Path: ccsf.homeunix.org!news.moat.net!newsfeed.mesh.ad.jp!newshub1.kdd1.nap.home.ne.jp!news.home.ne.jp!giga-nspixp2!feed1.sphere.ad.jp!ngate02.so-net.ne.jp!so-net.news!not-for-mail From: =?ISO-2022-JP?B?GyRCN0hCUyF3GyhC?= Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18) Date: Sun, 20 Nov 2005 11:15:14 +0900 Organization: So-net Service Lines: 1073 Message-ID: References: NNTP-Posting-Host: news01d.so-net.ne.jp Mime-Version: 1.0 Content-Type: text/plain; charset=ISO-2022-JP X-Trace: news-fsa.so-net.ne.jp 1132452850 12336 192.168.20.14 (20 Nov 2005 02:14:10 GMT) X-Complaints-To: abuse@so-net.ne.jp NNTP-Posting-Date: Sun, 20 Nov 2005 02:14:10 +0000 (UTC) In-Reply-To: X-NewsReader: Datula version 1.51.09 for Windows Xref: ccsf.homeunix.org japan.anime.pretty:2888 fj.rec.animation:4704 携帯@です。 …の記事にぶら下げる形となっています。 # 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から # 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。 # そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。 先週投稿した記事で予告したとおり、今回はf.r.aあるいはj.a.p住人にはお馴染み、藤森 英二郎さんから賜りました、「神風・愛の劇場 番外編」をお送りします。 # なお、藤森さんも書かれていますが、今週は少々「低い」のでご注意。 # R制限以下の人は、そもそもf.r.aを読んでいる可能性は限りなく低そうですが…。 本編、第174話は次週より復帰予定です。 改ページ後は、藤森さんから頂いた番外編の引用です。 (以下、藤森さんから頂いたメールより引用) 藤森です。石崎さん、佐々木さん、どうもお久しぶりで。 神風怪盗ジャンヌ、愛の劇場番外編をものすご〜く久しぶりに妄想してみました。 前回は超薄(謎)に触発されて使ったことがないシロモノを題材にしてしまい、 色々齟齬が生じていたと考えられますが、今回も実践知識のない題材なので 間違っている部分が多々あると思います。注意して下さいね。 #登場人物達の口調も忘れてる・・・なんか、変なしゃべり方をしているかも。 #タイトルが「少女達の〜」なのに、珍しく稚空の出番も多い。(^^; #また、最後の方でえっち方面に走ってしまいました・・・(大汗) #でも、これくらいならネットニュースに掲載できるだろう。(^_^; (携帯@注:私信部分中略) ★神風・愛の劇場番外編 『少女達の御化粧』 ●桃栗町郊外 ツグミさんの家 朝 「化粧品のない鏡台」 「ふあ〜・・・あ、ツグミさん、おはよー。」 「おはようございます、日下部さん。」 またツグミさんの家に泊まってしまったまろん。 寝ぼけまなこをこすりながらパジャマのまま洗面台へ行くと、 ツグミさんはもう着替えを終え、長い髪をブラシで整えていました。 洗面台には大きな鏡が備え付けられていますが、ツグミさんには無用の物。 まろんの足音を聞く前から洗面所の入り口の方へ向いており、 挨拶が済むと顔を洗うまろんのために洗面台の前からどきます。 (・・・先にトイレへ行くつもりだったんだけど・・・まあ、せっかくだし。) 洗面台に付き、バシャバシャと顔を洗うまろん。 隣では、まろんの方に向いたままのツグミさんが左手で寝癖の付いている 部分を触って確かめつつ、右手でブラシを操り、髪を梳いていた。 「・・・もう跳ねてる所はないよ。」 「そうですか?ありがとうございます。」 まろんは濡れた顔をタオルで拭きながら、ツグミさんには 余計なことかもしれないと思いつつ、つい口を出してしまう。 だが、ツグミさんは特に気にしていないようで、まろんはほっとした。 (それにしても・・・寂しい鏡台・・・) 年頃の女性の洗面台なら化粧品が所狭しと並んでいるはずなのに、 ここには口紅の一本も置いていない。 それほど化粧品が多いとは言えない自分の母の鏡台や都の母の鏡台と比べても、 ハンドクリームとブラシ程度しかないというのは寂しすぎるというものだ。 「・・・ツグミさん、香水も持ってないの?」 「どんな香水も私にはきつすぎますし、  他の匂いがわからなくなると困りますから。」 「そっか・・・」 自分でしっかり料理もするツグミさんである。 焼き魚など、音だけでは到底「中まで火が通ったか」わからないから、焼く時間と 音、それに魚の皮が焦げる微妙な匂いで焼けたかどうかを判断するのだろう。 料理でなくとも、自分の周囲の匂いのわずかな変化が、 目の見えないツグミさんにとっては貴重な情報源となるはずだ。 (香水は無理でも、口紅くらいは付けさせてあげたいな・・・) 清楚なツグミさんが、真っ赤な口紅を塗ったらどんな風に見えるだろう? より美人になるのは間違いないと思うけれど、情熱的な顔になるのか、 ものすごく色っぽくなるのか、それとも・・・ (・・・そう言えば、私も口紅なんか付けたことなかったっけ。) 冬場の肌荒れ対策としてリップクリームなら塗ったことがあるものの、 まろん自身ほとんどお化粧なんてしたことがなく、口紅の付け方もわからない。 