4回表[2]
◆14:05 4回表 十番高校の攻撃 第2打者
[これまでのお話]
逆襲のまこと -MAKOTO'S COUNTER ATTACK-
> 地場衛「・・・・・そんなバカな。」
とりあえず、まこちゃんは1打席目で惜敗したメカ鈴凛が相手に
出来て満足しているようだし、次打席で控えているはるかさんとみ
ちるさんもみょうちきりんな技相手ではないと言う事で満足してい
る様だから、ここは「何も問題は無い、やりたまへ」と相成った。
なお当然この3人が、後続のバッターが「こんなの打てるかぁ!」
と真っ青になってる事なぞ気にしちゃあいないのは言うまでも無い。
爺や2「ぷれい!」
さて鈴凛に代わりマウンドに上ったメカ鈴凛。改めて彼女を眺め
る事になった3塁側ベンチ。
うさぎ「うーむむむむむむむむむむ・・・・」
美奈子「こ、これは・・・」
レイ 「確かに事前に教えられなければ、判らないわね。」
ほたる「皆さん・・・本気ですか?」(^^;)
せつな「ほたるさん? 天地の間には、人知の及ばぬ不思議な事も
あるのよ。」
ほたる(・・・シェイクスピアが泣いている様な気がするぅ(;_;)。)
はるか「あたまに蜜柑・・・あ、あれの事か。」
みちる「はるか・・・あなた、本当に判らなかったの?」
はるか「あ、いや。あれもファッションの一つかと思ってたし。」
みちる「ファッションって・・・蜜柑が?」
はるか「え? あ、あれって、本当に蜜柑なのか?」
みちる「だってあの形といい色と言い・・・はるかは何だと?」
はるか「・・・ツノだと思ってた・・・カッコいいし・・・」
みちる(・・・本気で友達、選ぼうかしら(;_;)。)
悲喜交々のベンチは放っておいて、一方此方は打席。まこと自身
はメカ鈴凛の頭にあるものが蜜柑だろうが林檎だろうが角だろうが、
どうでも良かった。今は、1回で押され負けた相手ともう一度戦え
る、それだけで満足していた。
機鈴凛「後悔ハ、サセマセンヨ。」
まこと「ありがとう。・・・私も、本気だ。」
1回と同様、芯まで鋳鉄製のマスコットバットを構えるまこと。
常人なら持ち上げる事すら適わない筈のこれを、まことは数本纏め
て軽々と振るい、そのうち1本だけ手ごろなものを抜くと他を放り
出し、打席に入った。ちなみに放り出されたバットは3塁側グラン
ドスタンドに悉く突き刺さり、広範囲のベンチに大損害を与えた。
まこと「・・・最初から、全力だ。」
先までの迷いを振り切るが如く、真剣にバットを構えるまこと。
そのまことの気迫を間近で感じ、四葉は思い、訳もなく震えた。
四葉 「まことサン・・・本気デス・・・ならバ・・・」
ミット内部のスイッチを入れ、四葉は全身を覆うアウターとイン
ナーのプロテクターに内蔵されたパワーサポートフレームをリンケー
ジしスラストモータのアイドルアップを開始した。メカ鈴凛を登板
させると言う事で鈴凛がキャッチャーの四葉のために開発したラグ
ボール用プロテクトパワードスーツが本来の力を発揮し始める。こ
れのパワーサポートと鈴凛特製の衝撃吸収ミットを合わせて、四葉
は始めてメカ鈴凛の投げる球を受け取る事が出来る。鈴凛に言わせ
るとこのスーツは戦艦の主砲の砲弾でさえ受け止められるそうだが、
ならばメカ鈴凛の投げる球は戦艦主砲以上と言う事なのだろう。現
に1回表で使ったフレームとミットは全てそれまでで全交換だった。
びゅ!ずばむ!
爺や2「すたーいく、わん!」
余分な事を考えている暇は無い。今は自分へ正確に投げ込んで来
るメカ鈴凛ちゃんの投球に集中しなければ。そう思いながらもふと
自分の目の前でバットを振りかぶるまことを見上げる。何度も抱か
れ、その柔らかさと暖かさを知っている四葉だったが、今はその肉
体がまるで巌のように思えた。しかも中にマグマのような熱量を持
っている事すら判る。まことさん・・・本気だ・・・。
びゅ!ずばむ!
