安井@東大です。

> YASUI Hiroki in <ymrmfysgtf9j.fsf@sx102.ecc.u-tokyo.ac.jp>,
>> “衆議院で三分の二以上の議席を獲得することを目的としての解散”と
>> いう理屈

Matsuyamaさん in <suPTe.138$R62.47@news-virt.s-kddi1.home.ne.jp>,
> そのようなことを、実質的に意図し、あるいは国民に対して表明している
> のか疑問が残ります。

これは御指摘の通りだと思います。
小泉首相は、解散後の記者会見(8月8日)において、
 「自民、公明が過半数を獲得できなかったら、私は退陣する」
と述べていますし、8月29日の党首討論会でも同様の発言を繰り返していま
すので、現与党で過半数を確保できれば解散の目標は達成されるものと考
えているように見受けられます。
その点から言えば、この解散の実質的な意図は、総選挙を郵政民営化法案
についての“国民投票”と位置づけ、かつ、それに勝利(過半数確保)す
ることによって、参議院で造反した自民党議員に政治的圧力を加える点に
あると見るのが妥当なところでしょう。
これは確かにかなり政治的な行動であり、憲法が素直に予定したところで
はないとも言えますが、首相には参議院を解散する権限が憲法上認められ
ていないが故にこうした策を用いざるを得ないという面があることも考慮
すべきかと思われます。


> 今回の選挙結果が真に「郵政民営化問題」に対する国民の判断と一対一に
> 対応するか否かは疑問ですが、

そうした御懸念は理解できるのですが、「真」の国民の判断というのは誰
にも分からないのではないでしょうか。そもそも、「国民」なるものは単
一の主体ではありませんし、選挙の結果として目に見えるのは議席数だけ
です。
ですから、重要なことは、その選挙結果にどのような意義を付与するのか、
そして、それをどれだけ説得的な議論として構築し活用できるのか、とい
う点なのではないかと私は思います。
 # もちろん言うまでもなく、そうした意義付けや活用という行為自体が
 # 既に一種の政治になっているわけですが…。
その点から見ると、この選挙戦で小泉首相が見せている行動、すなわち、
他の重要政策をなおざりにしていると批判されるのも意に介さず、ただひ
たすら郵政民営化を主張し続けるという選挙戦の進め方は、この総選挙を
“郵政民営化法案をめぐる国民投票”と性格規定しやすくするのに大きく
寄与していると言えます。これに成功すれば、選挙後に参議院の自民党造
反議員を“調伏”する際にかなり強力な武器となることでしょう。
 # 逆に言えば、年金問題などで民主党とまともに組み合ってしまうと、
 # “郵政民営化法案を国民が信任した”というレトリックの説得力を弱
 # めることになってしまいます。
もちろん、小泉首相がそうしたことを意識して意図的にやっているという
確証はありません(ひょっとすると、「変人」とまで言われた独特な個性
の産物かも知れません)。ですが、彼の行動にそうした効果が付随し得る
ということは頭に入れておいても良いように思われます。
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*  Freiheit  | 安井宏樹(YASUI Hiroki), jyasui@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp     *
*  Recht     | 東京大学大学院法学政治学研究科・比較法政国際センター      *
*  Einigkeit | (現代ドイツ政治,ヨーロッパ政治史)                        *