ツグミさんに口紅を付けさせてみたくなったまろんだが、 そのためには真っ赤なルージュをプレゼントするだけではなく、 ツグミさんのかわいい唇にまろん自身の手で塗ってあげなければならないのだ。 (よ〜し!練習、しよっと!) (・・・また、何か、たくらんでいそう・・・) にやけたまろんの顔は見れないものの、押し黙ったまろんの雰囲気から、 何か良からぬことを考えていそうだというのが、長い付き合いでわかる ようになってしまっているツグミさんであった。 ●桃栗町某ビル屋上 昼 「天使の御化粧」 「あっ!フィン、いたいた。」 「な、何の用だ!っていうか、どうしてここがわかった!」 「愛の力よ。」 「嘘つけ!散々人をもてあそんでおいて・・・」 「人じゃないでしょうに。フィンなら、この辺の高い所が好きかなって思って。」 「・・・そ、そうか?」 「愛の力でフィンの好きな場所がわかる」というのが まんざらでもなさそうで、少し赤くなったフィン。 もっとも、実際はまろんが悪魔の気配のみならず、準天使や駄天使、 もとい、堕天使の気配もわかるようになってきているせいなのだが。 #「駄天使」ってのはどういう変換ミスだ。(^^; #あんまり久し振りに書いてるから、日本語FEPが変換候補を忘れてるぞ。 「今日は、フィンにプレゼントがあるの。」 「えっ?」 愛の力で探し当てたなんて言われて赤くなり、さらに プレゼントがあると言われて益々赤くなったフィン。 まろんは、「ちょっと期待を持たせ過ぎちゃったかな?」と 思いながらも、フィンにリボン付きの小さな紙袋を手渡した。 「はい、これ。」 「あ、開けてみていいか?」 「もちろん。」(・・・開けてもらわないと困るし。) いそいそと紙袋の口を開け、フィンは中から小さな円筒形の物体を取り出す。 それは、テレビコマーシャル等でよく目にするため、フィンも知っている物。 ツグミさんの家を辞してからさっそくデパートに繰り出し、 まろんが買った数本の真っ赤な口紅の内の一本なのだった。 「これは・・・く、口紅?」 「そうよ。フィンってば、衣装が派手な割には全然化粧っ気がないんだもん。  この顔、きれいだけどお化粧なんかしてなくて地顔でしょ?」 「し、しかし、私はこんな物使ったことが・・・」 「私が塗ってあげる。実は、他の化粧品も用意してきたんだ〜。」 セカンドバックの中から、母の鏡台から拝借してきた 様々な化粧品を取り出し、ベンチの上に並べるまろん。 ツグミさんに塗ってあげたいのだから、自分で塗ってみるより人に塗って試したい。 フィンにプレゼントしたのは練習用として買った口紅なのである。 「はい、ここに座って。じっとしててね。」 「あ、ああ・・・」 まろんはジャンヌに変身すればルージュを手にしているが、 それは空中に描いてリボンにする攻撃アイテムでしかない。 フィンも、まろんが自分でお化粧している所など見たことがないから、 そのまろんが自分にお化粧してくれるということに一抹の不安を抱いていた。 しかし、プレゼントは嬉しかったので素直に言うことを聞き、ベンチに腰掛ける。 まろんはフィンの隣に座ると赤くなったままのフィンの両頬に手を添え、 自分の方に向けて固定し、動かないように言う。 そしてフィンの手から口紅を取ってキャップを外し、お尻を捻って口紅を 出すと、思わず目を閉じたフィンの唇へ、丁寧に塗って行くのだった。 「・・・」(く、くすぐったい・・・) 「ちょっ・・・動かないでって・・・あっ!」 「・・・?」 「・・・まあ、いいか・・・あ、あれ・・・?」 「・・・・・・??」 まろんの言葉に不安が募っても、口紅を塗られているフィンは 口を動かせないので、どうしたのかまろんに質問できない。 また、薄目を開けてまろんの姿を見ても、少しあせっている風であることが 確認できるだけで、自分の顔がどうなっているかわからなかった。 「うっ・・・こ、これは・・・よ、よ〜し、今度はこっちよ!」 「・・・???」 「あっ、目は閉じたままね。」 「????」 口紅での失敗を誤魔化すべく、今度は別の化粧品を取って フィンのまぶたに塗ったり、頬に塗ったりし始めるまろん。 目をつぶっているフィンには、塗られている場所はわかるものの、 具体的にまろんが何を塗っているのかわからない。 もちろん、自分の顔がどのように変貌しつつあるのかも全くわからないのだ。 ・・・カラ〜ンッ・・・ かなり時間が立ち、フィンの不安が頂点に達した頃、 まろんの左手からコンパクトが落ちる。 その音で目を開いたフィンは、パフを手にしたまま 呆然とした感じで硬直しているまろんの姿を見るのだった。 「うっぷ・・・き、気持ち悪い・・・」 「な・・・!お、お前がやったんだろうが!鏡をよこせ!」 「あ、ちょっと、み、見ない方が・・・」 「うるさいっ!」 まろんが落としたコンパクトを奪い取り、中の鏡に自分の顔を写して見るフィン。 その鏡に写し出されたのは・・・ 日の丸ほっぺに濃い紫のアイシャドウ。 口裂け女のように大きく真っ赤な唇。 異様に白く、分厚く塗りたくられ、もはやフィン自身にすら 誰だかわからなくなるほど変貌した顔。 「・・・ぶっ!」 「・・・だから言ったのに・・・」 黒のボンデージ風衣装と、ピエロ顔負けに白く塗りたくった顔のミスマッチは、 笑えるというよりまさしく「気味が悪い」部類であった。 自分の部下で怖そうな悪魔の顔も散々見てきたフィンだったが、 この顔の怖さは彼らをはるかに凌駕している。 いや、これはもう「悪魔より怖い顔」ではなく、完全に異質の不気味さだ。 堕天使や悪魔どころか、もはや「化け物」の範疇になってしまっている 自分の顔を見て、フィンは怒りに打ち震えた。 ブルブルブル・・・ビシッ!パリーンッ! 「ぷっ!」 まろんが落としたこともあって少しひびが入り強度が低下していた上に、 フィンがあまりにも強くコンパクトを握ったので、中の鏡が割れてしまう。 それが、あたかもフィンの顔を写したことによって割れたように見え、 まろんは思わず吹き出してしまった。 「・・・ま、まろんの・・・まろんの・・・馬鹿ぁ〜っ!!」 「あ、フィン!待って!」 せっかくのプレゼントが台無しになったばかりか、あまりにも ひどい自らの顔にショックを受け、壊れたコンパクトを放り出し、 泣きながら翼を広げて屋上から飛び出すフィン。 もちろん、この世のものとも思えないお化粧はそのまま。 