爺や2「すたーいく、つー!」
微動だにせず、2球を見送ったまこと。球筋を追いかけるでもな
く、淡々と、しかし凝視して鈴凛を見ている。四葉はまことが判ら
なくなった。本気だと言う事は判る。しかし・・・
まこと「・・・なるほどね。これはちくっとキツいかもなぁ。」
ふと、まことが呟く声が聞こえてきた。は、として振り仰げば、
まことが集中していた表情を解き姿勢を変えている。いぶかしみな
がら鈴凛にボールを返球する四葉。それを確認し、再び打撃姿勢を
とるまこと。但しこれまでとは変わり、1回の時と同じ、バントの
姿勢を取るまこと。どうやら今までは本気で球筋を読んでいた様だ。
まこと「・・・・・・来な。」
ごう、とまことから何かが燃え上がった様に感じた。その瞬間、
四葉はまことが「何か」に立ち向かっているのを、肌で感じた。
びゅ!ぎん!がしゃーん!
硬質と言う表現を超えた、まるで電子音のような金属音が響く。
まことが正面に構えたバットを僅かに掠り、鈴凛の投げた硬球が自
分たちの真後ろに飛んだ。音からすると、どうやら御昼の間に入れ
た放送ブースの防弾ガラスが、また砕けたらしい。
まこと「・・・良い、バイブレーションだ。」
ふぅ、と息をつくと、まことが勢いに負け崩された姿勢を直し、
再び同じ姿勢をとる。その姿を間近に感じ、四葉は先に感じたまこ
との心のうちを確信した。
びゅ!ぎん!ずがっ!がらがらがらがら・・・・
3球目と同じ音が響く。しかし1回目と違い、今度は隣の放送ブ
ースを直撃した様だ。崩れ落ちるコンクリートの瓦礫の音がそれを
物語る。それを遠くに聞きながら、四葉はまことに尋ねた。
四葉 「・・・まことサン・・・」
まこと「・・・なんだい、四葉ちゃん?」
四葉 「そうまでして…そうまでして、自分に勝ちタイのですか?」
まこと「・・・なんだ。判っちゃったか。」
四葉 「判りマス・・・ワタシだから、多分判りマス。まことサン、
1回の時と同じポーズをとってマス。あの、バントホーム
ランの時と同ジ。だから、きっと。でも、何故ですカ?」
まこと「つまんないだろう?自分でもそう思うよ。勝てなかった事
を、まるきり繰り返している。同じ事をやってたら勝てな
いじゃないか。そう思うだろう? 私もそう思うよ。」
四葉 「だったら・・・だったら、何故?」
まこと「・・・先に進めないからさ。」
四葉 「?・・・・」
まこと「失敗する。原因を探る。それを取り除き、前と違った事を
して、今度は成功する。当たり前だよ。人はそうして失敗
から色々学んでゆくんだ。」
四葉 「はい。ワタシも、いくつも失敗してマス。だから、」
まこと「でもさ。成功した時の自分って、本当の自分なのかい?」
四葉 「?」
まこと「失敗した時の自分も自分なら、成功した時の自分も自分だ。
ならば、失敗する前の自分はどうなんだ? そのときの自
分も、失敗するつもりで次の行動を選んでいる訳じゃない
だろう? 成功するつもりで考え、動いているんだ。誰だ
ってそうさ。誰だって失敗したくてするんじゃないんだ。」
四葉 「・・・」
まこと「人は、失敗した自分を変えて、自分を成功に導こうとする。
それがうまく行けば自分は成功する。でも、それは変わっ
てしまった自分だ。失敗する前の自分じゃない。」
四葉 「でも、それを日本語で『学習』と言うのデハ・・?」
まこと「うん。四葉ちゃんの言う通りだよ。人は学習する生き物だ。
でもさ、その学習がうまく行って成功した時、人は・・・
成功した人は、失敗した過去の自分を、笑ってるのかも。」
四葉 「・・・そうかもしれまセン。ですけど、」
まこと「私は、そんなのが嫌なんだ。失敗した時の自分も自分なら、
上手く行ったときの自分も自分なんだ。どちらの自分も私
なんだ。ならば、私は私を笑いたくない。私だけは、私を
肯定してあげたい。」
四葉 「・・・自分を、肯定するために・・・?」
まこと「だから、私は失敗した時の自分から始めたい。失敗する前
の自分へ、あんたは間違っちゃいなかった、と言う為に。
ただちょっと、いろいろ足りなかったんだと言うために。」
四葉 「・・・それが、今のまことさんデスか・・・」
まこと「我ながらバカだと思うよ。こうしないと、自分が自分じゃ
なくなっちゃう。ただ、そう感じているだけなんだ。でも
私は、こうして自分を作ってきたんだ。今更変えられない。」
四葉 「まことさん・・・」
まこと「四葉ちゃん、御免ね。何べん謝っても謝り足りるなんて思
ってないけど。でも、今は私に付き合ってくれるかい?
