石崎です。

現在はNetNewsをお休み中の藤森さんによるカードキャプターさくらの
妄想小説の続きです。
アニメを題材とした二次小説(若干Hです)が好きな方のみ。

全文で約2,000行程ありますので、以下の4つの記事に分けて投稿します。
この記事は、第11話Bパートです。

・アニメ版妄想小説No.11『さくらと鏡と凸レンズ』(Aパート)
 <a44o2f$1od$1@news01dj.so-net.ne.jp>からお読み下さい

・アニメ版妄想小説No.11『さくらと鏡と凸レンズ』(Bパート)
 この記事です。

(以下続けて投稿します)
・アニメ版妄想小説No.11『さくらと鏡と凸レンズ』(エピローグ)
・おまけエピソード 『さくらと知世のクリスマス』


それでは、藤森さんの妄想小説の続きをお楽しみ下さい。


(以下、藤森さんのメールより)

アニメ版妄想小説No.11『さくらと鏡と凸レンズ』(Bパート)


★スルー大作戦 その3

まだスルーで集光攻撃を素通しさせることをあきらめていないさくらちゃん。
ゆっくりと巨大凸レンズがさくらちゃんの方へと向かってくる中、
今度は地面の中にまで落っこちないように呪文を工夫してみます。

「我が体の、足の裏を除く部分にあらゆる物を素通しさせよ!スルー!」

「ああっ、今度こそさくらちゃんは透明人間になってしまわれ・・・?
 ・・・ませんですわね・・・」
「ほえ?」

コツーン!

さくらちゃんの手をすり抜けて屋上の床の上に落ち、音を立てる星の杖。
続いて、さくらちゃんの腰に巻かれていた知世ちゃんのスカーフがずり落ち、
結び目がほどけてひらりと星の杖の上に舞い落ちます。

そして、はらはらとさくらちゃんの体をすり抜けて、
次々に床に落ちる中国風バトルコスチュームと下着。

「ほええぇぇ〜〜っ!!」

そこには、靴と靴下以外はすっぽんぽんになってしまったさくらちゃんが・・・
しかも、そのさくらちゃんがケロちゃんにも知世ちゃんにも見えるということは、
さくらちゃんは服まですり抜ける体になってしまったにもかかわらず、
まだ光が通り抜ける体にはなっていなかったのでした。

「あちゃあ〜」
「ああ・・・さくらちゃん・・・」(ポッ)
「さ、さっきは服も杖も一緒だったのにぃ!」
「ビッグやスモールはちゃんと服のことも考えてくれるんやけど・・・
 抜けちょるスルーを使いこなすんは大変なんや。」
「ほえ〜ん!」

思わずその場にしゃがみこんで、前を隠すさくらちゃん。
そして、目の前にあるスカーフでなかば隠れた星の杖を拾おうとしますが・・・

すかっ!すかっ!

「つ、杖が拾えないよう!」
「こりゃ、スルーの魔力が切れるまでそのまんまやな。」
「そ、そんなあ!」

その時、さくらちゃんに近づいて来ていた巨大凸レンズが
再びさくらちゃんに光を集め始めます。
ケロちゃんを攻撃した時とは違って焦点は甘く、
さくらちゃんの全身が丸い光の輪の中に入るように。

「あ、暑い〜っ!」
「スポットライトを浴びた、超絶美しいさくらちゃんのお姿・・・
 ああっ!なんてステキなのでしょう・・・くらっ」
「さくら〜っ!」

光り輝くさくらちゃんのあられもないお姿に、知世ちゃんはどうやら
めまいを起こしたようで、撮影しながら足元がふらついています。
ケロちゃんはさくらちゃんをかばい、巨大レンズとさくらちゃんの間に
割って入って羽を大きく広げ、影を作ってやるのでした。


★知世ちゃんのシンクロ作戦 その1

ケロちゃんがさくらちゃんへの光路を遮ると、巨大凸レンズは巨大な鏡と
連携して移動し、別の方向からさくらちゃんへの集光攻撃を続けます。

「こら〜っ!なんでさくらばっかり狙うんや!
 わいにもスポットライトを当てんか〜い!」

ケロちゃんが怒っても、巨大レンズも鏡も知らんぷりで前から後ろから、
四方八方からさくらちゃんに太陽光線を集める。
杖もカードも持てず、魔法が使えないさくらちゃんは
ふらふらと歩いて逃げ回ることしかできません。

