オエーッ



 キリスト様がお生まれになる前の時代のことであります。

毎日毎日つらい労働を強いられている奴隷が、ゼウス様に願いをかけておりました。
「おお、ゼウスよ。
 どうか私の声を聞いてください。
 どうかこのような無意味な奴隷労働の毎日から私を解放して、
 酒池肉林の快楽の世界へ私を導いてください。
 おお、ゼウスよ。」

ある日のことです。
天から声が聞こえてきました。
「よかろう。」

奴隷はゼウス様の後をついて歩いておりました。
見たこともない天上の世界をどこまでもどこまでも歩き続けました。
最後に、とある洞窟の前でゼウス様は立ち止まられました。
「ここじゃ。
 ここがお前が酒池肉林の快楽の世界へ入れる場所じゃ。」
ゼウス様に続いて洞窟のなかへ入っていくと、
前方に巨大な穴が開いております。
穴の中をのぞき込んだ奴隷は思わず オエーッ と叫びました。
穴の中にうじゃうじゃしていたものは、
トカゲ、蝮、コブラ、アナコンダ、そして無数の毛虫、ゴキブリでした。
そいつらが、足の踏み場もないほどにうじゃうじゃしていたのです。
「おお、ゼウス様。
 私が望んだものはこういうものではありません。
 酒池肉林の快楽の世界です。
 それは、例えば、全裸の人間の美女の集団のようなものです。」
ゼウス様の宣うに
「おお、ホモサピエンスよ。
 世界は絶対的なものではない。相対的なものじゃ。
 物理的な速度でさえ絶対的なものではない。相対的なものじゃ。
 どうして価値が客観的で絶対的なものであり得るというのか。
 価値とは、対象と主体の感性のメカニズムとの相対的な関係のこと。
 対象の方を変えることと汝の脳の感性のメカニズムの方を変えることとは等価じゃ。 

 違うか?」
 
こう言ってゼウス様は奴隷の頭へ自分の手をあてられました。








    宇宙のどこかの高度な知的生命体が
    ホモサピエンスの君と彼女との恋愛シーンを見て
    オエーッ と叫んでいるかもしれない