天使や悪魔にしか姿が見えないとはいえ、今は少なからぬ数の悪魔が 地上におり、しかもその多くがフィンの部下であるにも関わらず。 まあ、自分でも誰だかわからないほど変貌しているので、よほど カンの鋭い者でなければクイーンだとはわからないだろうけど。 「あ〜あ、行っちゃった・・・  ・・・あれ?もしかしてフィン、口紅の落とし方知らないんじゃ・・・?」 口紅を使ったことがないまろんだが、もちろん口紅のCMは見ている。 それで、有名どころと思われる口紅を買ったのだが、 まろんが手にしている口紅には、以下の注意書きがしてあったのだ。 『落ちない口紅』 『物を食べても、顔を洗っても色落ちしません。  落とす時は、専用のクレンジングクリームをお使い下さい。』 まろんはその「専用クレンジングクリーム」とやらを買い忘れていたため、 くすぐったさでフィンが動いたことによる口紅のはみ出しを直せず、 外に大きく塗ることでなんとか修正しようとして失敗した。 それで他の化粧品で口紅の失敗を挽回しようと躍起になっていたのだが、厚く 塗りたくれば塗りたくるほど、益々気持ち悪い顔になっていってしまったのである。 「・・・失敗した時困るから、やっぱりこれはやめておこっと。」 ジャンヌに変身したとしても空を飛べるフィンを追いかけるのは 無理なので、「後は自分で何とかするだろう」と思い込み、 ツグミさんに贈るのは別の口紅に決めるまろん。 要するに、生○用品の時同様、フィンはまろんの実験台にされてしまっていたのだ。 ああ、顔に赤マジックでいたずら書きされたよりも はるかに悪い状況のフィンの運命やいかに・・・ ●マンションオルレアン 夕方 「都の御化粧」 「ねえ、都。都もお化粧なんてしたことないよね。」 「な、何?急に来たと思ったら、変なこと聞いて。」 「ちょっと、プレゼントがあるんだけど・・・」 「ほへ?」 東大寺家の玄関先で、フィンに渡したのと同様の小さな紙袋を都に渡すまろん。 都はいぶかりながらも、少し頬を赤らめながら受け取ります。 「どうしたのよ、いきなりプレゼントだなんて。  私の誕生日もバレンタインもとっくに過ぎてるし・・・だいたいまろん、  誕生日にプレゼントくれたし、バレンタインにもチョコくれたじゃない。」 「なんとなく・・・じゃダメ?」 「なんか、裏がありそうで恐いぞ。白状せい、何をたくらんでる?」 照れ隠しついでに、まろんにヘッドロックをかまして迫る都。 さすがに刑事の娘だけあって、フィンのように簡単には引っかからない。 「きゃ〜っ!と、とにかく開けてみてよ。」 「あ、そうか。」 中身も確認しないで怒るのもおかしなことだと、 都はまろんの頭を解放し、ガサガサと紙袋を開ける。 袋の中身はフィンを口裂け女にした「落ちない口紅」ではなく、普通の口紅だった。 「く、口紅ぃ?また、珍しい物を・・・」 「実は、それを私に塗らせてほしいんだけど。」 「え〜っ!そりゃ、私は口紅なんか付けたことないけどさ。  それはまろんだって同じでしょうに。」 「だから、練習も兼ねて。」 「練習って・・・それが目的なの?練習なら自分の顔でやんなさいよ!」 「都も私の顔で練習していいから。ね、お願い。」 「う〜ん・・・」 玄関先で立ち話をしている都とまろんに、 キッチンから顔を出した都の母、桜が声をかける。 「都、もうすぐごはんよ。日下部さんもお上がり下さい。  お夕飯を御一緒にどうぞ。」 「あ、はい、ありがとうございます。」 「・・・ま、プレゼントに免じて顔を貸してあげましょうか。」 「ふふっ。文字通りね。」 「おぬしも貸すのじゃぞ。」 「は〜い。じゃ、ごはんまで練習ってことで。」 夕飯を御馳走になるのはいつものことなので、遠慮せず上がり込んだまろんは、 勝手知ったる他人の家とばかりに都と一緒に一番大きな鏡がある洗面所へと向かう。 「鏡の前で、新体操のポーズの練習かしら・・・?」 娘が手にしていた口紅を見落とした桜は、二人が何の話をしていたのか わからなかったものの、練習と言えば部活の話だろうと納得し、お腹をすかせて いるであろう二人のためにもう一品追加するべくキッチンへと引っ込む。 まろんも都も、夕飯の準備に忙しい桜お母さんに口紅の付け方を指導して もらうのは気が引けたので、自分達だけで練習することにしたのだった。 「さて・・・それじゃ、さっそく。まろん、こっちを向いて。」 「え、ちょ、ちょっと、私が先?」 鏡台の前に着くなり、まろんからもらった口紅の キャップを外し、まろんを抱き寄せる都。 口紅を塗る練習台になることは承知したが、やはり先に 犠牲になるのは言い出しっぺの方であるべきだろう。 「私へのプレゼントを私が使って何が悪い?」 「都へのプレゼントなんだから、先に都へ塗ってあげるってば。」 左手で抱き寄せたまろんの唇へ、右手に持った口紅を塗ろうとする都と、 その手を両手で掴んで押し止め、口紅を奪い取ろうとするまろん。 背が高い都の方が力が強いものの、両手を使っているまろんに押され気味で、 口紅を塗るどころか、手に持ったまま逆に塗られそうだ。 「正直に言え〜っ!本当は誰に塗ってあげたいのじゃ〜っ!」 「えっ!?」 「隙あり!」 「あっ!」 「ありゃ、失敗。」 都は動揺したまろんの手を振りほどき、まろんの唇へ口紅を押し当てることには 成功したものの、まろんが叫んで動いたため、ルージュは大きく横へずれてしまう。 洗面台の前で争っていたので、横を向くだけで自分の顔が大きな鏡に写り、 まろんにも都がどう失敗したかすぐにわかった。 「んもう、だから私が塗ってあげるって言ったのに!  これでも一応経験者なんだからね!」 フィンに塗ってあげたことを数に入れ、「経験済」だと 主張し、都の手から口紅を奪い取るまろん。 しかし、塗られている間、都もまたじっとしてなどいないため、 やはり口紅は大きくずれてしまうのだった。 「・・・うぁちゃ〜っ。」 「誰が経験者じゃ!」 まろんも失敗したことを鏡で確認した都は、母の鏡台から 別の口紅を取り、それをまろんの顔に押し付ける。 もはや、まともに唇へ塗ろうなどとは毛頭考えていない。 「え〜い、こうだ!」 「やったわね!このっ!」 お互いに鏡台から口紅を取り、両手でお互いの顔へ塗りたくり合って、既に お化粧でもなんでもない、ただのいたずら書き状態になってしまうまろんと都。 