Path: ccsf.homeunix.org!ccsf.homeunix.org!news1.wakwak.com!nf1.xephion.ne.jp!onion.ish.org!onodera-news!newsfeed.media.kyoto-u.ac.jp!cancer.nca5.ad.jp!133.16.26.50.MISMATCH!nns!chiaki From: chiaki@ipc.kit.ac.jp (Tsukamoto Chiaki) Newsgroups: fj.sci.math Subject: Re: 分配律で分配する側の演算 Date: Sun, 25 May 2003 19:36:15 +0900 Organization: Kyoto Institute of Technology Lines: 94 Message-ID: <030525193615.M01396373@ims.ipc.kit.ac.jp> References: <20030524230728.28CB.TETRYL@tokyoprogrammer.com> <20030525151255.21EA.TETRYL@tokyoprogrammer.com> NNTP-Posting-Host: ims.ipc.kit.ac.jp Mime-Version: 1.0 Content-Type: text/plain; charset=iso-2022-jp X-Trace: nns.kit.ac.jp 1053858975 877 133.16.16.10 (25 May 2003 10:36:15 GMT) X-Complaints-To: nns NNTP-Posting-Date: Sun, 25 May 2003 10:36:15 +0000 (UTC) X-Newsreader: mnews [version 1.22PL5] 2001-02/07(Wed) Xref: ccsf.homeunix.org fj.sci.math:140 工繊大の塚本と申します. # 週末は読書と睡眠. 「分配する側」というのは曖昧ですが, In article <20030525151255.21EA.TETRYL@tokyoprogrammer.com> Shinya Hayakawa writes: > 環の定義は色々な教科書で見てきましたが、分配する側の演算を可換群に > 限定しているものは初めてでした。 していない教科書の例を挙げていただけますか. 集合 R が二つの演算 φ: R×R → R と ψ: R×R → R を伴い, 一つの演算 φ については可換群となり, もう一つの演算 ψ は どちらの成分についても (Z-加群 (R, φ) に関して) "linear", つまり, ∀ r, s, t ∈ R, ψ(φ(r, s), t) = φ(ψ(r, t), ψ(s, t)), ∀ r, s, t ∈ R, ψ(r, φ(s, r)) = φ(ψ(r, s), ψ(r, t)), になっている(分配律が成り立つ)とき, (R, φ, ψ) を「環」と 呼びます. 普通の「可換環」なら, 演算 ψ が「結合的」であり「交換的」 であることも要求しているでしょうし, 単位元 e をもつ, つまり, ∃ e ∈ R, ∀ r ∈ R, ψ(e, r) = ψ(r, e) = r, であることも要求するでしょう. 一方, 「リー環」なら, 演算 ψ が「結合的」であったり「交換的」であったりすることは要求 されません. が, 他に要求されることは, 勿論, あります. > 可換群と単位的可換半群の違いは逆元を持つかどうかだと思います。 > それがどう分配律に影響するのかが、理解できませんでした。 元々分配律は可換群となる方の演算 φ ともう一つの演算 ψ とを対等に扱うものではありません. 分配律がどちらの演算に ついても対等に成立するのは, 集合 A の部分集合の全体 P(A) に集合の結び ∪ と集合の交わり ∩ という演算を考えたもの のような, 特別の場合だけです. > 単位的可換半群の方の演算で分配する事はできない証明 > といったものは可能なのでしょうか? 「そういう定義(公理)になっている」ということですので, 「証明」するようなものではない訳ですが, どちらの演算でも 分配する事が出来る場合があることは, 上の (P(A), ∪, ∩) という例で分かります. > 単純に、分配律は優先順位の低い方の演算で分配しなければならない > といった説明だと自分のような素人でも合点がいくのですが > それだと語弊が生じてしまうのでしょうか。 二項演算を演算子を間に挟む形で書くことにして, φ(r, s) を r # s で, ψ(r, s) を r & s で, 表したときに, r & t # s & t を (r & t) # (s & t) のこととする習慣のことですね. この習慣も分配律も二つの 演算を同等に考えてはいないことの結果でしょうが, それが どちらで分配するかの理由という訳ではないでしょう. カニエ先生の In article <20030524230728.28CB.TETRYL@tokyoprogrammer.com> Shinya Hayakawa writes: % 今月号の数セミを読んでいて、とても気になった内容がありました。 % (おそらく初歩的なモノ..) % % 下記 2003/6号 p.41からの引用です。 % << % Nに・に関する逆元を付け加えると、非負の有理数の全体Q+になる。・に関し % ては可換群、+に関しては単位的可換半群、だが、可換環ではない。分配律が成 % り立たないからだ。可換群になっている演算の方で分配しないといけないので、 % x + (yz) = (x + y)・(x + z) % が要求される。が、これは成り立たない。 % >> の突っ込み所はそこではなくて, N = {0, 1, 2, 3, ... } に, その 0 の「積」に関する逆元は どのように付け加えるのか. 「非負の有理数の全体」は「積」に関して可換群ではない. 「正の有理数の全体」は「積」に関して可換群であるが, 「和」については「単位的」(単位元をもつ)ではない. というところでしょうか. -- 塚本千秋@応用数学.高分子学科.繊維学部.京都工芸繊維大学 Tsukamoto, C. : chiaki@ipc.kit.ac.jp