太平洋戦末期の沖縄への米軍上陸戦で多数の民間人が集団自決をした事実を書いた大江健三郎著「沖縄ノ−ト」について、当時、座間味島戦隊長であった元少佐の名誉毀損裁判で、大阪地裁は、大江、岩波側勝訴の判決を下した。
 原告側は、民間人を守るべき軍隊が、民間人に集団自決などを強制するはずはない、というのだ。
 しかし、集団自決に使われた手榴弾が、ただでさえ、武器、弾薬が欠乏しているときに、民間が持っていること自体が考えられないし、簡単に民間の手に入るようあなものではなく、軍が、自決用にと、渡したことは間違いあるまい。
 当時、敗戦の色が濃くなっていた内地でも「一億玉砕」が唱えられ始めていたから、集団自決の強制は当然ありえたのだ。
 原告の元隊長自身は、そういう命令は出さなかったのであろうが、負け戦で統制もなにもばらばらになっていたのは確かであるから、軍の下部機構で、集団自決の命令を出したとしても不自然ではないのだ。
 このような総合的観点から見ても、この判決は妥当なものだと思う。
 この隊長の著作を根拠に「教科書」から「集団自決」の記述を消してしまった教科書検定こと「臭いものには蓋」の姑息な行為である、と言わねばなるまい。
 村上新八