「このままでは、さくらちゃんが全身日焼けしてしまわれますわ!」

暑さでふらふらになったさくらちゃんを見て、ようやく我に返った知世ちゃん。
さくらちゃんの服が落ちている所に走り、
星の杖とクロウカードを拾ってケロちゃんの元に駆け寄ります。

「ケロちゃん、これをお願いします!」

ビデオを連続撮影にセットして撮影ボタンを固定した知世ちゃんは、
なごり惜しそうにケロちゃんにビデオカメラを渡し、
ピコピコと動くケロちゃんの耳に耳打ちします。

「今からさくらちゃんを撮っていただけましたら、
 ケロちゃん用に大きなクリスマスケーキをお作りしますわ。」
「な、なんや?どないするんや、知世?」
「お願いしますね〜っ!」

戸惑いながらも、両手で知世ちゃんのビデオカメラを抱えて構える
ケロちゃんを後にし、暑さで逃げ回る気力をなくしてしゃがみこむ
さくらちゃんに近づいて声をかける知世ちゃん。

「さくらちゃん!」
「・・・ほ、ほえ?」
「わたくしがさくらちゃんの体に重なって杖をお振りしますので、
 さくらちゃんは呪文を唱えて下さい!」

強烈なスポットライトを浴びているように見えるさくらちゃんと知世ちゃんを
撮影しながら、知世ちゃんのアイデアにケロちゃんは驚きの声を上げます。

「お〜っ!それなら、カードが使えるはずや!」
「そうか!知世ちゃん、お願い!」
「そして、使うカードは、これと、これですわ。」

知世ちゃんが取り出した2枚のクロウカードの内1枚を見て、はっとなって
振り返り、まぶしい凸レンズではなく巨大な鏡の方をを見上げるさくらちゃん。

「・・・どうして、気がつかなかったんだろう・・・」

ずっと大きなヒントが目の前にあったのに気付けず、スルーを使うことに
こだわっていたさくらちゃんは照れくさそうに赤くなるのでした。

「知世ちゃん、タイミングはわかる?」
「大丈夫ですわ!」

さくらちゃんと一緒に、集光された強烈な光を浴び続ける知世ちゃんの顔にも
玉の汗が噴き出しているのに気付いたさくらちゃんは知世ちゃんをうながし、
自分も元気さを取り戻して急いで立ち上がります。

「それでは、失礼いたします・・・」

一旦しゃがんで杖とクロウカードを置き、自分の靴と靴下を脱ぐ知世ちゃん。
さくらちゃんがまぶしさで目を閉じながら知世ちゃんに影を作るように
巨大レンズの方へ向くと、しゃがんでいる知世ちゃんの目の前に
ちょうどさくらちゃんのお尻がきます。

見とれてしまいそうになるのをぐっとこらえて、知世ちゃんはしゃがんだまま
立っているさくらちゃんのお尻にキスするような格好でさくらちゃんの体に
重なっていき、さくらちゃんがはいている靴下と靴に足を通していくのでした。

「さくらちゃん、痛くありませんか?」
「うん、大丈夫だよ。」

さくらちゃんの足の裏を踏む格好になってしまっている知世ちゃんは
さくらちゃんを気遣って声をかけますが、足そのものを踏まれている
わけではないさくらちゃんはあまり知世ちゃんの体重を感じません。

さくらちゃんといっしょの靴をはいた知世ちゃんが
さくらちゃんの体に重なったまま星の杖とクロウカードを手に立ち上がると、
二人の体は完全に重なり、一人に見えるようになります。

