ども、みやこしです。

今期、一番の期待と不安とを持って待っていた「英国戀物語エマ」。あまりに
も期待通り、一部は期待以上の出来に、衝動的に記事を書いてしまいました。
最終回までこの志気が続くかどうかはちょっと不安ですが、とりあえず始めて
みます。

「英国戀物語エマ」第一章「贈り物」

■アバンタイトル
 霧の中にガス灯の灯が浮かぶ、まだ暗いロンドンの早朝。小鳥の声だけが響
く人気の無い街路を、野菜を積んだ荷馬車が行く。手綱を操る父親の左右に陣
取った姉弟が、とある家の玄関を掃除している一人のメイドに、元気よく挨拶
する。メイドは、少し手を止めただけで、また黙々と玄関の手入れを始める。
やがて掃除も終わり、道具を持って家の中に入ろうとしたメイド−エマは、明
るくなってきた空に飛ぶ鳥の群れをしばし見上げる。

 と、いう感じで始まりました「英国戀物語エマ」。この導入部はオリジナル
です。霧、ガス灯、荷馬車、そしてメイドさんと、作品の舞台となる19世紀末
の英国はロンドンの世界に引き込まれるような、静かな始まり。この導入部だ
けで、何か期待が膨らみました。

■オープニング
 梁邦彦氏作・編曲のオープニングテーマ「Silhouette of a Breeze」。軽快
なリズムのインストルメンタル曲に乗って、前半はロンドンの下町の雑多な庶
民の生活風景が、後半は華やかな上流階級の舞踏会が描かれ、この作品の重要
な要素である「2つの階級(クラス)」を描写しています。また、この2つを
挟むように描かれる、蒸気機関車と蒸気船は、この時代が、伝統に対する革新
の時代でもあった事を象徴しているかのようです。そして、最後はロンドンの
街を見下ろす俯瞰の画と、右上にタイトルが出て締め。このタイトルが、(画
面中央ではなく)右上に出す控え目な所とか、でも「エマ」の二文字は大きく、
アニメ版で追加された「英国戀物語」の文字は小さく目立たないようにしてい
る所とか、何か良いなぁと思ってしまいます。また、オープニングアニメーシ
ョンに、エマやウィリアムをはじめとする主要キャラの誰も描かれていない所
なんかも、凄く良いなぁ、と。

■衝撃の出会い
 掃除をしているエマ。エマが床に撒いているのは、お茶の出し殻のようです。
これを撒いてから掃くと、良い香りが立つんだそうです。この場面もオリジナ
ルです。
 そこに訪ねてきたウィリアム坊っちゃま。ノックするのを躊躇っているうち
に、先にドアを開けられて、その角に思いっきり顔面をぶつけられてしまいま
す。仰け反る坊っちゃまと、飛んで行く帽子を追う猫が、スローモーションで
描かれるのが妙に可笑しい(^_^;

 しゃがみ込んでいる坊っちゃまに気付いたエマは、慌てて声を掛けます。
「すみません、大丈夫ですか!?」
 ここでようやくエマの第一声。エマの声は、冬馬由美さん。原作では、エマ
の声を形容する言葉としては、「高すぎない」ぐらいしかありません。アニメ
化されるにあたって、不安要素の一つがキャラの声だったのですが、さすがで
す。ほぼ違和感がありませんでした。
 一方、覗き込んだエマに思わず見惚れてしまう坊っちゃまの声は、川島得愛
さん。良い声ながらも、微妙にヘタレそうな感じがまたピッタリ。落ちた帽子
を拾いに行くエマのスカートの裾が軽く翻る所など、アニメのスタッフはよく
判ってるなぁという感じ。
 そして、ケリー・ストウナー先生登場。声は中西妙子さん。こちらは、落ち
着いた知性を感じさせるような、きちんと歳を重ねた女性の声。ここまでくる
と、キャスティングに関してはあまり心配は無さそうに思えます。

