>           今までのっていた VW Golf III の CL DIESEL から、
 >           '96 の BMW 318iS (E36) へ。

「それでＢＭＷを買ったのはここでいっぱつ女の子でも引っ掛けよ
　うというつもりじゃないんだよね」
ベエムベ（四輪車、ただし空を飛ばないものだけを指す）は左側の
運転席でハンドルを握り居心地悪そうにしている男に尋ねる。
「それは言いがかりというものだ。
　そもそも僕がこの車を選んだ理由は３つある。
　第一にこのシルキーな加速のエンジン、ＢＭＷの「走る喜び」と
　いうのが単なるＣＭのうたい文句じゃないことを実感させてくれる。
　そしてこの車体のバランスの良さ、コーナリングを感じさせない
　じゃないか、そうだミッションの堅牢さもいい、歯車のように路
　面に噛みあうようにがっしりとした堅い走行感は格別だ。そして
　高速走行時の安定感を生み出す車体の剛性、ありゃ４つか、
　理由は４つだね」
ドイツのアウトーバーンのように広くて制限速度がないような道路
と錯覚してしまいそうな北海道のタダの一般道、そこをＢＭＷはす
べるように走り抜けていく、ＢＧＭがあったらＢＭＷのコマーシャ
ルのようだ。
「じゃあ、ほくなんはこの車に乗っていて、
　道端で困っている女の子が居ても
　親切な言葉をかけて乗せてあげよう
　なんてことはするつもりはないんだね」
運転席でハンドルを握り締めるほくなんと呼ばれた男は本当に心外
そうな顔をして嘆息する。
「そんなことするわけないじゃないか
　きっとそういう女の子は乗せた途端にナイフを出して
　追い剥ぎに豹変するに決まっている。
　それに、ぼくは純粋にこの車で走る喜びを楽しみたいんだ。
　女の子なんか隣にいたら気を使ってしまいやってられないよ」
ＢＭＷは市街地を流れるように通りぬける。交差点の信号すら歓迎
するように青に変わり、停滞することはない。
「ふーんそうなんだ。
　でもね、すぐ５００メートルの先になんか困っているような
　女の子が助けを求めているようなんだけど、
　彼女きれいだよね」
「なっなんだって、どこどこ、
　当然、困っている人に手を差し伸べるのが当然のことじゃないか」
ほくなんはあわてて言葉を重ねる。アクセルを緩めて道路の左右を
見回すがそれらしい女性の姿はない。
「どこだよ」
「……」
「……もしかして、カマ掛けた？」
「……うん」
「……は、はははは、うーんおちゃめなＢＭＷめぁ」
ほくなんはアクセルを踏み込んで市街地から出て行った。
ほくなんの旅はまだ始まったばかりだ。

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