「知世ちゃんの体の中、あったかい・・・」
「ああっ!今、わたくしはさくらちゃんと文字通りひとつになれたのですわ!」

すーっ、はーっ、すーっ、はーっ・・・
とくん、とくん、とくん・・・

さくらちゃんの体温、さくらちゃんの息吹(いぶき)、
さくらちゃんの鼓動まで自分の中に感じられ、
あまりの幸福感から気が遠くなりそうな知世ちゃん。
しかし、ここで倒れてはいられません。
気を取り直してさくらちゃんと呼吸を合わせ、
杖とクロウカードをさくらちゃんのように構えるのでした。

「よっしゃ!がんばるんやで!さくら!知世!」
「うん!」
「おまかせください!」

撮影しているケロちゃんから見ると、服を着ていず、
髪の毛が短いさくらちゃんが知世ちゃんに重なっているので、
その姿はほとんど知世ちゃんそのもの。
わずかに知世ちゃんの顔にさくらちゃんの顔がダブって見える程度です。

「行くよ、知世ちゃん。」
「はい!」
「クロウの創りしカードよ、古き姿を捨て、生まれ変われ!
 新たな主(あるじ)、さくらの名の元に!ミラー!」

杖を持てないさくらちゃんに代わり、知世ちゃんが杖を持ち、
いつものさくらちゃんの腕の振りに合わせて杖を振ってカードを使います。
二人の動きは指の位置まで完全にシンクロしており、
ケロちゃんが持つビデオカメラに写る映像はどう見ても一人にしか見えません。

「すごいで、知世!タイミングぴったしや!」
「杖をお振りになるさくらちゃんのお姿は、何百回となく見ていますもの。」

元々、さくらちゃんの決めポーズは知世ちゃんが考案したものです。
もちろん知世ちゃんは自分でもやってみていて、その中からさくらちゃんが
最もりりしくかわいく見えるポーズを選んだのでした。
そして、これまでに撮影したさくらちゃんの決めポーズシーンは
他のシーンよりもさらに繰り返し繰り返し、何度も何度も見ており、
目をつぶって動いても、自分で指先まで再現できるほどだったのです。


★知世ちゃんのシンクロ作戦 その2

知世ちゃんの活躍によりさくらカードとなったミラーのカードから
雲のように魔力が流れて二人の前に集まり、固まって巨大な鏡が現れます。
ショットの時はさくらちゃんが手に持てるほどの小さな鏡でしたが、
さくらカードとなってパワーアップしたミラーさんは、
上空に浮かぶ巨大な鏡よりさらに巨大な鏡を巨大レンズと
さくらちゃん&知世ちゃんの間に出現させ、光を反射する。

もちろん、ショットの時とは異なり反射するだけではレンズも鏡も倒せない。
間にミラーさんがいては近づいてソードを使うわけにもいかないが、
知世ちゃんが選んだもう一枚のクロウカードがここで力を発揮するのだ。

光を遮られた巨大レンズは回り込んでさくらちゃんに集光しようとしますが、
ミラーさんはその動きに合わせて二人をかばい、日影を作り続けます。
ミラーさんの影に入ってようやく涼しくなったさくらちゃんは続けて呪文を
唱え、それに合わせて知世ちゃんは再び杖を振るってカードを使うのでした。

「クロウの創りしカードよ、古き姿を捨て、生まれ変われ!
 新たな主(あるじ)、さくらの名の元に!アロー!」

「かの物を撃ち砕け!アロー!」

二人が重なったままでは解除できないスルーをカードに戻すのは後回しにして、
二人でアローをさくらカードへと変えて使うさくらちゃんと知世ちゃん。
実体化したアローの放った矢はいくつにも分裂し、
上空に浮かぶ巨大なレンズと鏡を同時に貫きます。

ピシッ・・・ピシッ・・・ビシビシビシッ!ガッシャーン!

