Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
携帯@です。
またまた一週間(以下略)。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
この記事は、第174話(その10)です。
Message-ID: <newscache$j0vlqi$nc4$1@news01a.so-net.ne.jp>
にぶら下げる形となっています。
(その1)は、<newscache$7vxlqi$196$1@news01a.so-net.ne.jp>から
(その2)は、<newscache$vkqyqi$s7d$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その3)は、<newscache$itlbri$943$1@news01f.so-net.ne.jp>から
(その4)は、<newscache$g3gzri$c4h$1@news01e.so-net.ne.jp>から
(その5)は、<newscache$96vhsi$9h5$1@news01f.so-net.ne.jp>から
(その6)は、<newscache$zrwrsi$s4k$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その7)は、<newscache$p093ti$xrc$1@news01b.so-net.ne.jp>から
(その8)は、<newscache$i4bsti$q6h$1@news01d.so-net.ne.jp>から
(その9)は、<newscache$kmlkui$f61$1@news01a.so-net.ne.jp>から
それぞれどうぞ。
では、改ページ後にゲームスタート!!
^L
★神風・愛の劇場 第174話『盲目の愛故に』(その10)
●桃栗町・桃栗学園
体育館の片隅で、新体操の練習をしているまろん達。
彼女達が飛んだり跳ねたり、手具を投げたり回したりしている様子をじっとチェリーは
見つめていたのです。
新体操に関してそれ程詳しい訳ではなかったチェリーですが、まろんと都の演技が周辺
の部員達に比べて秀でているだろうことは判ります。一人、スレンダーで黒髪が美しいお
姉さんが、まろん達にも負けない演技をしていましたが。
部員の誰かの手から離れ、床を転がったボール。
自分の近くだったので拾いに行こうと腰を上げたチェリー。
しかし、体育館の出入り口付近に転がったボールを手にした人影がありました。
「はいっ」
「ありがとう。あら、今日も来たのね」
「あら、浩美ちゃん! いらっしゃい」
「あ、まろんお姉ちゃん! こんにちわ」
ボールを投げ返してきたのは、幼そうに見える割に低い声の女の子。
そして、この子の姿を見てボールを取り落とした部員の次に反応したのはまろんでした。
「誰よ、この子」
「こんにちわ。怪盗ジャンヌの時にはありがとうございました。ええと……」
ジト目で、都がまろんに問いかけると、浩美は都にも挨拶します。
「(怪盗ジャンヌ?)」
その言葉をチェリーは聞き逃しませんでした。
「東大寺都よ。そうか、怪盗ジャンヌに絵を盗まれた娘ね。思い出した。宮坂浩美ちゃん
だっけ? あの時は、済まなかったわね」
都はチェリーに謝っていました。
昨日、聞いた話では都は怪盗ジャンヌ特捜班に関わりがあるという話でしたので、その
線であの少女とも関わりがあったのだろうと思います。
「そんな。あの時、確かに絵は盗まれちゃったけど、あの後で代わりに大切なものが戻っ
て来たから」
「え?」
「そんなことよりさ、見学に来てくれたのよね?」
「あ、はい。見学というか、昨日、金髪の目が見えないお姉ちゃんをここに案内して来た
時、まろんお姉ちゃんがいなかったので、今日は来ているかなぁって」
「それってツグミさん? 浩美ちゃんが案内してくれたの?」
「ええと、多分そんな名前。本当は、お姉ちゃんに案内は必要なかったみたいだけど…」
「ううん。ありがと、浩美ちゃん」
まろんは、浩美の頭を撫でました。
「日下部、東大寺! 練習の手を休めないザマス」
「あ、いけなーい。浩美ちゃん。その辺で練習、ゆっくり見ててって」
「はい!」
まろんはチェリーの方を指差して言いました。
浩美と呼ばれた少女は、チェリーの方に向かって歩いて来ました。
「あの…」
「は、はい」
相手は明らかに年下なのに、何となく緊張してチェリーは答えます。
「そこ、座っても良い?」
「良いわよ」
チェリーが肯くと、ちょっと浩美がびっくりした表情を浮かべます。
「日本語、出来るの?」
そう言われて、ああそうかとチェリーは気づきます。
母、静の日本人の血を引いているとはいえ、チェリーの顔は少々日本人の標準とは異な
っていたからです。
「パパはイギリス人だけど、ママが日本人なの。実は去年、この町にも来たことがあるの。
まろんお姉ちゃんとはその時からの知り合いよ」
「そうなんだ」
