こん○○わ、PARALLAXです。では早速。
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  │ 【 軽 音 部 、 西 へ  - HTT live @ 7th district - 】 │
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### D-day +1month+α 03:20PM ### @ 学園都市 第7学区 某高校 教員室@

「お久しぶりです、先生」
「良く来てくれました、先生。あれから、放課後ティータイムの皆さんは元気ですか?」
「ええ、それはそれはもう。今日も私が『学園都市に行く』って言ったら、もう一緒に
 ついて来たがって来たがって」

 す、と手元の菓子折りを出す。これだけは、と部の子たちから提供された代物。

「一緒にいらっしゃれば良かったのに。初春さん達も楽しみにしてますよ?」
「いえ、そう言う訳には。それにあの子たちと一緒に来てしまっては、折角の機会に
 聞きたい事も聞けずに終わってしまいそうですし」
「そうですか…そうですね。それで? 今日はどんな御用件で?」

 ぱさ、と手元のメモ帳を開く。懐のレコーダーは教員室に入る前からONにしたまま。

「失礼ですが、先日ウチの祖父へお送り頂きました、官邸と省庁への正式報告書を読ま
 せて頂きました。それで、幾つか腑に落ちない事が出来まして、それで」
「あらま。お祖父様へ送った、あれをですか。感心しませんねぇ」
「失礼は百も承知です。申し訳ありません。でも祖父は昔から私に甘くて、御陰で先月も
 『何かあったら、この方を頼れ』と祖父に教わった番号で先生に電話が繋がりました」

 その1点だけは本当に感謝している。

「そうでしたか。お祖父様、お元気ですか?」
「相変わらずですよ。何故か全然惚けませんで、先生にお会いしたがっています」
「あの子は昔ッから私の後をちょこちょこ着いてきたがった子でしたからねぇ」
「祖父に、よくそう言っておきます。あの、それより、」
「あ、はいはい。それで、何からお答えしましょうか?」


 常盤台中学大講堂に、女性観客が居なかった件ですか? それは簡単ですよ。

 まず学園都市の全住民に対し、あの時は「屋外に出たくない」暗示が仕掛けられて
いました。それにステージが始まった頃はもう全住民くまなく放課後ティータイムの
逃亡実況生中継報道やらステージ中継に自宅で釘付けでしたし、休日の「学舎の園」
には到底誰も入れない事は都市住民なら判っています。それでも尚且つ会場に駆けつ
けられる都市住民は、中継を見てなお同じ格好をしてでも会場を見たいと思う連中
ばかりですよ。それと都市外の方ですが、アナタ、あのコンテナの中に、同じ格好をして
入ってぎゅーぎゅー詰めの押し競饅頭する勇気、ありますか? とめませんけど。


 ミサカさんたちを使ってシンクロしてたのを早々にMARにタレこんだ件、ですか?

 御存知の通り、ミサカネットワークは生体そのものをノードとする生体情報のネット
ワークです。そのため、イメージや感触などのアナログな情報を伝えるのには極めて
有用なものですが、反面では大量の情報は流せない弱点があります。ミサカたちが互い
を繋いでやりとりしているネットワークのトラフィックは、日常は本当に微々たるもの
なんです。で、そこへ貴方達は音楽を流してシンクロを行った。音楽と言うものは、
あれでなかなか情報量が大きいものなんです。当然、ミサカネットワークにも高負荷が
掛かります。そして生体ネットワークであるが故に、その負荷はそのままミサカたちの
体に響きます。ミサカたちはよく耐えていましたが、実はあれだけの情報量が流された
ら、もってせいぜい10分が限界なんです。またミサカたちも必ずしも均一ではなく、
中には体が弱い子もいます。あのままネットワークを使ったシンクロを続けていたら、
そんな子からバタバタ倒れていった事でしょう。そしてMARは、そうして倒れた子を
安々と拉致する事が出来る。そこまでは許せませんでしたからね。だから、です。


 地下駐車場を埋め尽くすほどのトレーラーの電力をステージに使わせなかった件?

