Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その15)
●桃栗町の外れ・何処か
それほど長くは無く、ですが一瞬よりは充分に長い時間、まろんはえへらへらと
表情を緩めていました。それからハッと我に返り、改めて部屋の様子を見回し
ます。ツグミの指摘した通り、彼女の寝室より二回りは広い部屋にはベッドと
サイドボードだけがあり、そのサイドボードの上には映画か何かで見たことが
ある様な気がする物体=燭台が置いてあります。一つの台から伸びた軸が木の枝
の様に途中から三本に別れ、その三本の先にそれぞれ蝋燭が一本ずつ。その中の
中央の一本にのみ、今は火が灯っていました。目覚めた時から変わらぬ暗がりに
多少は目が慣れて来ているとはいえ、その部屋は蝋燭一本では隅々まで照らす事
は出来ませんでした。まろんはツグミをそっと促しながらサイドボードへと
近づき、片手で中央の蝋燭をつまんでみました。始め少し硬い感触があった後、
すぽんと外れたそれを傾けて残りの二本にも火を着けます。灯芯に灯った小さな
火がやがて力強く立ち上ると、先ほどよりは部屋の全体が見えてきます。ほのか
に揺れる灯りを受けて浮かび上がるツグミの顔が傾ぎました。
「火…蝋燭?」
「うん。何て言うんだっけ、大きなフォークみたいな奴の先に蝋燭が付いてるの」
「燭台の事かしら」
「それそれ。部屋の明かりはこれだけみたい」
「古風ね」
「確かに古風な…奴」
まろんがいきなり部屋の持ち主を男性と決め付けている事にツグミは気付いた
ものの、特にその点には何も言いはしませんでした。そしてまろんには、こう
いった部屋に自分を無理やり招く相手の心当たりが確かにあったのです。
決してくつろいでいた訳では無かったものの、それほどでもなかった警戒心が
今は充分に高まっているまろん。当然の様に、それは身を寄せているツグミ
にも伝わります。
「日下部さん?」
「え?あ、うん。大丈夫」
「つまり大丈夫じゃ無いのね」
「いやそういう訳じゃ…」
ツグミに隠し事は無理と今更ながらに思い知るまろん。ん、と覚悟を決めます。
「此処は日下部さんの敵の家、そういう事なんでしょう?」
「多分」
「そう、それなら」
ツグミはまろんから身を離し、真っ直ぐに立ちました。杖は持っていませんが、
その身体が揺れたり傾いだりする事はありません。
「行って」
「ちょっと何を」
「私が居たら戦えないでしょう」
「そんな事無いって」
「いいえ。絶対に足手まといになるわ。私は此処に居ます」
「そんなの駄目!」
「何を言っても無駄よ。私は行かない」
「嫌だってば。絶対置いてなんか行かないから」
「聞いてちょうだい。私だって帰りたい。だから行って欲しいの。そして戦って
勝ってから迎えに来て。とても身勝手なお願いでしょ?でも私は帰りたいのよ、
だから先に行って私が一緒でも大丈夫な様にして来て。お願い」
部屋は一見した限りでは安全そうであり、確かにツグミの言っている事が一番
確実で正しい選択の様に思われました。ですが正しい事が感情的に納得出来るか
どうかは別問題です。
「でも」
「こんな事になってごめんなさい。私にも責任を取らせて」
「ツグミさんの所為だなんて思ってないってば」
「待っている事が、私の償いなの。それで済む事じゃないけど」
「……判った。だけどすぐ戻ってくるから」
「ええ。待ってるわ」
まろんはツグミの手を改めて取り、そっとベッドに腰掛けさせてから再び部屋を
丹念に見回します。そしてやはりそこには最初に見回した時以上の何も無い事を
確認します。念のために開けてみたサイドボードの引き出しの中もことごとく空
でした。
「(やっぱり、ロザリオ置いといてくれる程甘くないか)」
それからツグミの頬にそっとキスをし、部屋にただ一つだけある扉に向かいます。
ゆっくりと回してみると、ドアノブも素直に回り鍵は掛かっていませんでした。
つまり部屋から出られても逃がさない自信があるのだろうと、流石に能天気な
まろんでも楽観的で無い見通しを立てざるを得ません。それ故、扉を開く時には
慎重に押し、実は引き戸だと判って少し焦って今度は引き、大きく開きすぎた
ので自分でも驚いて意味も無くしゃがみ、それからそっと後ろを振り向きます。
「落ち着いてね」
「…うん」
見られるはずは無くとも、何故かとても恥ずかしくなって赤面するまろん。
意味も無く苦笑して見せています。それは同時に、蝋燭の灯りを受けて薄暗い
部屋の中で見るツグミの顔に新たな魅力を感じてしまう自分への苦笑でもあり
ます。まろんは何とかそれらの緊張感を削ぐ想いを振り払い、改めて扉の隙間
から廊下へと注意を向けます。廊下には全く何の照明もありませんでした。
正確に言えば壁には照明器具らしき物が取り付けられているのですが、それら
には今は灯が入っていません。しかし廊下はまろんとツグミの居る部屋よりも
ハッキリと見通す事が出来ました。それは廊下の端がとても明るかったから
なのです。廊下のずっと先が四角く切り取られた窓の様にも見え、どうやら
そこから先は大きな空間になっているらしいと判ります。その空間だけが煌々
と明るく、その明かりが廊下までも照らしているのです。まろんは扉を更に
大きく開き、首を伸ばして廊下の反対側を伺います。その先は逆にどんどん
