Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その18)
●桃栗町の外れ・何処か
閃光と轟音が玄関ホールを満たし、それは咄嗟に強化された障壁の内側で様子を
見守っていたアクセスとトキにとっても視界を遮り耳を聾するには充分なもの
でした。そして同時に二階へ殆ど到達していたまろんと稚空の足も止めさせます。
光が消え、かざした手の隙間から再び周囲が見え始めた時、そこはすっかり別の
場所の様になっていました。そこへ至る前にも既にかなりの破壊が進んでいた
ものの、それでも豪奢な屋敷の玄関ホールらしさを残していたはずのそこは、今
では誰が見ても遥か昔に打ち捨てられた廃墟でしかありません。かつて屋根の
一部であったろう何かが床に散らばっていて既に天井は存在しません。壁もほぼ
失われていて、残っているのは丁度アクセスとトキの障壁の影になっていた僅か
な部分だけ。まろんと稚空が呆然と見下ろしている階段側はまだ建物の体裁を
残していますが、玄関ホール部分は完全に吹き飛んでいました。そんなホールに
面していながら、階段に人が立っていられる事の方が奇跡と言えたでしょう。
そして既に屋根が落ち玄関ホールを照らしていた照明も無いにも関わらず、
まろん達が周囲の惨状を目の当たりに出来たのは、建物の残った僅かな部分が
ことごとく炎を吹き上げて燃え上がっていたからなのでした。真っ先に正気に
戻ったのはトキ。彼は既に周囲を見回し終えていて、かつては玄関ホールの壁で
あった辺りよりも更に遠くの開けた場所に転がる白い身体を見つけていました。
彼の視線が見つめる先を追ったアクセスも同じ物を見つけ、直後には一方の敵の
監視をトキに任せつつ自分はもう一人の敵の姿を探します。
「魔界メイドが居ねぇ」
「あの衝撃では、彼女の方が遠くに吹き飛ばされた可能性が高いですね」
「死んだかな」
「判りませんが、あの」
トキの緊張を感じ取り、アクセスは横たわっている悪魔の方へと意識を集中させ
ました。
「悪魔の方が先に行動を再開すると考えるべきでしょう」
「やっぱ、そうだよな」
しかし二人の懸念は、全く別の形で目の前に現れます。悪魔の背後、少し離れた
場所に黒い影が立っている事に二人は唐突に気付きます。その影はフード付きの
マントで身を包んでいて、まるで闇に溶け込もうとしている様でした。そして、
身構えたトキとアクセスに向けて、サッと抜いた刀 − トキやアクセスは初めて
見る、優雅なカーヴを描く細身の剣 − を水平にひと薙ぎ振るいました。瞬間、
刀の通った筋道がそのまま光って弓なりの形を成し、それがトキとアクセスの
障壁に激しく打ち当たります。二人は、まるで障壁を切り裂かれそうな強い力を
その攻撃に感じながらも、辛うじて気を高める事で防ぎきりました。そして、次
の攻撃に備えた二人は出現と同じく唐突に黒衣の人物が姿を消している事に気付
きます。同時に白い身体を横たえていた悪魔も、その姿を何処にも見出す事が
出来ませんでした。
トキやアクセスほど素早くは無かったものの、まろんもまた何時までも事態の
推移に惚けていた訳ではありません。ですが今の彼女の行く手には、進むべき道
が無かったのです。階段は二階に到達したところで突然終り、目の前には階下
から立ち上った炎が壁を作っていました。
「稚空!」
「今度こそハッキリ言うぞ、止せ!」
「いいから私に抱きついて!」
「…こんな時にか」
「勘違いしないでよっ、一緒にジャンプ!」
「そういう事か。なら先に行け」
「でも、そうしたら稚空が障壁の外に出ちゃうよ」
「気にすんな。直ぐに行く」
まろんも敵の攻撃が今は途切れ、既に脅威ではなくなりつつある気配は感じて
います。ですが代わりに、周囲を取り巻く炎が危険度を増しています。まろんの
心配を察して、稚空が先手を打って説明します。
「大丈夫なんだ。抜かりは無い、ただの布じゃ無く難燃素材だ」
稚空は自信たっぷりといった表情で、着ている服の表面をぺたぺた叩いて見せ
ます。
「それに、優先順位があるだろ」
「ごめん」
「今だけだ、間もなく俺が一番になる。絶対に」
「どうだか」
まろんはちょっと微笑んでからくるりと稚空に背を向け、躊躇なく炎の壁の中へ
飛び込んでいきます。直後、強い熱気が稚空を包みますが彼は動じません。
むしろ満足感にも似た、充実した気分でした。そしてつい自分に酔ってしまった
事に気付いて苦笑します。気を引き締め直し、少しだけ後ろに下がってから勢い
を付けて前へと踏み出します。予想通り、炎の壁は勢いを付けていれば然程の
熱さは無く、視界の妨げである事の方が問題でした。ですがこれは、その屋敷の
廊下が充分に幅の広いものであった事が幸いします。勘と有る程度の目測で目指
した先は、まだ炎を吹き上げては居ない暗い廊下の端を正しく示していました。
もっとも、その廊下を支えているはずの梁が既に役目を果たせない状態になり
つつあった事は予想出来てはいませんでした。床に足が着いた瞬間、稚空は何か
違和感を感じ、そして即座に次に起こる事象に備えます。数々の、あまり大きな
声では言えない経験が、突然に足場が無くなるという事態にも稚空を冷静なまま
で居させていました。
「稚空!」
物音に気付いてまろんが振り返った時には、今しがた自分が通り抜けた廊下の
一部が既に落ちていて建物の二階という存在が危うい事を明確に示していました。
まろんは慌てて、しかし慎重に背後に迫った廊下の端=穴の縁に屈みます。
間欠的に上がっている炎と絶え間無い煙の間を透かし見ようとしますが、普通の
マンションの三階程の高さの二階からは、階下の様子は全く判りません。ですが
呼びかけには応えが返り、まろんを少しだけ安心させました。
「大丈夫なの?今、そっちに」
「必要ない」
「でも」
「こっちは自力で脱出出来る。だが悪ぃが、そっちには行けそうもない」
「判った。早く逃げてね」
「まろんも急げ」
「うん」
少し後ろ髪を引かれたものの、同時に二人を助ける事が不可能なのも事実。
まろんはそっと穴の縁を離れ、急ぎツグミの居る部屋へと向かいます。
二階からは全く判らない事でしたが、炎は一階の天井を舐めながら拡がっていて、
一旦一階に降りてしまえば炎の下を行く事になり案外行動は妨げられません。
無論、安全などとは程遠い状況でしたし何時燃え盛る屋敷の一部が降ってくるか
判らない状況に変わりはありませんが。そしてもう一つの懸念は、来た方向、
つまり玄関の方へ戻る事は不可能であり奥へ進むしか無いという事実でした。
本来なら慎重であるべき敵陣深くへの侵入という事になりますが、のんびり気配
を窺っていられる状況ではありません。稚空は意を決して、素早く一階の奥へと
進みます。結局二階の様子を見ていない彼には判らない事ですが、一階は比較的
大きい部屋が多く結果として廊下に面した扉の数が少なくなっています。そして
先程の爆風が突き抜けた所為か、その数少ない扉の殆どは蝶番からもげて内側か
外側かのいずれかに倒れ落ちていました。稚空は各部屋の前でだけは慎重に中の
様子を窺い、可能ならば部屋の窓から外へ抜け出る可能性を探します。ですが
彼が覗いた部屋はことごとく火の海で、実は廊下が一番燃えていないという事実
を彼に知らしめる役にしか立ちませんでした。そして比較的に火の手が薄いと
思われる、廊下の左側にならぶ扉は全て固く閉ざされていて鍵をこじ開ける事も
出来ませんでした。本当は右側の部屋も全て鍵が閉まっていたものが、爆風で
もぎ離され吹き飛んでしまったのだろうと稚空は理解します。そして、そうした
爆風の通り道となった部屋の中、かなり奥まった場所にある一室に稚空は踏み
込みます。そこはまだ一面火の海とはなっておらず、天井と一部の調度が燃え
始めたばかりといった様子でした。この部屋からなら、窓を破って脱出可能で
あろうと思えたのです。とはいえ、入って直ぐ右側の壁は半分無くなっていて
扉の部分よりも大きな穴が開いていました。その穴を通して、隣の部屋も半分
ほどは炎に飲まれてしまっている様子が見て取れます。更に隣の部屋の奥の壁
も同様に穴が開いていて、その向こうには炎しか見えませんでした。どうやら
先ほどの戦いで起きた爆風で何かが壁を次々と突き破り、その穴を通して火が
廊下側よりも早く広がった様に思われました。そして何処まで穴が開いたのか
と、反対側に顔を向けた稚空。その部屋のもう一方の壁に穴は無く、壁だった
物の残骸が壁際に小さな山を築いています。そこで一旦興味を失いかけた稚空
でしたが、ふと感じた違和感の為に再びそちらに視線を向けます。壁の残骸と
稚空の間に、何か別のモノが転がっていました。優雅な曲線で構成され、常に
身近にありながら滅多に直接は目にする事が出来ないもの。どこからどう見て
も女性の裸にしか見えないものが、すぐそこに横たわっています。当然ながら
行動する上での脱出の優先度は一気に低下。それの確認が最優先課題として浮上
します。もっとも、そこで我を忘れて駆け寄ったりはしない程度に理性も充分
働いています。少しずつ近づきながら、様子を確認する稚空。最初に感じた驚き
はすぐに消え去り、今はある意味それも当然あり得る事態だろうと納得します。
部屋の数ヶ所で上がっている炎に照らされて赤みがかってはいるものの、褐色の
肌は見間違えるはずもありません。隙を突いての超至近距離での攻撃は、悪魔族
をもってしても防げずにユキを吹き飛ばしていました。そして同時に放った彼女
自身もまた、ユキ以上に強い衝撃をもって吹き飛ばされていたのです。稚空は
それが罠である可能性に思いを巡らせながらも膝を突くと、うつ伏せに転がって
いるエリスの身体に手を掛けました。すぐ傍で見ると完全に裸という訳では無く、
身体の正面側を覆っていた布はそれなりに原型を留めている様でした。もっとも
背中側がほぼ失われていて、既に服という概念からは外れた単なる布切れでしか
ありませんでしたが。それでも背中と肩に手を掛け、そっと抱き起こした時には
奇跡的に残っていたエプロンの肩紐、それに腕と胴の間に挟まった前身頃の所為
で上を向かせた時には顕わな姿にはなりませんでした。ガッカリ七割良かった
三割と意味不明の心の呟きを漏らしながら、稚空はエリスの肩をそっと揺さぶり
声を掛けます。
「おい、大丈夫か」
自分で言っておきながら、どう見ても大丈夫じゃ無いよなと自ら内心で突っ込み
ます。ですが同時に、このくらいは大丈夫なのではないのかとも思えるのです。
そしてそんな思いが通じたのかそれとも単なる偶然か、稚空が再び声を掛けよう
とした丁度その時。パッとエリスの瞼が開き、覗き込んでいた稚空と目が合います。
そして稚空は彼女の目の奥に今まで見たことが無い、激しい色を見た様に感じ
ました。それは、少しずつ広がっている天井の炎が瞳に映っただけだったのかも
知れません。ほんの束の間、稚空を初めて見る相手でもあるかの様な表情だった
エリスの顔は、今では何度も見た悪戯っぽい微笑みに代わっていて、その瞳の奥
の色を再び確かめる事は出来なかったのです。
「今夜は良く会いますね」
「運命って奴かな」
「そうやって普段、女性を口説くのですか」
「まさか、陳腐過ぎる」
「それは残念ですね」
「え?」
エリスは自分で上体を起こし、途中で着ている物の状態に気付いて両手で自らの
身体を抱く様にして服の残骸を押えます。
「見ましたね」
「半分しか見てない」
「正直な人ですね」
「見え透いた事は言わない主義だ」
クスっと笑ってから、エリスは表情を引き締めます。
「行ってください。この屋敷は、もう何分ももちませんよ」
「お前を放っとける訳無いだろ」
「何故です、私が敵って事を忘れてませんか」
「でも今は動けないんじゃないのか」
「問題ありません、数分で回復しますから」
「建物がもたないって、お前が言ったじゃないか」
「私は瓦礫に埋まったくらいでは死にませんから」
「それでも置き去りにするのは、俺自身が認められないんだよ」
抱え上げようと手を差し延べた稚空をエリスが片手で制します。
「判りましたから。でも、この格好で殿方に触れられるのは嫌です」
「すまん、今」
稚空は辺りを見回し、窓辺で燃えているカーテンに気付きます。そして別の、
まだ炎が届いていない窓からカーテンを引き外して持ってきます。それから
それをエリスの背中側から身体全体へと回しました。
「これで良いか」
「ええ、まあ」
すっぽりとカーテンに包まれたエリスの背中に手を回し、更にもう一方の手を
カーテンを添える様にして腰の下へと滑り込ませます。その間に、エリスの方は
肩まで被われていたカーテンをずらして両腕を出し、器用に胸元でカーテンが
止まる様に巻き直しています。それからエリスは稚空の首に手を回しました。
やはり夕食の仕度の時に感じた通りだ、と、改めてその感触について思う稚空。
しっかりした厚みのあるカーテンが残念でなりません。そしてそれを誤魔化す
かの様に、つい余計な事を言ってしまいます。
「意外に重いな」
「重いなら捨てていっても良いんですよ」
「馬鹿言え。女を支えるのは男の甲斐性ってもんだ」
「私は別に女として扱われなくても構いません」
「だがどこからどう見ても女だ」
ふいに目を逸らして黙ってしまったエリス。稚空には、それが照れだったのか
それとも何か癇に障る様な事を言ってしまったのかは判りませんでした。
(第175話・つづく)
# 何か話が作者の予想外の方向へ、ひん曲がっている気がする。^^;
では、また。
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■■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■■ 可愛いんだから
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