アローの矢に何ヶ所も貫かれた所からピシピシとヒビが広がり、
さしもの巨大凸レンズも鏡も粉々に砕け散る。
太陽の光を乱反射してキラキラと舞い落ちるガラスと鏡の破片は
落ちるにつれて小さくなり、元の大きさに戻った時には
砂粒のようになって屋上へと散らばるのでした。

「ようやった!さくら!知世!」
「やりましたわね!さくらちゃん!」
「お、終わった・・・の・・・?」

さくらちゃんがふらついて、しゃがみこんでしまったために
知世ちゃんには自分の足元に重なってさくらちゃんの背中と頭が見える。
どうやら、魔法の使い過ぎでさくらちゃんは眠くなってきたようだ。
何しろ、今日は4枚ものクロウカードをさくらカードへと変えた上に、
シールドやシャドウ等でさくらカードを10回近く使っている。

知世ちゃんがそっとさくらちゃんの靴と靴下から自分の足を抜くと、
さくらちゃんの魔力がなくなったためにスルーもアローもカードへと戻る。
しかし、ミラーさんはそのまましゃがみ込んでいるさくらちゃんの姿を写し、
鏡の外へと出てくるのだった。

「あ、あの、大丈夫ですか?」
「あ・・・ミラーさん・・・?」
「はい。」
「ね、眠い・・・」
「大丈夫ですか?さくらちゃん!」
「無理もあらへんわ。今日は大変やったもんなあ。」
「わ、私がまた眠り込んじゃったら、お父さん心配しちゃう・・・」

最近は魔力が上がってきていたため、眠り姫になることが少なくなっていた
さくらちゃんですので、また眠り病になったら家族が心配する。
そう考えたさくらちゃんは、
目の前にいる自分とそっくりな姿の少女の手を握り、懇願するのでした。

「お、お願い、私の代わりに家に戻って・・・」
「は、はい!」

ミラーさんの返事を聞いて安心したさくらちゃんは、
そのままミラーさんにもたれかかって、とうとう眠ってしまいます。
しかし、さくらちゃんにいきなりもたれかかられたミラーさんは、
ささえきれずにその場でさくらちゃんと一緒に倒れてしまう。

「あっ・・・」
「ああっ!さくらちゃんに押し倒されるさくらちゃん!
 はたまた、さくらちゃんを押し倒すさくらちゃん!
 な、なんて美しい映像なのでしょう!」

すかさずケロちゃんからビデオカメラを取り返した知世ちゃんは、
この世にも美しい光景を自らの手で撮影します。
そう、今現在のさくらちゃんの姿をそのまま写し取ったミラーさんの姿は、
さくらちゃん同様「靴と靴下だけ」の超絶美しい姿だったのです・・・

「お〜い、わい専用のクリスマスケーキ、忘れんといてや〜っ!」

はだしのまま撮影に集中している知世ちゃんの耳には、
ケロちゃんの言葉など全く届きませんでした。


★友枝小学校 屋上

『くしゅっ!』

ミラーさんに抱き付いた格好で眠っているさくらちゃんが小さなくしゃみをし、
同時にミラーさんもくしゃみをするのをファインダーの中に見た知世ちゃんは、
あわててビデオカメラをケロちゃんに渡し、さくらちゃんの服を拾い集めます。

「ミラーさん、さくらちゃんに服を着せるのを手伝って下さいませんか?」
「は、はい!」

ぐっすり眠っているさくらちゃんをミラーさんが抱き起こし、足を持ち上げたり
手を上げさせたりしている間に、知世ちゃんが下着や服を着せていく。
お尻に大穴の開いているスカートはやめて、
再び知世ちゃんのスカーフがスカート代わり。

「ケロちゃん、さくらちゃんを車までお運びして下さい。」
「お、おう。」
「・・・と、その前に・・・」

ビデオカメラを置いて、横たわるさくらちゃんの側に四本足で立つケロちゃん。
その背中にミラーさんと協力して服を着せ終わったさくらちゃんを
乗せようとする知世ちゃんですが、ミラーさんの姿がどうにも気になります。

「あの、ミラーさんも服を着た姿になっていただけませんか?」
「あっ、はい。」

元々鏡の精霊のため、写す対象が服を着ているかどうかなんて
全然気にしないミラーさん。
もちろん、写した結果自分の姿がどうなったかも気にしません。
鏡の役割は写す対象の姿を正確に写し取ることなのですから。

知世ちゃんにすっぱだかでいることを指摘されてようやく気がついた
ミラーさんは、あらためて中国風バトルコスチュームを着た
さくらちゃんの姿を写し、自分も服を着た姿になるのでした。

