河野真治 @ 琉球大学情報工学です。

ひとの本棚にあった「量子進化」ジョンジョー・マクファデンを
読んでみました。

ま、わりとまとまった本なんだけど、内容的にはさびしいかなぁ。
印象に残ったのは、

セントラルドグマに関する人間原理かな。人間多宇宙とか訳してみ
るみたいだけど。要するに、生命は偶然できました。ってことです
ね。だから、この宇宙には生命は地球にしかいない。ま、何が最初
にできるべきかってのは、いろいろ議論があるし、その確率が低い
のはいいと思うんだけど、10^32 かぁ。

あとは、適応進化に関する量子力学の効果なんですけど、これも、
結局は、確率的な選択の話なんじゃないかなぁ。

    ランダムに進化したのでは確率が低いから(効率が悪いから)、
    A* 的な逐次的な選択により早く正解に到達する

ってだけだよね。その選択を内部観測とか呼んでもあまり意味ない
んじゃないかな? 進化みたいな大きな現象に量子力学を当てはめて
もあまりうまくない。逆に分子進化みたいにミクロに議論してもだ
めだと思う。

さらに意識と量子力学、細胞内の量子力学的現象みたいなものに
話を進めるわけですけど、結論として、

     意識(と前DNA進化)は、量子的効果

なんだっていうのを導きたいのはわかる。わかるんだけど、あまり
成功してない気がする。

なぜ、成功してないかと言うと、

     コヒーレンスを巨視的に実現するための状況
     デコヒーレンスを生じさせるための観測メカニズム

に拘り過ぎているからだと思う。これらは、そんな特別なものでは
ないです。量子化学を学んだひとなら、ベンゼン環が量子的コヒー
レンスの塊であることは知ってます。それは当り前のもの。なので、
化学反応的に複雑、あるいは、高温、多数の高分子が絡むから、そ
こには量子効果(コヒーレンス)が入り込む余地がない、ってことは
ないです。

結局、わかんなくなっちゃって、脳のニューロンとか電磁的効果、
あるいは、チューブリンみたいなものを持ちだしてきているけど、
もっと、

     RNA による複製機構と、内部観測の関係

みたいなものを追求するべきだと思う。つまり、マックスウェルの
悪魔に関する考察が弱いんだよね。量子力学的観測と不可逆性は密
接に結び付いていて、ある意味では、両方は同じものです。

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Shinji KONO @ Information Engineering, University of the Ryukyus
河野真治 @ 琉球大学工学部情報工学科