こん○○わ、PARALLAXです。では早速。
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  │ 【 軽 音 部 、 西 へ  - HTT live @ 7th district - 】 │
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### D-day Zero-Hour ### @ 学園都市 @ PROGRESS 00:00:00 STAGE:MAR管制室

 瞬後、同時に刻まれ始めるドラムリズムとメインギターのコード。スピーカー越しでも
伝わる高揚感のビート。シンプルなコードを繰り返すイントロは直ぐ終わり、ボーカル。

  ♪Chatting Now

「"Cagayake!GIRLS"です! 放課後ティータイム、1期オープニング!!」
「そんな! 1曲目から"GO!GO!MANIAC"じゃなかったのか!?」
「こちらからのストリーミングは確かに予定通りです!」

  ♪

 管制室に詰める部下局員がパニック状態で口々に報告を叫ぶ。確かに報告の通り、MA
Rのストリーミングサーバーがリアルタイムで創り出しているHTT電子クローンのライ
ブ映像は"GO!GO!MANIAC"をステージで奏でている。だが。

  ♪

「音源をカットしろ!」
「駄目です! こちらが流しているパケットを経路中間でインターセプトし中身を
すり替えて流しています! 向こうのストリーミングを強制停止させた場合、
こちらのストリーミングごと配信が停止します!」

 スピーカーから流れ出ている音声は確かに"Cagayake!GIRLS"だ。勿論、単純に音源と
違う映像を重ねあわせれば違和感は否めない。だが。

  ♪

「音源に映像をオートシンクロさせる同期技術を実装させたのが裏目に出たか…」

 一瞬だけ戸惑ったような素振りを見せた映像だったが、出だしのサビが終わる頃には
もうリップシンクロさえ出来ている。観客の反応を拾う為に配信音声を逆に流し込まれ
ている画面の中のHTT電子クローンは、見事に予定外の"Cagayake!GIRLS"に合わせた
奏で様を見せている。元々はライブでMIDIを使用するための同期技術だが、学園都市の
技術はこれを映像エンジンに組み込んだ。使用を命じたのは、管制室指揮所のデスクで
こう唸り後悔している真っ最中の、当の本人。

  ♪

「慌てるな、反抗勢力からの逆干渉テロだ! すぐに発信源を探り出せ!」

 確かに今回の計画は「ライヴ」である事こそが肝要が故に、どうしてもこちらは守勢に
立たされざるを得ない。こうしてゲリラ的に攻撃されれば1歩は必ず出遅れる。だが逆に
言えば敵も必ず「ライヴ」で攻勢に立ち続けるしか無いこうした戦況は、必ず敵味方が常
に接触し続ける状態が維持される。そして接続さえし続けられれば、既に学園都市全域を
監視下におく全権限を持つMARからの追跡特定は極めて容易だ。

  ♪

 1段高い所にいる副長からの命令が響き、我を取り戻した局員が一斉にコンソールへ
向き直る。曲はまだ流れ続けており、御陰ですぐに送信元サーバーが割り出された。

「発信元は…上空監視衛星群!」
「な!」

 思わず見上げる局員達と副長。天井には上空監視衛星からのリアルタイム監視情報。

  ♪

「そんなバカな話があるか! 軌道上にHTTが居るとでも言うのか!」
「衛星から先の枝(ストリーミングを行っているサーバーへ繋がる回線)はありません!
 監視衛星、全基から同時送信されています!」
「ならばあらかじめ仕込まれたタイマー起動の録音音源だろう! こちらのサーバーに
ある音源から逆干渉波を生成してマスキングしろ!」

 どうやら同時ストリーミングではないらしい。まだ"Cagayake!GIRLS"を流し続けている
敵勢力サーバーへ繋がる回線が無い以上、衛星から先への追跡はできない。となると当面
は場当たりの対処法になるが、衛星に有線で繋ぎ演奏しているなど有り得ない以上、この
演奏は事前に仕込まれた録音音源と言うことになる。そしてHTTの録音音源は、全て
こちらのサーバーにもある。逆干渉波を生成し衛星からの送信波にぶつければ、それで
敵勢力からのストリーミングのマスク処理は完了だ。その筈、だった。

  ♪

 直ちに副長からの指示に従った局員だったが、すぐに悲鳴をあげた。

「だ、駄目です! 逆干渉できません!」
「どういう事だ! HTTの全演奏録音はこちらにあるんだぞ!」
「そのどれもの演奏とも合いません! これは…これは…これは新録音です!」

 再び驚愕し、思わず天井を見上げる副長。冷たい天井スクリーンの光に照らされ脂汗が
にじむ額が光る。 …わざわざ、この為だけに、この演奏を録音し直したと言うのか!