「ケロちゃん、三人乗りしても平気ですか?」
「まかせんか〜い!真の姿のわいなら、百人乗っても大丈夫や!」
「どこかの物置みたいですわね。」

百人分の重さには耐えられても、さすがに百人乗るスペースを作るには
ビッグを使って大きくなる必要がありそうだと思いながら、
自分の靴下と靴を履き、ケロちゃんが置いたビデオカメラを拾う知世ちゃん。

見渡せば、屋上には粉々になったレンズと鏡の砂粒のような破片が散らばり、
冬の陽光を乱反射してキラキラと光っている。
だが、きれいなのはそれだけで、屋上の床の上はあちこち焼けこげているし、
機械室の扉は半ば融けて穴があきかけている。
他に落ちているものといえば虫眼鏡の枠と手鏡の枠。

(また、友枝小学校七不思議が増えてしまいそうですわ。)

「校庭と教室に作られた机と椅子のオブジェ」(クロウカード編シャドウ)
「グランドピアノの投身自殺」(さくらカード編ソング)
ほどではないにしても、またも奈緒子ちゃんが好きな噂が立ちそうだ。

さくらちゃんに関して悪い噂が立つようなら知世ちゃんは全力で阻止するが、
七不思議が増える程度なら隠蔽工作をする必要はないだろう。
それに、さくらちゃんのおかげでその程度で済んでいるのだから、
そういう噂はさくらちゃんが活躍した証でもある。

とりあえず屋上はこのままにしておくことにして、
ミラーさんと一緒に、眠っているさくらちゃんをケロちゃんの背中に乗せ、
落っこちないように支えながら自分もケロちゃんの背中に乗る知世ちゃん。
さくらちゃん、知世ちゃん、ミラーさんの三人を背中に乗せたケロちゃんは
大きく翼を広げて屋上から飛び立ち、校門前に停めてある
知世ちゃんのコスチューム運搬車まで運ぶのでした。


★コスチューム運搬車内 夕方

「あ、あの、私、そろそろ行かないと・・・」
「おなごり惜しいですわ。」

散々着せ替えたあげくに、さくらちゃんが着ていた普段着ではなく、
少し派手目の服を着せてミラーさんを送り出した知世ちゃん。

さすがにミラーさんをさくらちゃんと同じバトルコスチューム姿のまま
送り出すわけにはいきませんし、木之本家に行ったミラーさんがパジャマに
着替えるためにも、ミラーさんには本物の服を着せなければなりません。

そのためには、ミラーさんが裸になる必要があり、
そうするにはさくらちゃんをすっぽんぽんにして、
あらためてその姿をミラーさんに写させないと・・・

というわけで、知世ちゃんはぐっすり眠っているさくらちゃんから
ミラーさんに手伝ってもらいながら再び服を脱がしてしまい、
その姿を写してすっぱだかになったミラーさんとさくらちゃんに、
お手製下着も含めて様々な服を着せてみては撮影するということを
繰り返していたのでした。

木之本家の晩御飯の時間が迫り、しぶしぶミラーさんを送り出した
知世ちゃんですが、さくらちゃん本人はまだ眠っていますので撮影は続行中。
さくらちゃんが心配なケロちゃんは仮の姿に戻って留まり、
さくらちゃんの枕元でさりげなくビデオに写ろうとしています。

「ああっ・・・今日は、本当にすばらしい一日でしたわ・・・」
「わいもさくらも大変やったけどな。」
「そういえば、どうしてスルーさんを使ったさくらちゃんは
 透明人間になられないで裸になってしまわれたのでしょうか?」
「う〜ん・・・やっぱ、スルーが抜けちょるせいやと思うんやけど・・・」

「でも、最初の壁抜けはちゃんと成功しましたし、
 次の時にも床まですり抜けて落っこちてしまいましたのに、
 さくらちゃんの服も杖も一緒に壁抜けしてましたが・・・?」
「まさか・・・スルーは間抜けのふりして、わざとやっとるんやろか・・・」