失敗する前の、成功すると考えていた自分を取り戻す為に。
挫ける前の自分を取り戻す為に。・・・昔の私に帰る為に。」
まるで自分に言い聞かせるように、淡々と語ったまこと。マスク
をぐいと被りなおすと、その向うに隠れるように、四葉が言った。
四葉 「まことさん・・・バカですよ・・・
でも、バカは貫いてこその本物だ、と、ワタシ思います。」
まこと「・・・そう?」
四葉 「まことさん・・・ワタシ、イギリスで色々勉強しました。
日本の事を随分覚えました。けれど日本に来て、それが殆
ど役に立たない事だと知りました。日本の美。倭の風景。
日本人の心。中でも、本当に憧れていたものが無くなって
いると知った時、ワタシとっても悲しくなりました。でも
今のまことさんを見て、決して失われた物ばかりではない
と判りマシた。」
まこと「・・・なんだい、それ?」
四葉 「まことさんが勝ったら、教えてあげマス。」
まこと「・・・じゃ、何としてでも勝たないと、ね。」
四葉 「鈴凛ちゃん、メカですけど、本気デス。気持ちの大きさは
鈴凛ちゃんと変わりマセん。だから、その、」
まこと「わかってるよ。言われるまでも無いさ。
・・・此方も本気だ。全力で、勝たせてもらうさ。」
ごう、とバットを構えるまことからオーラが立ち上る。それを確
かめ、マウンドの鈴凛に四葉がミットを構える。それを見て取った
か、大きくワインドアップして鈴凛が腕を降り始める。来る!
まこと「やっぱり、そうか!」
バントの姿勢だったまことが半身を僅かにずらし、バットの太軸
に添えてあった手をすすすと引き、グリップに持ち代える。僅かに
バットを引き、矯める。これは。
四葉 「バスター!?」
マウンドの鈴凛が超高速で腕を振る。投げ放たれたボールが極端
な超高速回転でまことに迫る。数mをミリ秒で進むボールが土煙を
巻きたてながら打者へ突進する。無限の刹那が繰り返され、無限に
時間が引き延ばされてゆく感覚へ突入する。マイクロ秒の間にまる
でスローモーションの様にまことが僅かにバットを引き、またそれ
を渾身の力で押し出す。ナノ秒の区切りでフラッシュが焚かれる様
に迫るボールと迎え撃つバットの距離が縮む。数十cm、数cm、数mm。
きーん!がつっ!
僅か一瞬の澄んだ金属音が球場に響き渡り、次の瞬間、センター
を守っていた衛は自分の後ろで何か、硬いものがバックスクリーン
に叩きつけられた様な音を聞いた。
衛 「まさか・・・まさか!?」
慌てて背後を振り返る衛。が、そこに衛は全てが終わった事を見
届けるだけしか出来なかった。
ぽーん、ぽーんと、まるでゴムマリの様に、バックスクリーンに
叩きつけられた硬球がその下のコンクリートの上で弾んでいるのを。
うさぎ「・・・うそ・・・」
美奈子「・・・入った・・・え?」
レイ 「入ったよ! ホームランだよ! まこちゃんが!」
そうして次の瞬間、万来の歓声と拍手が球場に轟く。3塁側ベン
チの皆が踊りあがって喜ぶ。その声を背中で聞きながら、ふうと息
をついてバットを放り、まことはゆっくりと塁を回り始めた。途中、
妹たちが口々に自分を讃える声が聞こえてくる。それをゆっくりと
噛み締めながら、まことは漸く、2回裏で失った自分が還ってくる
のを実感していた。これで漸く自分が取り戻せる。勿論、ひとりで
戻れたなんて思ってはいない。ここまで立ち直れたのは仲間達だけ
ではなく妹たちの力もあったればこそだ。だから今は、素直に皆の
歓声が嬉しい。そして。
四葉 「お帰りなさい、まことさん。」
本塁で自分を迎える、彼女の微笑が。
まこと「・・・それじゃ、教えてもらえるかな?」
まことが尋ねる言葉に、にこ、と微笑むと、突然四葉はまことを
抱きしめた。驚くまことに、四葉はこう答えた。
四葉 「まことさん。あなたは、真のSAMURAIです!」
一瞬、怪訝そうな表情を浮かべたまことだったが、次の瞬間、
自分を抱きしめる四葉を震わせる勢いで笑い始めた。今度は四葉
が怪訝な顔をする番。そんな彼女を抱きしめかえすまこと。
ひとしきり笑った後、まことは四葉に、こう言った。
まこと「それを日本じゃ、『意地っ張りの痩せ我慢』って言うんだよ!」
■4回表1アウト|1|2|3|4|5|6|7|8|9|− ■
■Sailors|0|0|1|1| | | | | |2 ■
■Sisters|2|0|1| | | | | | |3 ■
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水野夢絵 <mwe@ccsf.homeunix.org>
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