Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その2)<clfs1u$sq4$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その3)<cmkpa7$n9v$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その4)<cnpq23$uoi$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その5)<couhh3$6bl$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その6)<cq3l78$ci5$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その7)<crdmn4$ft7$3@zzr.yamada.gr.jp>、
(その8)<csvnro$s1b$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その9)<cu7vhd$j9o$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その10)<cvrqev$sj1$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その11)<d1lt0f$qn6$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その12)<d2o5ec$nph$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その13)<d4irob$l6$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その14)<d6pe7d$6d1$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その15)<d7ufrf$etd$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その16)<d9lo0r$pcv$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その17)<daql5u$h5i$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その18)<dbvicg$5et$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その19)
●桃栗町町境近く
戻ってきたエリスは何事も無かった様に椅子に腰をおろし、氷が溶けて少し
薄まったアイスコーヒーをグラスに直接口を付けて半分飲み、短くふぅと
息をつきました。そして自分の方をしみじみと見つめているユキに問いかけます。
「で、様子はどうですか」
「はへ?」
「神の御子ですよ。一瞬ですが、奴に飲み込まれた様に見えたんですが」
「あ…」
ついうっかり、まろんでは無くエリスの事をずっと見ていたユキでした。
言われて初めて肝心な相手を観察していなかった事を思い出し、改めて眼下を
そっと覗きます。人影は見えず、大きく盛り上がっていた水柱も今はありません。
ですが代わりに水柱の立っていたプールの水がいびつな半球状に盛り上がり、
表面がうねうねと蠢いていました。そしてその中に微かにぼうっと薄い緑の
光が見えています。その状況を先にエリスに告げたのはアンでした。
「まろんさん、完全に捕まっちゃってる」
椅子から腰を浮かせて確認するエリス。
「あらら、本当だ」
「大丈夫かしら」
「さあね」
「平気よね」
「何だよ、神の御子の心配してるわけ?」
「だって、もし万が一の事があったら」
「場合によっては倒しちゃっても良い、って事になってるはずだけど」
「うん…判っているけど」
「けど?」
それ以上の言葉を継がなかったアン。聞き返しはしたものの、エリスにはアンの
言いたい事が何となく判っていました。敵というよりは自分と同様に争いに翻弄
されているだけの人物。元々、アンはまろんをその様に思っているという事を。
「この程度で倒れるくらいならもっと前に倒されてるだろうね。だけどちょっと
迂闊かなぁ。それと他に敵が居たらどうする気なんだろ。あのプールと一緒に
どか〜ん、とかさ」
「プールごと?」
「そうそう、特大の光球で一撃とか。これは殲滅の大チャンスかも」
聞くともなく二人の会話を耳にしていたユキがうわ言の様に呟きます。
「殲滅…」
それを聞き付け、柵の傍らで片膝立ちになっていたユキに目を向けるエリス。
すっとユキの手が上がるのを見るやいなや、エリスはテーブルの上のグラスから
氷をひと欠片手にしてユキの背後に近づきます。そして束ねた髪を横へズラして
から大きく背中が開いた水着の腰の辺りをつまんで広げ、その中へ氷をぽいっと
放り込みました。
「にひゃんっ」
叫ぶと同時にブルッと身体を震わせながらぴょんと直立するユキ。そして慌てて
また柵の高さ以下に縮こまります。そして恨みがましい目で背後を睨みました。
「何でこんな事するの…」
「それはこっちの台詞ですよ。今、裏返ろうとしたでしょ」
「裏返るだなんて、変なモノみたいな言い方しないで」
「では、もう一人のユキ様」
「二重人格じゃないもん…」
「はいはい。戦闘モード移行でも情動抑制でも何でもいいですが、とにかく
今日はユキ様の本気は無しです。後始末をする要員が居ないんですからね」
「…だからって…冷たい…」
「おかげで正気に戻ったでしょ」
「私は何時でも正気よ」
「わかってますって」
「七重人格でも二十四重人格でも無いんだからね」