これでは、お習字の時間に筆でお互いの顔へ いたずら書きをしている悪餓鬼達と何ら変わらない。 墨汁のように黒一色ではなく、同じ赤でもピンクから薄紫といった具合に 多種多様な色があるだけ、かえって不気味な顔になって行くのであった。 * 「・・・何度も呼んだのに・・・ごはんよ!もう、何をやってるの?」 鏡台の前で争っていたまろんと都は、呼びに来た桜お母さんの方へ同時に振り向く。 「キャーッ!」 「な、なんだ、どうし・・・うわっ!」 珍しく夕飯時に家にいて、妻の悲鳴に驚いた氷室警部が走り込んで来たものの、 二人の顔を見るやいなやその場で尻餅をついてしまう。 口紅どころか、アイシャドウやネイルといった本来全然違う場所へ 塗るものまで武器にしてお互い顔へ塗り合った結果、二人の顔は 前衛芸術も真っ青の不気味なシロモノと化していた。 化け物のように変貌した娘とその友人を見て、都の両親は 洗面所の入り口でへたり込んでしまったのである・・・ * 「もう、しょうがない子達ね。言ってくれればちゃんと教えてあげたのに。」 「ご、ごめんなさ〜い。」 「夕飯を食べたらゆっくり教えてあげるから、その前に顔を洗ってね。」 「は〜い。」 「ええと・・・あ、このクレンジングクリームなら大抵落ちるわよ。  ごはんが冷める前に、大至急!」 「へ〜い。」 「お化粧してみたかった」のだと、とりあえず言い訳をしたまろんと都は 桜お母さんに言われて顔を洗い、お化粧(?)を落とす。 そして、夕飯後、都のお母さんにお化粧の仕方を教えてもらうのだった。 しかし、これまで男の気配がないどころか、男そのものみたいだった娘が急に お化粧なんて言い出して、気が気ではないお父さんまで三人の周りをうろうろ。 「お化粧してみたいだなんて、都ももうお年頃なのねえ。」 「ま、まさか、好きな人ができたとか言わないだろうな?  ま、まだ早い、まだ早いぞっ!」 「そ、そんなんじゃないわよ!もう、お父さんってば・・・」 「ほら、動かないの!口紅がずれちゃうでしょ?」 母に口紅を塗ってもらいながら、父ともお約束の会話を繰り広げている 東大寺親子を、まろんは少し寂しげな目で見つめる。 (・・・うらやましいな・・・) そもそも一人暮らしのまろんには、恋人ができようが 朝帰りしようが心配してくれる人がいないのだ。 まあ、そのおかげでツグミさんの家に入り浸ったりもできるのではあるが。 あの人達は、自分に恋人ができたら心配してくれるだろうか、 それとも喜んでくれるのだろうか? そして、恋人が複数だったら怒ってくれるのだろうか。 ましてや、その恋人が同性だったらやっぱり反対するのだろうか・・・? 「はい、今度はまろんちゃんの番よ。しっかり見てた?」 「あ、はい。」 「都もよ〜く見ててね。次は自分で塗るんだから。」 「へ〜い。」 都をお手本に口紅の塗り方を教えてもらってから、 都のお手本になるべく都のお母さんに口紅を塗ってもらうまろん。 こんなに苦労するまでもなく、本来こういうことは 自分の母に教えてもらうべきことなのであろう。 そう思うと、両親がいないことが余計寂しくなってしまうが、親代わりに お化粧の仕方を教えてくれている桜おばさんの前で泣き顔は見せられない。 涙をぐっとこらえたまろんは、鏡に写った自分の顔と桜さんの手の動きを 真剣に見つめ、桜さんの解説を聞き逃すまいと耳をそばだてるのだった。 ●マンションオルレアン 夜 「稚空の御化粧」 ピンポーン!ピンポーン! ドンドンドン・・・ 「稚空〜っ!稚空〜、いる?」 「なんだよ、こんな夜中に・・・」 聞き慣れた隣人の声に、ひょっとして夜這いかもとちょっと期待した 稚空だったが、ドアを開けると外にはまろんの他に都もいてがっかり。 しかし、二人が抱えている大荷物はともかく、 見慣れているはずの二人の顔が今夜はどうも違って見える。 いつもより赤く、しっとり濡れた色の唇、薄い縁取りでパッチリとした目や くっきりしたまつげ、それに血色のいい頬・・・ 「・・・な、なんだお前ら・・・ひょっとして化粧してるのか?」 「うふふ〜ん。やっぱりわかるんだ。どう?私ってきれい?」 「それは口裂け女の台詞じゃ。」 「・・・あ、ああ・・・き、きれい、だぞ・・・」 「なんかどもってるわね。無理してほめなくてもいいわよ。」 「い、いや、ほんとだって。」 「ありがと。」 まろんと都にお化粧の仕方を教えるためだったので、桜お母さんが 二人に施したお化粧は、高校生にしてはやや濃い目だった。 それで玄関先の薄暗い中、鈍い稚空もまろん達が お化粧していることにすぐ気が付いたのである。 「・・・なんだってまた、急に化粧なんか・・・」 「将来のために、都のお母さんに教えてもらってたのよ。」 「いかにも嘘臭いわね。」 「ほんとだってば。」(ごく近い将来のためだけど。) 「・・・で、わざわざ俺に見せに来たのか?」 「せっかくお化粧してもらったのに、見せるヤローがいなかったもんで仕方なく。」 「心配性の都のお父さんじゃ、あまり参考にならなかったからね。」 「おろおろするばかりで、きれいともなんとも言ってくれないんだもん。」 「そ、それは、まあ、そうだろうな・・・」 「ん〜っ!?それはなに、とてもじゃないけど『きれい』とは言えないってこと?」 「ち、違う、きれいだって言っただろ!」 「どっちが?私?まろん?」 「・・・」 「んもう、都もあんまり稚空を困らせるようなことを言わないの。」 「へいへい。」 遊び人に見えても根は真面目な稚空では、さすがにここで「どちらも、 甲乙つけがたく美しい」などという気障な台詞は出てこない。 返答に窮した稚空のためにまろんが助け舟を出したが、まろんはバックの 中から口紅を取り出しつつ、とんでもないことを言い出したのであった。 「稚空にお化粧した顔を見てもらいたかったってのもあるんだけど・・・  せっかくお化粧のやり方を教えてもらったから、  私達でどこまでできるか試したくなって。」 「へ?」 「おとなしく実験台になるのじゃ。」 「な・・・!お、お前らで化粧し合えばいいだろうに!」 「だって、せっかくのお化粧、落としちゃうのもったいないんだもん。」 「この際、私達の顔がお手本ってことで。」 「や、やめろ〜っ!」 冗談じゃないとばかりに抵抗する稚空の腕を二人がかりで掴み、 まろんと都は稚空を引きずってずかずかと部屋の中に上がりこむ。 