北朝鮮は、今回、けっこうにくたらしいカードを切ってきましたね。その名も
「ジェンキンスカード」

これ、切られると日本が困ることは目に見えていました。

「返すからつれてってくれ。あとは、本人の意志次第。アメリカとのことはそっ
ちでやってくれ」

北朝鮮はこれを切るタイミングを見計らっていたと思います。このカードは、ア
メリカと日本の関係にくさびを打ち込むのに使えるわけですが、一番有効なの
は、アメリカが日本の要求を絶対に飲みっこないときに使うことでした。

捕虜収容所でのイラク人虐待問題は、本当は軍の規律の問題じゃないかも知れま
せんが、明るみに出た以上軍の規律の問題にどうしてもすりかえたいのが今のア
メリカです。ジェンキンスを赦免するわけには絶対にいかないタイミングです。

問題はジェンキンス氏の意志じゃなくて、アメリカ軍の立場ですから、今、第三
国で家族が会っても、この件でのアメリカのサポートがなければ、事態は動きま
せん。ヘタをすると、曽我さんが家族の情に流されて北朝鮮に帰る決意をしてし
まうかもしれないわけですが、そうなったら、北朝鮮にとってはタナからぼた餅
です。

なにしろ、そうなると拉致被害者が「自分の意志で」北朝鮮に戻るわけですか
ら、死んだと言われた残りの拉致被害者を出してきて日本に返す根拠も薄弱に
なってしまう。ただでさえ、今死んだと言われている連中は、横田めぐみさんを
除いては、みんな、「誘われて」北朝鮮に渡った人たちですから、「かならずし
も拉致じゃない、自分の意志で来たんだ」と言い張ることができます。そうなっ
たときに、こんどはその拉致カードが日本にとって高いものにつくわけです。

北朝鮮としては解決済みにして、もうなかったことにしてしまいたかった拉致
カードですが、もし、曽我さんが自分の意志で北朝鮮に帰るようなことがある
と、その拉致カードが、これからいくら金を引き出せるかわからない強いカード
に化けてしまう可能性があるわけです。北朝鮮にとっては、もう日朝平壌宣言を
無理して履行する必要もなくなってしまう。口だけ、履行する、履行すると言っ
ておいて、あとは、小出しに拉致被害者を出してくるだけでそのつど「援助」を
引き出せる。しかも、その被害者たちは被害者たちでまたそれぞれ家族があるわ
けですから、その家族もという話になると、このカードは相当長いこと使えるわ
けです。

かといって、世論もあるし、邦人保護しない政府は国民に見放されてしまうから
拉致被害者がまだ北朝鮮国内にいると分った以上、日本政府は彼らを見捨てるこ
ともできないというタイミングです。

考えたなあ、北朝鮮。

政府はここでない知恵をしぼらないと、核問題、ミサイル問題が片付く前に、ア
メリカとの関係にひびが入るは、金はせびりとられるはでろくなことになりません。

曽我さん一家の件は、いま、日本の政府にとって一番頭がいたい問題のはずで
す。世間じゃあいかわらず「家族がどこで会うか」という話題でもちきりです
が、ことはそんな問題じゃないわけです。どこで会おうと、「会ってしまう」こ
とで次に起こることが一番怖いわけです。日本で暮らすことになっても困るし、
北朝鮮に帰られた日にはさらに困る。

曽我さんにはお気の毒ですが、できれば、うやむやにして、一家を離散状態にお
いたままにしたいのが政府の本心じゃないでしょうか。


萩原@グリフィス大学