だが、そう感じているのは杉田だけのようだった。
皆、嬉しそうに「美味しい」といっている。
誰もスプーンを持ってきてくれと頼む人はいない。
皿が、だんだんと杉田の席に近づいて来る……。
「無意識に顔を顰めて“食べたくない”という顔をしていたのかもしれません。
隣に座っていた婦人幹部から睨みつけられました」

 メロンの皿は、杉田の隣まで来た。メロンの大部分はすでに削り
取られており、どろりと汁が皿にこぼれていた。
 そして皿は杉田の前に回ってきた。池田以下、テーブルを囲んでいた
人々の視線を感じた。杉田は覚悟を決めた。
なるべく少なくメロンを削りスプーンに載せた。
しかし、力を入れすぎたのか、結構の量がスプーンに載っていた。
一瞬目をつぶって、口の中に入れた。なるべく味わわないように飲み込んだ。

 池田は自分が食べた後、残りを周囲の幹部に回す習癖を持っている。
忠誠心を試しているともいわれるが、幹部たちはこれを“お下げ渡し”と呼ぶ。

 時は、それからしばらく下る。場所は、信濃町の学会本部近くのレストラン。
学会御用達の店の一つである。杉田たちが池田と会食する機会が巡ってきた。

 その場には、杉田などの芸術部員のほか、学会顧問弁護士や女子事務員、
それに副会長たちが席を埋めていた。
出席者が揃ったところで、池田が顔を見せた。
 席についた池田は、テーブルをぐるりと見回し、
まずは杉田たちの芸術部員の方を向いていった。

「今日は誰が来ているの。ああ、芸術部員ね、華やかだね、綺麗だね」
 そして、体の向きを変えた。
「こちらは? 弁護士? 秘書? ああ、弁護士など人間の最低の境涯ね。
でも、本気で修行すれば、来世はもっといい者に生まれ変わるからね」

 また向きを変えた。 「こっちは副会長か、バカどもの集まりね、
はい、では食事をしましょう」

 池田のそうした態度に対して、愛想笑いをしている側近幹部たち。
杉田はとても笑顔を作ることができなかった。
「もう、学会との関係は断ち切ろうと決断しました。
信仰というのは、個人の問題。信仰を捨てようとは思いませんが、
学会から離れて自分を見直したい、そう考えたのです」

引用終わり
週刊ポスト1999年9月3日号より