■師弟再会
 居間でお茶を貰いながらも寛ぐこともできず、ケリー先生にやり込められて
いる坊っちゃま。先生は、昔、坊っちゃまのガヴァネス(家庭教師)をしてい
た事があり、それ以来坊っちゃまは先生に苦手意識を持ってしまっているので
す。グレアムさんの使いがやって来て、先生が席を外すと、ようやく一息つい
た感じの坊っちゃまは、暖炉の上に、自分の13歳の時の写真が飾ってある事に
気付きます。エマも、先生からこの写真については聞いていたらしく、「お会
いして、すぐに判りました」と言います。でも、良い雰囲気もそこまで。外出
する先生にせき立てられるように、坊っちゃまは追い出されてしまいます。そ
のせいか、手袋を忘れている事に気付いたエマは後を追いますが、タッチの差
で渡す事ができなかったのでした。

 ここは、原作から改変した部分が大きいです。

 まず、グレアムさん(この人が何者なのかは不明。単に、この日先生と会う
約束をしていた人、というだけのようです)からの連絡が、原作では電話がか
かってきた所が、メッセンジャーボーイが伝言を持ってきます。この時代、英
国の電話所有者は全人口の1%にも満たなかったそうで、先生の家に電話があ
るのは不自然という事でしょう。原作には、この電話のように、考証がおかし
い点が幾つかあるみたいです。この辺りは、「エマ ヴィクトリアンガイド」
を作った村上リコさんが考証役として参加されているようですので、今後も原
作との差異が出てくる事でしょう。ちなみに、小説版でもこの点は修正されて
います。

 次に、エマが、坊っちゃまが暖炉の写真の少年である事にすぐに気付いた、
という点。原作では、坊っちゃまに言われるまで気付きませんでした。自発的
に気付くか、言われてから気付くかという、この第一印象の差は結構大きいよ
うな気がするのですが、これが今後の二人の関係に影響するかどうかはまだ判
りません。

 そして、手袋を忘れる坊っちゃまと、追いかけるエマ。原作では、坊っちゃ
まはエマと話す機会を作るため、わざと手袋を置き忘れます。先生はその企み
を見抜いていながらも、エマに手袋を届けさせるのです。で、追いかけてきた
エマの前に、偶然を装って現われた坊っちゃまは、目論見通りエマを散歩に誘
い出す事に成功します。一方、アニメでは、坊っちゃまは素で手袋を忘れてい
ったようです。先生がエマに追いかけさせるのも、エマがあまりにも気にして
いるようなのを見て、といった感じです。この辺り、いきなり先生が二人の仲
を後押ししようとしている原作と比べて、先生の態度がまだ中立的な感じがし
ます。

■ラブレター
 手袋を渡せずに戻ってきたエマ。郵便配達員から、先生への手紙と、配達員
からのラブレターとを貰います。でも夜中、断わりの手紙を書くエマ。

 今回の話は、原作の第一話・第二話から構成されていますが、この場面だけ
第四話からになっています。前倒しで持ってきたのは、エマの人となりをでき
るだけ今回で描きたかったからではないか、と推測します。エマがモテる事、
にも関わらず「皆断ってしま」っている事、読み書きを先生に教わった事、等
々。エマの性格や、先生が単に雇い主というだけでなく、エマにとっても恩師
である事が判るシーンです。

 あと、平行して描かれる坊っちゃま。バカでかい屋敷、バカでかい部屋、バ
カでかい机、壁一面を埋めつくす本棚、おばさんなメイドに「坊っちゃま」と
呼ばれる所等々、彼が上流階級の人間である事が描かれています。また、物思
いに耽る坊っちゃまに、一瞬エマの姿がインサートされ、彼がエマの事を想っ
ている様子が判ります。このように、キャラの想っている場面が、フラッシュ
バックのようにいきなり挿入されるのも、原作で度々使用されている手法です。