リビングのソファーに稚空を無理やり座らせた二人は、借りて来たお互いの 母の化粧品をテーブルの上に並べ、稚空に念入りなお化粧を始めるのだった。 「こらこら、動いたら変な顔になっちゃうでしょうに。」 「おとなしくしていないと、落ちない口紅でいたずら書きしちゃうぞ?」 「お、お前ら・・・」 「だいじょ〜ぶ、私達を信用して。」 「・・・」 まろんに対しては惚れた弱みもあり、真面目に抵抗できない稚空。 まあ、無邪気ないたずらだと割り切ってしまえば、かわいいものかもしれない。 仕方なく、稚空は顔に色々な化粧品を塗りたくられるに任せるのだった。 * 「・・・ね、都、こんなもんでいいんじゃないかな?」 「うん、なかなか。」 「よ〜し、次ね。」 「?」 「はい、脱いでっ!」 「お、おい!な、何をっ!」 稚空にお化粧したまろんと都は、今度は二人がかりで稚空の服を脱がせていく。 お化粧したついでに、女物の服も着せて完全に女装させてしまおうというのだ。 好きな娘(まろん)の服を脱がすのならぜひともやりたい所なのに、 まさか好きな娘に脱がされてしまうとは思いもしなかった稚空は 抵抗するが、まろんや都を本気で殴ったりできるはずもなく、 多勢に無勢でどんどん脱がされてしまう。 (く、くそ、せ、せめて二人っきりだったら・・・) 脱がされたのをいいことにどさくさ紛れにまろんを押し倒し、 成り行きでいい雰囲気になることもできたかもしれない。 だが、二人っきりどころか都もいるし、部屋の中には実はアクセスもいたのである。 都がいるのでアクセスは声を出さないようにしていたが、お化粧された稚空の 顔を見てあやうく吹き出しそうになり、口を抑えて必死に我慢していたのだった。 (うくくくく・・・く、苦しい・・・ぷっくくくくく・・・) (アクセス・・・あの野郎、後で覚えてろよ・・・) (お願い、都に気付かれないように・・・もうちょっと我慢しててね。) もちろんまろんも笑いをかみ殺して転げ回っているアクセスに気が付いているが、 都の手前こちらも知らん振りを決め込み、稚空の服を脱がすのに集中する。 そうこうしている内に、とうとう稚空はパンツ一丁まで脱がされてしまった。 「こ、この痴女どもがぁっ!」 「稚空だって、私達のレオタード姿を散々見てるじゃない。」 「レオタードは下着じゃない!」 「似たようなもんでしょ?はい、これ着て。」 「げっ・・・」 「わっ、都、そんなかわいいスカート持ってたんだ。」 「数少ない都様のスカートじゃ。ありがたく着るように。」 「お、お前ら・・・」 「ここまで来たら、開き直って楽しんじゃおうよ。ね、稚空。」 都が紙袋から出したスカートはセミロングのレース付きで、花柄模様だった。 いかにも少女趣味なそのスカートは、男の子っぽい娘を心配して東大寺警部が 買ってきたものだが、都自身は「似合わない」と言って着なかったのである。 稚空にお化粧しちゃおうと二人で決めた時、ついでに女装させてしまうことにし、 稚空にはまろんの服だと小さいけど背が高い都の服なら丁度いいくらいなので、 都が主に洋服を、まろんが主に化粧品を用意してきたのだ。 都はふりひらスカートのような女の子らしい服は持っていても着ないので、 この機会に稚空に着せてしまおうというのである。 「・・・」 裸でいるよりはましと、しぶしぶスカートをはき、都の服に袖を通す稚空。 稚空の背の高さは都とそう変わらないが、やはりウエストは少しきつい。 それでも、稚空はなんとか都の服を着ることができた。 「これで満足か!?」 「・・・男にも着れちゃうってのはなんかくやしいわね。  しかも、私よりずっと似合ってる・・・」 「・・・稚空、きれい・・・」 「な、何を・・・!」 元々整った顔立ちの稚空は、女装してもサマになっていたのである。 最近、女の子ばかり相手にしていたまろんが、ちょっとときめいてしまうほどに。 「はい、チーズ。」 「えっ、都、カメラまで持って来たの?」 「や、やめろ、撮るな〜っ!」 「証拠写真・・・じゃない、記念よ、記念。」 「どうせだから、私達の初お化粧も撮ろうよ。都も入って。」 「それもそ〜ね。タイマーにして、机の上に置いて・・・と。  まろん、もっと稚空にくっつく!」 「こ、こう?」 「そうそう。」 女装した稚空の左からくっついて赤くなるまろんと、 お化粧してきれいになったまろんにくっつかれて赤くなる稚空。 タイマーをセットすると、都はまろんのさらに左側からくっついた。 「え〜っ!私が真ん中〜っ?」 「言い出しっぺが何を言っとるか。  ほれ、もっとくっつかんとフレームに入りきらんのじゃ。」 「むぎゅ〜っ・・・」 パッ!パチリ! タイマーが切れ、ストロボがたかれてシャッターが下りると、 両手に花(?)状態のまろんを真ん中に、Vサインをしている都、 恥ずかしさから真っ赤になっている美少女(?)稚空の三人娘(?)は、 デジタルカメラのデータにおさまるのであった。 「じゃ、おやすみなさ〜い。」 「待てこら、せめてこの化粧を落としてけ〜っ!」 「や〜よ。だって、もったいないもん。」 「お、お前ら・・・犯されたいのか!」 「その格好で、できるもんならやってみい。」 「ぐっ・・・」 稚空の今の姿では、女の子を襲うにはあまりにも滑稽であり場違いであろう。 首尾よく押し倒したところで、押し倒された相手の方が吹き出すのが落ちだ。 実は、今のまろん達にとっては女の子に押し倒されるか女の子を押し倒すのが 普通なのだが、それを知っていた所で稚空には到底できないことである。 「その服、後で都に返しといてね。」 「自分で鏡に見とれて、オナっちゃわないよ〜に。」 「誰がするか!」 嵐のようにやって来ては、稚空の顔と体をもてあそんで去っていく二人・・・ 主にまろんの方・・・に、稚空は怒りながらも憎めない。 いや、まろんらしいとあきらめていた。 「はあ・・・」 嵐が玄関から去った後、稚空がため息をつきつつ鏡を見れば、 見知らぬ美少女がこちらを向いている。 写真で見た母の少女時代の面影が見られるその顔は、いくら美人でも 稚空にとって欲情するというより郷愁を思い起こさせる顔であった。 (・・・この顔で、親父の枕元に立って恨み言の一つも言ってやったら、  あいつも少しは改心するかな・・・) 浮気性に見える父に対し、死んだ母はどう思っているのだろうか? やはり悲しんでいるのでは・・・ 「だ〜っはっはっはっはっ!」 