本所のお竹蔵から東四つ目通、今の被服廠
跡の納骨堂のあるあたりに大きな池があって、
それが本所の七不思議の一つの「おいてけ堀」
であった。

(中略)

 金太は入口へ釣竿を立てかけて、土室の横へ
往って腰をかけ、手にした魚籃をあしもとへ
置いた。老人は金太をじろりと見た。
「釣りのおかえりでございますか」
「そうだよ、其所の池へ釣に往ったが、爺さん、
へんな物を見たぜ」
「へんな物と申しますと」
「おばけだよ、眼も鼻もない、のっぺらぼうだよ」
「へえェ、眼も鼻もないのっぺらぼう。それじゃ、
こんなので」
 老人がそう云って片手でつるりと顔を撫でた。
と、其の顔は元福岡ダイエーホークスの山本和範
になっていた。金太は悲鳴をあげて逃げた。魚籃
も釣竿も其のままにして。

-- 
簪屋のHIDE /* たぶん私も逃げます */