  ♪

 デジタル処理により作られる逆干渉波とは言え、所詮大元はアナログの人間音声と人間
演奏の楽器音。だから人間が感知できない程度の僅かなズレであっても、オリジナルと
異なる音源から作り出されるズレた干渉波は、場合に拠ってはうねる様に逆・逆干渉波と
なってしまい、余計に相手の発信を増強してしまいかねない事になる。

  ♪

「電子クローンの演算に喝を入れろ! 奴らの演奏を乗っ取り返してやれ!」

 副長の喝で、コンソール前の局員たちが慌てて動き出す。次々にリミッターが外された
プロセッサが唸りを上げて電子クローンの支援演算に加わり始め、スクリーンの中の5名
はあっさりと今この瞬間もなお配信され続けている"Cagayake!GIRLS"の演奏主導権を取り
返す、かに見えた、が、

  ♪woo…唯!

 差し掛かったソロパート。過去録のダウンピッキングとは違うオルタネイトピッキング
へと瞬時に切り替えられ、レスポールが掻き鳴らされる。全くのアドリブ。

  ♪梓!

 過去録で全く聞けなかった指弾き(フィンガープレイ)が始まる。始まったソロパート、
流れるような両手タッピングでムスタングのフィンガーボードが撫でまわされる。

  ♪澪!

 リズムパートが受け取られたのを確認し、オリジナルの過去録で馴染みの音階の上に、
フェンダーから紡ぎだされる2倍音、3倍音がレフトハンド奏法で塗り重ねられてゆく。
まさにこの瞬間しか聞けない、オリジナルのソロパート。

  ♪律!

 バスドラを蹴る右足。ハイハットに弾む左手。単調な刻み仕事のリズムから一気に解放
されスネアドラムからフロアタムまでが歓喜を沸騰させる。無論、左足のハイハットは、
スティックで鳴らしていた時と変わらない、太く地味な仕事(ビート)を疎かにはしない。

  ♪紬!

 11小節の小休止が終わった。渡された、これからの瞬間。右手は本来のソロパートを
奏でつつ、左手がE-B-C#-G#-A-E-F#-Bのカノン進行を一気に弾ききってゆく。そして、

  ♪せーーのぉ!

 この轟流が如くの新録音(ニューテイク)のソロパートに電子クローンは安々と屈した。

「…所詮、機械は機械、電子の浅知恵に過ぎない、か…」

 勿論、副長は知る由もない。新録音と言えど2フレーズも続けば電子クローンは即座に
学習を終え、巻き返しを図る。これを押し止めるにはヒトがヒトたるオリジナリティを
電子の知恵に叩き付けるしかない。理論こそ電話越しの元研究員が訴える通りだったが、
さてそれをイザ実践で行うのは生半可ではない。元研究員ごと作曲担当も作詞担当も頭を
抱えたそんな局面を、アッサリと「ん? こんなかんじ?」で弾き片付けられてしまった
のが、今を遡ることたった数時間程度の前だったなどとは。

  ♪

「信じられん…奴ら、この数時間にオリジナルのソロパートまで…」
「ソロパート間でも演奏に乱れや齟齬は有りません。御陰でこちらの電子クローンは、」
「素直に奴らへ追従出来ます、か…」

 呆然と局員が我知らず感嘆している。事此処に至り、副長は遂に決断した。

「衛星からの接続を全て遮断!」

 驚愕してこちらへ振り向く局員達に、副長が続けて怒鳴る。

「HTTメンバ他の衛星使用探索と衛星使用治安維持業務を現刻を持って一時停止する!
 どうした早くしろ!」

  ♪

 かなり離れた所に座る局員3名が懐からシリンダー鍵を取り出しコンソール下のスロッ
トへ差し込む。

「カウントどうぞ!」
「3! 2! 1! カット!」

 局員3名が同時に鍵を回す。瞬間、衛星からの監視映像である上部スクリーンと床スク
リーンの映像が切れブラックアウトし、同じく衛星からの配信音源の"Cagayake!GIRLS"が
…切れない!

  ♪

 相変わらず流れ続ける、微妙に耳慣れない新録音の"Cagayake!GIRLS"に驚き、局員達が
慌てて鍵をガチャガチャと回す。天井と床の巨大スクリーンは相変わらずブラックアウト
したままだが、HTTの新録音は相変わらず平然と流れ続けている。

  ♪

「回線を物理カットしろ! 再帰手段は考えなくて良い!」

 副長から再び発せられた命に従い、慌ててコンソール下に潜り込む局員達。手元の手帳
(紙マニュアルは学園都市でも必須。何と言っても無電源な故障時でも必ず使用できる)
を開き、複雑に結線されている配線を確認しながら抜き捨て始める。こんな無茶をすれば
次にこの管制室で衛星からの情報を制御できるのは回線接続と調整と試験を経た1週間後
になってもおかしくはないが、現在は非常事態。大人しく副長の指示に従う。しかし人力
による回線切断のため、どうしても作業が遅くなる。

  ♪
  "かがやけがーるず、でしたぁ! なんとにゅーていくだよー! まいったかー!"

 全ての回線が遮断され、漸くHTTの"Cagayake!GIRLS"がスピーカーから聞こえなく
なった時には、律のMCまできっちり配信が終わっていた。そして、半分放心状態に
なってしまっている管制室の副長や局員達が、ましてや衛星からの情報が得られなく
なってしまっているMARが次の手に気付かなかったとしても無理からぬ事と言えよう。

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今回は、一先ず此処迄。 では。
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