イラク高等法院の控訴審でフセイン元大統領の死刑が確定した。法令では確定判決から30日以内に執行することになっているが、ここは慎重に考えるべきである。
 その理由は二つある。
 第一は、この判決は、シ−ア派住民の虐殺を訴因とする「ドシャイル事件」に関するもので、数万ともいわれるクルド人を殺害した「アンファル事件」、5000人のクルド人を虐殺した「ハラブジャ事件」など10件に及ぶ事件の審理が終わっていないことだ。これらの事件の真相は是非明らかにすべきだからである。
 第二の理由は、追放されていたフセイン統治時代の与党バ−ス党員の政府機関への復帰を認めるなど、スンニ派への懐柔策が始まり、融和に進もうとしている現時点で、フセインを処刑すれば、スンニ派を刺激する結果を招くことは必至で、それはイラクの内戦を一層激化されるだけだからである。
 フセインの罪は万死に値するものであるが、その死刑執行は、高度の政治的判断に基づいて、慎重に考慮すべき問題である。
 村上新八