いつしか
海溝の上を歩いているようだ
銀鱗のうなぎの稚魚が
へらへらと笑っている声がする

海溝の薄汚れた小道を
靴べらのようなものたちの声が
見たこともない記憶を胸に
生きながらえている声が

へら
へらへらへら

いつかこんな色彩が
海溝の上に現れることを予感していた
海溝には底がある
だが 底には海溝がない 
底には 底なしの海が泳いでいるだけだ

私の足元の下を
底なしの海がのらりのらりと
通り過ぎていく

どこかで
笑い声のような 波の音
海溝の薄汚れた小道あたりから 聞こえてくる

海溝の上で 息を吸い込んで
さあ 行くとするか