「!」 母のことを考える稚空のせつない思いは、とうとうこらえ 切れなくなって吹き出したアクセスの笑い声で中断されてしまう。 もっとも、アクセスには都が言ったように、稚空が鏡に写った 自分の姿に見とれているように見えたのだから無理もないのだが。 「・・・アクセス、てめえ、俺がお化粧されてる間中、ず〜っと笑ってたろ。  都がいなくなったら、首をへし折ってやろうと思ってた所だ。」 「ひ〜っひっひっひっ・・・・」 「まだ笑うか!待て、この野郎!」 「へっへ〜ん。・・・ぷ〜っくくくくく・・・・」 ふん捕まえようと迫る稚空の手を羽を広げてかわすアクセスだが、 ひらりひらりと避けて宙に舞いながらもまだ笑い続けていた。 そして、稚空の方は慣れないスカートで動きづらく、 全然アクセスの動きについて行けていない。 「・・・くそっ!こんな格好じゃ・・・」 そもそも、いつまでも女装している必要はないんだと 思い出した稚空は、都のスカートと服を脱ぎ捨てる。 「あ〜あ、せっかくきれいなのに・・・」 「うるせえ!」 そして、衣装ダンスから怪盗シンドバットの服とマスクを取り出した。 「おっ、シンドバットの衣装、久し振りだな。」 「・・・あのカメラ、絶対盗み出す!」 「あれ、デジタルカメラってやつじゃないか?  だったら、今ごろ、都のパソコンで撮った写真を見て笑ってる所だろ。」 「うっ・・・」 「だいたい、カメラを盗んだら稚空の仕業だってばればれだろうが。」 「ううっ・・・」 もうどうしようもないと観念した稚空は、出したシンドバットの衣装を 腹いせにアクセスに向かって投げつけ、バスルームへと向かう。 バサッ・・・ 「わっぷ!」 「風呂に入って寝る!」 「ありゃ・・・もったいない。」 「失せろ!」 どんっ! 「ぐえっ!」 避け切れず服の下敷きになっても軽口を叩くアクセスを服の上から 踏んづけて黙らせ、シャワー室に入った稚空は、普通の石鹸では なかなか落ちない化粧を苦労してゴシゴシと擦り落とす。 稚空の家に忽然と現れた美少女(?)は、 こうして一夜の夢と消えるのだった・・・ ●桃栗町郊外 夜半 ツグミさんの家 「少女達の御化粧」 キィィ・・・ 「日下部さん、いらっしゃい。」 「あ、ツグミさん、ごめんなさい。起こしちゃった?」 「いえ、これから寝ようとしていた所です。こんな遅くに、どうしたのですか?」 「せっかくだから忘れないうちにと思って。」 「?」 夜中に失礼かなと思いつつ、まろんがツグミさんの家を訪ねると、 玄関から出てきたのはネグリジェに着替えたツグミさん。 知らない人なら無用心だと思うだろうが、 ツグミさんは遠くから足音でまろんだとわかるのだ。 深夜で周囲が静かだと家の中からでも外の足音が聞こえ、実際、 まろんがチャイムを押す前に玄関の扉は開かれたのである。 「口紅の匂い・・・日下部さん、お化粧してるんですか?」 「あ、やっぱりわかる?」 「とにかく、お上がり下さい。」 「う、うん。」 稚空に綺麗なお化粧ができて自信をつけたまろんは、いよいよツグミさんに 口紅をプレゼントし、お化粧の仕方を忘れないうちに塗ってあげようと、 夜中であるにもかかわらずやってきたのだった。 「実は、ツグミさんにもお化粧してあげたくて・・・」 「私に、ですか?」 「迷惑、かな?」 「いえ・・・でも、どうして急に?」 「今朝、ツグミさんの鏡台を見て、あんまり寂しかったから。  香水がダメなら、せめて口紅でもと。」 「ああ、それで・・・この口紅、塗り方を教えてもらってたんですね。」 リビングに入ったツグミさんは、まろんの唇にそっと触れて確かめる。 均一な厚さといい絶妙な範囲といい、色まではわからないものの、これまで 一度もお化粧などしていなかったまろんが初めて塗ったものではないのは確かだ。 「こんなにうまく塗れないかもしれないけど・・・いいかな?」 「日下部さんが、お化粧した私を見たいと言うのなら、喜んで。  それに、やっぱりきれいになりたいのは女性の永遠の夢ですから。」 「わっ!ありがとっ!」 ネグリジェ姿のツグミさんを抱き締めてしまうまろん。 ツグミさんは、まろんの顔からほのかに香る口紅や白粉(おしろい)の 匂いから、今のまろんの顔を想像するしかないが、脳裏に浮かんできた顔が あまりに色っぽかったので思わず赤面してしまう。 お化粧してもらっても、きれいになったか色っぽくなったか、それとも失敗して 醜くなったか自分で確認する術はないが、まろんなら信用できるだろう。 「じゃ、これをプレゼントするね。」 本日3個目の小さな紙袋をツグミさんに渡し、 ここまで来るのは大変だったとまろんは今日一日を思い返す。 フィンで練習し、都で練習し、稚空で練習し・・・ ツグミさんも、今朝思い立って、夜にはもう口紅を塗れるようになったと言う まろんの苦労を察し、経緯は何も聞かずに受け取るのだった。 「・・・この口紅、どんな色なんですか?」 「え〜っとね、『情熱の赤』って言うか、え〜と、『紅葉』でもない、  『夕焼け』、でもない、『郵便ポスト』、じゃあんまりだし、う〜ん・・・」 微妙な紅色を表現する語弊があまりに少なく、四苦八苦しているまろんに、 ツグミさんはクスクス笑って助け舟を出す。 「とにかく、真っ赤なんですね?」 「は、はい・・・真っ赤です・・・」 「塗ってくださる?」 「も、もちろん!」 口紅を受け取り、椅子に座ったツグミさんの唇へ丁寧に塗っていくまろん。 さすがに一日で三人にも塗って練習しただけあって、上手に塗ることができた。 「・・・あ・・・きれい・・・」 「どんな風に?」 「え〜っと・・・情熱的と言うか・・・色っぽいと言うか・・・  ・・・んもう、いじめないで下さい!」 しばし手を止めてツグミさんの顔に見とれるまろんに、 鏡を見れないツグミさんは自分の顔がどうなったか聞く。 口紅を塗ったツグミさんの顔を表現するのに、やはり語弊不足で苦労する まろんは、ようやくツグミさんが自分をからかっているのに気がついた。 「ふふっ。でも、ちゃんと説明してくれないと。  口裂け女にされちゃったら困るわ。」 「あ、それは大丈夫。まかせて。」(・・・2回ほどやっちゃったけど。) 