■再会
 小さな花束を持ってエマを待つ坊っちゃま。とある店で時間をつぶしている
所で、偶然通りかかった買い物帰りのエマを見つけ、散歩に(半ば無理矢理で
すが)誘い出す事に成功します。二人並んで公園を散歩している時、エマの眼
鏡の度が合っていない事に気付いた坊っちゃまは、新しい眼鏡をプレゼントし
ようと言い出しますが、エマは即答を避けます。ちょうど雨が降りだした事も
あり、その日は家まで送ってもらった所でお別れ。花もしおれてしまった事だ
し、手袋はまた出直してきた時に、眼鏡の事を考えておいて下さい、と言って
去る坊っちゃま。先生は、しおれた花を持ってきた坊っちゃまに呆れますが、
妙に嬉しそうなエマの様子を見て微笑みます。

 エマを待ち伏せする坊っちゃまはオリジナル。おそらく、家からエマが出て
来るか、外から帰って来るかするのを待っているのでしょう。前を行き過ぎる
男三人組の真ん中、アルと呼ばれていた男、「ケリーは人使いが荒い」と文句
を言っていますが、彼はケリー先生の昔馴染みです。重要人物の一人ですが、
今回は顔見せだけ。

 市場で買い物をしているエマに挨拶している姉弟は、冒頭で荷馬車に乗って
いた姉弟です。冒頭部でもやっていましたが、弟が、姉の台詞の最後の所を真
似して言うのは原作通り。この市場の雑然としている所も、なかなか良く雰囲
気が出ていると思います。

 坊っちゃまが時間をつぶしている店は「MARTIN & SARAH」という名前。皿、
壺、船や飛行機の模型、カメラに時計、傘に甲冑と、いったい何の店なのかよ
く判りません(^_^; 骨董品屋なのでしょうか。店員が勧めた人形の「シノア調」
というのは、要するに中国の事です。最後に勧めた「お茶を淹れる時計」、
「目覚まし時計と湯沸かしを合わせた大変珍しい品」なのだそうですが、実際
にあるのでしょうか。また、この店員のお姉さんにも無駄に気合いが入ってい
るのも、よく判ってるなぁという感じです。

 坊っちゃまに声を掛けられたエマが、すぐ前に来るまで誰だか気付かないの
は、眼鏡の度が合ってなくてものがよく見えないためです。原作では、ここで
眼鏡を買おうという話になるのですが、ここでは、先に飛ばされた散歩イベン
トに入ります。二人が散歩しているのは、ハイド・パーク。坊っちゃまがクリ
スタル・パレスの話などをしているのは原作通りですが、エマが花売りの貧し
げな少女を気にしているのはオリジナルです。これは、彼女の生い立ちを暗に
示す場面ですが、それは後に語られる事になるでしょう。この散歩の場面は、
原作では単行本化の際に書き下ろされるおまけ漫画で描かれている所です。原
作の単行本では、ほぼ各話につき1頁ずつ、各話の続きの話が「Sequel(続編、
結果)」として書き足されており、これがまた原作の楽しみだったりします。
アニメでこの「Sequel」の部分をどうするのかがまた不安要素だったのですが、
ちゃんと取り入れてくれるようで嬉しい限りです。

 坊っちゃまがエマに力説する、
「だってホラ、鳥は飛んでるし、花も咲いてるし、子供だって転んでるじゃ
 ないですか!全く問題無いですよ!」
という、何が全く問題無いのかさっぱり判らない、理由にもなっていない理由
も、ほぼ原作通り。ただ、原作では「花も咲いてるし」の所が「猫だって歩い
てる」でしたが、場所が通りから公園に変わった事を受けての変更でしょう。
どちらにしても、ワケが判らなくて全然理由になっていないのは同じですが。

■眼鏡
 夜、自室で物思いに耽るエマ。思い出しているのは昔の事。昔から目が悪か
ったエマは、食器を落として割ったり、隅の埃を見落としたりと、失敗が続い
ていました。ある日、エマの目が悪い事に気付いた先生は、エマに眼鏡を買っ
てあげます。眼鏡を通して、初めて見るクリアな世界に感動した事を忘れない
エマは、翌日、坊っちゃまに丁重に断ります。でも諦めない坊っちゃまは、他
に何か欲しいものはないかと押しまくり。その勢いに負けたのか、エマはレー
スのハンカチが持てたら、と言います。純白のレースのハンカチを嬉しそうに
見て、心からお礼を言うエマと、そのエマを見て照れる坊っちゃま。こうして、
メイドと上流階級の人間との、階級(クラス)を越えた恋が始まったのです。

