女子高専
最近の角川スニーカー文庫は二つの大賞受賞作(学園小説大賞「末代まで!」と、
スニーカー大賞「シュガーダーク」)が話題ですが、そんなのはほったらかし
て:-)、半年ほど前に出た「ヒミツのテックガール」を紹介。
というのもこの作品、ちょっとキャラが弱いながらも「工学バカ」ばかりが出
てくる作品なので、取り上げておかないとということで。
# とはいえ、元ネタはもう12年も前のポストですが。
作者は平城山工。一昨年の角川学園小説大賞の奨励賞受賞作。デビュー作であ
る1巻"ぺけ計画と転校生"が5月に、2巻"ぺけ計画とスパイ大作戦"が8月に出て
います。イラストが「撲殺天使ドクロちゃん」とかのとりしもさん。
キーワードは"女子高専"。"高専女子"や"女子高専生"じゃありませんので念の
ため。女子だけの高専って、西川魯介さんとか取り上げててもおかしくない題
材なんですけど、難しいのか、あるいはただ単に思いつかなかったのかはよく
わかりませんが、多分他にないですよね。
舞台は女子学生のみの(工業)高等専門学校である筑波音特殊女子高等専門学校。
教官には男性もいますが、学生は女子しかいません。個人的には、ラノベは特
殊な世界をいかに生き生きとわかりやすく描写するかというものだと思ってい
るので、その意味ではこの舞台設定が全てであると言ってもいいかもしれませ
ん。
基本的なストーリは、そこで繰り返されるクラークの法則ばりに魔法っぽい事
件。と言いたいところなのですが、ロボットを祭り上げたら一夜にしてなにか
が乗り移ってしゃべるようになるとか、明らかにオカルトですから。:-)
セリフの端々に現れる作者の工学に対する愛みたいなものは感じられるのです
が、科学(工学)だけに集中するってのは難しいのかもしれませんね。
主要な登場人物は4名。まず、主人公の本瀬春海(作品では大部分"本瀬ハルミ"
と書かれます。以下同様)。"変人吸引体質"ということで、本人はあまりなに
もしませんが騒動にだけは巻き込まれるという、狂言回しとしての位置づけに
なるかと思います。ラノベにはよくある形かな。
「このラノ2010」のキャラクターピックアップで取り上げられてるくらいなの
で、多分キャラは立ってるんだろうなとは思うのですが。
あとは人気が出そうな順に。
天才肌で天然に暗躍するタイプの永井理嶺(アヤネ)。研究題材は一番現実離れ
してます。空間を歪めて宇宙を手元に持ってきてしまったり、意識を持ったコ
ンピュータを配下に置いてみたり(これはアヤネだけの成果じゃありませんが)。
1巻、2巻共に一番おいしいところを持って行ってると思う。
お調子者でいじられキャラの那須野万知(マハル)。製作物はカエル型ロボット
やピッチングマシーン改造の桜餅自動製造射出機など、一番わかりやすい。今
後存在感を発揮することは果たしてできるのか。
最後に、関西弁でツッコミ役というわかりやすい立ち位置の一柳千智(チサト)。
こちらは空中浮遊シューズという、わかりやすいけど現実離れはしている製作
物がよく出てきます。一応2巻の主人公?
多分経験者なのでしょう、工学描写は比較的よくできてて、明らかに間違って
る(取材不足)というシーンはありません。一部、そんな言い回しをするのかと
いう表現がないわけではありませんが、ローカル用語の範疇に入ると思われま
す。
女子高なのにあからさまな百合描写がないのも割と評価してよいところかと思
います。そういうシーンがないわけではありませんが、やってる本人たちがそ
ういう意識を持ってないので、単発で終わってる感じ。編集主導とかだと、こ
ういう流行りものをムリヤリにでも入れてきそうなので、この辺は作者の意向
が強く働いているのかもしれません。
難点としては、まずキャラの区別が付きづらい。主要登場人物は4人しかいな
いのですが、(似非?)関西弁のチサトはともかく、マハルとアヤネのセリフの
区別が非常に付きにくくなっています。編集サイドもさすがにまずいと思った
のか、2巻からはマハルの口調が変化し、語尾に特徴を持たせるようになった
のですが、セリフの性格上なんでもかんでも付けるわけにも行かないようで、
相変わらず区別がつけづらい部分が垣間見られます。
全員機械システム工学専攻というのも、バックラウンドが共通しているので話
を進めるのには便利なのでしょうけど区別できない要因のひとつかも。かといっ
て、異なる学科から人を集めてくるとなると、部活とか共同研究とかいろいろ
と理由をつける必要があるので、大変なんでしょうが。
あと「天"上"から金ダライ」とか(現代魔法ならいざ知らず、どうみても天井)、
「文科大臣の決"済"書類」とか誤変換が残ってたりして、編集はなにをやって
るんだと。
全体的にいって、SFとしては驚きが足りず、ラノベとしては勢いが足りない感
があります。このあたりを解消して行けばいい線行くんじゃないかと思ってい
るのですが、近所の本屋ですと最近のスニーカー文庫の受賞作品関連でこれだ
け平積みになってなかったりして、多分一番売れてないんでしょう。;-)
今のところ17〜18歳(3年生→4年生)の登場人物ばかりですが、上や下に広げて
いける余地はあるので(2巻の時点で新入生や2年生(15〜17歳)が出てきていま
すけれどもメインのストーリには絡んできません)、あとは作者しだいですか
ね。
同月にデビュー作が出た、同じ一昨年奨励賞の「耳鳴坂妖異日誌」シリーズは
12月に3巻が出るようなので、こっちも頑張ってほしいところです。
--
中山隆二
nakayama.ryuji@csc.jp
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