「(その数、何処から出たんだろう)」
取り出そうとしてモゾモゾいじっているうちに溶けてしまい、今は冷んやりと
した染みがお尻の辺りに残る水着の上を撫でさするユキ。口を尖らせて、親に
抗議する子供の様な顔をしています。そしてエリスの方は子供を見つめる親の
様な穏やかな笑顔で見返していました。
*
水中に閉じ込められた直後には全身に緊張をみなぎらせていたまろん。ですが
相手はそれから特に動きを見せず、今は笑い声も響いてはいません。それは
不気味な沈黙ではありましたが、それでも今の状況をじっくり考えてみる為
には好都合でした。
「(こっちから攻撃する為には壁を開かないと駄目だよね。でもそうすると
途端に水が入ってくるんだろうなぁ。大体、攻撃するにしても何処狙えば
いいんだろ。何となくだけど、周りの大部分は本当にただの水だよね…)」
普通に水泳で潜った時の感覚を思い出そうと試みるまろん。その感覚と、薄い
障壁を通して伝わる力には質的な差は感じられませんでした。ただ上方に見える
水の厚みに比べると、押してくる力そのものは格段に強い事がハッキリ判ります。
「つまりこれは」
しくじったって事か、と出てしまった言葉を途中で飲み込みながら結論付ける
まろん。これは長期戦になりそうかな、と覚悟しつつありました。それは後で
思えば間違った判断だったのですが。
*
もともと客は疎らであったとはいえ、一時にほとんどの者が外に向かえば出口は
それなりに混雑してしまいます。その中に周囲からは頭二つ飛びぬけた長身の
男達の集団がおりました。
『あれ、俺ら何で出ちゃったんだっけか』
『ん〜、飽きたからだろ』
『地元の女の子と話が通じないから面白くない』
『でも夕方まで粘るってお前言ってなかったか』
『そういえば…そうだっけ?』
『なぁシドよ、違ったか』
『成る程ね…』
『はぁ?成る程って何のことだ』
『いや、悪い。独り言さ』
同族であっても、普段接していなければ免疫も出来ずましてや気付くことも
無いか…。とは思ったものの、それを言って話を面倒にしたりするシドでは
ありませんでした。
『それよりこれからどうするよ。戻るか』
『うむ。オンセンというのも結構良かった』
『良しっ、日没までに女の子とお近づきだ』
『なら、場所を変えないか』
“遊びに長けた奴”として一目置かれつつあったシドに三人の視線が集まります。
『向こうのショッピングモールの方へ行ってみよう。あっちの方が人が多いし、
その方が良い出会いがありそうな気がする』
確率的に声を掛ける相手が多い方が良いから、という身も蓋も無い理由は敢えて
語らないシド。ですが彼等に良い出会いを期待させる効果はあった様でした。
『そうだな、此処はケチがついてしまったし』
『それにしても何だったんだ、あの女は』
『割と可愛かった』
『同族かと思ったのに、違ったのかな』
『だが言葉は通じたぞ…しかし我等特有の言い回しは無かったか…』
『確かに訛ってなかった。綺麗な公用語だった』
『訛りとか言うな。種族の誇りぞ』
『口が悪いところが、また可愛い』
『あんな乱暴な女が同族のはずは無いか、やっぱり』
『では何でアンと一緒に居たんだろう』
『知らん』
『シドは知っておる様だったが、何者だアレは』
『あれって、えっと、アンと一緒に居たもう一人の方?』
『他に誰の話をしていると言うのだ』
『よく知らないけど、ノイン様辺りがアンの護衛に付けたんじゃないかな』
『護衛というが派遣軍にあんな者が居たか』
『何時から居るのか知らないけど、ノイン様の館でメイドさんしてる娘らしいよ』
『何だそれは』
『いやほらノイン様って魔王様と特別な親交があるって噂だし、それなら納得
かなって』
『話が見えん。それとあの女と何の関係が』
『え?ああ、だから彼女は王宮の侍女で』
空気が固まった事に、大げさに慌てて見せるシド。
『あれあれ、言わなかったっけ?』
『聞いてないっ!』
『それ以前にやっぱりお前の知り合いなのか』
『それじゃ駄目じゃん・・・』
『いやゴメン。知り合いって訳じゃ無いよ。こっちに来る前、魔王様に謁見が
かなった時があってね。その時、王宮の廊下でちらっと見たんだ。ずっと
忘れてたんだけど、今日会ってそういえばと思い出しただけさ』
最後の部分だけ、シドは嘘をついていました。あの日見た、彼がそれまで
知っていた同族の女性には無い、その瞳に宿る強い光を忘れた事などありは
しませんでした。そして彼女が陣の近くに居ると知った日から、お近づきに
なるチャンスをずっと待っていたという事も彼等に言う気はありません。
『それならそうと』
『そうって?』
『知っていれば違う対応をだな…』
『最初から声を掛けなかった?』
『ああ…うん、まあそうだ』
『何故?』
『それは色々と障りがあるからだ、その何だな』
『可愛かったのにな…魔王様の手つきじゃ、手出したら殺されるし』
『おい、下品な事を言うなよ』
『第一それこそただの噂だろ』
『どっちにしろ王宮付きって時点で駄目だし』
『はいはい。言わなかった俺が悪かった。終わり。次行こうぜ』
『お、おうっ!』
『昼はお前のバカ食いを見て気分が悪かった。今ごろ腹減ってきたから先ず
何か食おう』
『うげ。俺は食い物は要らん』
『外には可愛い娘居るかな。最初から外廻ってる連中に先越されない様に急ごう』
彼等の興味が外に向いた事に安堵するシド。彼女の事を知っていようがいまいが
まるで相手にされなかっただろうと思われる点は結局変わらない、という角の立つ
意見とあの娘に目を付けかけたライバルの脱落は大歓迎という思い、それらを顔に
出す様な事は勿論無いシドなのでした。
(第173話・つづく)
# あと1回…じゃ終わりそうも無いですな。^^;;;;;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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