口紅を塗り終わったまろんが改めてツグミさんの顔を間近からじっくり眺めると、 きれいになっただけではなく、しっとり濡れた色の真っ赤な唇になった ツグミさんが目を閉じたままなので、まるでキスを待っているように見える。 (・・・このままキスしちゃいたい・・・) 「・・・」 「う〜ん・・・ちょっと濃いかな?ぬぐってあげる。」 「んっ・・・」 もの凄く色っぽくなったツグミさんの顔を見て真っ赤になったまろんは、 思わず理由をでっち上げて目を閉じ、ツグミさんにくちづけするのであった。 「・・・んん・・・」 「・・・ぷは・・・」 「くすくす・・・」 「?・・・あっ、ごめん!」 唇を離した後で笑い出したツグミさんを不思議に思ってまろんが 目を開けると、口紅をぬぐうどころか、ツグミさんの口には 斜めにべっとりとまろんの口紅がくっ付いていた。 まろん自身も口紅を塗っていた上に、 鼻が当たらないように顔を傾けてキスした結果である。 もちろん、まろんの口にもツグミさんの口紅が斜めに付着しており、 口紅をした女性同士がキスしたらどうなるか、見るまでもなくわかった ツグミさんは、まろんの顔を想像して笑い出したのであった。 「・・・あちゃぁ〜。・・・ふふふふ・・・あはははは・・・」 「くすくすくすくす・・・」 持って来ていた手鏡で自分の顔を見て、 ツグミさんと一緒に笑い出してしまうまろん。 見えないのに、見えるまろんより早く自分達の顔がどうなったか わかるツグミさんは相変わらず凄いものの、お化粧は大失敗だ。 「ごめんなさい、ツグミさん。もう一度やり直しね。」 「もう夜も遅いわ。  どうせ寝る前に落とさなきゃいけないんだから、また今度にしましょう。」 「そっか・・・それもそうね。」 確かに、せっかくきれいになったツグミさんを誰にも見せないままというのは もったいないが、誰かに見せてしまうのもまたもったいないような気がする。 まあ、一瞬とはいえ口紅を塗ったツグミさんの顔を堪能でき、 キスまでしたのでまろんとしては満足だった。 「それに・・・私にあんなキスしておいて、このままにするつもりなの?」 「え?・・・ひゃっ!」 椅子から立ち上がってまろんに抱きつき、右手でまろんのお尻に触りながら 左手でまろんの右手を自分のおへそから下の方へと導くツグミさん。 熱烈なキスと、普段は縁遠いお化粧の匂いですっかり欲情してしまったのである。 まろんを抱き締めながらツグミさんが普段閉じている目を開くと、 口紅は失敗しているにも関わらず、吸い込まれそうに美しい。 しかも、少し潤んだ瞳はそれだけでアイシャドウ以上の効果があり、 上気した頬もお化粧以上の効果でツグミさんを美しく彩(いろど)っている。 「あ、ツグミさん、口紅落とさないと・・・」 「だ〜め。もう、日下部さんの体で落としちゃう。チュッ!」 「えっ・・・」 「チュッ!・・・チュッ!」 「・・・そ、そういうこと?あ〜ん・・・跡になっちゃうよう。」 「チュ〜ッ・・・」 「ひ〜ん・・・」 まるでヴァンパイアのように首筋へキスされ、強く吸われてしまうまろん。 ツグミさんは、いつもはまろんの体を気遣って、見えないながらも跡が付かないと 思われる程度の強さに抑えているのだが、今日は思いっきり吸ってしまう。 まろんの母が日本にいないことを知っているツグミさんにとって、 「まろんがお化粧の仕方を誰から教わったか」や、 「誰がまろんにお化粧したのか」も、嫉妬の対象となるためだ。 こうして、まろんは目が見えないツグミさんに、 手加減無しで体中にキスマークを付けられてしまうのだった・・・ ●エピローグその1 桃栗学園 朝 「全身口紅」 「ま〜た、キスマークなんか付けて・・・って、何よ、この数っ!」 「え、え〜と・・・」 「あ〜っ!こ、こんな所にまでっ!」 「きゃ〜っ!変な所触んないでよっ!」 「ま〜ろ〜ん〜っ!?」 「・・・・・・(汗)」 翌日、新体操の朝練に出るべくロッカールームで着替えているまろんだが、 首筋から始まって体中バンソウコだらけ。 都が入ってきた時には既に新体操服を着ていたのに、 キスマークを隠したつもりのバンソウコのせいで、 かえって体にピッタリ密着した服の上からわかってしまったのである。 太ももの内側やおへその下にまでバンソウコが貼られていることを、 レオタードの上から都に触られて確認されてしまったまろんは、 真っ赤になりながらやはり練習を休むんだったと後悔した。 「後で、全部上書きじゃ。このボケ。」 「え〜っ、そんなことされたら、当分消えないじゃない。」 「やかまし。さらに倍付けしちゃうぞ。」 「あんまりされたら、痣みたいになっちゃう。  なんだか虐待された跡みたいでやだなあ。」 「そーいうプレイがお好みなら、それでもい〜わよ。今度、鞭買って来ようか。」 「勘弁して下さい、お代官様。」 「誰がお代官様じゃ。」 「刑事の娘だから、お奉行様?」 「ごまかそうったって、そうはいかないんだからねっ!」 「あう〜。」 「今夜行くから、覚悟してなさい!逃げるんじゃないわよ!」 「は、は〜い・・・」 都に怒られながらも、結構嬉しそうなまろん。 ツグミさんが嫉妬からまろんにキスマークを付けまくったように、 都も嫉妬からまろんを怒っている・・・ つまり、まろんは二人に確かに愛されているということだから。 (今夜は、都と・・・ふんふんふん・・・) (こっちは怒っているのに、なんで嬉しそうなのよっ!) スキップしそうな勢いでロッカールームを後にするまろんの後ろ姿を 見送りながら、都はやっぱり憎めないなあとため息をつくのであった。 ●エピローグその2 桃栗町郊外 ツグミさんの家 「ツグミの御化粧」 「もう、日下部さんの馬鹿・・・」 朝練があると言うので早く起こしたまろんに、「まだ寝てて」と二度寝を促され、 眠っているうちにまろんからキスされたような気がして起きたツグミさん。 遅刻気味だったらしいまろんはシャワーだけ浴びて朝食も食べずに出かけた ようだが、どうも自分の唇にキスされたような感触が残り続けている。 昨日はまろんの体中にキスして口紅を移してやったツグミだけれど、 まろんからもキス返しされたことにより、まろんの口紅もツグミの 体中に付着していて、布団の中は口紅の匂いで充満していた。 それで最初気付かなかったのだが、いつのまにか ツグミの唇には再び口紅が塗られていたのだ。 