Re: HTT GO WEST! -live@7thDct- #009
こん○○わ、PARALLAXです。では早速。
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│ 【 軽 音 部 、 西 へ - HTT live @ 7th district - 】 │
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### D-day -2day 11:58PM ### @ 学園都市 第4学区 収容施設 @
暗闇の中。
むくっとベッドから誰かが起き上がった。
妙な時間に目覚めたものだな、と思われるかもしれないが、どうもそうではなさそう
だ。寝起きとは到底思えない、きびきびした動きでベッドから音もなく滑り降りる動き
からすると、どうもこの人物は眠ってすらいなかったらしい。
部屋の明かりを点けないまま、その人物はするするとスイートルームの中を、何処に
もぶつからず何にもつまづかないまま動き、すぐに部屋の片隅のフォーン・ブースへ
辿り着いた。すこし手探りしたが、さっとブースの椅子に座り、キーボードに指を走ら
せる。全くの暗闇の中、鼻先をいきなり摘まれても判らない程の漆黒の中で。
数時間前と同じく、ぱっと正面モニターが灯る。いきなり真正面から照らされる事に
なり少し目を顰めたが、これで一層迷いが無くなった指先をキーボードに走らせる。
数時間前に片目で見た、自分の脇から操作していた副長さんの操作と全く同じく。
が、正面モニターに浮かんだのは、たったの1行。
『お掛けになったナンバーは現在使用されていません。もう一度お確かめの上…』
長めのボブ気味に頬へ掛かっていた髪を、きゅ、と何時も通りに短めのポニーテール
にまとめると、彼女は再度キーボードへ手を走らせた。今度はキーボードをしっかり
見ながら、精確に副長さんの操作をトレースして。
が、正面モニターに浮かんだのは、たったの1行。
『お掛けになったナンバーは現在使用されていません。もう一度お確かめの上…』
きゅ、と下唇を噛み、憂はフォーン・ブースの電源を落とした。使い慣れない機械で
はあるが、1度誰かが操作するところを見てあれば、その通りに操作する自信はある。
確かにさっきはこれで律さん達の所へ繋がったんだ。それは絶対に間違いない。
姉が練習するところを見ただけで見事にレスポールを弾きこなし、子供にレクチャー
する父親の言葉を隣のブースで聞いただけでホームランを打つ。憂にとってはごく当た
り前の才能。友達は酷く羨ましがったりもするが、別に特別な力量とは思っていない。
こんな才能、お料理番組を見てレパートリーを増やすぐらいにしか使えないと思ってる
けど、電話は繋がらない。
やっぱり。
電源を落とされモニターからの明かりが消え、再びスイートルームは暗闇に沈む。
今度は幾分ゆっくりと、また何処にもつまづかずぶつからずに自分のベッドへ戻る。
もそもそとベッドに潜り込んで異様にふかふかの枕に頭を沈めてはみたものの、
憂はやっぱり眠れそうにも無かった。
それだけ、バスルームでアノ娘(こ)から聞いた話は衝撃的だった。
自分たちは全員未成年の女性だから、この部屋は即時モニターされていない。けれど
記録は残されているから、話せるのはレポートが出る前の多分この1回。よく聞いて。
そんな主旨で始まった、あの話。無表情に話しながらも区切り毎に自分の感情を第三
者的に挟む奇妙な口調に幾分面食らいはしたが、それ以上に話の内容が衝撃的過ぎた。
とてもとても信じられるものではなかったが、でも。すり替えられたレスポールとムス
タング、その2台に仕掛けられている恐ろしいもの、繋がらないフォーン・ブース、あ
の時は繋がったけど、現れたのは友達の姿だけど友達ではない友達の姿...
自分には全く判らなかった!
