At Fri, 14 Nov 2003 23:10:43 +0900,
in the message, <20031114231043cal@nn.iij4u.or.jp>,
cal@nn.iij4u.or.jp (SASAKI Masato) wrote
>判例で有名なものには
>「数人が1室を借りている場合の賃料債権は
> 金銭債権ではあるけど不可分債権だ。
> なぜなら反対債権である「1室を貸す」は不可分だから。」
>というものがあります。

多分何かの勘違い。

本例は、大判大正11年11月24日だと思いますが、だとすれば不可分債「務」の
例です。
また「1室を貸す」のは明らかに反対債「務」
(債権なのは「1室を借りる」。)。

# 一応念のため言っておきますけど、以下は
 佐々木<cal@nn.iij4u.or.jp>さんに言っているわけじゃありません。
 佐々木さん相手ならこんなに細々言う必要などない。
 って言うか大体いつもあたしが細々言うときは、「誰が読んでるか判らない
 から」つまり「読者一般の便宜として」ある程度詳し目に書いておこうって
 だけ。

不可分債権、不可分債務とは、それぞれ債権者が複数、債務者が複数の場合
に、各債権者、各債務者に分割帰属しない債権債務関係のことを言います。
ですから、債権者、債務者が一人しかいなければ「不可分なりを論じる前提を
欠く」のです。
つまり、
>「数人が1室を借りている場合の賃料債権は
という記述は、賃料債権の債「務」者が複数いると言っているだけで債「権」
者の人数が明らかでないので、
> 金銭債権ではあるけど不可分債権だ。
と言えるはずは「絶対に」ないのです。

言い換えれば、債「務」者が複数の場合に問題になるのは不可分債「務」で
あって不可分債「権」の問題ではないということ
(実際に貸主が複数いれば不可分債「権」である可能性はありますが、上記判
 例の紹介においてそういう話が出てこないところを見ると、一人なのでしょ
 うし、仮に複数であっても実は結論に影響しません。
 本例で賃料債「務」が不可分となる理由は、賃料債「権」が不可分だから
 「ではなく」、賃料債「務」の反対給付である部屋を貸す債「務」が不可分
 だから。
 つまり、賃料債「権」が可分かどうかは賃料債「務」が可分かどうかの理由
 とはなっていないということ。
 なお、仮に貸主も複数であれば、同じ理屈で賃料債「権」がその反対給付で
 ある部屋を「借りる」債「権」が不可分である結果、不可分となるという可
 能性あります。)。

……これは案外解りにくいのではないかと思いますけど
(って言うか、あたし自身明確に理解してなかったのが今回の投稿のために
 調べていて気が付いたのだけど。)。

簡単に言えば、不可分債務を債権者側から見たものが不可分債権「ではない」
ということです。
債権者一人の場合の不可分債務を債権者側から見たとしてもそれはただの債権
なのです
(正確には、不可分債務を債権者側から見ることに法律上特別な意味がないと
 言うべきか。
 特別の意味がなければ敢えて特別な概念を設ける必要がない。)。
つまり、不可分債権と不可分債務は別ものであり、だからこそ「効果が違う」
のです。
単なる裏返しなら効果は全く同じになるはずです。
同様に、不可分債権を債務者側から見たものが不可分債務「ではない」ので
す。
さらに同様に、「連帯債務」というのはよくありますが「連帯債権」というの
はほとんど(全くと言ってもいいかも知れません。)ないのです。
単なる裏返しなら同数存在するはずです。


まあ、金銭債「務」だからと言ってあるいは持分があるからと言って直ちに債
「務」が可分ということにはならないのだから、債「権」の場合も同様であ
る、と言うことは可能だと思いますが。

-- 
SUZUKI Wataru
mailto:szk_wataru_2003@yahoo.co.jp