Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
佐々木@横浜市在住です。
# 「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から着想を得て
# 書き連ねられているヨタ話を妄想と呼んでいます。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
(その1)<ckdgd5$206$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その2)<clfs1u$sq4$2@zzr.yamada.gr.jp>、
(その3)<cmkpa7$n9v$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その4)<cnpq23$uoi$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その5)<couhh3$6bl$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その6)<cq3l78$ci5$1@zzr.yamada.gr.jp>、
(その7)<crdmn4$ft7$3@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
^L
★神風・愛の劇場 第173話『水妖』(その8)
●桃栗町町境近く
事情がまるで飲み込めていない様子のまろんと都。ぽつりとその疑問を口に
する都に、シドが何の気無しといった感じで応えます。
「次…って何よ」
「あれ、言い忘れてたか。四番勝負なんだけど、だからあと三つ何か提案よろしく」
「はぁ?」
「四番って四つ?何で偶数なのよ。二勝二敗になったら決着つかないじゃない」
「それでいいんだ。決着をつける為には全勝か三勝が要る。その時に負けた方は
全敗か一勝だから圧倒的に弱かったと納得出来る。引き分けたら、互いに相手
から二勝したって事で互角と素直に認める。だから勝負四つで丁度いいんだ。
合理的でしょ?」
「ふ〜ん」
「何か判った様な判らない様なルールね。聞いた事無いわ」
黙って聞いていたアンが、ハッとした顔をして付け足します。
「豪州の、一部の地域のローカルルールです。だからお二人が知らないのも当然で」
「ん?彼等のルールじゃなくてアンさんの地元の話なの?」
「あ、えっと、それは」
アンが言い淀んだと気付かせぬ速やかさでエリスが後を継ぎました。
「コイツはアンとは前からの知り合いなんですよ。初対面なのは向こうの
連中だけで」
「そうなんだ。だからさっきも楽しそうに話していたんだね」
「ええ。そうなんです」
「まぁいいわ。変なルールだけど」
今度はエリスがアンの手を引いて少しまろん達から離れます。
『ゴメン。ありがとね』
『嘘つく時は限りなく事実に近い設定にしなよ。一番キモの所だけ嘘にして、
他は本当の事を言っとく方が真実味が出るしボロも出にくいから』
『うん』
それからエリスはまろん達の傍に戻ると、シドと同じ事を言いました。
「で、次は?」
「あ、えっと…」
「そうね…」
考えながら、特に深い意味もなく周囲を見回したまろんと都。そして二人は
ほぼ同時に同じものに目を留めました。先ほど利用した、屋内プール(にしか
思えない浴場)の中の屋外風レストランの一画に貼り出されているポスターに。
「よし、今度は」
「駄目よ、あんなの」
まろんの言葉を最後まで聞かずに即座に否定する都。
「やっぱり駄目かな」
「当たり前でしょうが。さっきの水泳はたまたま彼女が得意だったから
良かったけど、アレはどう考えても向こうに有利じゃない」
「あれって何かな」
シドの問いかけには、二人の代わりにエリスがニヤニヤしながら答えました。
「アレだろ、あの張り紙の30分でって奴」
「ちょっと待って、あれは無し」
慌てて訂正しようとするまろんでしたが、当事者達は意に介しませんでした。
「面白そうだね」
「私も構わない。いいよ、アレで」
「本当にいいわけ、あれで?」
「もちろん」
「いいさ」
都は“アンタ達、本当は日本語判って無いんじゃないの?”と言いそうになる
のを辛うじて我慢しました。そして改めてそのポスターを眺めます。
┏━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ 激辛超特盛カツカレーライス ┃
┃ (辛さ10倍・5人前) ┃
┃ 30分完食でタダ ┃
┃ 15分なら5千円進呈 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━┛
それから傍らのまろんの表情をうかがって見ました。ワンテンポ遅れて内容を
完全に理解し終えたまろんが見つめ返して来ます。
「自分で言っといてなんだけど、本気かな」
「…さぁ…でも、やるって言ってるんだからやらせれば?」
「そうだね。それにもし負けても1勝1敗だし」
その脇で、何かを話していたエリスとシド。まろんと都に細かい内容は
届いてはいませんでしたが、その中身はすぐに判りました。エリスが二人に
その事について問い掛けてきたからです。
「一つ提案があるんだけど、いいかな?」
「うん。何?」
「ルールを少し変えて欲しい」
「えっと、どんな風に」
「早食いなんて下品な事は嫌だな。何杯食べたかにして欲しい」
「え?」
「ちょっと待ちなさいよ、あんたらやっぱり」
「ちなみに俺達の方は構わないよ、了承してる」
「じゃぁ、そうしようか…」
「知らないわよ…」
自分たちの事の様に戸惑いの表情を見せる二人の前で、エリスもシドも
平然としているのでした。そして最後の良識の砦、と二人が期待した
アンはと言えば。
「まぁ、いいんじゃないでしょうか」
と、少しだけ困った様な顔で応えるだけなのでした。
*
エリスと、そしてこの勝負を受けて立った竜族の男の夫々が座ったテーブルに
大盛カツカレーが1皿ずつ運ばれて来ました。それを見たまろんと都は一気に
