Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
携帯@です。
本年の妄想初めです。
今年も宜しくお願いします。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
この記事は、第174話(その5)です。
Message-ID: <newscache$j0vlqi$nc4$1@news01a.so-net.ne.jp>
にぶら下げる形となっています。
(その1)は、<newscache$7vxlqi$196$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その2)は、<newscache$vkqyqi$s7d$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その3)は、<newscache$itlbri$943$1@news01f.so-net.ne.jp>から
(その4)は、<newscache$g3gzri$c4h$1@news01e.so-net.ne.jp>から
それぞれどうぞ。
では、改ページ後にゲームスタート!!
^L
★神風・愛の劇場 第174話『盲目の愛故に』(その5)
●翌朝・山茶花本邸
翌朝、普段より少し早めの時間に起き出したツグミ。
寝室毎にある洗面所(場所は、昨日案内された時に教えて貰いました)で顔を洗い、タ
オルで拭き終わった頃合いで部屋の扉が遠慮がちにノックされました。
「どうぞ」
丁度扉の前の辺りを歩いていたツグミは、自ら扉を開けました。
「お早うございます。まだお休みかとも思ったのですが」
予想通りメイドの椿の声がしました。
「普段は、もう少し寝ているのだけど、目が覚めちゃって」
「お嬢様はもう出かけられますので、宜しければ一緒に朝食をと申されまして」
「山茶花家の朝食は早いのね?」
「実は新体操部の朝練がありまして」
「ああ、なる程ね」
日下部さんもやはり朝練に出かけている頃だろうか。
昨日はあんなことがあったのに大変ね。
そんなことをツグミは思います。
ツグミは、ちょっと待っててと言い残して着替えるために扉を閉めるのでした。
*
朝食はツグミの予想に反して和食でした。
昨日と同じ食堂で、納豆だの鰺の干物だのといった良くも悪くも庶民的な料理の匂いが
ツグミに届きます。
「お早うございまぁす」
ツグミにやや遅れて、全も食堂の中に入って来ました。
彼に続いて足音がするのは、恐らく昨日出会った彼のお世話係のメイドなのでしょう。
ですが。
「(随分多いわね…?)」
全の後に続く足音はどう考えても半ダース程いると思われました。
「お早う、全君。もう大丈夫なの?」
ツグミが聞こうと思っていたことを先に弥白が言いました。
「大丈夫でぃす」
やや、元気が無い声で全は応えました。
昨日お風呂でのぼせたというよりは、単に寝不足という感じの声。
「全君、眠そう。昨日、眠れなかったの?」
「……ええと、夜中に目を覚ましてしまぃまして…」
そのまま眠れずに過ごしてしまったという訳ねと納得したツグミ。
ただ、全が発言した後で、ツグミ達の後ろに控えていた「お世話係」のメイド達の忍び
笑いが聞こえたような気がします。
あまりにも小さかったので、ツグミ以外には聞こえていない程の声。
それ故、ツグミ自身ですら本当に笑っていたのかどうか、自信がありませんでした。
*
「どうかしたの、ツグミさん?」
「あ、いいえ。何か呼びかけられたような気がして」
突然後ろを振り向いたツグミに弥白は呼びかけました。
ツグミは弥白の呼びかけに応え、正面に向き直りましたが、何となく納得がいかないと
も感じられる表情を浮かべています。
ツグミが顔を向けた先。そこには、全を連れて来たメイド達が居並んでいました。
弥白に見つめられ、緊張の色を浮かべているメイド達。中には、頬を紅潮させている者
もいます。
弥白はその中で最も位の高いメイドの目を見つめます。
自分が未だ小さな子どもの頃から仕えているそのメイドは、弥白の視線に全くたじろぐ
ことなく微笑みを返します。
何も心配ありません、お嬢様。
その目は、いつものようにそのようなことを弥白に告げているようでした。
「(一体、どんなお世話をしているのかしら…?)」
心の中でため息と共に呟いた弥白。しかしそのことは深く詮索してはいけないと、かつ
て祖母から言い渡されています。
もちろん、今日もその言いつけを破るつもりはありませんでした。
「それでは皆様揃ったようですし、頂きましょうか」
*
「手前左側にご飯のお椀があります。お米は茨城産ミルキークイーンの低農薬有機栽培の
ものです。右側にはおみそ汁。具は若布と豆腐です。お味噌は…」
