわ」
「部屋?」
頷くアンに頷き返し、エリスはすたすたと館の中へ向かいます。それを見ていた
アンが慌てて小走りで駆け寄りました。
「エリス、怪我したのね!?」
「大した事無いよ」
「嘘。今、少しよろけたじゃない」
「どうでも良いとこだけ良く見てるなぁ」
「早く休んで。家の仕事は私だけでも出来るから」
「そうじゃ無いんだよ、まだ大事な用が残ってる」
エリスの真面目な横顔に、アンはそれ以上食い下がるのは止めるのでした。
(第175話・つづく)
# あと2~3回で終わります。
では、また。
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■■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■■ 可愛いんだから
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか
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Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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