光まで素通しできないのはスルーの能力限界だとしても、最初の二回は
ビッグやスモール同様ちゃんと服のことまで考えてくれていたスルーなのに、
最後の一回だけどうして服まで脱げてしまったのか二人で考えてみるが、
どうにもうまく説明できない。
とうとうケロちゃんは全部クロウ・リードのせいにしてしまうのでした。

「『性格の悪い』クロウ・リードが創ったもんやから、
 スルーは間抜けな上に意地悪なんやろ!」

#そう言うケロちゃんもクロウが創った物なのでは?
#(<筆者が突っ込んでどうする)


★エリオル家 同時刻

「・・・ひどい言い草ですねぇ・・・」
「だって、そうなんでしょ?」

エリオルが操る巨大凸レンズと鏡を破壊された後、家に帰って
魔法でコスチューム運搬車内を覗き見しているエリオル家の人々。
クロウ・リードとエリオルは同一人物というわけではありませんが、
自分自身の前世をけなされるといい気はしません。
奈久留ちゃんの突っ込みには直接答えず、エリオルは
どうして三回目だけさくらちゃんの服が脱げてしまったのか説明します。

「スルーは『我』とだけ言ったら服や杖まで含めて、
 『我が体』と言ったら言葉通り『体だけ』を素通し対象とするんです。
 三回目の時は呪文がまずかったのですよ。」
「ふ〜ん。」

うなずいてはいるものの、いまいち納得できかねる風の奈久留ちゃん。
続けてスピネルも、疑問に思っていたことをエリオルに質問してみます。

「すると、結局スルーでは太陽光線を防ぐことはできないのですか?」
「いくらスルーが抜けていても、
 呼吸する空気まで素通しでは術者が死んでしまうだろう?
 だから、最低限人間に必要なものは透過できないようにしてあるんだ。」
「太陽光線も、人間に必要なものだと?」
「そうでないと透明人間になるだけではなく、
 光が目を素通りするので自分自身も何も見えなくなってしまう。」
「なるほど。眼球がレンズの役をなさなくなる上に、
 網膜の上に何の像も結べなくなるのですね。
 そして、シールドはその逆で光も空気も素通しだと。」

「むつかしいことはともかくぅ、つまりぃ、スルーがわざと
 さくらちゃんをすっぽんぽんにしたんじゃなくってぇ・・・」
「クロウ・リードがスルーをそのように創ったからだと。」
「そうそう!それそれ!」

ちらりとスピネルと奈久留の方を見るエリオル。
少し気に障ったのかもしれませんが、それについては何も言わず、
スルーのクロウカードを創った時の話をします。

「あのカードは、入口から入らない大きな椅子を買ってしまった時に
 創ったんですが・・・当時、クロウも使いこなすのに苦労していましたよ。」
「ぷぷっ。」

エリオルは駄洒落を言ったつもりはなかったのですが、普段すましている
エリオルが洒落を言ったと思った奈久留ちゃんは思わず吹き出してしまいました。
それでも、エリオルはポーカーフェイスを崩さず、話を続けます。

「クロウは最初にスルーを使った時、
 せっかく買った椅子を地面の中に落っことしてしまったのです。」
「きゃはははっ!」
「それで、どうなったのです?」
「地球の反対側まで落っこちちゃったんだったりして。」

「今日のさくらさんのように、アーシーを使って拾い上げたのですが・・・
 一足遅く、マグマ溜り近くまで達していた椅子は丸こげでした。」
「あはははははは・・・っ、く、苦しい・・・」

涙を流し、苦しそうにお腹を抱えて笑い転げている奈久留ちゃん。
スピネルはジト汗を流し、はらはらしながらその様子を見ていますが、
エリオルはあくまで冷静なようです。

「まあ、それでもスルーをジャンプ以上の大間抜けにしておいたのは正解ですね。
 おかげで、たった一度で4枚ものクロウカードがさくらカードになりました。」
「しかし、実質的にスルーのせいでさくらカードになったのは、
 アーシーだけなのでは・・・」

つんつん

エリオルに突っ込みかけて、しっぽを引っ張られる感触に振り向くスピネル。
そこには、まだ笑いが止まらないらしい奈久留ちゃんが、
スピネルのしっぽをつまんで引っ張っていました。

