Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
携帯@です。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
この記事は、第174話(その17)です。
Message-ID: <newscache$j0vlqi$nc4$1@news01a.so-net.ne.jp>
にぶら下げる形となっています。
(その1)は、<newscache$7vxlqi$196$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その2)は、<newscache$vkqyqi$s7d$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その3)は、<newscache$itlbri$943$1@news01f.so-net.ne.jp>から
(その4)は、<newscache$g3gzri$c4h$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その5)は、<newscache$96vhsi$9h5$1@news01f.so-net.ne.jp>から
(その6)は、<newscache$zrwrsi$s4k$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その7)は、<newscache$p093ti$xrc$1@news01b.so-net.ne.jp>から
(その8)は、<newscache$i4bsti$q6h$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その9)は、<newscache$kmlkui$f61$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その10)は、<newscache$0gaavi$und$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その11)は、<newscache$2dwgwi$cth$1@news01f.so-net.ne.jp>から
(その12)は、<newscache$7dr5yi$6oe$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その13)は、<newscache$sl1yyi$vn1$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その14)は、<newscache$56uo0j$4qk$1@news01f.so-net.ne.jp>から
(その15)は、<newscache$wc9n1j$ao8$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その16)は、<newscache$ygt93j$3sl$1@news01b.so-net.ne.jp>から
それぞれどうぞ。
^L
★神風・愛の劇場 第174話『盲目の愛故に』(その17)
●オルレアン・稚空の家
しばらくの間、天界の思い出話を続けていたミナとアクセス達。
話の輪に加わることの出来ない稚空。ですが、彼女達の会話は記憶に焼き付けました。
「あ、もうこんな時間」
部屋の時計を見たミナは、そう言うと立ち上がりました。
「そろそろ失礼するわ。その前に、ちょっと洗面所を貸してくれないかしら?」
「ああ。そこの廊下の左だ」
ミナが部屋から姿を消すと、稚空はトキに向かって言いました。
「彼女の話を聞いて思ったのだが、天界は随分と窮屈な世界らしいな?」
恋愛禁止、というあたりが特にと稚空は思います。
「そうでしょうか? 何しろ、それが当たり前の世界でしたので…」
「当たり前でも無いですですっ」
「規則なんてものは、破られるためにあるのは天界も人間界も同じ。だろ?」
アクセスがトキに向かって言うと、トキは呆れた表情を浮かべます。
しかしすぐに微笑を浮かべて言いました。
「まぁ、そう考える者もいます。実を言うと、私もその一人です」
「それで、ミナの罪というのはそんなに重いものなのか?」
「普段は天界を追放される程でも無いのですが…」
「誰かに逆恨みされていたですですっ。きっと…」
「セルシア」
トキに話を遮られ、セルシアはむくれた顔を見せます。
「そうね。恨まれる理由なら沢山あったわね」
見ると、リビングの入り口にミナが立っていました。