「(この娘も、怪盗ジャンヌに救われたのかな?)」
先程の会話から、チェリーはそんなことを思います。
「あの、ひょっとして去年ってイギリスから来た…その、何とか大使さんとかと関係があ
るんですか?」
「ええ。パパがその親善大使よ。良く知っていたわね」
「実は親善大使さんがあたしの小学校に来たの。それで後でニュースで大使の娘さんが一
緒に来ているって観て。それを何となく覚えていたの」
そのニュース、もしかして自分が丸一日行方不明になったというニュースでは無いだろ
うか。そんなことをチェリーは思います。
「あの…。さっき、まろんお姉ちゃん達と怪盗ジャンヌの話をしていたけれど、詳しい話、
聞かせてくれないかしら」
「うん! あたし、学校でパパの絵を描いて絵のコンクールで賞を貰ったの。パパはとて
も喜んでくれたけど、その後で優しかったパパがとても怖くなって…」
私の時と同じだとチェリーは思います。
「そんな時出会ったのがまろんお姉ちゃん。あたしの自転車のブレーキが壊れて坂道で停
まれなくなった時、助けてくれたの。あたし、その頃新体操の選手になりたくてクラブに
入ろうとしていたんだけど、まろんお姉ちゃんも新体操をしていると知って、それ以来ま
ろんお姉ちゃんは私の憧れで…」
「それで、パパはどうなったの? 今でも怖いの?」
話が横道に逸れそうだったので、チェリーは自分の関心事に話を戻します。
「ううん。まろんお姉ちゃんに出会った後すぐに、怪盗ジャンヌがあたしの絵を盗むって
予告状を出して来て…。泥棒だって言うから、とっても怖いと思ってた。その頃のパパよ
りも。だけどね、その時現れた怪盗ジャンヌはとっても優しそうなお姉ちゃんだった。泥
棒なのに変だけど、ジャンヌの顔を間近で見て安心したの」
「(それは私の時とちょっと違うかな…)」
トンネルの中でのジャンヌと何かこの世にあらざる物との激しい戦いをチェリーは思い
出します。
あの時は、イギリスでも話題となっていた怪盗ジャンヌの姿をまともに見る余裕はあり
ませんでした。
「絵は結局盗まれちゃったけど、その後でパパは昔の優しいパパに戻ったの。あたし、き
っと怪盗ジャンヌがあたしの絵を盗む代わりにパパのことを元に戻してくれたんじゃない
かって思う。そう言うとママに笑われるけど」
「それでパパは本当にもう大丈夫なの? それは何時の話?」
「うん。一年近く前の話だけど、それからはずっと優しいパパよ。新体操のクラブにも入
れてくれて、大会には応援しに来てくれるわ」
しつこく怪盗ジャンヌについて訊ねるチェリーを不思議そうな目で見上げた浩美。チェ
リーもその視線に気づきます。
「そう。ありがとう。しつこく聞いてごめんなさい。実は、怪盗ジャンヌのことを聞いた
のには訳があるの。あれは去年、日本に来た時のことよ……」
チェリーは話のお返しに、今度は自分が怪盗ジャンヌに出会う前後の出来事を浩美に話
して聞かせることにしたのでした。
*
手具のリボンをなびかせ、体育館の床の上を走り回り飛び回りながら、まろんは隣り合
わせに座ったチェリーと浩美が、自分のことを見ずに熱心に何かを話していることに気づ
きました。
まろんは大人しい少女だと思っていたチェリーが、知らないはずの女の子と出会った瞬
間に仲良くなっていることに意外の念を抱きます。
一体、何を話して居るんだろう。さり気なく、わざとらしくならない程度に近づいて行
ったまろん。
「それで、怪盗ジャンヌってまろんお姉ちゃんに似てると思わない?」
「(え…!?)」
ふいに、浩美がそう言ったのを聞いたまろんは驚きと衝撃を同時に感じます。
「きゃっ」
その衝撃は精神的なものでは無く肉体的なもの。
それに気づいた時、まろんの視界が斜めに傾き、最後には天井が見えました。
「あちゃ…」
「も〜まろん! 何よそ見しながら練習してんのよ!」
いち早く立ち上がったらしい都が、まろんを上から見下ろしていました。
ブツブツ文句を言いつつも、都はまろんに手を差し出します。
その手を取ると、何故か都の手がぴくりと震えます。
「?」
その反応に戸惑いつつ立ち上がりながら、チェリーと浩美は一体何を話しているのだろ
う。そう思うまろんなのでした。
●……
「…ユキ、ユキ。もう朝だよ」
ミカサに呼びかけられても、しばらくの間ユキはそれが現実の出来事だとは思われませ
んでした。
何故なら、寝過ごしたミカサを起こすのがユキの役目ではあっても、ミカサがユキを起
こすことはこれまで無かったからです。
これは夢。そもそも、ミカサ様が私の部屋に入ってくることなどあり得ない。
そう思うユキは身体を起こそうとはしませんでした。
「ユキ」
肩を揺すられて、漸くユキは現実の世界に帰って来ました。
「ミカサ…様?」
うっすらと目を開けたユキの視界一杯に、ミカサの顔が大アップで広がります。
途端、昨晩の自分の行動を思い出したユキ。
慌てて、跳ね起きてしまいます。
「うわっ」
ごんっ。そんな凄い音がして、ユキの頭はミカサの顔面を直撃することになったのでし