体中に口紅が付いているし、たっぷり汗もかいたのに、口のルージュを そのままにしておくためには、シャワーも浴びることができない。 せっかくまろんが塗ってくれたのだから、このまま外出してみたいところでは あるものの、「初めての口紅」というだけで恥ずかしいのに、服の下に夜の 乱れ具合がそのまま残っているというのは恥ずかしすぎると言うべきだろう。 それに、体に付いたルージュは落とせても、内出血してキスマークになっていたら どうしようもないし、皮膚の下の色までツグミにはわからない。 もしふくらはぎにまでキスの跡があったら、スカートもはけないことになる。 「・・・困ったわ・・・どうしましょう。」 出かけるべきか、出かけざるべきか、口紅を落とすべきか、落とさざるべきか。 キスマークを消すのははあきらめるとして、口紅はまろんからもらった ものなのだから、一旦落としてシャワーを浴び、もう一度塗り直せば いいのだろうけれど、見えないのではさすがに口紅をうまく塗れる自信はない。 「ねえイカロス、私ってきれい?」 「・・・」 盲導犬イカロスはいつも通りベッド脇の定位置に伏せていたが、 もちろん犬のイカロスには御主人様の問いに答えようがないし、それに 今日は御主人様から漂ってくる嗅ぎ慣れない口紅の匂いで困惑していた。 最近は御主人様の御友人が一緒のベッドに寝て、その場合しばしば御主人様の ネグリジェや下着、御友人のパジャマや下着が上から降ってきてはイカロスの 布団になってしまうこともままあるものの、昨夜は様々なお化粧の匂いが 入り乱れていたばかりか、御主人様の御様子もいつもと少し違っていたのだ。 それで心配していたのだけれど、朝起きた御主人様は、 お化粧の匂い以外はいつも通りのように見える。 実は、色盲に近い犬の目には、御主人様の真っ赤な 唇も普段とあまり区別がつかないだけなのだが。 「・・・日下部さんがいなくても塗れるように、練習してみようかな。  どんなになっても、イカロスなら笑わないわよね。」 「・・・?」 口紅を塗ったまろんの唇の感触は、ツグミの指先が、唇がしっかり覚えている。 それと、今の自分自身の唇の感触を覚えておけば、目が見えなくとも なんとか自分で口紅を塗ることができるかもしれない。 小首をかしげたイカロスの頭を撫で、匂いを頼りに 全ての元凶である口紅を手探りでさがすツグミ。 案の定、口紅は見つけやすいようにキャップを外したまま枕元に置いてあった。 こうして、寂しかったツグミさんの鏡台に、 新たに口紅が一本加わったのである・・・ ●エピローグその3 魔界 魔王の宮殿 「口裂け天使」 「あ〜っはっはっはっは!」 「わ、笑い事じゃありません!」 「し、しかしだな・・・ぷっ!うくくくくくく・・・・」 「い、いくら洗っても取れないんです!魔王様、助けて下さい!」 魔王様に食って掛かっているのは言わずと知れた魔界のクイーン、フィン。 しかし、真っ赤な口紅を大きくはみ出すように塗ったその顔は、 どう見ても口裂け女・・・いや、堕天使だから口裂け天使か。 フィンは、目や頬のお化粧は顔が擦り剥けるほど洗ってなんとか落としたものの、 「落ちない口紅」を塗られた唇周辺はどうしても落ちない。 それで最後の手段とばかりに魔王様に助けを求めてわざわざ魔界までやって 来たのだが、魔王様は笑い続けていてまともに相手をしてもらえなかった。 「いや、そ、それにしても・・・そ、その顔・・・ぶぁ〜っははははははは・・・」 「・・・ま、魔王様ぁ〜・・・」 まろんにお化粧されてしまったフィンの顔を見て、 不覚にも延々と笑い転げ続けている魔王。 パンデモニウム内には魔王の大きな笑い声が轟き渡り、幾重にも 雷のようにこだまして、宮殿に勤める者達は何かとんでもないことが 起こる前触れなのではないかと恐怖に打ち震えたのであった・・・ ●エピローグその4 桃栗町 ノインの館 「悪魔が見た地獄」 「ノイン様あ、いったいどうしたんですかあ?」 「う、う〜ん・・・う〜ん・・・」 引きつってベッドに横たわり、何やらうなされているノインと、 看病のため脇に付いている少年の姿をしたシルク。 他にも、数名の悪魔がひきつけを起こして床に寝かされていた。 そう、フィンは、顔を洗うべく真っ先にノインの館に飛び込んだのだ。 その際、彼らは涙で目の周りや頬のお化粧がなかば流れ落ちた フィンの顔をまともに見てしまったのである。 それは、魔界出身の彼らをして後に「地獄を見た」と言わしめるほど 恐ろしいシロモノであった・・・ おしまい。 ★御注意 え〜、筆者は男でありますから、お化粧に関しては少女漫画等で得た知識 程度しかありません。(少女漫画だとお化粧の描写そのものが少ないし。) そもそも「落ちない口紅」がどの程度落ちないのかも知らないので、 フィンが魔王様に助けを求めなければならないほど落ちないというのは 完全にフィクションです。まあ、本気にする人はいないでしょうけど。(^^; #もし本当に、「いくら洗っても落ちない」んだとしたら・・・ #恐るべきは人間界の「落ちない口紅」だな。(^o^) ★後書き ・・・珍しく稚空に出番があったと思ったら、女装かい! さすがは「少女達の〜」シリーズ。男はひどい扱いだ。 (同タイトル3作目なのでシリーズと言っていいだろう。  ニュースしか見てない人は前2作知らないでしょうけど。(^^;) それにしても、フィンは相変わらずいじめられているし、 まろんちゃんはツグミさんばかりか都ともよろしくやっているし・・・ 結局、女の子ばっかりのハーレム話になってしまった。(^_^;; (しかも、第1作の相手が都、第2作の相手がフィン、  第3作の相手がツグミさんで、しっかり全員と絡ませちゃったし。)(大汗) それでは。 (引用はここまでです) # 携帯@注:文中に、「前2作」とあるのは、藤森さんが以前に書かれた「神風・愛の劇 # 場」番外編のことなのですが(ジャンヌVSさくら妄想とは別の作品)、こちらの方は # NetNewsには投稿されていません。^^;;;; こちらの方も中々気合いの入った出来なの # ですが、NetNewsに投稿するのはちょっと問題アリな内容を含む作品なので、某所でひっ # そりと公開されています。^^;;;;; −−−− 携帯@ mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp