Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第175話『霧が晴れたら』(その4)
●オルレアン
辺りを光が覆いつくしたのは一瞬だけでしたが、間近で見てしまった為に
稚空の視力が回復したのはそれから更に数秒の後でした。そして真っ先に彼の
目に飛び込んできたのは清潔そうな白い布を押し上げている二つの膨らみ。
更にその上に目を転じると穏やかな笑みを湛えた紅い瞳が見下ろしています。
「大丈夫ですか」
「あ、ああ」
稚空はわずかな間、その状況が飲み込めずに曖昧な返事をしていました。
微かに香る洗剤らしき甘い香りから、そうかこいつらも洗濯するのだな等と思い
ながら。そして序々に頭が冴えてくると、眼前で起こった閃光の所為で少し
よろめいた事を思い出しました。そしてどうやらエリスに寄りかかってしまった
らしいとの判断を下します。何故なら今の彼は、ぺたんと座り込んでいる彼女の
太股の間に身体を横たえている状態であったからなのでした。
「うあっ、悪ぃ」
慌てて跳ね起きようとして、再び微かによろめく稚空の肩をエリスの手がそっと
支えます。
「そんなに嫌がらなくても良いじゃありませんか」
「いや、別に嫌という事じゃなくてだな」
「では、嬉しかったですか?」
「答えにくい事を聞くなよ」
クスクス笑うエリスの視線が、自分の背後へ移った事に稚空は気付きます。
同じく背後を見れば、そこには訝しげな顔のトキが仁王立ちしており、更に
その背後からセルシアがちょこんと困った様な顔を覗かせています。
「稚空さん、怪我は」
「無い。が、いきなりだな」
「すみません、ですがセルシアはあなたを助けようと思っただけで」
「判ってる。でも勘違いだ」
「ですがそこの者が刃物を持って稚空さんの背後に」
「料理を手伝ってくれていただけさ。包丁だよ」
そう言いながら立ち上がった稚空の手を引き、トキはさっと稚空とエリスの間に
割り込むように移動します。
「何を企んでいるのです」
「別に何も。ただ」
「何です」
トキの背後になってしまった稚空に向け、首を傾げて微笑みかけるエリス。
「流石にこれは予想外の展開でしたね、稚空様」
稚空は肩をすくめて苦笑します。
「全くだ」
「説明していただけますか」
トキは正面を見据えたまま、稚空に向かって質します。
「判ってる。だが、とりあえずドカンってのは無しな」
「ごめんなさいです…」
稚空がニヤリと笑いながら振り返った事が、逆に怒っている様に感じられて
おろおろするセルシアなのでした。
*
二度に渡って中断されてしまった夕食の支度を、是非にと言うエリスに任せて
稚空はトキとセルシアに事の顛末を話して聞かせました。
「それを信じたのですか」
トキの表情が非難がましく感じられるのが気になりましたが、稚空は軽く
受け流して応じます。
「別に全面的に信用した訳じゃないさ。でも気になるだろ」
「何がです」
「何しに来たのか」
「それは気にはなりますが、敵対行為には違いありません」
「とりあえず攻撃じゃない。攻めてくるなら挨拶なんかしないだろ」
「それは判りません。彼女の物の考え方には少し独特な部分がある様に
感じますし」
「確かに少し変わっているかもな。だから尚更、興味が湧くんだよ」
「しかし家に招き入れるなどとは」
「あいつならその気になれば押し入って来られる、違うか」
「簡単でしょうね」
「なら入れてやっても変わらないんじゃないか」
「全然違いますよ」
「それに敵の一面を知っておくのも悪くない」
呆れたのか諦めたのか、トキははぁとはっきり判る大きな溜息をつきます。
「とはいえ、今更追い出そうとするのも危険かもしれません」
「力ずくだと危険だろうな。でも何となくだが、帰れと言ったら素直に帰る
気がする」
「そうでしょうか」
「試すか」
トキは少し考え、それから答えます。
「いえ。やや冒険的過ぎる気もしますが、様子を見る事にします」
「OK。とりあえずそれでいこう」
それから稚空は立ち上がり、キッチンの様子を見に行きます。トキは稚空の
姿が完全に見えなくなってから、その上で目の前のセルシアに小声で語り
