出張で関西くんだりまで来たのだが、用事が予定よりも簡単に
済んでしまったので、その日は新大阪に一泊して帰るつもりで
夕方も早い時間から一緒に来た同僚のヤマダと飲んでいた.

やすい居酒屋の奥に陣取って、ようやく酔いが回ってきた頃、
客も少しずつ増えてきたので場所を変えようかとふらふらと
立ち上がったときだった.

ヤマダが叫んだ.
 「お、おぃっ、地震だ、地震だ、おおきいぞ」

なるほど揺れている、がしかし、客の誰もが外に逃げ出すでも
なく様子を窺っている、と思った瞬間にぐらっと後ろから押され
でもしたような反動を感じて私はそのまま倒れこんでしまった.

ふと気がつくと、となりにヤマダも倒れて幸せそうな寝息を立て
ていた.もう酔いはさめてしまっている.ヤマダを起こすと私は
店からでた。大変な惨事を目の当たりにしていることを悟った。

「みんな倒れている…、どうしたんだ」

私は倒れている人たちの方に向かって歩き出した。

「まて、地震が原因で
 なにかのガスが漏れているのかもしれないぞ、
 とりあえず安全な場所を確保しよう」

ヤマダは柄にもない正論を言って止めた.
しかし、様子が変だ、倒れている人たちにはなにか共通する特徴が
あるのだった、それがなんなのか遠目ではよくわからない.

「おい、よせよ、ほんとに危険かもしれないぞ」

そういいながら、ヤマダも私に付いてきた.近くによって見ると、
倒れている人たちは年齢、性別も、服装もてんでばらばらなのだが
一様になにかを咥えたまま目を剥いて倒れているのだった.
「うーん」という呻り声がした男を「おい、大丈夫か」とさすると、
男はごほごほと咽て、ごはんつぶやら、かんぴょうのきれっぱじを
私の顔に吹き付けると、虚空を凝視したまま絶命した.

「そ、そうか、今日は節分だったんだ」

そうつぶやいて辺りを見回したヤマダの目には、折り重なるように
倒れて累々とつづくおめでたい死体の山がどこまでもどこまでも続
いているのだった.

その日関西人は全滅した.