こん○○わ、PARALLAXです。では早速。
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  │ 【 軽 音 部 、 西 へ  - HTT live @ 7th district - 】 │
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### D-day Zero-Hour ### @ 学園都市 @ PROGRESS 00:19:21 STAGE:13th district

 P−、と携帯の1台が鳴った。はっ!として初春はラップトップの周りに散らばって
いる、接続ケーブルだらけでラップトップに繋がりまくる携帯十数台を見渡す。内の1台
がディスプレイを赤くフラッシュさせている。たたん! と急いでラップトップにキー
インすると同時にインカムを掴んで叫ぶ。

「フェーズツー終了! フェーズツー終了です! 撤退っ撤退! 急いで下さい!
 逃げてぇ!」

 その声を聞き、憂も慌てて自分の膝上にあるネットブックに向き直りキーボードを叩き
始める。丁度4曲目が終わった所で良かった。ミサカネットワークからの拾い上げを中止
させ、あらかじめ用意してある音源を配信し始める。"Don't say lazy"が流れ始める。

  ♪Please don't say "You are lazy"

「…どのくらい持つと思いますか?」

 不安そうな声調子は流石に隠せない。今までの生音源とは違い、今度のこれは録音され
たものだ。新録音も何回か分、みんなの携帯やプレーヤーに入っていた練習時の未発表
音源も幾らか混ぜてあるが、発表済みの従来録音分を混ぜてもバリエーションは10件を
切る。初春特製のシンクロ交換ランダムシャッフル配信だが、何せこちらはネットブック
で、相手はスーパーコンピュータだ。新曲配信の手はもう使ってしまっている。解析競争
をされたら勝ち目はない。それに答えずやや蒼褪めた顔で初春はインカムへ喋っている。

  ♪

「現況、フェーズスリー、続行中です。各車両、急いで下さい」
“5号車、美琴っ。あと1分くらいで着ける。”
“2号車、純です。3分くらいは掛かりそうって…”
“3号車、山中よ。かっ飛ばすって。でも2分は掛かりそう。”

「せめてラストのサビまで持って欲しいけど…2フレーズ、ぎりぎり、かも…」

  ♪

 各号車からの返信を聞きながら、初春は下唇を噛みつつ、憂からの質問に答えた。
 2フレーズでは、せいぜい2分も無い。そんな! と悲壮な顔で憂が初春を見つめる。

  ♪

「しっかり掴まってな嬢ちゃんたち! こっちもトバすぜ!」

 タオル鉢巻の親父が叫ぶ。ギアをシフトし、エンジンに喝を入れる。猛然とダッシュ
したフルハーフのトレーラーがシャフトやサスやフレームから悲鳴をあげながら加速す
る。正面を見据える憂。あと少しで目的地が見えそうなところまで来ているというのに!

  ♪

 憂のネットブックの上で、くるくると音源を変えながら配信される"Don't say lazy"が
続いている。ランダム配信だから違和感があっても仕方ないが、こうして聞いている限り
ではこれが異なる音源を切り替えながら配信されているものだとは到底思えない。初春さ
んの技術は本当に凄い。だが、しかし。

  ♪

「破られそうです! こっちからも支援します!」

 初春は初春で真剣にラップトップ上に表示されていたタスクバーのせめぎ合いを見てい
たが、どう見てもこちらのネットブックが不利と見るや、ラップトップを思い切り叩き始
めた。髪飾りの内の1本の華を抜く。抜いた華をパチパチッと捻るとコネクタが出現し、
するするっと出て解かれたケーブルで憂の膝上のネットブックと自分のラップトップを
繋ぐ。途端、ネットブックの液晶表示が見違えた速度で動き始める。初春のラップトップ
が"Don't say lazy"配信の演算支援に加わったらしい。

  ♪

「これで、少しは…?」
「焼け石に水です。でも、少しでも持ってくれれば…」

  ♪

 これ迄はこちらがパケットの中身を提供し続けていたから敵の計画を阻止出来ていた。
敵は自分たちの目的を完遂するまではパケットを配信し続けるしかないが、タイムリミッ
トまでこちらがパケットを入れ替え続けられれば計画は阻止出来る。が、それも敵がこち
らを阻止つまりマスキング出来ない間だけ。アナログなランダム要素が大きく加わる生演
奏ならば殆どマスキングされる可能性はない(敵の電子クローンはまだそこまで出来が良
くない)が、録音媒体となると話は別だ。あらかじめ公表された音源ならば既に敵も対抗
するマスキングパケットを用意してあるだろうし、未発表の音源でもそれが電子クローン
の実装前に作られたものなら電子クローンは安々と対抗演奏を創り出すだろう。そして
電子クローン以降に新録音された音源をぶつける戦術は、1曲目の"Cagayake!GIRLS"で
使ってしまっている。もう電子クローンは1曲目を学習し最新の実装を済ませてある筈。

  ♪

 あと少し。あと少しだけ、持ちこたえて。お願い!

  ♪

 自分の膝上にあるネットブックを前に、憂は両手を組み合わせて一心に祈っていた。
 そんな憂の両手に被せ、初春が両手を組む。どうか、どうか、あと少しだけ、

  ♪

「見えたぞ!」

  ♪

 親父のダミ声で、はっと顔をあげる。眼前には、大きく大型搬入門を開いた学園区画
「学舎の園」の豪奢な外壁が迫っていた。

  ♪

 良かった、間に合った! と二人で薄い胸を撫で下ろした、その時。

  ♪

“4号車、和! ごめん、引っ掛かった!”

  ♪

 ざぁっ、と音を立てて背筋から血が引いた。

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今回は、一先ず此処迄。 では。
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