 さて、今回のクライマックスシーン(爆)です。原作では、エマが眼鏡を外
すだけで1頁を費やし、それを担当に指摘された森氏が
「そこが大事なんです!」
と力説した、という場面。アニメ化されるにあたっての最大の不安要素が、こ
の原作の「間」を上手く表現してくれるか、という点でした。しかし、今回に
関しては全く問題無いどころか、まさにこうしてほしかった、という期待通り
の出来でした。髪を下ろし、ブラシで梳かす。鏡を覗き込み、眼鏡を外して鏡
台に置く。眼鏡の縁をなぞる指と、エマの瞳に揺らめくロウソクの灯。全ての
動作がゆっくりと、丁寧に、雰囲気たっぷりに描かれているのが素晴しい。ま
た、ここでも坊っちゃまの姿が一瞬インサートされます。

 一転して、回想シーンの髪を三つ編みにした小さいエマがまた可愛いです。
おそらく、先生の家で働くようになって間もない頃の事でしょう。目が悪くて
失敗ばかりしていたエマを救ったのは、先生がくれた眼鏡でした。エマにとっ
て、この眼鏡は他の何にも換え難いものだったのです。

 結局、坊っちゃまにレースのハンカチをプレゼントされるのも、坊っちゃま
が「100枚でも200枚でも!」と言うのも原作通り。坊っちゃまの台詞が可笑し
いですが、レースのハンカチが「憧れの品」であるエマと、レースのハンカチ
などいくらでも買える坊っちゃまとの「違い」が端的に表わされている場面で
す。

 夜、プレゼントされたハンカチを、エマが頬に当てるのはオリジナル。原作
では、手触りを確かめてタンスにしまうだけなのですが、この動作が入る事で、
坊っちゃまに対するエマの想いが、より明確に描き出されています。

■エンディング
 梁邦彦氏作曲の「Menuet for EMMA」。やはりインストルメンタル曲ですが、
軽快なオープニングと異なり、リコーダーの音色が叙情的でやや寂しげな印象
もある曲です。バックのアニメーションは、家具や小物がセピア調の色彩で描
かれた静止画。最後に出て来るのがエマのものらしき眼鏡、というのも、よく
判ってるなぁという感じです(^_^;

■次回予告
 第二章「二つの世界」。
 坊っちゃまのご家族総登場。さらにエレノア嬢まで登場するようです。彼女
らが出て来るのは、原作では単行本第2巻以降。最も登場が早い、坊っちゃま
の父リチャード・ジョーンズ氏も第1巻の最後の話でようやく登場ですので、
話の順番をかなり入れ替えてくるようです。まぁ、確かにいきなり「あの人」
が出て来ると、世界観がよく判らなくなりそうなので、先に「19世紀末の英国」
という作品世界をしっかり見せておこう、という配慮なのかもしれません。

■全体をみて
 原作からの改変が色々とあるものの、作品の雰囲気やキャラのイメージは概
ね原作をよく再現、またアニメーションなりのアレンジを上手く施していて、
正直言って「まいりました」という気分です。エマが眼鏡を外す場面、翻るエ
マのスカート、無駄に気合いが入っている女性店員など、作者が「そこが大事
なんです!」と力説した所もしっかり描かれていて、何度も書きましたが「よ
く判ってるなぁ」と思いました(^_^;
 作画もお見事で、3DCGも背景動画などに上手く取り入れていると思います。
ただ、これが第1話限りで終わらないだろうか、という不安は残りますが
(「十二国記」も、第1話は作画の密度が尋常じゃ無かったけど、後は並だっ
 たし…)。

では。

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宮越 和史@大阪在住(アドレスから_NOSPAMは抜いてください)
BGM : マジカルちょーだいっ by 宮崎羽衣