 そうですね。確かにあれだけの数があれば、そのハイブリッド電源を繋げば学園講堂
どころか街区全体へ電力を供給出来たでしょう。でも、もしそれだけの電力供給をして
いたらば、あの副長は躊躇なく対地ミサイルを学区へ叩き込んでいたでしょう。講堂へ
直接攻撃しなかった件は、あれでもあの副長は建造物の歴史的価値くらいは尊重する人
物でしたからね。あの講堂に据え付けられているパイプオルガンは鑑定書付きの代物で
すから。それと、人間が作った機械文明はどうしても人間のセントラルドグマに繋がる
共有意識(イド)が齎す空間へノイズを乗せてしまうんです。隅から隅まで超技術文明
の塊である学園都市内で共有意識ことレベル0の集団が作るAIM拡散力場に機械文明
ノイズを混じらせないためには、どうしても地域電力を止める必要がありました。だか
ら美琴さんには講堂内へ直接繋がる電力ラインで頑張ってもらったんです。地域給電に
繋がる超電導テスラコイルバッテリーなんかに繋がったりしたら、そのまま美琴さんが
機械文明ノイズになってしまいますから。尤もキャパシティダウンが止められ地域の電力
ラインが復旧した後でも美琴さんが「やらせろ」と強硬に主張して変電設備から離れな
かったのは、少々意外でしたが。あの後の彼女、随分とスッキリした顔をしていました
ねぇ。よっぽどタマッてたんでしょうかねぇ? おや、どうしました、顔が真赤ですよ?


 レベル0の集団が作るAIM拡散力場の集積とは、ですか? 難しい事を聞きますね。

 御存知の通り、今ある超能力のレベルは5までが限界です。学園都市としては何と
してでもそれを超える存在つまりレベル6を作りたいようですし、レベル6の能力と
して言われている力すなわち「ヒトを超えた力」イコール「カミサマの力」等と言わ
れている定説を聞けば、まぁ欲しがるのも無理はないかと思います。ヒトは何時だって
ヒトを超えるものを求めては失敗するものですから。宗教?機械?芸術?政治?経済?
電子システム?ネットワーク?そして学園都市。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に
学ぶ」と言いますが、コレばかりは全然学んでくれないようですねぇ。あ、話がズレ
ました。で、結論から言えば私はヒトがヒトを超える存在すなわちレベル6を作るのは
やっぱり無理なんじゃないかと思っています。ヒトがヒトを超える存在をヒトの技術と
知恵で作るなんて、まるで元が集合を語るような事です。ヴィトゲンシュタイン先生
だってそんなの無理だって言ってます。でも、私はもう、ヒトはヒトを超える存在、
とまでは言いませんが、そんな意識は持っていると思っています。その例が、あの時の
放課後ティータイムの「翼をください」です。あんな事、珍しくも無いんでしょう?
だからもう、ヒトはヒトを超えるものを持っているんです。あの局員の測定結果を借り
れば、それはもうレベル6でさえ超えているんです。だからまぁ、それを踏まえて
そんなヒトがヒトを超えた意識の共有、これを「レベル7」とでも言っておきましょう
か? そんな、学園都市が求めるものすら超えるものを、もうヒトは持っているんです。
とっても皮肉な事ですね、笑っちゃいます。


 え? どうしてそんな事までを考えて、今回活躍したのか、ですって?

「どうして私が、生徒の全てから『嘘を言わない』『約束を破らない』などと思われて
 いるのか、判りませんか? そんな人間、本当にいたら神か悪魔ですよ」

 ふふ、と先生は笑うと、極めて小柄な体にしては高めの教職員用事務椅子から、
んしょ、と降り、とことこと私の前に来て、
 ぺち
 と私の額に手を置いた。何故か、ちょっと、動揺する。ほんのちょっと。

「そういう事ですよ」 ふふ、と微笑(わら)う

 その後、他愛も無い事を話してから、私は学園都市を辞去した。さて、また来週から
あの子たちと付き合わなければならない。英気を養っておくか、と手頃な店に入る。

 …あれ? この、懐の中のレコーダーは何だろう?

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今回は、一先ず此処迄。 では。
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