神を追い出したハイデッガ−の哲学
「現存在」すなわち世の中の人間の存在が「実存」である。
人間が不安を感じる理由は二つある。その一つは人間の生活が「道具」に囲まれていることである。従来の哲学では「もの」「資料」「自然物」として扱われてきたが、これは単なる「もの」ではなく、加工された形の「道具」なのだ。道具はそれぞれの機能を持っており、相互につながりがある「指向性」を持つ「道具関連」を形成している。
そのなかにあって人間は「道具」に関心を持ち、憂慮と気がかりしながら生きている。これが第一の不安要因なのだ。
第二の不安要因は人間の存在が有限な時間的な、死への存在、無の深淵に差し掛けられた存在であることである。ひとはこれを自己の問題として直視できない。だから吾でも汝でもない抽象的な「人」の世界に逃げ込もうとするのである。事件や事故での死も「ひとごと」と片付けるのはこの例である。
だから人間はこの世にあることが限りなく不安なのである。
死は、いつ訪れるかはわからない。それまでの時間は有限であるが、それまでの時間には人間の「期待」を受け入れる余地がある.死ぬべき存在であることを受け入れ、この存在可能な終末までの時間を脱自我的な地平的性格(開かれているということ)を持つものとして考えるべきである。
ユニ−クな「道具」論である。「道具」と「憂慮」「不安」のつながりは理解しがたいが、「道具」にはカネ、財産、家、土地も含まれると考えれば筋は通る。個人ではなく抽象的な「人」概念に逃げ込むのも「ひとごとではない」などの言葉があることからも頷けなくはない。
人が時間を気にするのは、何かをやるために「どのくらい時間が残っているか」を知るためであるという説も納得できるし、その「なにかやる」は期待なのだといことも分かる。そして死が訪れるまで期待に向かって進むべきだということなのであろう。
このハイデッガ−の哲学は、神を追い出し、実存を実存そのものから見据える、まさに人間そのものの主体性と自主性に立った逃げない理論と言える。
村上新八
Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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