Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その2)<clfs1u$sq4$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その3)<cmkpa7$n9v$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その4)<cnpq23$uoi$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その5)<couhh3$6bl$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その6)<cq3l78$ci5$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その7)<crdmn4$ft7$3@zzr.yamada.gr.jp>、
(その8)<csvnro$s1b$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その9)<cu7vhd$j9o$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その10)<cvrqev$sj1$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その11)<d1lt0f$qn6$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その12)<d2o5ec$nph$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その13)
●桃栗町町境近く
まろんと都にとって、エリスが勝負の結果を冷静に受け止めている様に見えるのは
少々意外に思える事でした。二人にとっての彼女の印象は、どちらかと言えば
負けず嫌いで勝気な女性というものであったからです。しかしながら今の状態に
対してのアンの見方は全然違っていました。そしてこのまま最後の勝負に
持ち込むのは非常に良くないとも考えていました。
「じゃ、次で最後ね」
まろんの声にハッとして顔を上げるアン。ですが続く言葉は未だ少しだけ
考える余裕がある事をアンに教えてくれていました。
「最後は何にしようかな」
「そうね…」
「何でもいいよ」
相変わらずな調子のシドの声を聞き流していたアンは今度こそ状況が差し迫った
と知るのです。
「じゃ、アレはどう?」
エリスの指差した先には小さなブースがあり、派手なシャツを着ている割には
髪を清潔に整えた人物が中にちょんと座っています。どうやら広すぎる内部で
迷った客の為の案内所であるらしいのですが、エリスが言っているのはその
ブースの軒先にぶら下っている物体の事なのでした。
「バレーボール…」
「見りゃ判るわよ」
「ボールがあるんだから、試合する場所があるんじゃないのかな。多分」
「ちょっと聞いてくるわ」
言うが早いか行動に移っている都の後をまろんが慌てて追いかけて行き、そして
何やらブースの男性と話している様子を残された者が離れて眺めいているという
状態が少しだけ続きました。
*
無料で貸してくれるというボールを一応借りてはみたものの、半信半疑だった
都とまろん。その後をぞろぞろとついて行ったエリス達。そんな彼女達の前に
広がっている砂浜。もちろんそれは自然の砂浜であるはずは無く、本来は
砂蒸し風呂なのです。しかし所々に数本ずつ並び立っているのはビーチパラソルで、
今まさに立ち去る所だった数人の客が寝転んでいたのは砂の上ではなく簀の子状に
白木を張ったリクライニングチェアの上であり、そして砂浜に見えるその場所の
真中には二本のポールの間に張られたネットがあるのでした。
「なんじゃこりゃ」
「此のコンセプトが良く判んないね…」
「まぁいいじゃない。これなら勝負になるでしょ」
「いいね」
これから始まろうとしている勝負=試合の形式を必死に思い出しながら、アンは
交換はしたものの同化が不完全なエリスの記憶の中からこの試合に関する
彼女の理解の程度を推し測ろうとしていました。そしてどうやら、そこには
アンが策略を巡らせるに都合の良いと思われる部分がある様でした。エリスが
知っているのはネットを挟んでボールを打ち合うゲームという程度だったからです。
「あの」
「ん?何?」
「提案があるんですが」
何だろう、という興味の視線が集まったことで一瞬たじろいだアン。ですが今は
