ども、KEYです。
書いてみたかった妄想記事・・・やっと形になりました。
主人公は10歳の桃矢・・・視点も桃矢です。


「第0話 -カードキャプター桃矢-」

俺は泣かなかった。
父さんは「泣かないって約束したから」って言ってた。
強いな、と思った。
俺が泣かないのは、いや泣けないのは、さくらがいたからだ。
さくらの前では泣けない。あいつが悲しむから・・・

でも辛かった。
気晴らしにピアノでも弾く・・・すると、さくらが喜ぶ。
でも、そのうち母さんのピアノを思い出すのか
「お母さん、どこ?」って言って泣き出す。
「お前がでっかくなっかたら 安心して
   お空の上のすごくきれいなところへ行ったんだ」
そう言って泣き止むまでなだめるしかなかった・・・それが辛かった。
俺はピアノを弾くのが嫌いになった。


ある日「無理は良くない」と、お父さんに言われた。
最初は何のことだか分からなかったけど、ようやく分かった。
俺は泣きたかったんだ・・・でも無理に我慢してたのかもしれない。
俺は一度だけ我慢するのをやめることにした。
でも、さくらの前では泣けない。

そこで俺は地下室へ行った。ここなら誰も来ない・・・
そして一人静かに泣いた。


思う存分泣いて少し心が落ち着いた頃、俺は地下室に妙な気配を感じた。
怖い感じではなかったが、これまでに感じた事の無い気配だった。
恐る恐る俺はその気配の元へ歩み寄っていった。

そこには一冊の本があった。それを開くと・・・
声「こにゃにゃちは──!」
・・・ぬ、ぬいぐるみ?・・・
声「あんさん よーわいを目覚めさせてくれた」
・・・大阪弁?そんなことよりどうやって動いてるんだ?・・・
桃矢「電池どこだ?」
声「わいはおもちゃやないっ!
   この本を守ってる封印の獣や」

その後、その「ぬいぐるみ」がケルベロスという
クロウ・カードを守護する封印の獣である事を知らされた。

ケロ「この本は魔力を持たん者では 開けられへん
    この本を開けて わいを目覚めさせたっちゅうことは
      多少なりとも魔法を使う素質が
        おまえさんにあるっちゅうことや」
桃矢「そんなもんか?」
ケロ「おまえさん 名前は?」
桃矢「と・・・とうや」
ケロ「よっしゃ桃矢 そこ立ってみ」
桃矢「・・・・・・」
嫌な予感がした。自慢ではないが俺の予感はよく当たる
ケロ「封印の『鍵』よ
    汝との契約を望む者がここにいる
     少年 名を桃矢
    『鍵』よ 少年に力を与えよ!
        『封印解除(レリーズ)』!!」
桃矢「ピ、ピンクの杖?」
ケロ「桃矢!杖をとるんや」
関西弁の勢いに圧されてしまった。
・・・ガシッ・・・
ケロ「よっしゃぁ カードキャプターの誕生や」


・・・嫌だ・・・
俺にはそんなもの興味ない。何よりピンクの杖が嫌だ。
人に見られたら、どう言い訳すればいいのだ。
でも一番嫌な理由は・・・・・・

桃矢「嫌だ」
ケロ「へ?」
桃矢「俺はやらない」
ケロ「なんでや?魔法が使えるようになるんやで」
桃矢「そんな気分じゃない」
そう、一番嫌な理由はそんな気分じゃないからだ。
さっきまで泣いていたのだ。
ケロ「杖受け取った後で そないなこと言われても」
桃矢「事前に説明しない方が悪い」
ケロ「せやかて・・・」
桃矢「それにもう1つ理由がある」

もう1つの理由、一番大事な理由・・・
桃矢「さくらのそばに居てやりたい」
ケロ「さくら?」
桃矢「俺の妹だ  母さんが死んでから、
     あいつが心から笑ったところを俺は見ていない」
ケロ「・・・・・・」
そう、もしカードキャプターなんかになったりしたら
さくらの面倒がおろそかになってしまう。
さくらを一人にはできない。


その時、ガチャリと地下室の扉が開いた
ケロ「!!!」
さくら「うぅ・・・ひっく・・・お兄ちゃんどこぉ?」
泣きながらさくらのやつが地下室に入ってきた。
桃矢「さくら・・・」
さくら「あ・・・お兄ちゃん!」
パタパタと駆け寄ってくるさくら
こけるぞ・・・バタッ・・・あ、こけた
さくら「うわあぁぁ〜〜ん」
桃矢「しょうのないやつだな」
さくらは母さんが死んでから泣く事が多かった。
桃矢「・・・というわけだから、その杖は受け取れない」
さくらをなだめながらケルベロスにそう言った
さくら「・・・?」
ケロ「・・・そうみたいやな」
さくら「ぬいぐるみさん、ぬいぐるみさん」
さくらがケルベロスの頬を引っ張って喜んでいる。
笑った・・・そうじゃない、さくらにケルベロスの存在を知られてしまった。
ま、うまく誤魔化せるだろ・・・3歳だし・・・
さくら「でんちどこぉ?」
・・・・・・
ケロ「せやから わいはおもちゃやないっつーに」

