安井@東大です。

> YASUI Hirokiさんの<ymrmptehulv0.fsf_-_@as302.ecc.u-tokyo.ac.jp>から
>>不勉強で「法の自治」という言葉を知らないのですが、フランス語やドイ
>>ツ語では何と表現されている言葉なのでしょうか。
>> # Googleで「法の自治」を検索してみましたが、14件しかヒットせず、
>> # しかも、いずれも的外れのものばかりでした。
>> ### 「周辺事態措置 *法の自治* 体への戦争協力要請項目」とか…。

〔“〆”〕さん in <3fe7f2e6_1@news.premium-news.net>,
>         ご指摘の通り、「法の自治」ではありません。
        {中略}
> 「法治国」が、この文脈での正解です。

御確認いただき、ありがとうございました。


> まず、日本国憲法に具現された体制は、アメリカ合衆国憲法やフランス第三共
> 和国憲法と違って純粋な市民的法体制とはいえませんし、生存権的基本権につ
> いての諸規定が示すように「福祉国家」としての要素を持っていると思いま
> す。

〔“〆”〕さんが仰るところの「市民的法体制」というのは、自由権保障
を専らとする(そして社会権保障には冷淡とされる)憲法秩序のことで
しょうか?


> 三権分立にもいろいろなタイプがありますが、立法権が他の二権に優越してい
> る点は共通でしょう。

「立法権が他の二権に優越している」のなら、抑制均衡を旨とする「三権
分立」の原則は崩れていることになるのではありませんか?
 # もちろん、「優越」云々は程度の問題という面もありますが…。


> ・法安定性の要求の実現
> (主権者の命令が、一足飛びに、中間的な段階を媒介せずに特定の事態に強制
> 力を発揮しては市民生活の安定は保てない。
> 警察国家体制では、三権を独裁者が統合してますから法律があっても次々と立
> 法行為をおこなって具体的命令を強行できます。現に、ナチス・ドイツはそう
> でしたし。今回の小泉首相の、国会も開かずに閣議決定のみで強行したいきさ
> つは問題あると思います。どなたかがファシズムといってましたが、法安定性
> とは相反する手法と思いますね。)

「今回の小泉首相の、国会も開かずに閣議決定のみで強行したいきさつ」
というのは、自衛隊のイラク派遣に関する基本計画を2003年12月9日の閣
議で決定したことを指しているのでしょうか。
もしそうならば、これは「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保
支援活動の実施に関する特別措置法」4条1項に則った措置ですので、法的
安定性を毀損する「警察国家」的な「独裁」とはかなり色彩を異にしてい
るように思われます。
 # もちろん、基本計画の決定そのものに国会が関与できず、対応措置実
 # 施後の非承認という形でしか統制をかけられないという現行制度につ
 # いて、立法府による軍事行動の民主的統制が弱まるという観点から問
 # 題性を論ずる余地はあり得ると思いますが、それは、国家権力行使の
 # 予見可能性の有無・程度に着目する法的安定性の議論とは別でしょう。


> ・「抑制均衡」の原理
> (本来なら、三権分立制では、司法部、行政部からの立法部に対する逆統制は
> かなり有効に機能するはず。国会の会期、議員任期、衆議院の解散等。

「国会の会期」や「議員任期」が「司法部、行政部からの立法部に対する
逆統制」になるという議論の意味が分かりません。これらの事項は、基本
的には立法府が自律的に処理する性格のものであり、司法府や行政府の介
入によって左右されたり「統制」されたりするものではないはずです。
「司法部、行政部からの立法部に対する逆統制」について教科書的な例を
挙げるなら、司法府からの統制の仕組みとしては違憲立法審査制がありま
すし、行政府からのものとしては、大統領による法案拒否権などを挙げる
ことができるでしょう。
なお、議会解散権を行政府による立法府統制の仕組みと見る見解があるこ
とは承知していますが、私としては、議院内閣制の下における解散権は権
力分立・相互抑制の仕組みではなく、行政府と立法府の意思を統合する仕
組みである、と捉えています。
 # この点についての詳細は、かなり古い記事で恐縮なのですが、
 # fj.soc.politicsに投稿した1997年12月10日付の拙稿
 # <j4ypvn5r1g1.fsf@ecc-as02.hongo.ecc.u-tokyo.ac.jp>や1997年12月
 # 12日付の拙稿<j4yg1nyx0u0.fsf@ecc-as02.hongo.ecc.u-tokyo.ac.jp>
 # などを御参照ください。
 ### Googleのグループ検索でMessage-IDを検索したところ、当該記事を
 ### 読むことは可能でした。

>                                 しか
> し、わが国では三権分立が相互抑制を正常に機能させているとはいえないと思
> います。)

日本の現行制度は議院内閣制を採用しており、この制度は立法府多数派と
行政府の意思を一致させることに眼目があると私は認識していますので、
立法府と行政府の間に「相互抑制」が働いていないことこそが「正常」で
あると考えています。
 # 付言しておきますと、議院内閣制の下での「抑制」的機能は、能動的
 # には立法府多数派(与党)と立法府少数派(野党)との間で、受動的
 # には司法府と立法府多数派=行政府との間で機能するものだと考えて
 # います。
-- 
*  Freiheit  | 安井宏樹(YASUI Hiroki), jyasui@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp     *
*  Recht     | 東京大学大学院法学政治学研究科・比較法政国際センター      *
*  Einigkeit | (現代ドイツ政治,ヨーロッパ政治史)                        *