(何をするんです!)
(いーのいーの!エリオルがむっつりスケベなのは今に始まったことじゃ
 ないでしょ?こうしてさくらちゃんの着替えまで覗いてるんだし。
 どーせ、お間抜けスルーのせいでさくらちゃんがすっぽんぽんになるのも
 予見してたんでしょ。)
「何か言いましたか?」

ひそひそ話をしているスピネルと奈久留に、いつもの笑顔で尋ねるエリオル。
奈久留ちゃんは全然気にしていないようですが、首を横に振りながらも
スピネルは背筋に冷たい物が走るのを感じて、冷や汗をかくのでした。


★コスチューム運搬車内

「はあ・・・」
「ケロちゃん、どうされたのですか?」

さくらちゃんの枕元にいるケロちゃんをビデオカメラのフレームから巧みに
外そうとして、ケロちゃんが溜め息をついているのに気がついた知世ちゃん。
ケロちゃんは、やけど自体はたいしたことがなかったのに元気がありません。

「いやな・・・太陽を象徴するこのわいが、
 よりにもよってお日様の光に負けよるなんてなあ・・・」
「仕方がありませんわ。鉄の扉が融けてしまうほどの高熱だったのですもの。」
「にしてもや。もうちょっと何とかならへんかったんかなあ・・・」

ケロちゃんを励ます言葉が見つからず、
小窓から沈みかけているお日様を見る知世ちゃん。
ふと、太陽に雲がかかっているのを見た知世ちゃんは、
ある重大なことに気がついてしまうのでした。

「あっ・・・!」
「どないしたんや、知世?」
「今、気がついたのですが・・・」
「なんや?」
「クラウド(雲)さんで太陽を隠してしまえば
 よかったのではないでしょうか?」
「あ〜っ!そ、そやないか!すっかり忘れとった・・・
 それを言うなら、レイン(雨)でもスノウ(雪)でもよかったんや!」

巨大凸レンズからの攻撃を防ぐことに夢中で、その攻撃のエネルギー源を
元から断つことに気付けず、さらに落ち込むケロちゃん。
自分でもたった今まで気がつかなかった知世ちゃんも、
ケロちゃんを励ますことができません。

「・・・知世、今の話はさくらには内緒やで。
 ただでさえスルーをうまく使いこなせなかったんで落ち込んどるっちゅうに、
 余計落ち込んでまう。」
「はい。そうですわね・・・」

自分自身のことよりも、さくらちゃんを気遣うことができるなら
ケロちゃんも大丈夫だろうと、知世ちゃんも少し安心します。
そのかたわらで、ウエディングドレス風のネグリジェを着せられてしまっている
さくらちゃんは、すーすーと静かな寝息を立てているのでした。


★友枝小学校 5年2組 翌日の朝(?)

「おはよう、知世ちゃん。」
「おはようございます。さくらちゃん。」
「おはよー、さくらちゃん・・・って、さくらちゃん、どうしたの?
 こんな真冬にすっかり日焼けしちゃって!」

びっくりして、朝のあいさつもそこそこにさくらちゃんに駆け寄る千春ちゃん。
つい先週までのさくらちゃんとはうってかわって、
今日のさくらちゃんは真夏でも見たことがないほど真っ黒だったのです。

「あ〜っ!また、どっか外国に行ってたんでしょ!うらやましいなあ。」
「そう言えば、去年は香港に行ったんだよね。」
「こんなに日焼けするなんて、今年はハワイかニュージーランド、
 それともシンガポールに行ってたの?」

千春ちゃんが羨望の声を上げると、
続いて奈緒子ちゃんと利佳ちゃんも駆け寄って声をかけます。
友人たちに囲まれて、言い訳に窮するさくらちゃん。
まさか、友枝小学校の屋上で、裸になって日光浴をしたとは言えません。