さくら「あ、本があるよ 絵本かな?」
本を開く・・・それはケルベロスの出てきた封印の書だった。
ケロ「な、なんやて!?こいつも魔力があるっちゅうことか?
    こんな小さいのに・・・ひょっとしたら桃矢以上の・・・」
さくら「あ、カードが入ってる」
くるくるとカードがさくらの周りを回り始めた
さくら「きゃはははは・・・」
笑ってる・・・さくらが心から笑ってる・・・
不覚にも俺はさくらの前で泣きそうになった。


ケロ「なぁお嬢ちゃん、カードキャプターになってくれへんか?」
な・・・こいつ、あっさり標的を変えやがった。
意外に節操のないやつだ。
桃矢「おいちょっと待て、さくらは3歳だぞ」
ケロ「冗談やて さすがにこんな小さいのにカードは任せられへん」
ほっとした。
さくらはまだカードたちと遊んでいる。
ケロ「しっかし惜しいな カードも気にいっとるようやし・・・」
冗談、と言うのが冗談ではないかと勘繰りたくなる。
さくら「カードさんカードさん・・・」


ケロ「さて・・・桃矢、
     お前はカードキャプターになりたくない、と言った。
     しかしな、杖はもう変化してもうたんや」
桃矢「俺のせいじゃない」
ケロ「次の主候補が現れるまで再び封印せなあかん」
桃矢「なら封印すればいいじゃないか」
ケロ「そうしたいんやけど・・・1つ条件がある」
桃矢「条件!?」
条件とは何だろう?まさか命を差し出せ、とか言うんじゃないだろうな?
ケロ「桃矢からわいの記憶を消す」
桃矢「記憶を?」
ケロ「せや 主候補を降りたもんがカードの事を知っとったらまずいんや」
桃矢「いいぜ、それくらいなら・・・」
さくら「カードさんカードさん・・・」
ケロ「そうか・・・」
さくら「カードさんカードさん・・・」
桃矢「さくらは・・・どうする?」
さくらもカードの存在を知ってしまった(本人にその自覚はないだろうが)
ケロ「う〜ん、こいつは主候補ちゃうしなぁ・・・」
桃矢「ま、3歳だしな、こいつは・・・」
記憶なんか消さなくても、いずれ忘れるだろう
ケロ「でも一応、記憶は消しとこう
    いらん心配をかけさせとうない」
心配をかける、とはさくらにだろうか?俺にだろうか?
桃矢「そうだな、ケルベロス、頼む」


・・・・・・それから10分経った。
記憶を消すよう魔方陣の中に入れられたが(さくらも一緒)
一向に記憶消去が行われない
ケロ「あ、あかん・・・魔力が足らん」
桃矢「お前って魔力足りてないのか?」
ケロ「せやない、あんさんら2人の魔力が大きいんや
    魔力の大きいもんの記憶を消去するにはより大きな魔力が必要なんや」
桃矢「やっぱりお前の魔力が足りてないんじゃないか」
見た目同様、頼りにならないやつだ。
ケロ「どないしよぉ〜  あ、そうや
    桃矢、一度だけクロウ・カード使うてくれへんか?」
桃矢「だから俺はやらないって・・・」
ケロ「一度だけ・・・さくらの記憶消去を手伝って欲しいんや」
ケルベロスの説明によると、俺の魔法でさくらの記憶を消し、
その後、俺の記憶をケルベロスが消去する・・・
どうやら今のケルベロスでは記憶消去は1人が限界らしい。
やっぱり魔力が足りてない・・・


ケロ「よし、やるでぇ」
桃矢「おうっ」
なんとなく乗り気になってしまう・・・
ま、このピンクの杖を使うのもこれが最初で最後だ。
桃矢「かの者の記憶を消去せよ  『消(イレイズ)』!!」
さくらを囲む光の渦・・・さくら、ごめんな・・・
せっかくカードのおかげで本当の笑顔を取り戻したのに
俺はその記憶を消そうとしている。
こんなことならカードキャプターになっていればよかったかもしれないな

ケロ「さくらの記憶消去は終わった 次は桃矢の番や」
さくらは眠っている
桃矢「あぁ、頼む」
ケロ「じゃあな、桃矢」
桃矢「なあケルベロス」
ケロ「何や?」
桃矢「もし、さくらが今の俺くらいの年になって
    お前の存在に気付くようなことがあったら・・・
    その時はさくらをよろしく頼むな」
ケロ「おう、まかしといてくれ」
桃矢「危険じゃないんだろ、カードキャプターになるのって・・・」
ケロ「ま、まあ・・・(最後の審判を除けばな)」
桃矢「なんか怪しいな」
ケロ「大丈夫や」
疑ってもしょうがない
桃矢「そうだな・・・じゃ、頼む」
ケロ「じゃあな、桃矢」
そして俺は光に包まれた・・・・・・


目覚めるとそこは地下室だった。
横でさくらも寝ていた。寝言を言ってる
さくら「カードさんカードさん・・・」
カード?何のことだろう・・・ま、いいや
桃矢「さくら、そんなとこで寝てると風邪ひくぞ」
さくら「う、うん・・・あ、お兄ちゃん」
さくらは突然俺に抱きついた。
泣きじゃくるさくら・・・さくらを抱きしめながら俺は初めて泣いた。

その日から、さくらは本当の笑顔を取り戻した。



-7年後-
ケロ「こにゃにゃちはー」
さくら「ぬ、ぬいぐるみ・・・?電池どこ?」
ケロ「せやから わいはおもちゃやないっつーに
     わいは封印の獣、ケルベロスや」
さくら「ほえ?」
・・・また会えたな、さくら・・・

完