た。ぶつけた額を手で押さえながら、ユキは昨晩の出来事を思い出します。
●昨晩 桃栗町某所・ノインの館
どうせ明日の朝は会議なのだから。
はぐれ悪魔が町境の温泉で暴れ、怪盗ジャンヌによって封印された夜に、そのような理
由で館に泊まることを薦められたミカサ。
半分は心からの親切ではあったのでしょうが、「最後の晩餐の刑」とやらの口直し。そ
んな理由でノインの晩酌につきあうようにと言われると、そちらの方が真の目的だったの
ではないかと思わざるを得ません。
もっともノインの館に蓄えられた酒の数々は素晴らしく、またノイン自ら作り振る舞っ
た美味な肴の前にあっては、文句をつける気にもなりません。
例え飲みながら、同席していたユキとの関係の進捗状況をからかわれたり、作戦の状況
についての愚痴を聞かされるのだとしても。
*
夜も更けた頃。未だ起きていたエリスは、ミカサとユキをこの前と同じ部屋に案内しま
した。その部屋は内側の扉で廊下に出ること無く行き来できる、コネクティングルームで
した。
エリスは去り際にユキの耳元で「この家の壁は厚くて音は漏れませんし、変な仕掛けは
外しておきましたから、ごゆっくり」などと囁きました。
そんなことがあったので、ユキとしては隣室を意識せずにはいられません。
もちろん、エリスにはユキをからかうつもりなどさらさら無く、純然たる好意でそのよ
うなことを囁いているとは理解しています。
*
寝台に横たわってはみたものの、この前と同じように意識して、全く眠ることが出来な
かったユキ。このままでは、この前と同じような失態をしてしまうことになる。そう理解
はしていても、全く眠ることが出来ません。
──喰ってしまえ──
──あの人間の雄が欲しいのだろう?──
──他の種族の種など我々の食事に過ぎないのだから──
ユキの身体の奥底から、そのような衝動が沸き上がってきます。
それは、彼女の出自である種族の本能とでも言うべきもの。
しかし、ユキはそれを平均的な正統悪魔族とは異なる強力な理性で抑えます。
それは、彼女自身も先日初めて知った、彼女の中に眠る別の何か。
それとも、他の種族──特に堕天使族──の中で暮らしていた経験がそうさせるのかも
しれません。
「(こうなったら……)」
しかしながら、欲望には完全に逆らえなかったユキ。
枕を抱え、こそりと隣の部屋につながる扉にユキは手をかけました。
ノックはしません。
隣の部屋はカーテンが引かれ暗がりの中にありました。
そろりそろりと、抜き足差し足ユキはミカサの寝ている寝台に近づきます。
幸い、家具類の配置はユキの部屋と全く同じであり、多少の暗がりは人間では無いユキ
の行動の妨げにはなりません。
「…ミカサ様」
寝台に横たわる陰に、ユキは声をかけました。
「ナツキ……」
「ミカサ様?」
女のものらしい名前を呟き、ミカサはうなされていたのです。
一瞬、他の女の名を呟くなんて! と、種族本来の表情を見せ、枕を投げつけようとし
たユキ。
しかし、すぐにミカサが呟いたその名が彼の亡くなったのだという妹の名だということ
を思い出したユキは、振り上げた手を下ろします。
「ナツキ…」
何も無い空に向かい、手を伸ばしたミカサ。
その手をユキはしっかりと握りしめます。
「大丈夫です。私はここにいます」
ユキはミカサの耳元に口を近づけて囁きました。
「(人間達の言葉には“悪魔の囁き”というものがあったわね。今のは、それに当たるの
かしら)」
囁きながら、そんなことを考えます。
「ああ……」
ユキが何度か囁くと、それまでうなされていたミカサは大人しくなりました。
伸ばしていた手の力が緩み、ユキはそっと手を下ろしてやります。
しかし、一度握った手を離すことはありませんでした。
布団の中に潜り込みミカサの横に横たわったユキ。
そのまま、直ぐに安らかな眠りへと落ちて行くのでした。
●ノインの館・今朝
「どうしたんですか? その痣は」
居間へと姿を現したミカサの顔を見て、エリスは目を丸くします。
「いや、その…」
「実は扉を出たところで頭をミカサ様のお顔にぶつけてしまい…」
「ユキ様の方が背が低いのに?」
「そ、それは…」
反論しかけて、エリスがニコニコとこちらを見ていることに気づきます。
まるで、「全て判っていますから」と言わんばかりの表情。
「ちょっと、お薬を持って来ますね。王宮でも使っている特製品で、痣もすぐに消えます
よ。ノイン様、どうしてあんなの持っていたんだろ」
そう言い、エリスは居間から出て行きました。
「昨夜はお楽しみになれましたか?」
すれ違い様、ユキの耳元でその言葉を囁いて。
「な…! 違います!」
真っ赤になり、反論しようとしたユキ。
しかしながらエリスは既に姿を消しており、代わりに部屋に入って来たアンが目を丸く
してユキの様子を見ていました。
そして勿論、ミカサの姿を見てノインがこの後で笑い転げたことは言うまでもないので
した。
(つづく)
横道に脱線中……。
では、また。
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