彼女の勝負の時でした。
「折角だから4チームにしてトーナメントで試合をしませんか」
「あ、面白そう。ちょうど8人居るしね」
「いいけど、いいの?」
「俺たちは全然構わないよ」
「…ま、いいけど」
「それじゃ組み合わせなんですけど」
アンはエリスの顔をちらっと見て微笑みました。その笑顔をエリスは言うまでも
無く一組は決まっているわよね、という意思表示と受け止めます。実際、アンは
そう思ってもらえる様にと表情を工夫していたのでした。
「やっぱり男女ペアが公平ですよね」
アンは先ず都とまろんに同意を求めます。多少早口で語尾を強めに発音し、更に
少しだけ雰囲気を誘導します。勿論、まろんには効かないとは判っていますが
友人すなわち都が同意しさえすればまろんは反論しないと予想していました。
「まぁ、そうね。いいんじゃない」
「うん。いいよ」
アンは内心で“よしっ!”と叫んでからシドの顔を見上げました。期待を込めた
熱い眼差しを添えて。はたして、シドは充分にアンの意図を汲んでいました。
「賛成」
間髪いれずにそう答え、そして仲間に事後承諾を求めました。女性に対して不利に
ならない様にという建前を強調した事もあり、彼等から否が出る事は有り得ません。
そしてアンはエリスには敢えて同意は求めず、また口を挟む隙も与えませんでした。
「ちょっと待て、私は」
「シド、彼等はビーチバレーのルールを知っているかしら」
「多分知らないんじゃないかな、俺以外は」
「お二人は知ってますよね」
その“お二人”が頷くやいなや、アンはさっさと組み合わせを指名してしまいます。
「それじゃルールを判って無い彼等が夫々、判ってるまろんさんと都さんとダイアナ
の相手。私は自信が無いので判ってるシドと。各試合はシンプルに1セット型式で。
良いですか?」
「まぁそれはいいんだけどさ、言葉が通じないのは微妙よね」
「大丈夫です。シド、何をするかは簡単に説明しておいてね」
「了解」
まろん達には判らない言葉で何事かという顔をしている三人とシドが話しを
している間。アンはちょっと首をすくめて上目遣いでエリスの顔色を覗います。
『いいでしょ?』
『いいも悪いも、最初から決めてただろ』
『うん』
『何でこんなこと』
『エリスと戦ってみたかったから』
『嘘つけ』
『嘘じゃないわよ』
アンは小首を傾げて微笑んでいました。
*
四組しか無いのでいきなりの準決勝となる第一戦。エリスに着いたのは最初に
水泳で競った男でした。
『隅の方に下がってろ。何にもすんなよ』
『そうはいかん。私の所為で負けたなどと言わせない為にも全力を尽くす』
『それじゃ私をすり抜けた奴だけ返せ』
『承知』
すり抜ける球なんて無いけどな、という台詞を珍しく飲み込んだエリス。男との
会話の最中にアンの目論見に気付いてしまい、考えがそちらに向いていた所為
でした。エリスにとっては、これで四番勝負は限りなく引き分けに近い決着しか
つかない事になったのです。この試合に勝てば半分は男の存在があったからと
認めざるを得ず、負ければ男の所為には絶対に出来ないのがエリスの性格でした。
ムッとした顔を当のアンに向けるのが今のエリスに出来る精々の反撃です。
それをアンは笑顔で受け止め、最後に駄目押しをするのでした。
「サーブは後ろの選手がするのよ」
「なら、私が後衛やる」
『俺が前に行くのか?ならば全部、あの網の前で弾き返してくれる』
『だから動くなって』
「前と後ろに別れないとポジション違反よ」
「…知ってるよ」
渋々ボールを男に投げ渡すエリス。ルール上、絶対に男にボールを触らせずに済ます
方法は無いのです。例え相手からの球を全部エリスが返したとしても。
やがて試合開始。エリスの予想通り、相手チームはまろんが後ろに下がり長身の
男が前に出る形から始める様でした。男はこれまでの勝負では顔を合わせていない
最後の一人。その真剣な眼差しがエリスにじっと向けられています。
そしてゲームの進行もエリスの予想通りとなっていました。即席でルールを
教え込まれただけの男は長身を活かしたブロックは行わず、自陣に入ってくる
ボールを打ち返してくるだけ。そしてエリスの方もそれをジャンプした上で
力任せに叩き返すという具合でした。殆どの場合、エリスと男がひたすら打ち合い
を続けるのみ。ポイントが入るのはエリスが無理に打ち返そうとした遠いボールが
ネットに触れてしまうか明後日の方へ飛んでいった場合で、相手側の場合はボール
がまろんの許まで届いた時でした。
「へたれ!ちゃんとレシーブせんか」
「だってすんごく痛いんだもん!」
都の叱咤に反論するまろんの腕は既に真っ赤になっていました。それでも、彼女の
許に届くボールは殆どが男の手をかすめる事で勢いが減じた後の物なのですが。
そしてそんな時、男はまろんには判らない言葉を口にしながら彼女の方に毎回の
様に頭を下げるのでした。意味は判らなくとも、それが謝罪の言葉なのだろうとは
彼の表情と態度から明らかでした。まろんは逆にすまなそうに苦笑して、つい
日本語で“いいのいいの”などと応えてしまうのです。その様な訳で、試合は
単純にレシーブミスの数によってのみ決まりエリスの側の勝利となりました。
試合後、エリスはまろんの傍に行きちょこんと頭を下げました。
「すみません。手加減って事が出来なくて」
「ううん。いいの。もともとダイアナさんの勝負だもんね。手ごたえの無い相手で
ごめんね」
「いいえ。フェアな状況じゃないですから」
「そんな事ないよ。単に私が下手なだけだから」
「では本当の決着はまた後日」
「判った。ちゃんと練習するから」
「本当にすぐ次がありますよ」
そう言って笑顔を見せるエリス。まろんは彼女がそんなに自分との試合を楽しんだ
のだろうかと不思議に思いました。
続く第二試合。こちらはいたって真っ当なビーチバレーの試合となっていました。
どちらも最初は前衛が背の高い男、後衛が都にアンという布陣。シドも男も手を
抜いたわけではありませんが背後の女性にボールが届いた場合を考えて程ほどの
強さでしか打ち返さなかった事に加え、シドがやってみせたブロックを相手側の
男も覚えて実践した結果でした。そしてこちらの勝敗を分けたのは、アンの方が
少しだけ勝ち負けに対して貪欲だったからと言えるのかもしれません。
「(ごめんなさい。でもエリスに対して嘘つきになる訳にはいかないの)」
ドライブが掛かっていると言うにはあまりにも急峻な角度で落ちるサービスが
決まる度、つい心の中で謝ってしまうアンでした。試合後、これもまた真っ当な
試合の証の様にネット下で握手を交わす両チーム。都はアンに向けてニヤっと
笑って見せました。
「あんた、本当はビーチバレーに物凄く詳しいでしょ」
「そんな事ないですよ」
「嘘こけ」
都は苦笑まじりに肩をすくめ、それから決勝の審判役を務める為にネットサイド
へと向かいました。
決勝。初戦とは事なり、今度はエリスが最初のサービス位置に入っています。
そしてサーブ。ボールが破裂しないのが不思議なくらいの打球音と風を切る音。
アンが打って見せた急激に落ちるサーブと異なり、ボールには二つの回転が
与えられていました。相手コートですとんと角度を変えて落ちた後、隠れていた
もう一つの回転がボールに微妙なカーブを描かせます。そしてレシーブの為に
差し出されたアンの手元を避ける様にして砂の上に食い込んで行くのでした。
「15球で終わらせてやる」
「出来る?」
「もちろん」
2球目。最初のそれとは異なり、ボールはアンの左へと逸れていきました。
それをじっと見つめながら微動だにしないアン。彼女が初めて動いたのは3球目が
右下に落ちようとした瞬間でした。砂を蹴る様にして右足を突き出したアン。
足の甲に当ったボールは高く跳ね上がり、それを絶妙な位置でジャンプした
シドが鋭く決めました。
「サービスチェンジ」
「ちょっと待ったっ、今のは」
「身体の何処で打ち返しても良いの。もちろん知ってたわよね?」
「…ああ」
その後はラリーの応酬となる激しい展開となりました。圧倒的な力で打ち込まれる
エリスの球を、しかし正確に落下点を見抜くアンが器用に拾います。シドもエリス
の側に着いた男も、打ち込む先に近い選手が男か女かで微妙に力加減を変えており、
それがポジション等に構わずボールを受けに走るエリスに多数の読み間違いを
誘っていました。竜族の男が無意識に行ってしまう配慮が、図らずもエリスに
対してのフェイントとなっていたのです。
そんな激しい試合を、恐らく一番楽しんだのは脇で見物を決め込んでいたまろん。
ボール以外の円いものが二つ並んで飛び跳ね揺れる様をうっとり眺めていました。
見た目通りに柔らかく弾むアン、見た目以上に引き締まっているらしいエリス。
そしてビキニが案外ズレたりしない事に少しだけがっかりしたりもしました。
そうして試合は既に通常のセットポイントをはるかに越えた31対31となり、
それでも試合に決着がつく様子は見えませんでした。
(第173話・つづく)
# あと何回で決着がつくんだろう…(ぉぃぉぃ)
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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