暗くなる闇で終わっていて、廊下の端が何処にあるのかさえ判りません。ただ
ひとつ確かな事は、廊下には誰の気配も感じられない事でした。まろんはもう
一度だけツグミの姿を見、それから意を決して廊下へと忍び出ます。一瞬だけ
迷い、結局は明るい方へと進む事にしたまろん。数歩行った所で、目の前に
パッと淡い緑色の幕が広がって彼女に何かの存在を警告します。そっと注意
深く手を伸ばすと、廊下を完全に塞ぐ形で目に見えない壁がありました。
まろんは口をちょっとへの字に曲げ、それからぐっと力を込めて押してみます。
見えない壁は動きませんでしたが、壁というよりは何か幕の様な手応えという
印象を返しています。そこでまろんは数歩下がってから、体当たりの要領で
勢い良く突進してみます。ぐいっと少し押し返される感触があった直後、ふっ
とその感じが途切れます。勢い余り、そのまま廊下の更に先まで行ってしまう
まろん。唐突に、耳にわっと押し寄せる感じで物音が聞こえはじめます。
彼女は今までこの廊下に物音ひとつ聞こえなかった理由に納得し、同時に廊下
の端に見えていた明るい空間で今起こっている事も理解しました。
*
攻めあぐねている稚空達の前で、その出方を伺っている様に自分からは動く事
は無かったユキ。もっとも、攻めにくいという意味では稚空達以上に頭を悩ませ
ていたのはユキの方だったのですが。
“ねぇ、どうしたら良いと思う?”
“何がですか”
“つい出しちゃったけど、コレ使うと負ける気がしないの”
コレとは勿論、敵の気を吸収して自らの力となす球体の群れ − 自由意思を
持たない事を除くと限りなく悪魔の結晶に近い物 − の事です。放っておいて
もある程度までは自律して敵の攻撃を防ぐのも、微かに備わった本能に近い
衝動に突き動かされるためなのでした。
“知りませんよ、そんな事”
“そうだ。この前みたいにバ〜ンと何か出して吹き飛ばして”
“何ですかそれ”
“私を援護しようとして、間違えてヤッちゃいましたみたいな感じに”
“嫌ですよ。それじゃ私が間抜けみたいじゃないですか”
“駄目?”
“却下です”
“けち…”
そんな事をコソコソと話している間にも、稚空達からは幾つかの接触があり
同時にそれらはユキにとっては何の苦労も無く退けられています。球体の一部
が細かく砕かれ過ぎて、既に単に浮かんでいるだけにはなっていたのですが。
*
一番外側の結界のすぐ傍、地上から離れた雑木林を見渡す位置にひとつの影が
浮かんでいます。今その者はとても不愉快そうな表情、平たく言うと膨れっ面
で前を見つめていました。
「待っててくれてもいいのに…」
後を追ってくる途中で発した呼びかけに“先に行く”という返事があって以来、
更に速度を上げてやって来たセルシア。しかしながら既に仲間が敵陣の中へと
入り込んでしまっている事は、外からの呼びかけに誰も応えない事から容易に
判りました。とはいえ、ぶつぶつ文句を言いながらも何もしなでいる訳では
無かった彼女。憤りを力に変えたかの様に明るく巨大な光球を一つ、掲げた
両手の先に作り上げていました。
「みんな大っ嫌いです!」
掛け声とともに特大の光球が結果に叩きつけられると、それは結界に食い込む
様に形を留めたままで表面に静止。一瞬の後に再び猛然と前進して、かなり先
で閃光を放って砕け散りました。
*
片手で器用に包帯を巻いていたオットー。もっとも殆ど気分の問題で巻いて
いるだけで、実際には放っておいても大丈夫だろうというのが彼の自己診断
でしたが。そんな彼の耳に、ガサガサとノイズ混じりの声が聞こえます。
それはまだ集結地に戻っていない、もっとも遠くに配置した部下からの連絡
でした。
「敵第二陣確認。一撃で結界を二層ブチ破りました」
「小隊でも来たか」
「いえ、天使1」
「ほう…」
それは少しだけオットーの関心を引く内容でした。ですが今の彼は、そして
彼の部下の殆どは、久しぶりに思いっきり“ブッ放した”余韻に浸っていて
戦意は高くは無かったのです。
「迎撃しますか?」
「放っておけ」
「よろしいので?」
「最初の敵がタッチダウンしちまった時点で俺らの役目は終りだからよ」
「了解」
むしろ今の最大の関心事は、部下の数名に命じた補給物資の確保の成否の方
なのでした。
*
自分で空けた穴を、閉じないかと恐々見つめつつサッと通り抜けたセルシア。
そのまま飛行を続け、光球が炸裂したのがもう一つ奥の結界だと気付くと同時
に小さくガッツポーズ。
「私、偉い」
そして直後に両手をだらりと垂らして表情を曇らせます。
「見てて欲しかったですです…」
それまでの勢いから一転して、ふらふらと惰性で進むセルシア。ごちん、と
次の結界に頭からぶつかるまでそのまま飛んで行きました。そんな様子の彼女
が何の攻撃も受けなかったのは、彼女をおいて先に行っている稚空達の奮闘の
お陰なのですが。
(第175話・つづく)
# すっかり忘れてた。(ぉぃ)
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■ 可愛いんだから
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか
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