輪廻転生の教説は、さまざまな宗教で説かれている。仏教の六道もそうだが、有名なものはインドのヒンズ−教のカ−スト制度だ。
 カ−スト集団は、ジャ−ディ(種姓、生まれ)という意味で、バラモン(司祭)、クシャリリア(王族)、バイシャ(庶民)、シュ−ドラ(隷民)四つのバチル(種姓)のほかに、不浄な職業、たとえば農奴、皮剥ぎ、糞尿汲み取り、水運びなどにしか就けない「不可触賎民」がある。この種姓は、この世の運命であって、すべて前世の行為によって決まっているものであるから、来世のよき生活を望むなら、この生まれに不満を言わずに諦めて、カ−ストの規律に従わねばならない、と説かれている。
 ニ−チェの「永劫回帰」はこの苦しみと挫折、絶望の世界が万民に等しく、永劫に回帰するという世界観だが、これは個々人の種姓に限定している点で、これとは異なるものである。
 つまり、種姓の不条理を、抗いようのない前世の業によるものとして、甘受させようとする社会制度なのだ。言い換えれば、このカ−スト制度は、差別に苦しむ下層カ−ストに対して「苦しみに耐えた勤勉の報酬である安楽な来世保証」という絶対に落ちることのない空手形を渡してカ−スト制度を絶対化する機能であると言えよう。
 村上新八