姉は届いたレスポールを触るまでも無く見ただけで即座に、梓もムスタングのフレッ
トに指を滑らせた瞬間に判ったらしい。その時、梓は思い切り怪しんだらしいが、姉が
レスポールを玩具の様に扱い、モニターに映る友人の姿とのやり取りもオモチャの様に
遊んでいた事から、これはそう言ったイベントなんだと腹を括ったらしかった。
実はイベントなんて言う生易しいものでは、全く無かったワケだが。
今更ながら、自分たちがどれだけの事態の中で囚われているのか、それを思うと到底
眠りつけそうにも無かった。これからどうなるのだろう?私たちは家に帰れるんだろう
か?それどころか、この学園都市から出られるんだろうか?それとも、私たちこのまま
唯 「うーいー、 ねむれない、の?」
びく!として思わずふかふかのベッドの中で硬直してしまう。隣のベッドですぅすぅ
と寝息を立てていた姉が、ふと気付くと目覚めてこちらを見ていた。真っ暗闇の中でも
姉からの目線は判る。だって私、お姉ちゃんの妹だから。
憂 「お姉ちゃん…」
唯 「寒いの? お布団、持ってくる?」
憂 「ううん、別に…なんで?」
唯 「んー? 憂、慄(ふる)えてたみたいだから。」
はぁっ、と溜息をつく。どうやら恐ろしさのあまりに震えていた様だった。
憂 「大丈夫だよ。へいき平気。お姉ちゃんも、もう寝て。」
辛うじて、声から震えは取れた、と思う。今の自分に出来る限りの精一杯だけど。
と。もぞもぞと動いた姉が。
唯 「うーいー!」
憂 「きゃ!」
自分のベッドに飛び込んできた。きゅ、と唯は憂を抱きしめる。
憂 「おおおお姉ちゃん、なにを」
唯 「えー、だってさー、
憂、一緒に寝て欲しそうだったから。」
そう、こんな時。
つくづく、自分は姉には適わないなぁ、と実感する。
じわ、と来る。あ、もう駄目だ。もう止められない。我慢、できない。
憂 「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん...」
ぐしぐしと止めどなく泣いてしまう。そんな自分を姉はゆったり抱きとめてくれる。
唯 「大丈夫だよ憂。きっと何とかなるよ。ミサカちゃんもそう言ってたし。」
それは確かな様だった。あのコも「と、ミサカは断言する。」と強調していた。
憂 「でもでも、相手はかなり強力で強引で強情で、って、って、」ぐしぐし
唯 「それでも、相手は絶対に私たちをイジメたりしないって言ってたよ。」
憂 「でもでも、やっぱりさっきも電話が繋がらなかったし、ギー太だって」えぐえぐ
唯 「それでも、みんなはきっと何処かで大丈夫だよ。ギー太だって大丈夫だよ。」
憂 「でもでも、でもでも、」ぐすっぐすっ
梓 「大丈夫ですよ。」
は、として反対側のベッドを見る。暗闇の虚空を見上げ、梓も目を開けていた。
梓 「ミサカさんも言ってたじゃないですか。計画の最後に必要なのは私たちなんです。
だとしたらそんな私たちを、大事にしない筈は有りません。」
でも、でもでも。
ふと、恐ろしい事を言ってしまいそうで、憂は必死に唇を噛む。
あの人達が必要としているのは、HTT。放課後ティータイム。その5人なんだ。
放課後ティータイムでない。軽音部の部員でも無い。そんな者は、きっと...
梓 「だから放課後ティータイムの、この9人は、絶対に大丈夫なんです!」
・・・9人?
くるっとこちらを向き、梓が言葉を続ける。
梓 「当たり前じゃないの。今ここにいる9人。憂も、純も、和先輩も、さわ子先生も。
全員で放課後ティータイムなんだよ。誰が欠けたって、放課後ティータイムは演奏
なんか出来ないんだから。みんなみんな、大事なメンバ、なんだ、から、」
梓も最後の方は涙で言葉にならない。お互いに見つめ合って。真っ暗闇の中で。
そっか。私もメンバなんだ。放課後ティータイムの。あったかい涙が頬を伝っている。
唯 「えー?違うよ。」
な!
梓 「唯先輩!?」
唯 「放課後ティータイムは9人なんかじゃないよ。 全然足りないよ。
だってミサカさんでしょ? 律ちゃんトコにもミサカさんでしょ? 紬ちゃんトコ
にもミサカさんでしょ? ミサカさんたちの友達でしょ? あ、2年2組と1組の
クラスメートでしょ? あずにゃん、何組だっけ? 他にもいっぱい、いっぱい」
唖然として、暗闇の中で指折り数えながら次々に知り合いやら顔見知りやらの名前や
所属を挙げてゆく唯の声を、憂も梓も聞いていた。出てくる出てくる、人々の繋がり。
そうか。放課後ティータイムは、みんなの、みんなで、みんなだからHTTなんだ。
聞きながら、そうか確かにその通りだと何だかしっくり納得できたら、梓も憂も
何だか可笑しく思えてきてしまった。あーそうか。そりゃ確かに、その通り、だ。
ふふ。ふふふふ。くふふふふふふふ。
そんな妹の様子を感じて唯が腕の力を抜く。あ、もう大丈夫みたい。ほっとする。
唯 「大丈夫だよ。明日には助けが来る、てミサカさんが言ってたじゃない。
だから私たち、それまで頑張るんだ。助けが来ればきっとみんなまた逢えるから。
大丈夫だよ、きっとみんなに会える。それまでの我慢。明日までの我慢だよ。」
憂 「そう、そうだね、お姉ちゃん。絶対会える。明日になれば、きっと。」
梓 「そうですよ。明日になれば、必ず。明日になれば。」
あぁ、何だか安心しちゃった。そう、明日になれば、明日になれば、きっと…
唯 「…憂? 憂? ・・・憂、寝ちゃった。」
梓 「きっと安心出来たんですよ。
ふふ、私も何だか、ほっとしちゃいました。」
唯 「そだね。
じゃ、あずにゃん、おやすみー」ふわわわ、と大あくび
・・・でも、数秒して。なんだか何時ものハキハキ・キビキビした調子じゃない、
珍しくおずおずとした物言いで、梓のベッドから声が聞こえてきた。
梓 「あの...
私も、そっちに行って、いいですか?」
クイーンサイズのベッドからベッドへ、もぞもぞと人影が移る。ふふ、くすくす、と
擽ったい小声が聞こえてくるが、すぐにすぅすぅと静かな寝息に変わる。何時の間にか
ベッドサイドのLCDクロックが違う日付を告げている。今日はもう、土曜日。
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今回は、一先ず此処迄。 では。
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