その姿を見て思わず稚空はほぅと言う声を上げそうになります。
戻って来たミナの服は、何時の間にかクイーン、即ちフィンの着ている服と同じものと
なっていて、背中には天使であることを示す、一対の白い翼があったからです。
「確かに、私たちには恨まれる覚えはあった。でも、もうそんなことはどうでも良い。今
の私たちは、十分に幸せだから」
「でもでも!」
更に声を上げようとしたセルシアを片手を上げてミナは制しました。
「実を言うとね、今日はお別れに来たの。折角のお休みだしね」
「え?」
「トキ。天界の大軍が、もうじきこの街に降りてくるのよね」
「そちら側でも気付いていましたか」
ミナはこくりと肯きます。
「出来れば、無益な争いは避けたいと個人的には思うのですが」
「同感。でも、そうはいかないのは判るでしょ?」
今度は、トキの方が肯く番でした。
「こんな風にお茶を飲めるのも、これが最後の機会かなと思って。そうそう、さっきの話
に少し訂正。実はレイも私がここに来ていることは知ってる。でも彼女は、アクセス達の
前で堕天使となった自分の姿を晒すのが嫌みたい。そしてこれはレイからの伝言。もしも
天界に戻ることがあったら、上の方に伝えて欲しい。レイとミナは、魔界に墜ちても自ら
の義務に忠実であったと」
「どういう意味でしょう」
「レイはね、魔界軍で中隊を一つ任されているの。義務とはそう言うことと考えて貰って
も良いわ」
「もう、元の私たちに戻ることは出来ないのでしょうか」
トキの言葉に、ミナは首を振ります。
「戻ることが出来れば戻りたいと考えたことはあるわ。でも、私たちを追い出したのは天
界の方。そして、私たちには今、守らなければならないものもある」
テーブルの方に歩いて来たミナは、床に置いてあった、ケーキの箱を入れていた紙袋。
その中には半透明のレジ袋が別に入っていて、それをミナはテーブルの上に中身毎──
何かの柑橘のようでした──置きました。
「置き土産を幾つか置いておく。大切に味わって欲しい。…そうね、本当は神の御子にも
直接挨拶したかったのだけど」
「まろんは新体操の練習で学校だ。そう言えば少し遅いな」
「彼女にもよろしく。彼女に私たちの伝言を伝えて。戦いを止められるかどうかは、貴方
の心づもり一つで決まると」
「神の御子はあなた方の味方にはならないと思いますが…良いでしょう」
肯いたトキ。勝手にOKするなよ! …と稚空は突っ込んでいました。
「それじゃあ。次に会う時が戦場で無いことを祈っているわ。心から」
ミナはベランダの方に歩み寄ると窓を開け、翼を広げます。
そして翼を大きく羽ばたかせると、そのまま空高く、海の方へと向かって飛んで行きま
した。
ミナの翼からは白い羽根が何枚か落ちて行くのが見え、何となく稚空はその落ちて行く
のを目で追いかけていきます。しかしそれは、アクセス達の羽根と同じく、地面に落ちる
前に空中で光となって消えて行くのでした。
●桃栗町・オルレアンの近く
噴水広場のカフェで一休みした後、まろん達はその場で浩美と別れました。
その後、オルレアンへと向けて歩く道すがら、まろんは何者かの視線を感じていました。
また、何か襲って来るのでは無いかと気が気でなかったまろん。
気配は視覚に頼らずとも判るのですが、ついつい、周囲をきょろきょろと見回してしま
います。仮に、何かあったとしても障壁が防いでくれるのだとしても。
「何、きょろきょろしてるのよ」
都に言われ、まろんは慌てて都の方を見ます。
「べべ、別に?」
慌てて、両手を前で振りつつ、まろんは平静を装いました。
都はまろんをジト目で眺めていて、演技は失敗かなとまろんは思います。
しかしながら、続く都の行動は、まろんの想像の外を行くものでした。
「何か嫌な感じがするわ…」
そう小さく、本当に小さく呟くと、都はまろんの腕に自分の手を回し、まろんにぴった
りと寄り添ったのです。
「な、何よ」
「何だか寒気がするのよ。このまま帰らせて…」
そう言い、身体を密着させて来る都はまろんの耳元で囁きます。
「あたしの苦手のもの、知ってるでしょ」
都が苦手なもの…。
ああそうか。都はお化けが苦手なんだっけ。
悪魔の気配を感じていて、お化けと勘違いしているのかも。
「そうね。このまま帰りましょ。チェリーちゃんもどう?」
返事を待たずに、まろんはチェリーの手を握り、引き寄せます。
「はい。まろんお姉ちゃん」
お姉ちゃん、という言葉をチェリーから聞く度に、まだじーんと来るまろん。
右腕にしがみついている都は、不安そうに周囲をきょろきょろと見回していました。
都を真似したのか、チェリーも同じようにまろんの腕にしがみついています。
これって両手に花って奴?
