例えば、夏の焼けつく炎天下の道路、陽炎で道の彼方が
遠くで揺らいでいる或る日の昼下がりのいち場面とする
道端にぽつんと黒い雨傘を陽射し避けにして農作業姿の
おばさんが傍らに小型のドラム缶みたいな容器を置いて
椅子に座っている

そこに自転車を引いて少女(17歳です)が通りかかり
おばさんに声を掛ける
「ばっちゃのぎいんしな」
「んだ」
と愛嬌を振りまくでもなくぼそりとおばさんは返事する
まるで剣豪が道でバッタリ行き会い相手の間合いを計っ
ているような緊張の糸がぴんと張る、その均衡を破った
のは少女(17歳です)の方だった
「まんず、ばばへらくれちゃ」
と暗号のような言葉を口にすると、おばさんはカラクリ
人形のようにゆっくりと傍らのドラム缶状の容器の蓋を
開けると、いつのまにか右手に持っていた金属のヘラで
ぐりぐりとドラム缶状の容器の中身を掻き回して左手に
取り出したところのアイスクリームのコーンにペタリ、
ペタリと容器から掻き出したアイスクリームを擦り付け
ほいとばかりに少女にさしだす
少女(17歳です)はじゃらじゃらと小銭を出す、おば
さんの差し出したアイスクリームを、落とさないように
注意して受け取ると一口パクリと食べて
「んめの」
と言って道の先をにらんでアイスクリームを食べ出した
「んだか」
おばさんはまた商売道具を元に戻してまた道の反対側の
里山の向こうをぼんやりと見つめている
そうして秋田の夏が過ぎていく

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のりたま@秋田弁は難しい