かけます。
「セルシア」
「はいですです」
「油断しない様に」
「判ってるです」
「それと室内では先制攻撃はしないように」
「…しないです」
「どのみち背後から撃っても無駄だと完全に証明されてしまいましたけどね」
「あ…そういえば前にも」
「全く同じ方法でかわされました。別な対抗策が必要でしょう」
「いざとなったら二人で」
「アクセスを呼び戻します」
自分では戦力として足りないと言われたと勘違いして、セルシアはぷぅと頬を
膨らませます。トキは苦笑しながら付け加えました。
「二人でも負けない戦いは出来るでしょうが、今は敵戦力は可能な限り削ぎ
たいのです。戦いになった時には確実に勝ちたい、その為には三人でないと」
「三対一ですです…」
「気乗りのしない戦い方なのは私も同じ。でも手段を選べない状況になりつつ
ある事も判ってますね」
「はい…です」
トキとセルシアの会話は、カチャカチャと食器が触れ合う音が聞こえた事で
中断されました。そしてリビングのテーブルに夕食の品が並べられます。
「うわぁ」
「…これはまた」
テーブルの真ん中には稚空の持っている一番大きな鍋であるパスタパンから
溢れそうなくらい大量のシチュー。更にその周辺にも数皿、それぞれに違う
料理が載せられ並んでいます。運ぶのを手伝いながら、何時の間にかキッチン
の主役を奪われていた稚空が呟きます。
「どこから出したんだ、こんなもん」
「その辺にあった材料を少し頂戴しました。見た目だけで手は掛かって
いませんよ」
「そう、なのか」
とてもそう簡単な物には見えない、何処かのレストランのメニューの見本の
様な品が並んでいます。ただし良く見ると確かに、元の材料は稚空にも
思い当たる物が使われている様でした。
「一品では寂しいかと思いまして。差し出がましかったでしょうか」
「いや、いいんだ」
そう応えつつ、後でどうやって作ったのか聞いておきたいと思う稚空でした。
●桃栗町の外れ・ノインの館
普段よりは少し静かな夕食の場。最後に自分の分を取り分けてから、椅子に
座り直したユキにミカサが尋ねます。
「二人の分は残さなくて良かったのかな」
「大丈夫です。エリスの分は別にしてありますし、アンには先ほどシルクが
持っていっていますから」
「そうか。ならいいんだ」
「では、頂きましょうか」
ノインがそう宣言し、遅めの夕食が始まりました。
*
廊下が微かに軋む音に振り返ったアンの耳に、厚みのある扉の向こうから
小さな声が呼びかけます。
「姉様、夕食でぃす」
「ありがとう」
それから少しの沈黙の間。入ってくれば良いのにと考え、そらからアンは何故
彼が入ってこないのかの理由を何となく思いつきます。そして扉を開けてやると
予想通りに少し困った顔のシルクが立っていました。大きなトレイを両手で
持っていて、自分では扉を開く事が出来なかったのです。
「ごめんね、それじゃ入れないわね」
「どうぞ」
「はい。二人は未だ眠っているけれど、息は落ち着いていますってノイン様には
伝えてね」
「はぁ〜い」
回れ右で帰っていくシルクを見送り、それから自分の分の夕食を部屋の片隅の
テーブルに載せるアン。それをじっと見下ろして少し考え、呟きます。
「待ってようかな」
皿に山盛りのローストビーフに掛けられたラップをめくりかけてから戻し、
アンは再び客人の眠るベッドの脇に腰を落ち着けるのでした。
(第175話・つづく)
# どちらも個人的に最近作ってない料理。^^;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■ 可愛いんだから
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■ いいじゃないか
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Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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