良い気分となったまろんは、周囲の悪魔の気配が気にならなくなりました。
上空を通過した堕天使がいることすら気づかない程に。
●桃栗町西部郊外・ツグミの家
レイが持参したケーキとツグミが入れた紅茶でやや遅い午後のお茶の時間を過ごす
ことになったツグミ達。
「あら…」
レイが持参したケーキを一口食べた瞬間、これは買って来たケーキでは無いと判ります。
「このケーキ、貴方が焼いたの?」
「いや。さっきも話したが、貰い物だ。仕事で出入りしている家の使用人が焼いたケーキ
なのだそうだ」
「そうなの」
「味はどうだ?」
「美味しいわ。でも、不思議な香り」
「不思議?」
「この香り、どうやってつけたのかしら? 材料が想像できない」
「さぁ…。私も作り方は聞いていないので」
恐らく、ノインの館にある魔界原産の何かを使ったに相違ない。
まさか人間に食べさせるとは考えていなかっただろうからな…。
「あの…、どうかしましたか?」
「いや、何でも無い。少し、考え事をな」
ツグミは元々、レイの向かい側に座っていましたが、いつの間にか、レイの隣に移動し
て座っていました。
「前から聞きたかったことがあるのだけれど」
「何だ?」
少し、レイは身構えます。
「奈美さんは本当は、ミナさんって言うんでしょ?」
ツグミの言葉に、レイはどきりとしました。
「それは…」
「さっき、噴水広場のカフェで、私は敢えてミナと貴方の大切の人の名前を呼んでみた。
あなたは何の疑問も持たずにそれに応えたわ」
「あ…」
この娘、まさか私たちの正体を? そうであるのなら、この娘を……。
レイは右手を挙げ、その掌に音もなく炎を作り出します。
ツグミの返答次第で、この娘を炭と変えてしまえるように。
「私を殺すつもり? それならそれでも構わないけど」
ツグミにそう言われ、レイは慌てて炎を消します。
「出来ればそうしたくは無い。教えて貰おうか。どこまで知っているのかを」
そう言いつつ、レイは何時でもツグミを焼き殺せるように身構えます。
しかし、ツグミはそれを恐れる風でもなく──単に、何も見えないからかもしれません
が──、落ち着いた声で言いました。
「あなた達、レイさんとミナさんが、普通の人間じゃないということは、最初から気付い
ていたわ。と言うよりは、あなた達も気付いてたように、私の大切なお友達の一人、天使
のアクセスさんが教えてくれ、注意していたお陰で気付かされたという方が正しいわね。
あなた達天使は、見かけを操る術を持っているようだけど、触れた時の手触りについては、
それ程注意していないみたいね? 翼の生え際だけ、手触りが他の人間と違っていた。そ
れにあなた達、自分たち二人だけの時には、本当の名前で呼び合っていたわね?」
二人だけの会話? まさか…。
その場面をレイは思い出します。
「盗み聞きはマナー違反だと思うのだが」
「聞こえる程大きな声でしたから。…少し妬けました。あなた達の仲の良さに」
ツグミに指摘され、レイは頬が熱くなるのを感じていました。
「このことは、誰かに?」
「誰にも。アクセスさんにも話していない。そしてあなた達が望む限り、このことを誰に
も話すつもりはない。もちろん、日下部さんにもね」
「何故?」
「理由は私自身にも上手く言えない。そうね、今のあなた達が幸せそうに見えたから。本
当のことを誰かに言ったなら、それを壊してしまうと感じたから。それが理由かな」
レイは、ツグミに対して警戒を解きました。
僅かな期間の接触とは言え、彼女は信頼に足る人物であると感じていたからです。
「私達のことをどこまで知っている?」
「何かの理由で、天界を追放されたのだと聞いているわ」
「禁断の恋の罪だ」
「恋?」
「……長い話になる。すまないが、紅茶のお代わりをくれないか」
*
「…こうして私達はここにいる。色々苦労はあったが、現在の境遇に後悔はしていない」
自分で予告した通り、レイの話は天界での出来事から始まって、長いものとなりました。
とはいえ、レイは全てを話した訳ではありません。例えば、この地に自分達以外の堕天
使が大勢いることも、自分達が魔界に来るに辺り授けられた秘めたる使命などについても、
レイは話しませんでした。
そして今、レイとミナの二人が密かに考え、実行しようとしていることも。
「これで私の話はお終いだ…ツグミ?」
「あ…」
知らず知らず、ツグミは目に涙を浮かべており、ツグミは手でそれを拭いました。
「強いのね、貴方は」
「弱いさ。私達が天界を追放されたのも、ほとんどは私の責任だ。私は、色々な者から恨
まれていたからな」
「どういう事?」
「私は悪事を見逃すことが出来ない性分でね、色々それを指摘して回った所為で、恨みに
思っている者が沢山いたらしい。それでかな。私自身が悪事を働いた時には、誰も私を庇
う者はいなかった。ミナには悪いことをしたと思っている。私なんかと…」