などなど、椿から朝食の内容について説明を受けたツグミ。
それらの大半は生卵があること以外は、匂いで判っていたことですが、素直に好意は受
け取りました。
「納豆は既にかき混ぜてあります。醤油と和辛子もかけてありますのでそのままお召し上
がり下さい」
ツグミは普段、あまり納豆は食べません。粘ついて何処かにつくのが嫌で、どうしても
食べなくてはいけない時だけ、あまりかき混ぜずに食べていたのですが。
「この納豆は、424回かき混ぜてありますのよ」
「うわぁ、大変ですねぇ。でも回数にはどういう意味があるのかしら?」
「さぁ。昔、曾祖母の頃から山茶花家では納豆はそうする決まりになっていたものだから。
でも、こうすると美味しいのよ」
「本当ですねやひろさま」
「食べながら話すのはお行儀悪いわよ」
「すみまへん…」
弥白達の話を聞いて、恐る恐る、かき混ぜ済みの納豆を口にしてみたツグミ。
「本当、美味しい…」
*
「佳奈子さん、後はお願いね。ツグミさん、また今度ね。ごきげんよう」
朝食後すぐに、食堂から直接弥白は椿をお供に枇杷高校新体操部の朝練へと慌ただしく
出かけて行きました。
「本当にどうもありがとうございました」
立ち上がり、お礼を言うツグミに弥白はただ微笑みだけを残して出て行きます。
残された佳奈子、ツグミと全。
「お支度が整い次第、お二人のお家まで車でお送りします」
「そんな、悪いわ」
「歩いて行くのには遠いですから、是非」
「判ったわ」
素直に、佳奈子の(と言うよりは弥白の)申し出を受けることにするツグミなのでした。
●桃栗町郊外
枇杷町と桃栗町の境界線。その枇杷町側に位置する山茶花本邸からツグミと全は、車で
それぞれの自宅へと送って貰うことになりました。
「ツグミさんの住所は弥白様から伺っているので判るのですが、全君はどこに住んでいる
んですか?」
佳奈子に聞かれた全は、桃栗町内のバス停の名を口にします。
「なら、先に全君の家に回ってからツグミさんの家に回りますね」
「お願いしまぁす」
そう言うと、ふわぁと欠伸をした全。
「全君、眠いなら車の中で眠っていて良いのよ」
「そうしまぁす」
*
自分で言ったとおり、車が走り出して直ぐに船を漕ぎ始めた全。
起こすのも悪いので、ツグミはそっとしておいてあげることにしました。
全の家の近くにあるというバス停まで、ツグミと佳奈子は言葉を交わすことはありませ
んでした。
疲れていたから、というのはもちろんありましたが、何となく話しかけづらかったから
というのが本当のところかもしれないとツグミは感じています。
やがて、全が指定したバス停に着いたと運転手が告げました。
「全君、着いたわよ」
「ふわぁい」
「何なら、家まで送って貰おうか?」
「それは良いでぃす」
寝ていたかに見えた全は跳ね起き言いました。
「それでは、僕はこれで失礼しまぁす。どうもお世話になりましたぁ」
そう言うと、そそくさと自分で扉を開け去って行くのでした。
「(大丈夫なのかしら?)」
全が無事に家にたどり着けるのかどうか、心配だったツグミ。
「大丈夫みたいですよ。お迎えの方が来ているみたいです」
佳奈子はそう言うと、車の外に出て行きました。
全のお父さんが来ているのだろうか、そう思いツグミも車の外に出ます。
「お迎えの方って?」
「あそこです…あ、見えませんよね。若い男性の方です。百メートル位先に立ってます」
「どうして来るのが分かったのかしら?」
「さぁ、偶々じゃないですか? あ、どうも」
佳奈子がお辞儀をしたように感じられたので、ツグミも教えて貰った方向にお辞儀をし
ます。佳奈子の言葉を信じる限り、会話をするには遠すぎると感じられたので、声をかけ
ることはせず、また向こうからも声はありませんでした。
*
「先程の男の方についてなんですけど」
再び車が走り出してから、ツグミは佳奈子に話しかけました。
「先程の? お知り合いですか?」
「昨日の夕食の時に話に出た、全君のお父さんじゃないかと思って」
「確か、フランス出身の。お会いになったことがあるんですか?」
「いいえ。ただ、以前桃栗学園の先生をしていると彼から聞いたことがあるわ」
「あ、そうなんですか? 一昨日、うちで行われた新体操の大会で見かけた方に似ている
気がしたのですが、もしかしたら、同一人物なのかもしれません。ただ、私も矯正しても
視力が低いので、あまり自信は無いのですが」
「そうなんだ…」
ひょっとしたら、新体操部に何か関係のある人なのかもしれない。
そんなことをツグミは思うのでした。
*
全──シルク──が近づいていることを服に仕掛けた術の力により察知したノイン。普
段なら迎えに行くことはありませんでしたが、今日はその必要を感じます。というのも、
全を連れて来た人間達に屋敷の中に入ろうとされては困るからです。もちろん結界が普通
