「IPO訪問」(万能科学研究所(マンケ:6969)

バウハウス風の広い吹き抜けを持つロビー、アクセントに椰子の鉢
植えが置かれたフロアに茶室の敷石のようなランダムな文様の絨毯
が敷き詰められて北欧風ピーチ材の椅子とテーブルがまばらに配置
されている.
そのパン画面からカメラが引くと上品なピンクのスーツに流行りの
ペンダントヘッドが胸元のVラインにきらりと光る女子アナウンサー
がマイクを持って立っている.

アナ「今日のIPO訪問は、いまインターネット社会で画期的な
   市場を開拓していらっしゃいます万能科学研究所にお伺い
   しております.」
   
アナが椅子に座ると、向かいに男が既に座っていることが画面に入っ
てくる.

アナ「北條武志社長は失業のどん底からこの万能科学研究所を立ち
   上げ、さらには誰も考えなかったようなインターネットビジ
   ネスをはじめられました.
   それでは、このビジネスモデルに関して社長様から
   ご説明をお願いいたします.」

北條「うーんそうですね、ぼくは楽天とかライブドアの人なんかと
   は違って金儲けをしようとしてはじめたわけではないんです.
   インターネットは基本的に匿名の世界なんですよ、たとえ利
   用者が名前を明示していたにしても、それが本当かどうかな
   んて検証する手間なんかかけていられませんから、本質的に
   は全て匿名なんです.
   政府なんかは法律を整備してなんとか対処しようとしていま
   すが、法律はあくまでも法の下にあるものを取り締まるもの
   ですから法の下にあることを放棄しいるいわゆる「無法者」
   には全く意味がないんです」

アナ「なるほど、どんなに手段を講じても適用の範疇を外れていた
   ら意味がありませんからね」

北條「でも、昔の人はちゃんとこのような無法状態に対処する手段
   を持っていたのです」

アナ「昔の人といいますと?」

北條「戸籍も税制もない、つまり法律が人を支配する以前の世界で
   は、人の生活を守る手段は規則でもなければ、特定の個人を
   相手にした争議でもなかったのです、それが呪法なんです」

アナ「わたし占いは好きです」

北條「そうそう、占いもそうですね、占いは個人を特定する必要は
   ありませんね、どっちかというとあるステレオタイプに個人
   を当てはめていく方向にあります.
   占いにとって相手が誰であるかなんか関係ないのです.
   そして占いを求める人も自分のアイデンティティなんかどう
   でもよいのです、むしろアイデンティティが曖昧になるとこ
   ろに安心を得る傾向がありますよねぇ」

アナ「そうですね、どんなタイプに自分が入るのかとっても気にな
   りますけど、もし、どのタイプにも当てはまらなかったら、
   きっと不安でしょうがないでしょうね」

北條「つまり呪法はまさに匿名性のインターネット時代にぴったり
   のテクノロジーなのです.」

アナ「なるほど、深い洞察があって新しいビジネスモデルが生まれ
   ていたのですね、
   現在、万能科学研究所(マンケ)ではヒット商品
   SPAMMER除けお札「簾覇鵡除けの有難い御札」の売れ
   行きが好調で、他のソフト会社の市場参入も次々と発表され
   てきているわけですが、今後の展開としてはどのようなもの
   をお持ちなのでしょうか」

北條「まあ、次々と他の会社にマネをされるのはパイオニアー企業
   の宿命といいますが、私はあたしい市場を次々に開拓するこ
   とこそ使命と考えていますから気にしてはいないのです.
   じつは次の新製品として「山姥のお札」という商品を企画し
   ております.これはまた新しい市場を開拓し、市場リサーチ
   会社は市場規模は3千億と試算してきています.
   新しい市場を開拓し、経済を活性化し雇用を増やし地域に還
   元することがこの会社の存在意義と思っていますので、
   みなさまのご支援を今後ともよろしくお願いいたします」

アナ「きょうはいまインターネット経済に呪法のソフトウェアとい
   う新風を吹き込んで脚光を浴びているIPO
   万能科学研究所(マンケ)北條武志社長にお話を伺いました.
   さて来週は温泉でラーメン界に嵐を起す風雲児
   株式会社ほくなんホールディングスです.
   ご期待ください、それではごきげんよう」