食欲が消失する感覚を味わいます。二人の手のひらを足した程の面積のとんかつが
炊飯器をひっくり返した様な量のご飯の上に乗っていて、その周囲を玉葱ばかりが
目立つカレーらしきドス黒いモノが覆い尽くしていました。最初、ポスターを指さし
カレーを注文した時に店員が“本当に多いですよ”“味が判らない程辛いですよ”と
何度も念を押した事がやっと実感を伴って来た心地がします。
「何処が五人前なのよ」
「その倍はありそうだよね…」
そんな二人の呟きをよそに、戦いを前にした二人は平然とカツカレーに向き合い
時を待っていました。シドがさり気なくまろん達を促します。
「用意、良いみたいだよ」
「そうね。今度はまろんがやりなさいよ」
「うん。それじゃ、始め」
盛り上げるタイミングも何も考えない唐突な開始の宣言。エリスはそれを聞いて
そっとスプーンを手に取り、勝負相手の方はシドが頷いた事で開始を知るやいなや
猛烈な勢いで食べ始めました。そして彼がスプーンに載り切れない程のご飯と
カレーととんかつの一部を口に押し込んだ時、エリスはゆっくりととんかつに入った
包丁の切れ目をスプーンで広げ完全に分かれていない衣を切り放していました。
やがて全てのとんかつが短冊型に分かれると、スプーンでカレーをすくいとんかつ
の一つに丁寧に掛けてから口に運びました。一旦食べ始めると以後は休み無く
口を動かし続けたエリス。それは充分に早食いの範疇に入る速やかさなのですが、
滑らかな動きに加えてほとんど音を立てずにスプーンを使っている為にとても
優雅に見えました。そんな風にエリスが一皿をゆったりと扱う間に、相手は同じ
一皿をとっくに平らげて次のもう一皿を注文していました。無論、注文に際しては
間にシドが通訳に入っています。
「見た目程、辛く無いのかな」
「二人とも顔色変わらないわね」
「うん」
「それにしても彼女、勝つ気が無いのかしら」
「やっぱり都もそう思うよね」
そうしてゆっくりながら淀みなく食べ続けたエリスが最初の皿を食べ終えたのが
試合開始後15分と少し経ったぐらいの頃合でした。その時には相手は既に三皿目を
食べていたのですが。
「おかわり」
紙ナプキンで口を拭いながら二皿目を注文したエリスに、まろんが見届け役の
立場でありながらつい口を挟んでしまいます。
「大丈夫?もう随分差がついちゃったけど」
エリスは何を言われたのか判らないといった風な、きょとんとした顔をまろんに
向けました。ですがすぐにニマっと笑って言います。
「まだまだ始まったばかりでしょ」
そしてスプーンをひらひらと左右に振って、さも次の皿が待ち遠しそうに
レストランの方を眺めているのでした。
※
結果として、その勝負はレストラン側からカレーと特大とんかつが底をついたので
これ以上の注文には応じられない、早食い償金は二人に出すから勘弁して欲しい
という申し出によって終了せざるをえなくなったのでした。その時点で、六皿目
辺りから急激にペースを落としていた竜族の男は十皿目の最初の一口の
スプーンを顔の前に掲げたまま脂汗を流してピタリと動きを止めています。
対するエリスは周囲の者が気付かない中で少しづつペースを上げ十二皿目の最後の
ご飯を口に運んだ後、次と言う代わりにスプーンをひらひら動かし始めた所でした。
そしてシドが自分の事の様に満足げな表情で宣言します。
「勝負、あった様だね」
そして仲間の方に向かって首を傾げて見せました。勝負した竜族の男は口を
真一文字に結んだまま、異議を唱える事はありません。まろんと都は惚けた顔で
互いを見つめています。そんな二人の耳に勝負の結果を全く驚いていない様子の
シドの声が届きました。
「ここで一旦休憩にしないかい。君たちも見ていてお腹が空いたろ」
とてもそんな気分では無かったのですが、これだけ食べた後という事もあり
エリスや相手方の為にもと納得して休憩の提案を受け入れるまろんと都。誰から
言うとも無く、二人にエリスとアンが加わった四人で別なテーブルに着きました。
勝負の舞台となった席から少し離れた、レストラン内では一番外側の席につくと
早速テーブルの上面に貼ってあるメニューを睨み出したのは都でした。
「私、ラーメンにするわ」
「え゛…食べる、の?」
「何よ、まろんは食べないわけ」
「だって食欲が」
「食欲があろうが無かろうが、食べとかないと次がもたないわ」
「別に都が戦ってるわけじゃないのに」
「見てるだけでゲッソリしたでしょうが。補給が必要なのよ」
「げんなりしたよぅ」
「カレー」
その単語に敏感に反応したまろんと都。見つめられてちょっとおどおどしながら
アンが言いました。
「もう無いって言ってましたよね」
「そりゃあれだけ馬鹿食いすれば無いでしょうよ」
「ほんと、吃驚しちゃった。何処に入ってるのかな」
まろんはそう言うと身体を傾けて丸テーブルの斜向かいに座っているエリスの
お腹をテーブルの下から覗き見します。
「何やってんのよ」
と言いながら都もテーブルの下を覗き込んでいました。二人の見つめる先には
今日最初に見かけた時と変わらない、引き締まった腹部があるだけ。そして
テーブルの上から聞こえてきた声に、まろんと都は思わず無防備に身体を
起こして頭をテーブルにしこたまぶつけてしまうのです。
「私は食ったばっかりだから飯はいいや。軽くチョコレートバナナストロベリー
トリプルパフェっての食ってみようかな」
きっと気のせい聞き間違い今の声はアンの方だと無理矢理納得したまろんと都。
やがて都とアンの前にラーメンが、まろんの前にサンドイッチが届けられた時。
エリスの前には極く普通の量のチョコパフェとバナナパフェと苺パフェが1つずつ
並んでいました。
「何だ、これだけか。少ないなぁ」
そんなエリスの言葉が、まろんと都の頭の中で呪文の様にぐるぐると旋回しつつ
響き渡っている事をもちろん当人は知るはずも無いのでした。
(第173話・つづく)
# いきなり間が開き過ぎて申し訳無い事です。^^;
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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