の人間の侵入を阻止はしてくれますが、そうなればその人間達に不信感を抱かせてしまう
でしょう。
ノイン──姿は紫界堂聖──が、全を迎えに出たのはその様な理由からでした。
屋敷から結界を転移により飛び越え、バスの通る道に連なる坂道を下っていった聖。丁
度そのタイミングで、黒塗りのリムジンが停車するのが見えました。
その中から転がり出るように出て来たシルク。彼は聖の姿を目ざとく見つけ、手を振り
ながら小走りにやって来ました。
続いて、車からは眼鏡をかけた少女──佳奈子──と盲導犬を連れた黒衣の少女──ツ
グミ──が姿を現します。二人とも、聖は良く知っていますが二人の方は聖の方を良く知
っている訳ではありません。どのみち、片方は目は見えず、もう片方は視力が極端に低い
はず。仮に姿を見られても問題は無いはずでした。
遠くから、聖は二人に会釈を送ります。すると二人も会釈を返し、そのまま車の中へと
去って行くのでした。
「遊園地はどうでしたか?」
「楽しかったでぃす」
帰り道を一緒に歩きながら、聖はシルクに話しかけました。
「あの時は何処に?」
「観覧車の中にいましたぁ」
「それでは…」
「四半刻程、閉じ込められてしまいましたぁ。それと」
「何ですか?」
「エリス姉様がお空を飛ばされてましたぁ」
「ぶっ…。そうですか。空を…。それは私も見てみたかったですね」
ノインは何とか、笑うのを堪えました。ノインはエリスが飛ばされたその場面自体は良
く見ていなかったので、シルクに対して言った言葉は本心からでした。
「丁度、朝食が出来たところです。一緒に食べましょう」
「はぁい」
そう答えてから、既に朝食を食べていたことを思い出したシルク。
しかし、そのことをノインに告げることはありませんでした。山茶花家で出された朝食
は、遠慮しながら食べていたこともありシルクには少なすぎ、もう少し食べたいなと考え
ていたからです。
尤も、1回目の朝食を食べた分を考え、2回目の朝食で食べる分量を減らしたがために、
エリス達に何処か悪いのでは無いかと心配されたりもしたのですが。
朝食を食べた後で、後片づけはするから、というエリス達の言葉に今日ばかりは素直に
頷き、シルクは自分の寝室へと引き揚げました。
部屋の隅にある寝台に服を着替えるのももどかしくそのまま倒れ込んだシルクは、すぐ
に眠り込んでしまい、その日のお昼のため起き出したことを除けば夕方まで眠ったままで
いるのでした。
●桃栗町西部・ツグミの家
全の家を経由し、今度は別の県道を枇杷町の方向に向け走ると、道が空いていたことも
あり僅かな時間でツグミの家の前にたどり着きました。
家の前、といってもそこから建物までは若干の距離があり、わざわざ佳奈子が玄関まで
付き添ってくれました。
もちろん、ツグミにはそんな必要はありませんが、それを口にするようなことはありま
せん。それに、すぐに佳奈子の方もただツグミを心配した訳では無いことが判りました。
「昨日の夜の弥白様の話、覚えてますか?」
「弥白さんの? どの話かしら」
「名古屋稚空さんの話です」
「覚えてるわ」
「どうして、あの話をツグミさんに弥白様がされたと思いますか?」
「さぁ…」
「ツグミさんのことは、弥白様から伺った程度の話しか知らないので、私の勘違いだった
らごめんなさい。多分、弥白様はツグミさんを励まそうとしたのだと思います」
「私を? どうして?」
ツグミは観覧車の中で弥白と話した時のことを思い出します。
「弥白様とツグミさんは病気なんです。それもかなりの難病。弥白様はこれまでそれが深
刻な病だとは思っていなかったけど、正面から病気と向き合うことを決意されたようです。
それでツグミさん」
「はい」
ツグミは思わず返事をしてしまいます。
「貴方の病気も弥白様と同じ。ツグミさんご自身がそれをどう感じているのかは判らない
けれど。自然に治癒するのを待っているだけでは無くて、自分から治療に踏み出さないと
駄目。そういうことです」
「それは、弥白さんがそう言ったのかしら?」
「いいえ。全て、私の推測です」
「そう、それでその病気は何なのかしら」
一瞬、沈黙がありました。
ひょっとしたら、呆れた顔をしていたのかもしれませんが、もちろんツグミはそれを知
ることは出来ません。ただその時、佳奈子の手が触れていたので、彼女の身体がツグミの
言葉に反応したことだけは判りましたが。
「言って良いんですか?」
「良いわ」
「判りました。それは…」
そこで、一呼吸置いて佳奈子は言ったのです。
「恋の病」
それだけ言うと、ツグミが何かを言う前に佳奈子は踵を返していました。
(続く)
中々主役の出番にたどり着けません(汗)。
では、また。
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