工繊大の塚本です.

In article <481e5037-ae0f-476b-bbf5-f21cfedfe985@b14g2000yqd.googlegroups.com>
KyokoYoshida <kyokoyoshida123@gmail.com> writes:
> ええーと,
> http://www.geocities.jp/merissa0/study/linear_algebra/diagram_20090816.jpg
> のようにobjects a,b,cがあり,fとgが合成可能対で,
> dom(g○f)=domh,cod(g○f)=codhの時,
> "合成射g○fとhは可換である"といい,この時の図(式)は可換図式と呼ばれるのですね。

違います.

それだけではなく, 射として g○f = h となっているとき,
その図式が可換であると呼ばれるのです.

> 必ずしも逆写像が存在するとは限らないので,
> 逆写像を使わない場合での2つの合成写像が等しい場合に
> それら2つの合成写像は可換であるというのですね。

「図式が可換」です.

> ここでの"可換"とは群論とかでの"可換"(順序を入れ替えれる)という意味ではなく,
> "置き換えれる"という意味なのですね。

そうです.

> ええ!? つまり,f(v_i)=Σ_{j=1}^n a_ij w_j (但し,i=1,2,…,m)と定義すれば
> http://www.geocities.jp/merissa0/study/linear_algebra/matrix_representation_20090816.jpg
> とそのまま行列表示できシンプルですが

元々, 行列というのは, 左から掛けての,
タテベクトルの成す数ベクトル空間に対する
(線形)演算を表すものだ, と考えていたわけです.

その場合に, タテベクトルの成す
数ベクトル空間というのは, 右ベクトル空間と
考えておかなければ, (斜体を考える場合には)
行列の積が線形写像にならないのです.

一般のベクトル空間において一組の基底を選んで,
ベクトル空間の元をタテベクトルを係数とする
一次結合で表すなら, そのときの自然な書き方は,
基底のベクトルをヨコに並べて,
タテベクトルを右から掛けるように書くことです.

  v = [v_1, v_2, ... , v_n][[x_1],
                            [x_2],
                             ... ,
                            [x_n]]

つまり, v = Σ_{i=1}^n v_i x_i とスカラー倍を
右に書くのです.

この立場で言えば, 貴方が書いたように,
ベクトルをタテに並べて書くのは不自然です.

基底に関する線形写像の表示も,

  f([v_1, v_2, ... , v_n])
  = [f(v_1), f(v_2), ... , f(v_n)]
  = [w_1, w_2, ... , w_m]
    [[a_{1 1}, a_{1 2}, ... , a_{1 n}],
     [a_{2 1}, a_{2 2}, ... , a_{2 n}],
      ...............................
     [a_{m 1}, a_{m 2}, ... , a_{m n}]]

と書くのが自然です.

タテベクトルの数ベクトルを扱いたいのであれば,
基底のようなベクトルの並びは, 横に並べる.

数ベクトルに対する線形写像を
左から行列を掛けることで表すなら,
ベクトルの並びの線形写像による像は,
ベクトルのヨコ並びに, 右から行列を掛けることで表す.

どちらも左からの行列の積で書くのは間違っています.

> f(v_j)=Σ_{i=1}^n a_ij w_i (但し,j=1,2,…,m)と定義してしまった為に,

だから, それは必然です.

> 行列表示する際に
> http://www.geocities.jp/merissa0/study/linear_algebra/transpose_matrix_representation_20090816.jpg
> という具合に転置する必要があるのですね。

ベクトルの並びはヨコ並びにする習慣です.

> f(v_j)=Σ_{i=1}^n a_ij w_i (但し,j=1,2,…,m)ではなく
> f(v_i)=Σ_{j=1}^n a_ij w_j (但し,i=1,2,…,m)と定義しても
> 差し支えは無かったのですね。

時系列解析や, code theory 等で使われるような,
ヨコベクトルの数ベクトルをずっと扱っていくつもりであれば,
そういう定義になります.

> なるほど。Vは線形空間ですよね。
> 線形空間の定義は左加群でスラーが可換体をなすものですよね。

斜体上の右線形空間(或いは左線形空間)を定義することが出来ます.
普通の線形空間はその特別な場合であると考えます.

> なるほど。もしf(v_i)=Σ_{j=1}^n a_ij w_j (但し,i=1,2,…,m)と定義すれば
> A:=(a_ij)はm×n行列ですから
> K^mをm次の縦ベクトルの線形空間,
> K_mをm次の横ベクトルの線形空間とすれぱ

タテベクトルの数ベクトル空間と,
ヨコベクトルの数ベクトル空間とを混ぜてはいけません.

 K^m を m 次のヨコベクトルの数ベクトル空間,
 K^n を n 次のヨコベクトルの数ベクトル空間, とすれば,

> K_m∋∀x→ψ_A(x):=xAと定義でき,

 ψ_A: K^m → K^n を定義するのに,
 x ∈ K^m に対する y = ψ_A(x) ∈ K^n を y = x A とするのが,
時系列解析や code theory で良く使われる形です.

> VとWの基底をそれぞれ[v_1,v_2,…,v_m],[w_1,w_2,…,w_n],
> これらの基底に関する線形写像f:V→Wをf(v_i):=Σ_{j=1}^n a_ij w_j と定義すれば
> v:=v_1=(1,0,…,0) t(v_1,v_2,…,v_m)の時
> http://www.geocities.jp/merissa0/study/linear_algebra/commutative_diamgram_20090816.jpg
> のようにf(v)の像は直接fを施した場合とι_w^-1○ψ_A○ι_vの場合の像いずれも
> (a_1j,a_2j,…,a_1n) t(w_1,w_2,…,w_n)となり,一致するので
> f(v_i):=Σ_{j=1}^n a_ij w_j と定義した場合でも
> 可換図式になっていると言えると思います。

残念ながら, 普通の数学では
タテベクトルの数ベクトルが多く使われます.

ヨコに成分を並べるときには,
何処で成分が切れているかを示す為に,
コンマを使って切れ目を示したりしないといけません.
タテに成分を並べるとその心配がありません.

ということで,

> つまり,f(v_i):=Σ_{j=1}^n a_ij w_jと定義しても
> http://www.geocities.jp/merissa0/study/linear_algebra/commutative_diamgram_20090816.jpg
> という風に可換図式をなし,更には
> http://www.geocities.jp/merissa0/study/linear_algebra/matrix_representation_20090816.jpg
> とそのまま行列表示もできシンプルですが
> 西欧人の文化的背景により,(常に行と列の逆転に気を配らなればならない)不便な
> f(v_j)=Σ_{i=1}^n a_ij w_i (但し,j=1,2,…,m)という定義が定義が
> 定着してしまったという訳ですね。

どっちでも, 一方はタテ, 一方はヨコになります.
ですから, それだけではどちらが不便ということは
ありません. しかし, 数式が横書きされる以上,
沢山使う数ベクトルのほうをタテにするのが便利だ
という考え方が支配的です.

但し, それなら, スカラー倍は右から掛けることにしておいた方が
良かった. それが西欧人の文化的背景によって齎された,
記法の内部矛盾です.

> 結局,f(v_i):=Σ_{j=1}^n a_ij w_j (但し,i=1,2,…,m) と定義しておけば
> 行列表示した場合にそのまま記述できたのですね。

そうしてヨコベクトルの数ベクトルばかり使うように
するのは一つの方法です.
-- 
塚本千秋@応用数学.基盤科学部門.京都工芸繊維大学
Tsukamoto, C. : chiaki@kit.ac.jp