「ち、違うよ〜っ!」
「ちょっと見せて・・・わっ!すごい!中まで小麦色!」
「ほえ〜っ!」

さくらちゃんの服の胸元をちょっと引っ張って開け、中を覗き込む千春ちゃん。
さくらちゃんの玉のお肌には水着の跡がなく、
全身きれいな小麦色だったのです。

「こんな奥まで日焼けしたってことは・・・
 ひょっとして、さくらちゃんヌーディストビーチにでも行ってたの?」
「ち、違う〜っ!!」

さくらちゃんは首を左右に、手をバタバタと上下に振って否定し、
助けを求めるように知世ちゃんの方を見ますが、
知世ちゃんはすかさずビデオカメラを取り出して撮影を始めてしまいました。
小狼もいますが、日焼けしたさくらちゃんを見て顔を赤くしています。

「日焼けっていうのはね・・・」
「また出た。」

友人たちに囲まれておたおたしているさくらちゃんの目の前に、
すかさず出現する山崎君。
山崎君の後ろでは、千春ちゃんが「またか」というように
諦め顔で溜め息をついています。

「日焼けっていうのは、古代ギリシャでオリンピックの元となった、
 かのオリンピアの祭典が発祥なんだ。」
「そう、祭典に出場する選手たちは競技の成績だけではなく、
 いかに健康的に美しく日焼けしているかも競ったんですよ。」

いつのまにかエリオルも山崎君の隣に来ていて、
うんちく合戦、というか大嘘大会。
しかし、この二人に散々だまされたはずのさくらちゃんも小狼も、
相変わらず真面目に話を聞いています。

「そうそう。体の隅々まで美しく日焼けするために、
 昔の人は練習も競技もすっぱだかでやっていたんだ。」
「もちろん、真冬でも裸で練習をするのでとっても寒かったのですが、
 それでも風邪をひかない健康的な肉体を作るのが彼らの使命だったのです。」
「ほえ〜っ。」
「昔の人って、大変だったんだ。」

山崎君とエリオルのダブル攻撃に、
またまただまされてしまうさくらちゃんと小狼。
とりあえず自分の日焼けのことから話がそれて、
さくらちゃんは少しほっとします。

「オリンピアで裸で競技をしていたのは事実なのですが・・・」
「山崎君はともかく、エリオル君まで言うと
 ホントなのかと思っちゃうじゃない。」

さくらちゃんを撮影しながら、
その話の一部だけは本当のことだとつぶやく知世ちゃん。
山崎君だけなら千春ちゃんがすぐに突っ込むのですが、
最近は山崎君とエリオルのダブルパンチなので、
さすがの千春ちゃんも突っ込むタイミングを逸しています。

「それにしても・・・小麦色のさくらちゃんも、とってもステキですわあ。」
「真冬に真っ黒だと、なんか『ガングロ』って感じだけど。」
「ガングロってのはね。」
「また・・・」

千春ちゃんの言葉尻をとらえて、
すかさずまたも新たなうんちくをかましだす山崎君。
もちろんエリオルもそれに続き、こうなるともう誰にも止められません。

「平安時代の貴族がしていたファッションで『お歯黒』ってのがあって、
 それは白い歯をわざわざ黒く塗るお化粧だったんだけど・・・」
「その『お歯黒』が、当時は美人の条件だったのですよ。」
「それで、自分の歯の黒さを見せるため、当時の人たちは大口を開けて、
 歯を見せながらしゃべらなければならなかったんだ。」
「それではどうにもしゃべりにくいというので、
 歯を黒くするのではなく顔を黒して、
 いつでも良く見えるようにしたのが今のガングロというわけなんですよ。」

にっこりとほほ笑み、がっしと手を握り合う山崎君とエリオル。
さすがの千春ちゃんも、この二人のコンビには突っ込めません。
それどころか、エリオルまでさも本当そうにまくしたてるので、
「ひょっとしたらホントなのかも」と思ってしまうありさまなのでした。

*

「う、う〜ん、う〜ん・・・」
「さくら!どないしたんや?さくら!」
「さくらちゃん!さくらちゃんがうなされていますわ!
 ああ、どうしたら・・・
 でも、うなされているさくらちゃんも、やっぱりかわいいですわあ。」
「と、知世・・・(汗)」

(藤森さんの記事はここまでです)

 では、エピローグの記事へと続きます。


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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp