Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
# 第171話(その1)<bci90c$una$6@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その2)<bd4i2h$nqo$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その3)<bdngph$252$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その4)<be8nqr$tci$2@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
^L
★神風・愛の劇場 第171話『眠った翼』(その5)
●桃栗町の外れ
ミカサの予想に反して、ノインはかなり詳細に作戦の内容と意図を話しました。
話を聞き終えたミカサは納得します。確かにこれは作戦に参加する者全員が、全体を
完全に理解している必要がある作戦であるのだと。話を終えたノインに最初に
質問を発したのは、やはりレイでした。
「内容は理解しました。その上で大切な事を教えて頂いていませんが」
「はて?」
そう長い付き合いでは無いものの、レイはノインが惚けているのだと気付きます。
気付きつつ、あくまでも冷静かつ淡々と質問を補足しました。
「作戦に参加するのは此に居る私達五名、ですね?」
「ええ」
「でもユキは待機」
「そうです」
しょんぼりしているユキを見ると少し可哀想に思えるレイ。ですが今は蚊帳の外の
彼女の事は問題ではありません。
「その“五名”の中に初対面の者がおります。紹介して頂けますよね、当然」
「ああ、失礼。ついうっかり」
ついうっかり忘れられている当人はトールンが居なくなった途端に上機嫌で、
実は少しずつ椅子をテーブルの方へと近寄せていました。そして今では他の者と
同じ様にテーブルを囲む場所に居ます。ただし椅子が小さくて低いのでテーブルの
縁にちょうど顔が載っている様な具合なのですが。話題が自分の事になっていると
敏感に感じて、その瞳が何かを期待する様にきょろきょろと見回しています。
「彼女はエリス」
そして以後ノインの沈黙が続きます。レイがぼつりと一言。
「それだけ…ですか?」
「他に何か」
「ノイン様のドケチ!」
思わず何か言いかけたレイの本音を代弁するかの様に叫んだのはエリス自身です。
「もっとちゃんと紹介してください!でないと自分で朝まで喋りまくりますよ!」
「それでは朝まで」
ミカサがコホンと小さく咳払いをして言います。
「ノイン様、まぁ冗談はそのくらいで」
「いや別に冗談では…そうですね、失礼しました」
流石に少し悪ふざけが過ぎたかと、思ってもいない事を思っている様な顔をして
見せつつ再び話を始めるノイン。
「では改めてエリスを紹介します。魔王様の使いでアンを迎えに来たのですが、
都合により暫くこちらに居残ってもらう事になりました。ついでなので作戦にも
参加してもらいます。実力は大丈夫、私が保証します。何か質問がありますか?」
ノインが実力を保証すると言うのですから、それ以上何かを質問する事はノインを
疑う事になるのでは無いか…そこまで考えてレイは気付きます。ノインはそれを
見越して質問を封じたのでは無いかと。そんな彼女の逡巡に気付かず、ミナは
ごく自然に疑問を口にします。
「聞いてもいいですか?」
「何でしょう?」
「エリスって何族さんですか?何となく竜…」
みなまで言わせずエリスは立ち上がって声高に応えます。
「私はエリス。何族でもありませんよ!」
きっぱり言い切って笑顔で胸を張る彼女にミナは「ああ、そうなの…」と
応じるしか仕方が無いのでした。
*
打ち合わせを終えミカサ達が引き上げた後、ノインの館では夕食の仕度が進んで
いました。ここ最近の段取りと違うのはノインだけで無く、アンも手持ちぶさたな
様子でテーブルに着いて待たされているという事。
「あの…」
「何でしょう」
「私、本当にお手伝いしなくていいんでしょうか」
「エリスがいいと言っているのですから、気にしなくていいですよ」
「でも」
などと同じような会話を数回繰り返した後、二人の前に四人分にしては多すぎる
分量の料理の数々が並べられました。それらを目にしてノインは成程と思います。
ノインや直接の料理の弟子である全が作るメニューは大抵は和食か和洋折衷の
食事。しかしその晩食卓に並んでいるのは国籍不明の料理ばかりでした。
料理を盛った最後の一皿を運んできたエリスと全。
「どうぞ、召し上がれ」
と言ってから、エリスが最後に席に着きました。一口食べてからノインが呟きます。
「懐かしいですね」
「ノイン様はマメですから、ご自身でも料理されていると思ってました」
「やりますけどね、私は地元の料理を作るのが好きなんですよ。何処へ行っても」
「味はどうです?材料が揃わないので、似たものを選んででっちあげたんですけど」
「美味しいでぃす」
「当たり前だろ」
三人の会話を聞きながら、テーブルの上をじっと見ていたアン。見覚えのある様な、
しかし初めての料理に最後まで手を伸ばせずにいました。しかし全がその言葉通り
美味しそうに口に運んでいる様子を見て、自分の皿に取り分けられた野菜の煮込み
の様なものを口に入れてみます。煮込み過ぎて焦がしてしまったかの様な黒ずんだ
見た目とは違って、決して変な味がする訳ではありませんでした。
「どう…かな?」
アンが口に入れた事を目ざとく見付けてエリスがおずおずと声をかけました。
「え?あ、その…美味しいと思います」
「正直に言っていいよ?」
「えっと…ちょっとだけ私には辛いけど」
「そっか。じゃ、次は辛さ控えるね」
「あ、いえ、いいんです。大丈夫ですよ」
その言葉が嘘では無いと示すかの様に、アンは料理に積極的に手を伸ばします。
エリスが、そしてノインがそんな様子を微笑みながら見守っていました。
やがて食事も済み(と言っても全体の八割をエリスと全が食べたのですが)、
アンも加えて片付けをしている最中。皿を運ぶ為に戻ってきたエリスにノインが
尋ねます。今、その場には二人しか居ません。
「首尾は?」
エリスはふっと溜息をついてからノインに力なく微笑んで見せます。
「失敗でした」
「そうですか?美味しそうに食べていたのは、別に気をつかっていたからという
訳でも無かったと私には見えましたが」
「だから失敗なんです」
「と言うと?」
「わざとアンの嫌いな料理を目の前に出したんです。それなのに気付きもしない」
「ああ…」
「ま、判ってたんですけどね。そんなに簡単な問題じゃ無いって」
「あせらない事です」
「ええ」
そう言うとエリスは残った皿を全部積み上げてキッチンへと姿を消しました。
*
食後のお茶を飲みながら雑談をしていた最中。アンがもじもじと小さな声で言います。
「あの…」
三人の視線が自分に集まり、少したじろぐアン。その目が見詰めていた先、全を
間に挾んでやや離れて座っているエリスが応えます。
「何?」
「泊まっていらっしゃるんですよね?」
「暫く一緒に暮らしますよ」
そう答えたのはノイン。アンはその答に満足した様に頷くと笑顔を見せました。
「嬉しいです」
「何故?」
「このお家、私しか女性が居ないから…」
エリスがテーブルをばん!と叩いて席を立ちました。テーブルがみしりと音を立て、
ノインが渋い顔をします。
「ノイン様!アンの風呂とか着替えとか覗いてないでしょうね!」
「してませんよ(未だね)」
「シルクッ!アンのベッドに潜り込んだな!」
「は〜い。毎日…」
ばこん。全の頭に拳骨が命中します。
「今夜から独りで寝ろ」
事の展開について行けなかったアンがおろおろしつつ何とか会話に割り込みます。
「そ、そういう事じゃ無いんです…」
「アン、男ばっかりで怖かったんだろ?」
「違います。ただ何となく寂しくなる時があって…昼間はユキさんが訪ねてくれる
から。でもユキさんは夜は帰ってしまいますし…」
「これからは話相手が何時も一緒です。ね?」
ノインの意味ありげな問いかけにエリスは舌を出す事で答えました。
「だから嬉しいんです。仲良くしてくださいね、エリスさん」
「“さん”なんて付けないでいいよ、エリスって呼んで。第一、同い年だよ私達」
「え?そうなんですか?」
「ナンだとコノぉ〜、もういっぺん言ってみろ!」
「何にも言ってないでぃ〜す」
エリスが大袈裟な仕草で笑顔で怒って何故か全を身代わりにぽかぽか叩いている
様を見て、アンはくすくすと何時までも笑っているのでした。
*
夜。アンの隣りの部屋をあてがわれたエリス。二つの部屋の間の壁に両手を当て、
額を着けててそっと呟きます。
「すぐ傍にいるよ、安心して」
声は届かなくても、その夜のアンは深く安らかな眠りに就いていました。
(第171話・つづく)
# 嵐の前の静けさ…のはず。^^;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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