しばらく間をおいて、レイは話を続けます。
「本当は、天界を追放されるのは私一人だけの筈だった。私を陥れた奴らは、私一人に罪
を被せるつもりだった。だけど、ミナは自ら進んで自分も同罪ですと言った。ミナは言っ
た。私と一緒なら、どんな場所でも生きていけると。私のいない世界など、生きて行く価
値は無いのだと。その話を聞いた時、私は嬉しかった。そして魔界に流れ着き、慣れない
世界で初めて気づいた。私は、ミナが居なければ何も出来ない無骨者だと」
再び、レイは沈黙しました。今度はいつまで待ってもレイが話を再開する様子が無かっ
たので、ツグミが口を開きました。
「それであなた達は今、幸せなのかしら?」
「無論だ。周りの世界がどうであろうとも、私たちは共にある限り、そこが私たちの生き
る世界。もしもツグミにも愛する者がいるのなら、判るだろう?」
ツグミの頬に、ふわりとレイの手が触れるのが判りました。
ぴくり、ツグミの躰は震えます。
*
「だって、私、何にもツグミさんの役に立ってない」
「役に立って欲しいなんて思ってないわ」
*
ツグミの脳裏に、まろんとの思い出が蘇ります。
このまま一緒に過ごしていて、依存しあっていてはお互いに駄目になるような気がして、
あの人をこの家から追い出してしまったあの時。
*
「これはそういう決め方をしては駄目な事の様な気がするの」
「それじゃどうやって」
「だから、日下部さんが“どうしたいのか”をまず考えて。私はそれに賛成するから」
*
相談を受けた時、私はあの人のことを突き放してしまった。
あの時、私はあの人にどうしたいのかを訊ねた。
馬鹿な私!
私が“どうしたいのか”は最初から決まっていたのに。
*
「だったら、ツグミお姉さんも、僕と一緒に行きませんか?」
「え?」
「『お父さん』は言いました。もしも僕に大切な人が居て、その人が良いと言う
のなら、一緒に連れて行って良いでぃすと」
*
そうか。
私は選択肢を二つしか考えていなかった。
あの人が行くか、残るか。
選択肢はそれだけじゃない。それだけでは……。
「そう、選択肢はそれだけじゃないわ」
レイの声とは異なる、別の声。
知らない訳でも無いその声が、背後から響きました。
驚いて、振り返るツグミ。
振り返っても、何も見えるわけではありませんが。
「ミナ…さん? それだけじゃないって」
心を読まれた?
動揺するツグミをミナはそっと抱きしめ耳元で囁きました。
「自分から動くという選択肢もあるの。ツグミ」
「自分から…。私は……」
*
他の者の心の“色“を他の天使より強く感じる能力を持つミナ。
神の御子の持つ“障壁”を中和する能力もその力の応用でしたが、そのミナにして、ツ
グミの心の声がはっきりと聞こえるとまでは予想の範囲外でした。
「(それだけ、普段は心の声を外に出さずに溜め込んでいたということかしら)」
ちらりと考えたミナは、すぐにやるべきことをすることにします。
「そう。欲しいものがあるのなら、待っているばかりでは駄目。自分から掴もうとしなけ
れば。私がそうしたように……」
*
ミナの言葉を聞きながら、ああ、そう言えば同じようなことを最近聞いたとツグミは思
います。あれは何時のことだっただろうか。
*
「貴方の病気も弥白様と同じ。ツグミさんご自身がそれをどう感じているのかは判らない
けれど。自然に治癒するのを待っているだけでは無くて、自分から治療に踏み出さないと
駄目。そういうことです」
*
そうだ。昨日の朝、弥白の友人の佳奈子に言われたんだとツグミは思い出します。
「(でも、本当にそれで良いの?)」
*
「あなたに『勇気』をあげる。伝えられない思いを伝える『勇気』を」
*
「(あの時も、私は背中を押されるように、日下部さんと…)」
もうこれ以上、自分のことで日下部さんを困らせるようなことはしたくない。
自分が“したいこと”と“するべきこと”、そのどちらも判っているつもりのツグミ。
「(これまで私は、自分が“するべきこと”と考えたことに従って生きてきた)」
でもそれだけで、本当に良かったのか。
自分がして欲しいことを彼女は確認しに来たのではなかったか。
だとするならば…。
ミナに抱きしめられたまま、ツグミはしばらく固まったままでいました。
(第174話・続く)
# 第174話は次の一連の投稿で終了する予定です。
# 既に大体書き上がっていて、現在の所約1,000行程あります。
では、また。
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Fnews-brouse 1.9(20180406) -- by Mizuno, MWE <mwe@ccsf.jp>
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