どうも混乱があるように感じられます。

hiko800 wrote:
> ・・・あれこれ考えると、「対称式」の「対称」というのは、任意に
> 文字を入れ替えても結果は不変であるという性質に付与した名称である
> ように、

ここまではその通りなんですが:

> くだんの群についても置換の順序を入れ替えても結果は変わらない
> ということに着目した歴史的な命名ということでしょうか。

いいえ、違います。
そもそも「置換の順序を入れ替える」といった話は全然していません。
群の要素である置換そのものと、置換が作用する対象とがゴッチャに
なっているようです。
「対称式」の「対称」がそのまま横滑りして群の名称としてついている、
というのが私の述べた解釈です(以下も参照)。

> つまり、有限回の繰り返しで元に戻るという性質は、なにも「対称群」に
> 固有の性質ではないし、可換性についても「対称群」だけがもつ性質では
> ない。

対称群 S_n は n≧3 なら可換群ではありません。

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さて。
群は対称性と密接に結びついていますから、正三角形の対称変換を考えてみます。
ここで対称変換というのは、元の図形に変換を施した結果が、元の図形と
ピッタリ重なるような変換、という意味です。

正三角形の頂点を A,B,C とします(A,B,C は反時計回りにとります)。
また最初に A, B, C のある位置(座標)を p,q,r とします。
A, B, C は三角形そのものに張り付いた名前、
p, q, r は三角形が置かれる平面に張り付いた名前です。
(A, B, C でわかりにくければ、3頂点に赤青緑のように色をつけた、
と思ってください。)

A が p、B が q、C が r にあることを「ABC」で表します。
これを使えば、例えば BCA は B が p、C が q、A が r にあることを表します。

ここで「正三角形の中心について 120°反時計回りに回転する」という変換は
対称変換です。これをσで表します。これにより、p にある頂点は q に、
q にある頂点は r に、r にある頂点は p に移動しますが、これを:
  ABCσ = CAB
のように書きます。
これを「ABC にσを作用させると CAB になる」のように言います。
同様に BACσ = CBA などが成り立ちます。

また q, r にある頂点を入れ替える、つまり qr の2等分線で裏返すのも
対称変換で、これをτで表します。例えば:
  CABτ = CBA

さらに「何も動かさない」ことも「変換」のうちに加え、
これをεで表します(単位変換です)。

対称変換された結果に対称変換を行っても、元の正三角形にピッタリ重なります。
つまり2つの変換を組み合わせたものも対象変換です。
これを「変換の合成」と言います。
例えば ABC にσを作用させ、その結果にτを作用させると:
  ABCσ = CAB
  CABτ = CBA
まとめて:
  ((ABC)σ)τ = CBA
この合成された変換をστで表すと、上は:
  ABC(στ) = CBA
と書けます(カッコは省略してもかまいません)。
特に同じ変換を続ける場合には、σσは σ^2 のように略記します。

合成変換が単位変換になる、つまり変換の結果が元に戻る場合、
2つの変換は互いに「逆変換」の関係にあります。
例えばσの逆変換は「時計回りに 120°回転する」で、これを σ^(-1) で表します。
σを3回行なうと元に戻る、つまり:
  σ^3 = ε
です、これはまた:
  σ^(-1) = σ^2
であることも意味しています(反時計回りに 240°回すのと、時計回りに 120°
回すのとは同じこと、という意味)。
τは自分自身が自分の逆変換になっている、つまり:
  τ^2 = ε、すなわち τ^(-1) = τ
です。

正三角形の対称変換は、変換の合成という演算のもとで群をなします。
さらにその群のすべての要素は、σ、τの合成によって表すことができます。
これは一見:
  σ、σ^2、σ^3、σ^4、...
のように無数の要素があるように見えますが、上記のσ^3 = ε から、
σ^3、σ^4、σ^5、... は ε、σ、σ^2、... と同じ変換であり、同一視できます。
τ^2 = ε についても同様です。

その結果として、この群は要素 6 個(単位変換も含む)よりなる有限群である
ことが確かめられます。
またこの群は非可換です。実際:
  στ ≠ τσ
すなわち:
  ((ABCσ)τ ≠ (ABCτ)σ)
です。
 ・上記のことを確かめてください。

この群を「正三角形群」と呼ぶことにします。
この名称は、群のどの要素を正三角形に作用させても(ピッタリ重なるという意味で)
不変である、ということであって、群あるいはその要素が三角形の持つ性質を
持っている、といった意味ではありません。

しかし「対称群」についても同じこと、というのが私が言っていることです。
なまじ「対称」という抽象的な言葉だからわかりにくくなりますが、
作用する相手が「対称式」という意味での「対称」なのであって、
対称群あるいはその要素間のなんらかの「対称性」を言っているわけではない、
ということです。

なお正三角形群は 3 次の対称群 S_3 と同型です。
つまり要素間の関係は全く同一です。
S_3 はコップの並べ替えとか、線3本のアミダクジとかも表しますが、
それを正三角形に作用させた場合が正三角形群である、というわけです。

・同様に「正方形群」がどんな群であるかを確かめてください。
 今度は S_4 とは一致しませんが、その部分群になります。
・一般の「正多角形群」、縦横が等しくない「長方形群」も考えてみてください。
・さらに「正多面体群」はどうでしょうか?
 cf. http://mathworld.wolfram.com/PolyhedralGroup.html

(平賀@筑波大)